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ショートショート 「人チャーハン」

僕は町中華が好きだ。

町中華はどこも安くて量がある。何よりもあの家庭的な雰囲気が、他の飲食店とは違ってとても愛おしい。

先日散歩中に見つけた、年季の入った町中華に入った。

床が油ぎっていて、気を付けないと滑って転びそうだ。これは期待できる。

こういう店のチャーハンは絶品だと決まっている。

店主の息子と思しき子供が、カウンターに座ってゲームをしている。

家族で店を営んでいるのだろう。これぞ町中華。

「お一人様?好きな席にどうぞ」

厨房で暇そうにしている店主が僕に言った。

僕は壁際のテーブル席に腰掛け、メニューを手に取った。

ベリ、ベリ、ベリ

ビニールカバーのメニューを剥がす音。

この音が妙に心地いい。このために街中華に来ていると言っても、過言では無い。

「すいません。注文いいですか?」

僕が厨房に向かって声を掛けると、初老の女が出て来た。店主の奥さんだろうか。

「ご注文お伺いします...」

疲れているのか、やつれていて、やけに声が小さい。

「チャーハンひとり分で」

「ひとチャーハンですね。かしこまりました...」

ひとチャーハンって。気味の悪い言い間違えだな。

相当疲れているのだろう。


注文してから15分以上経った。まだチャーハンは出てこない。

カウンターにいた子供も、いつの間にかいなくなっていた。


しばらくして、女が息を切らしながら、食材が入った袋を持って、裏口から入って来た。

厨房にある材料を切らしていたらしい。急いで買って来たのだろう。

店主は袋から調理済みの肉を取り出すと、おもむろに切り刻み始めた。

それから10分くらいして、店主が僕にチャーハンを運んできた。

「お待たせしました。チャーハンです。」


僕以外に誰も客が居ない店内に、多少の居心地の悪さを感じながら、僕はチャーハンを食べ終えた。

会計のためにレジに向かうと、それを見た店主も厨房から出て来た。

「チャーハン一つで、650円ね」

財布を広げて、小銭を取り出そうとしていると、店主が続けざまに言った。

「チャーハンに入ってた肉、なんだと思う?」

気味の悪い質問だ。

「分からないです。何か特別な肉を使っているんですか?」

「タダでは教えられないよ。企業秘密だからね。どうしても教えて欲しいなら、5000円ね。」

まさかとは思うが、注文の時に女がした言い間違えがどうしても引っかかる。

それに、この店全然客が入ってない割に、内装だけ豪華なのだ。

最初は特に気にしていなかったが、どこか不気味に思えてきた。

改めて見ると、この店、不可解な所が多すぎる。

そもそも注文を受けてから材料を買いに行くなんて、まともな店ではない。

考え始めると、止まらなくなった。何もかもが不気味に思えて来た。

僕は膨らみ出して収集がつかなくなった不安に飲み込まれ、無意識に5650円を差し出していた。



しばらくして、僕は安堵感と共に店を出た。

少し歩き出してから振り向くと、中華屋の子供がニヤついた顔で店の前から僕を見ていた。

安堵感は怒りに変わっていた。










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