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パンドーラーの池の底

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出逢った素敵な物語。
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#小説

『掌』

『掌』

当時、僕は小学三年生だった。軽度の知能障害はあったけれど、みんなと同じ教室で学び、同じ給食を食べ、同じグラウンドを駆け回って遊んだ。

ある日の授業中、鼻をほじっているところを先生に見とがめられ、「煙突掃除はやめなさい」と注意された。僕のいけない癖だった。鼻の穴がむず痒くなると電車の中だろうとどこだろうと構わずにほじってしまう。

いじめが始まったのはその日からだ。帰り際に外履きを隠されたり、「近

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私花集【渦(spiral)】眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー201812

私花集【渦(spiral)】眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー201812

■ごあいさつ
早いもので12月です。忙しくて目が回っております。毎月零細に企画しております眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー、当月も整いました。12月号のテーマは渦。noteユーザー様の新旧の良作を掻き集めて参りました。(掲載したくてもできなかった良作が沢山ありました。掲載できずにすみません。あと本アンソロジーにご興味ある方、是非作品をご提供下さい。卑小な私めにお力添えを下さい。)

眠れぬ夜にはそっと

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『着想の裏側』

『着想の裏側』

本日通勤途中に書いたじわじわもやもや系の「ほぼ140字小説」の着想の裏側について。あ、そんなこと考えて書いてんだ、と思っていただければ幸いです。しっかし、長い間テキスト書かない間に改行の仕様変わってたんだね(笑)

<ほぼ140字小説本文>
人身事故で電車が止まるたび、またかよと思う。生きていて嫌気がさす日もあるのだろうが他に方法は無かったのかと責めたくもなる。だが違った。“あれ”は常に口を開けて

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現代詩 「ギヨタンの夢」

夢の中で仕事をしていて
上手にできないのが切なくて
目が覚めた
早く目を瞑り
再び仕事にとりかからねば
可及的速やかに
朝はもう其処まで来ている
夜を徹して職工たちは
今も慌ただしく労働している
だがしかし
無策に寝ても詮方ない
革新的な作業工程を考えなけりゃあ
斯うして起きた意味がない
其う 意味がない

ぬばたまの未明の閨に
胡座をかいて僕は
仕事の要領を考えた
ううむふむむと考える
だがしか

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漢詩の言葉「冬夜書を讀む」/翻案「片付けられない」

漢詩の勉強です

冬夜書を讀む  <菅山茶>
雪は山堂を擁して 樹影深し
檐鈴(えんれい)動かず 夜沈沈
閑かに乱帙(らんちつ)を収めて 疑義を思う
一穂(いっすいの)の青燈(せいとう) 萬古(ばんこ)の心(こころ)

【語句解説】

檐鈴(えんれい)…檐は訓読みで「のき」。軒のこと。鈴は風鈴。軒下に吊られた風鈴を呼ぶ。

夜沈沈…春宵値千金にも出てくるフレーズ。ちんちんと読んでいるけれど、しんし

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漢詩の言葉「胡隠君を尋ぬ」/翻案「集金」

漢詩の勉強です

胡隠君を尋ぬ 高啓
渡水、復た渡水
看花、還た看花
春風 江上の路
不覚に到る君の家

【語句の解説】

胡隠君…隠君は隠者のこと。胡は名字。隠者の胡さん。俗世から離れた田舎に隠れて住んでいる。

渡水…通常、水を渡ると書き下す。
看花…通常、花を看ると書き下す。

江上の路…川辺の道。

不覚に至る…知らぬ間に着いてしまった。

【大意】
春風に吹かれながら悠々と散歩する間に

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漢詩「去る者は日に以て疎し」/翻案「死んだあなたを忘れる」

漢詩の勉強です

去る者は日に以て疎し 無名氏

去る者は日に以て疎く
来る者は日に以て親しむ
郭門を出でて直ぐ視れば
但だ丘と墳とを見るばかり
古墓は犁(す)かれて田と為り
松柏は摧(くだ)かれて薪と 為る
白楊(はくよう) に悲風(ひふう)多からん
蕭蕭(しょうしょう)として人を愁殺(しゅうさつ)す
故の里閭(りりょ)に還らんと思い
帰らんと欲するも 道 因る無し

【語句解説】

疎し…薄ら

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社内事情〔33〕~結論~

社内事情〔33〕~結論~

 
 
 
〔里伽子目線〕
 

 
 取り引き先との打ち合わせを終え、私は少し遅めのお昼を摂ろうと、通りがかりにあったカフェに入った。

 料理を待つ間、打ち合わせの内容を反芻しながら少しまとめておく。今日の先方の手応えを加味すると、もう少しで詰められそうなところまで来ているのが実感出来た。

 負けず嫌いの瑠衣の頑張りが効いているのか、アジア部の今期業績もまずまずと言ったところ。あとは、今、

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rainbow after the tempest 16

rainbow after the tempest 16

<第十六話> 弱さ

祖父がそれを読んでいたのはなんとなく覚えている。中原中也の「山羊の歌」だと知るのは随分後のことだが、「サーカス」という詩の独特な表現が、妙に心に残った。

「ゆあーんゆよーん ゆやゆよん」。

再生されるのは、優しかった祖父の声でだ。

両親が毎日のように喧嘩しているのを部屋の隅で怯えながら育った。両親は、自分の目には醜く映った。反面教師というやつで、ああはなりたくないと、心

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『ちーちゃんとかれはさん』

『ちーちゃんとかれはさん』

丘の上のまん中に、白くて大きな建物がたっていました。
その中庭に、太っちょの木が一本はえていました。
太っちょの木がいいました。

「オラオラ! はっぱども!
さっさと光採りこんでエーヨー運ばんかい!
太陽はんかて、いつまでも
照ってるワケにはいかんのやで!
陽がくれてまうわ!」

はっぱをかけられた はっぱたちは
夏のあつい陽射しの中、汗をカキカキ働きました。

たくさんの光をエーヨーにかえては

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『詩人の朝』

『詩人の朝』

確かに確かだ
ボクの本棚には真っ白い食パンが並んでいる
切り揃えられているそれを一冊抜き取ってみたまえ
どうにも香ばしい薫りが鼻腔をくすぐるだろう

引き出しに敷き詰めた珈琲豆から
弾きたて珈琲を優雅に奏で、芳醇に味わう朝
詩人の暮らしというのはどこかしら
かかとが浮いてるものさ

猫と自転車はセットだが
今は二人とも家出している
ニヤニヤしてしまうのを我慢しながら
チーズとバター味の喧嘩をして

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一生分のひととき〔後編〕~あどりめ×あどりは☆サイドストーリー~

一生分のひととき〔後編〕~あどりめ×あどりは☆サイドストーリー~

 
 
 

始まりは 雨の中でひとりさん の楽曲
 
 ☆その1『あどりめ~南国の夏に惑う』
     『あどりめ~イメージストーリー』

 ☆その2『あどりは』
     『あどりは~イメージストーリー』
 
※勝手にイメージストーリーを書かせてもらったストーリーのサイド版です。ベッタベタでギットギトなメロドラマ展開です(笑) 
 
 
 → 前編
 
 
 
***
 

 
 弁護士のお

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一生分のひととき〔前編〕~あどりめ×あどりは☆サイドストーリー~

一生分のひととき〔前編〕~あどりめ×あどりは☆サイドストーリー~

 
 
 
始まりは 雨の中でひとりさん の楽曲
 
 ☆その1『あどりめ~南国の夏に惑う』
     『あどりめ~イメージストーリー』

 ☆その2『あどりは』
     『あどりは~イメージストーリー』
 
※勝手にイメージストーリーを書かせてもらったストーリーのサイド版です。ベッタベタでギットギトなメロドラマ展開です(笑)
 
 
 
***
 
 
 
 いつも不思議に思ってた。
 どうし

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『僕と金魚と星降る夜と』

『僕と金魚と星降る夜と』

大のクジラが二足歩行で歩いているのだから
ワニだって二足歩行で歩いていい。
こんな星降る夜なら特に。

口をあけて
星を食べると
金平糖のように甘い味がした。

霜の降りた道に
静かにバスが停まり、
魚たちが降りたり乗ったり
僕も乗らなきゃいけないはずなのに
体が動かない。

バスが去ってゆく。
赤いテールランプが峠の向こうにかすんで消える。
金縛りがとけて走り出す。
駆けても駆けても景色は同じ。

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