記事一覧
ショートショート 「病気屋」
住んでいるアパートの向かいの、雑居ビルの一室に、奇妙な店ができた。
「病気屋」と銘打ったその店は、その名の通り病気を売っているらしい。
私は好奇心から、冷やかしでその店に行ってみることにした。
「いらっしゃいませ」
小太りで愛想の良い男が、店のカウンターから出てきた。
「病気を売っているって聞いたんだが、本当かね」
男は、顔面に不自然な笑顔を張り付かせ、答えた。
「本当ですとも。軽い
ショートショート 「遠くの臓器」
「ああ、これ行っちゃってますね」
医者は、ついさっき撮ったレントゲン写真を私に見せながら、言った。
「ほら、ここに本当だったら胃があるんですけど、ぽっかり空洞になってるでしょう」
確かに、丁度胃があるはずの場所には、何も写っていない。
「先生、これは一体、どういう事ですか。胃が無くなってしまったなんて。体調は全く悪くはないんですが」
「いえ、無くなった訳ではありません。行ってしまったんで
ショートショート 「悪用厳禁」
仕事帰りに買った惣菜のパッケージに、よく目を凝らさなければ気が付かないような小さな文字で、妙な事が書いてあった。
「悪用厳禁」
惣菜にこんな注意書きがあるなんて。今まで全く気がつかなかった。そもそも、こんなもの、どう悪用するのだ。
まあ、世の中には色んな悪い奴がいるから、何をどう悪用されるか分かったもんじゃ無い。とりあえず「悪用厳禁」と記載しておけば、そう言った危険性を、幾ばくかは排除できる
【存在しない本の「はじめに」】 食べ方入門
はじめに最初に断っておくが、この本は「何を食べたら良いか」や「食事についてのマナー」を書いた本では無い。
食べる事それ自体の方法について書いた本である。
「食べる」という行為。これは、生きる上で最も重要な行為である。
人は食べないと生きていけない。「食べない=死」と言っても過言ではないだろう。
しかし、こんなにも重要な行為であるにも関わらず、日常的に当たり前の行為として生活に溶け込んでいる
ショートショート 「つまらない漫画」
「なんだよこの漫画、ちっとも面白く無いじゃないか」
友人から勧められた漫画の1巻を読み終え、僕は不満げに言った。
友人は、分かってないな、といった様子で僕の持っていた漫画を取り上げた。
「いいか。この漫画のすごいところは、ストーリーじゃないんだ」
「ストーリーじゃないって。別に絵が特別すごいようにも見えないけど」
「絵でもない。こんな絵なら俺にだって書ける」
「じゃあ、こんなのただの駄
【存在しない本の「はじめに」】雑草を処理する自治体、しない自治体
はじめに
7日前、私が住んでいる千葉県某市(以下Y市とする)の市役所周辺を散歩していると、ある事に気がついた。
「雑草、多いな」
これまで幾度となく通り、見飽きている景色であったが、その日はやけに雑草の事が気になった。
「これ、誰が処理するのかな」
私は仕事でよく都内に行くのだが、このように街中に雑草が茂っている(しかも市役所の敷地内である)事など都内では絶対にあり得ない。
恐らく自治
【存在しない本の「はじめに」】 拾い食い2.0
はじめに
皆さん、最近ちゃんと食べれていますか?
最近は、コロナの影響で人流が減少したせいか、道端に食べ物が落ちている光景を目にする機会が随分と少なくなりました。
今では、ストリートフード(本書では、道に落ちている食べ物という意味で使用しています)を探すだけでも、一苦労です。
外に出ればいつでも簡単に拾い食いができた時代は、もはや終わりを迎えたのでしょうか。
確かに、「道に落ちている食べ
ショートショート「月火水水水水水木金土日」
「本日はどういったお悩みごとでしょうか」
小綺麗なシャツを着たカウンセラーは、にこやかな表情で、若々しい20代の患者の男に語りかけた。
「こんな事言ったら、きっと頭がおかしい奴だとお思いになるでしょうが…」
「そんな事はございません。人の悩みは十人十色ですから。どうぞ安心して、私にご相談ください」
カウンセラーがそう促すと、疲れ切った表情の患者は、おもむろに口を開けた。
「僕、いつか水曜
ショートショート 「死亡不備」
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件名 : 【死亡届の件】書類不備ございますので、ご確認ください。
宛先: 田中 義男(yoshio_tanaka@email.com)
送信元: 死亡管理課共有メール(shibo_kanri@email.com)
受信日 2021/08/04 13:47
添付: 死亡届_田中.pdf
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本文:
ショートショート 「インスタント過去」
この大学で研究を始めて15年。私は遂に革新的な薬を発明した。
飲めば過去を好きに変えられるという薬だ。
ただ、過去が変わるといっても、本当に事実が変わってしまうのでは無く、あくまで主観的に変わるだけである。
シート状の薬に理想の過去を書いて飲めば、自分の記憶の中の嫌な過去が、シートに書いた過去に置き換わる。
薬の効果は10分間。時間が経てば、本当の過去を思い出す仕組みになっているので、虚言
ショートショート 「暗い客」
「こんばんは。どちらまで?」
「芝浦ふ頭の方までお願いします」
ボロボロの服を着た、疲れ切った様子の男は私にそう告げた。
時刻はAM2:00。こんな時間に埠頭に?
少し不審に思ったが、あまり乗客の事を深掘りするのも良くないだろう。何も聞かずにタクシーを発進させた。
「大変ですねこんな時間まで。仕事終わりですか?」
男は何も答えず、虚ろな目で外を見ていた。
疲れているのだろう。私はそれ
ショートショート 「人チャーハン」
僕は町中華が好きだ。
町中華はどこも安くて量がある。何よりもあの家庭的な雰囲気が、他の飲食店とは違ってとても愛おしい。
先日散歩中に見つけた、年季の入った町中華に入った。
床が油ぎっていて、気を付けないと滑って転びそうだ。これは期待できる。
こういう店のチャーハンは絶品だと決まっている。
店主の息子と思しき子供が、カウンターに座ってゲームをしている。
家族で店を営んでいるのだろう。これ
【妄想新書】 超うんちく力
はじめに現代人にとって最も重要な事は何か。
この問いに私は絶対の自信を持ってこう答える。
それは 「うんちく力」 である と。
物知りである事は、良い事である。物知りになりなさい。物知りな人は凄い。
幼い頃から、周りの大人達にこんな事を言われながら育った人は少なく無いだろう。
小さな子供は、自分が持っている知識を披露すれば、大人達から「すごい!そんなことも知っているんだね!」と褒めてもら
なぜ一流はハチミツを食べないのか
一流と凡人の違いは何か
一流と凡人の違いは何か
反吐が出るほど聴き尽くされたこの問いであるが、未だ明確な答えは出ていない。
否、明確な答えはすでに出ているのである。しかしその答えが世に出回れば、この世に凡人などいなくなってしまう。
そうなると困るのは、一流の人間達である。
一流は、二流以下がいてこそ一流でいられるのだ。
本書ではそんな一流達が必死で隠している、「一流と凡人の違い」に対す