ゲームと精神医学(5): ゲームで自殺?PUBG関連自殺とは〜海外の症例報告〜
皆様、こんにちは!鹿冶梟介(かやほうすけ)です。
シリーズ「ゲームと精神医学」も今回で第5回目となりました!
今までは有名ゲーム(マリオ、ファイナルファンタジー14、ポケモンGO)とメンタルヘルスに関する興味深い研究を紹介してきましたが、特にマリオとポケモンGOについては、メンタルヘルスに対するポジティブな効果に注目した研究でしたね。
しかし、今回は今までの記事とは違い、ゲームの「ネガティブな効果」に関する論文を紹介いたします。
何とゲームが原因で「自殺」という最悪の結果を招いた…、というショッキングなケースレポートです。
そして自殺を誘発したゲームとは「PUBG」というアクションゲームです。
果たしてPUBGは本当に自殺を誘発するのでしょうか…?
【PUBGとは?】
PUBG(Player Unkown’s Battle Grounds)は、韓国で作成されたバトルロイヤルゲーム。
マインクラフト、グランド・セフト・オートV、テトリス、Wii Sportsに次ぐ世界で5番目に売れたゲームソフト。
最大100人のプレーヤーがフィールド内にある装備(銃火器)を駆使して最後の一人になるまで殺し合うバトルロイヤル形式のゲーム。
↓小生はやったことはありませんが、世界中でプレイされている大人気ゲームだそうです。
【研究紹介】
<目的>
COVID-19パンデミック中に起きたPUBG関連自殺の背景を調べる。
<方法>
パキスタン国内で報道されたニュース・TVより情報を得る。
<結果>
合計3つのPUBG関連自殺が報告された。
【症例1】20歳男性。大学2年生。PUBGに夢中になり、ほとんどの時間を同ゲームプレイに費やしていた。自殺した前日、父親にゲームのやりすぎを注意されゲームすることを禁じられた。ゲームを禁じられたことに腹を立て、男子大学生は寝室で縊死した。
【症例2】16歳男性。毎日何時間もPUBGをプレイしていた。彼の両親はゲームをやめるよう何度も説得した。ある日、彼はゲーム内で割り当てられた「タスク」を果たせなかった直後に縊死した。
【症例3】18歳男性。PUBGに夢中だった男性が、少女とビデオ通話した後に遺書を残して縊死した。当時のニュース番組では以下のように報道された…
<結論>
COVID-19パンデミック中、若者のデジタルコンテンツの消費時間が増え、その結果「ゲーム依存」の状態に陥りやすくなった。PUBGのような1日に何時間もプレイするゲームは極端な場合、致命的なリスクをもつ可能性がある。
【鹿冶の考察】
この3例のケースレポートを読んで皆様どのように感じたでしょうか?
「ゲーマーがたまたま3例自殺しただけ」
と思う方もいらっしゃるかと思いますが、本当に「たまたま」でしょうか?
実はPUBG関連自殺については、インドでも同様のケースレポートがあり、1例の自殺既遂と1例の自殺未遂、それから2件の死亡事故(首の損傷、列車事故)が報告されております(文献2)。
また、冒頭でも説明しましたが、PUBGよりも売れているゲーム、マインクラフト、グランド・セフト・オートV、テトリス、Wii Sportsにおいて、自殺と関連する症例報告はありません。
(グランド・セフト・オートが犯罪を助長するという論文はありますが...(文献3))
このように他ゲームとの比較をすると、PUBGと自殺は関係するのではないか…と疑ってしまいます。
<暴力性の高いゲームと自殺リスク>
しばしば言われていることですが、暴力性の高いゲームを長時間プレイすると攻撃性や自殺リスクが高まると言われております。
例えば小規模の研究ではありますが、暴力性の高いシューティングゲーム(カウンターストライク)と暴力性の低いレーシングゲーム(ニード・フォー・スピード)をプレイさせたところ、暴力性の高いゲームをプレイした群は痛み耐性とリスクテイク(危険を冒し易い傾向)の傾向が高くなることが示されました(文献4)。
しかし、これの研究はあくまで心理テストによる評価であり、暴力性の高いゲームが本当に自殺率を上げるか否かを調べた訳ではありません。
特定のゲームの精神的影響を調べるにはやはり大規模かつ他のタイプのゲームとRCT(ランダム化比較試験)が必要なので、当然ケースレポートだけでは結論は得られないことは強調しておきます。
<ゲーム依存(ゲーム症)は自殺念慮を増強する>
ご存知の方もいらっしゃると思いますが、ゲーム依存は2019年より歴とした「病気」とWHOが認めました。
国際疾病分類第11版(ICD-11)では、ゲームに没頭して生活や健康を支障をきたす状態を「ゲーム症」と認定したのです。
参考までにゲーム症の診断基準を以下に示します。
そしてゲーム依存(ゲーム症)が自殺念慮と相関を示すという研究は国内外の論文を含めいくつか出ております(文献5,文献6)。
研究によってはゲームのやりすぎ(Problem gaming)が自殺企図・計画をそれぞれ5倍、10倍に増やすという報告もあります。
要するにPUBGに限らず依存性の高いゲームであれば自殺のリスクを上げる可能性があるのです。
ゲーム依存がなぜ自殺念慮と関係するのか?
その理由はもうお分かりと思いますが、ゲームに時間を費やすことで学業や仕事に影響がでることがまず考えられます。
ゲームをするために勉強をせず成績が落ちる…、ゲームをするために夜遅くまで起きて寝不足になり仕事に集中できない…、このような社会生活への悪影響が生じ、その結果自己肯定感が失われ抑うつ状態に陥りやすくなり、自殺念慮を増大させる可能性が高まるのです。
<コロナパンデミックとゲーム症と若者の自殺>
この研究でもう一つ考察すべき側面があります。
それはいずれのケースもコロナパンデミック(COVID-19パンデミック)禍で起こった自殺です。
このため筆者らはCOVID-19によるロックダウンにより若者の多くが自宅でゲームやインターネットしかやることがなくなったため、ゲーム依存やそれに伴う自殺が増えるのではと考察しております。
たしかに、学校に行けず自宅で過ごすことが多くなればついついゲームにのめり込むことは宜なるかな…、と感じます。
しかし、興味深いことに実はCOVID-19でゲーム症が増えた事実はシステマティックレビュー(複数の論文をまとめて検討する研究)で認められておりません(文献7)。
一方、コロナ禍で若者の自殺が増えたという研究はいくつもあります(文献8)。
つまりコロナ禍ではゲーム依存が発端となる自殺よりも、シンプルにコロナ禍における社会への不安が自殺につながる…と、小生は感じます。
<PUBGは禁止すべきか?>
今回の記事を読み、「PUBGを禁止すべき!」と思う方もいるかも知れません。
しかし、小生はたとえメンタルへの悪影響が懸念されたとしても、PUBGを発禁扱いにするのは間違いだと思います。
理由は依存症は極論すると「(依存症に)なる人はなる、ならない人はならない」からです。
どんなに中毒性、依存性のあるモノ・コトであっても依存対象と適度な距離をとれる人が圧倒的に多いものなのです。
例えばアルコール依存について言うと生涯有病率は1%と言われます。つまり残り99%の方はアルコール依存症とは無縁なのです。
酒がなくても人は生きていけますが、やはり楽しみがないと、とてもツマラナイ人生になりませんか?
それに暴力性が高いという理由で何でもかんでも禁止したら、ゲームだけでなく漫画や映画も禁止になりませんか?
表現の自由を奪うことは人間の創造性も損なうと小生は危惧いたします。
【まとめ】
【参考文献など】
1.PUBG‐related suicides during the COVID‐19 pandemic: Three cases from Pakistan. Mamun MA et al., Perspect Psychiatr Care, 2022
2.The Psychosocial Impact of Extreme Gaming on Indian PUBG Gamers: the Case of PUBG (PlayerUnknown’s Battlegrounds). Mamun MA et al., Int J Ment Health Addict, 2019
3.The release of Grand Theft Auto V and registered juvenile crime in the Netherlands. Beerthulzen MGCJ et al., Eur J Criminology, 2017
4.Influence of violent video gaming on determinants of the acquired capability for suicide. Teismann T et al., Psychiatry Res, 2014
5.Does Video Game Play Elevate Suicide Risk? A Cross-sectional Study of Japanese Young Adults. Koga Y, Jpn Psychol Res, 2022
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jpr.12442
6.Problem gaming and suicidality: A systematic literature review. Erevik EK et a., Addict Behav Rep, 2022
7.Effect of COVID-19 pandemic on internet gaming disorder among general population: A systematic review and meta-analysis. Gopali L et al., PLOS Glob Public Health, 2023
8.Youth Suicide During the First Year of the COVID-19 Pandemic. Bridge JA et al., Pediatrics, 2023
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