#オリジナル短編小説
小説:メダリストの同級生
俺は好きでこの仕事をやっているわけではない。それに給料も安い。それなのに仕事量は多い。別にこの仕事をやったからと言って誰かの人生を変えるわけではないし、誰かが感動するわけではない。だからほどほどにやればいいじゃないか。なのにどうして上司は毎日残業をするのか。なぜ有休をとらないのか。なぜ文句を言わないのか。なぜ会社の経費を少しでも減らそうと努力するのだろうか。
どうしてもわからなくて、それでと
電車に揺られて本を読む
電車の中でスマートフォンを触るなんて私にはとてももったいなくてもうできないのです。ですがお気持ちはわかります。かつては私もそうだったのですから。
朝、電車を乗る時というのは十中八九行きたくない場所に運ばれている時です。しかも、これが眠たい。本来その時間、人間というものは家から出ていたくはありません。いえ、布団からさえも出ていたくないのです。そうでなければ私は、スマートフォンのやかましく心臓を
小説:毒を吐く女上司
このクソアマいつかぶち殺してやるからな。俺は今日も心の中で叫ぶ。申し訳なさそうな顔を作りながら。しかし、そんな顔をしても意味はない。目の前の女は俺の仕事のみならず人格の否定までも行うのだ。
沢辻彩音。31歳で1歳になったばかりの息子がいる。産休を取り始めたときは天に上るほどうれしい思いだった。ようやくヒステリックな罵詈雑言を聞かずに済む。うれしさのあまり、仕事の効率もはかどったものだ。
だ
小説:孤高なる酒乱学生事変
「先輩、今日サークルの飲み会あるんですけど来ないんですか」
「悪いが俺はパスだ」
後輩からのラインにそっけなく答える。しかし、なぜ大学生は集団で酒を飲みたがるのだろう。
俺は群れるのが好きじゃない。人は群れの中の秩序を何よりも大事にする。聞こえはいいかもしれないが、その中身は極めて人情にかけてグロテスクなのである。全体の利益のためなら人の大事な時間を奪うことに躊躇をしない。それが秩序を守る
短編小説:ヒッチハイカー
「その、バックパックは後ろにおいていいよ。それでそこまで行くんだっけ」
「えっと、江ノ島に行きたいです。」
「あーじゃあ、海老名あたりでおろすことになっちゃいそうだけど大丈夫?」
ヒッチハイクの青年が「大丈夫です」と答えるとともに、車が揺れた。バックパックを座席に放り込んだからだろう。その後、青年が助手席に座り、ドアを閉めたことを確認すると、エンジンを着けて、メーターに表示された距離をしわくち
小説:素晴らしい景色の山小屋
4年前に勤めた山小屋の玄関を開けると、懐かしい声がした。
「あれ、高崎君山やっとったっけ? おかしいなぁ、確かやっとらへんかった気がするんやけど。俺も歳かねぇ」
受付の沢村さんは目を丸くして言った。俺は「高崎です、覚えていますか」と切り出そうと思ったが、いらぬ心配だったようだ。
「いえ、やってませんよ。ただ懐かしくなって」
「この山荘に愛着持っててくれたんやなぁ。ありがたいわ。そうや、今日
わかめ散髪店レビュー風小説 ★★★★★
店に入った瞬間私は感動に包まれた。ジャンプの漫画が本棚にずらっと並んでいたからだ。そして期待した。ここなら鳥の巣のような私の頭を気持ちよく刈り取ってくれるに違いない。そう、モーゼが海を割ったように、気持ちよくすっぱりと。
ジャンプ漫画が置いてある床屋は気持ちよくバリカンで頭を剃ってくれる。これは私の経験から導き出された真理である。もちろん因果関係はある。今一度ジャンプがどのような漫画であ