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【妄想新書】 シリコンバレー式 ネガティブ術入門

はじめに


断言しよう。この本を読めば誰でも簡単にネガティブになれる。

ポジティブなんて、ダサい。後ろ向きでネガティブな人の方がイカしている。
私は常々そう考えている。

ポジティブな人間は、リスクを過小評価する為すぐ死ぬ。
実際に、ポジティブな人間の平均寿命はネガティブな人のそれよりもはるかに短いと言われている。

対して、ネガティブな人間はそう簡単には死なない。ネガティブな人間は、常に最悪を想定して生きている。

ネガティブな人間にはしぶとく生き残る力がある。

あなたはポジティブだろうか、それともネガティブ?

もし少しでも長く生きていたいのなら、この本を読んで今すぐにネガティブになるべきだ。
「そう言われても、生まれ持った性格を今更変えるなんて出来る訳ない」

そう思ったあなた。

あなたにはネガティブになる素質が十分にある。

「出来る訳ない」その言葉が、ネガティブになる為の大きな第一歩なのだ。


本書では、ネガティブコンサルタントとして、シリコンバレーで数多のクライアントをネガティブにさせてきた私が考案した「誰でもネガティブになれる方法」を3ステップに分け、解説している。

自分がネガティブかどうか分からない人は、本書の最後に用意してある診断テストを受けてから本書を読む事をお勧めする。



ステップ1 ネガティブになろうとするな


まず、最初のステップでは、ネガティブになる上で土台となる、最も重要なマインドを身につける。

この土台がなければ、いくら小手先のテクニックを使ったところで、あなたはポジティブなままだ。

ネガティブになる上で最も重要なマインド、それは「ネガティブになりたい」と思う気持ちを捨てる事である。

ネガティブになりたくてなった人などいない。むしろ、逆である。ネガティブな人間は、「ポジティブになりたい」と思っている。

ネガティブ人間は、ネガティブである事のメリットに気付かないのだ。
何故なら、ネガティブだから。

ネガティブになろうとしている間は決してネガティブにはなれない。

ポジティブになりたいと思ったその瞬間、あなたは初めてネガティブになれるのだ。

この考え方が、ネガティブになる上で一番重要な考え方である。次のステップに進む前に、絶対に身につけて欲しい。



ステップ2 常に最悪のシナリオを想定せよ


このステップでは、ネガティブな人間の思考回路を身につける。

生まれながらにしてネガティブな人間には、ある共通の思考回路がある。

それは、「常に最悪のシナリオを想定する」という事だ。

最悪のシナリオは、その時々により変わるが、最も分かりやすいものは、「死」だろう。

そこで、あなたには今日から一ヶ月間、身の回りにあるもの、起きたことに全て対して「死」を連想して欲しい。

例えば、あなたは今日から、大好きなハンバーガーを目前にしても喜んではいけない。もし万が一宝くじに当たったとしても喜んではいけない。

喜ぶ代わりにこう考えるのだ。
「あのハンバーガーに足を滑らし、頭を強打して死んでしまうのではないか」
「宝くじの当選金を受け取りに行く途中、段差に躓いて転び、死んでしまうのではないか」

これは、実際にシリコンバレーにある数々の企業の研修として導入されている
「ネガティブ クリエイション」と呼ばれるトレーニング方法だ。

最初は難しいかもしれない。
目の前にハンバーガーがあれば、ポジティブな人間なら誰だって喜んですぐに飛びついてしまうだろうし、宝くじに当たればもはや段差の事など誰も気にしないだろう。

何より、日常に起きる些細な出来事全てに死を連想する事自体に、相当のクリエイティビティが要求される。

しかし、このトレーニングを一ヶ月間も続けていれば、次第に視界に入るもの全てに対して、自然に死亡までのシナリオが浮かんでくるようになる。

ここまで来れば、ネガティブな人間の思考回路が身についたと言っても過言では無い。



ステップ3   友人の気持ちを折れ


ステップ2までを終わらせたあなたは、既に相当なネガティブ人間と言えるだろう。
少なくとも、もはやあなたはポジティブでは無い。

しかしこれだけでは足りない。ネガティブはできるだけ多くの人に伝播させる。それがネガティブ人間としての責任である。

その為に、ステップ2を応用しよう。「ネガティブ クリエイション」を、他人の発言に対して行うのだ。この時一番重要なのは、相手にしっかりネガティブな考えを伝える事。

例えば、あなたの友人が起業をしたいと言い出した時、あなたはどう答えるべきか。

今までのあなたなら、その友人を激励するような言葉をかけたかもしれない。
確かに、友人の挑戦を応援するのはごく普通の事だ。

しかし、ネガティブになったあなたの返答はこうあるべきだ。

「デザイナーに頼んだ会社のロゴが気に入らなくて、口論した末、殺されてしまうと思います。」

これは決して難癖でもなければ、友人の挑戦に反対をしているわけでも無い。

ただ単純に、ネガティブな思考回路を共有し、友人の気持ちを折っているだけである。

そうすることで、友人にネガティブな思考を植え付ける事ができる。

また、これは友人をネガティブにさせるだけでなく、あなたにもメリットがある。

こんな事を言われたあなたの友人は、あなたの事を間違いなく嫌いになるだろう。

あなたは嫌われ、さらにネガティブになるという好循環を生み出せる。

まさに win-win である。

ここまで来れば、あなたは立派なネガティブ人間だ。


最後に、本書をここまで読んでいただいたあなたへ、太宰治の言葉を授けたい。

「本を読まないということは、その人が孤独でないという証拠である」

ようこそ、ネガティブの世界へ。



番外編 超ポジティブ人間は物理的に折ろう


「超ポジティブ人間」という存在をご存知だろうか。彼らは、生まれてから一度もネガティブな感情を持つことなく生涯を終える、悲しい存在である。

彼らは、どんなにネガティブな言葉をかけられても決して折れず、逆にポジティブな言葉をスコールのように私たちに浴びせてくる。

どんな言葉をかけても、彼らは私たちを嫌うことは無い。自分が否定されるという概念そのものを持ち合わせていないからだ。

そんな彼らに、真っ向から勝負し、心を折ろうとしても無駄である。

彼らに対して有効なのは、心を折る事ではなく、体を折る事だ。

「超ポジティブ人間」と言えど、生物学的には私たちと変わりは無い。

心が折れないのなら、物理的に折ってしまえ。
そうすれば、さすがの彼らも口を開くことはできないだろう。

これで、私たちの安全は守られた。



特別付録 ネガティブ度診断テスト


自分がネガティブかどうか分からないあなたの為に、診断テストを用意した。

以下の10個の質問に ◯ か × で答え、最後に◯の数を合計し、テストの後ろの診断結果を確認してほしい。


1. 人生の40%は、運だ

2. 本能的に後ろに人を立たせる事ができない

3. 地理は全て頭に記憶している

4. 他人の善意に甘える事は、危険だ

5. 自分はウサギと同じくらい臆病だ

6. 自分が思っている正義は、自分だけの正義なのではないかと思う

7. 犬から死の悲しみを教わった

8. 握手ができない

9. 自分の目で見たものしか信用できない

10.思い出は、懐かしむだけにしている

さぁ、◯の数によって、自分はネガティブなのかどうか、見てみよう。

0〜2個
あなたは完全なポジティブ。本書はあなたのような人間のために書かれている。

3〜5個
あなたはポジティブでもネガティブでも無い。あなたは何者でも無い。

6〜7個
あなたは完全なネガティブ人間だ。親近感を感じます。

8〜9個
あなたは心の病気を抱えている可能性があります。専門医の診断をお勧めします。

10個
あなたはデューク東郷です。



献辞に変えて


私の祖父は、思いやり深い大きな目をした、静かに喋る人で、ネガティブな発言をする事が大の得意であった。

いつもきちんと論理立てて、最悪なシナリオをあくまでも丁寧に主張した。

祖父は何よりも読書が好きであった。10畳もあった祖父の寝室は、寝る場所もないほど本で埋め尽くされていた。
真っ赤な表紙のロシア語の本に、ウラディーミル・アルセーニエフや、アレクサンドル・プーシキンの小説。

本書のオファーを頂いた時、私は祖父の生き方、読んでいた本からインスピレーションを得た。

祖父は静かでネガティブな人であり、偉大な人でもあったのだ。

この本を、心からの愛を込めて、ネガティブな言葉を語る祖父の記憶に贈る。


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