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ビリーさん集め。

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ビリーさんの書いたもので個人的に大好きなものを集める。
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2023年1月の記事一覧

【エッセイ】欠損もひとつくらいなら。

【エッセイ】欠損もひとつくらいなら。

 あれはいつだったか。
 思い出す。それは一昨年十二月の半ば。ちょうど、ある表彰式を前に、歯の詰め物がぽろりと外れてしまって、しかし、そこは何度、詰めても、すぐにグラグラになってしまっていました。なぜか定着しない。他の箇所は虫歯を治して、何か知らないものを詰めて、それで問題なし。
 でも、その箇所は何度、治しても、補修しても、埋め立てても、数ヶ月でぐらぐらとしてしまう。ぐらぐらしたまま、補強をせず

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借りておいた映画をBGMがわりにして朝食を。徒歩で海まで。そして帰宅。コンビニコーヒーを手にスーパーへ。数日分の食糧を。帰宅して、コロッケを食べながらまた映画。目についた三本を繰り返す。飽きたら返却して、また別の三本を。世の中のことがわからなくなる。それくらいで良いのだと気づく。

【備忘録】雪の日の美容室。

【備忘録】雪の日の美容室。

「コーヒー飲む?」
「うん。お願いします」
 足元からテーブル登場。そこにトレイ。チョコレートとグラス。氷がからんと音を立てた。
これは、なんと。アイスコーヒー。一月なのにアイスコーヒー。
……えっ。アイスって言いましたっけ。
「あんたいつもアイスやん」
 それはきっと夏のこと。この真冬に、窓の外はまさかの雪さえちらついてるのに。2センチほど開いたままの窓から突き刺すような風が侵入してくるのに。

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連載小説「超獣ギガ(仮)」#5

連載小説「超獣ギガ(仮)」#5

第五話「会敵」

 真冬の早朝。東京。
 最新の人類と超獣が睨み合う晴海埠頭。

 乾いた、高い音色を伴って、点々と凍ったアスファルトを跳ねて滑る薬莢。いくつかは海に落ち、既に絶えた誰かの足元にたどり着いたいくつかもある。ここに果てた人々は遺志を告げることなく、唐突に、最終を迎えることになった。
 その近くに、一人が着地した。爪先に回転していたそれを抑えた。靴の下に真鍮。空白を抱えたそれは踏みつけ

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「おやすみ羊」

「おやすみ羊」

 きれいなままだと汚れたときに気になるから、なるべくどこかを汚しておこうと思っている。
 ケチャップのついたくちびるを、口紅ごと袖で拭き取ると、裂けたみたいに口が大きく右に広がった。「おやすみ羊」を聴きたくて、YouTubeを探したけれど見つからなかった。いらないものがあふれ返っているから、探しているものはいつも見つからない。
 どうにか「夜に海賊は」なら見つかったので、それでいいやと聴き始めたら

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「冷たい頬」

「冷たい頬」

 雨になるかもしれないとの予報を見終わるよりも早く、見上げた窓の外はいつの間にか灰色の雲が溜まっていた。人通りは少なく、シャッターの前を荷車のおばあさんが腰を折り曲げて、遥か上の雲を追っているかのように東のほうへ歩いていた。触れていた指先を冷たくする窓。外はさらに冷たくなるだろう。吐く息はかすかに白み、切りすぎた小指の爪がつんとした。すぐに冬がくる。
 スマートフォンを確認して、誰からの連絡も届い

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#slowlight
さあ、昨日を生き残ったすべての命に。
おはようを語ろう。今日、また、生き延びよう、と。
生きていることは、当たり前なんかじゃない。もう知っているでしょう?

「越境者たち」

「越境者たち」


 孤独なる魂はその眠り処を探し求めている、其れは二度と目覚めることのない終点であり、寄り添う者を拒む棺だ、数百歳もの年月を経て、なおも吹き続ける風のなかに舞う粒子となることを求めている。
「どこか遠くへ」と書いた大判のスケッチブックを掲げて歩道から身を乗り出している。その痩身は少年のように見えるが、彼の周囲を影として縁取る倦怠と疲労は最期を間近にした老境を重ねさせてもいた。
 どちらでもあり、ど

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海へ行こう、果てまで行こう、
昨日みたいに、明日のように、
見果てぬ先などあるものか、

連載小説「超獣ギガ(仮)」#4

連載小説「超獣ギガ(仮)」#4

第四話「反撃」

 十二月二十五日。午前。
 三日月の灯る早朝の東京、晴海埠頭。

 神が失われた世界において、人々は誰に何を祈るだろう。合わせる手を持つだろうか。
 まだ雪が溶けるまでに至らない時間。
 暁の無音をわずかに葬りながら、その冬三度目の降雪はややその勢いを失いながら、しかし、地上に住まう人々を濡らさんとばかりに再び細やかな雨に変わりつつあった。雨から雪。そして雨。埠頭を染めた白は溶か

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短編小説「国境線上の蟻」#10

短編小説「国境線上の蟻」#10

 君は見ている。
 視線の先に広がるのは海だ。かすかに島影を捉えたような気がした、それが唯の幻影だとしても、遥か先には此処ではない地が存在している。
 美しくはない、同時に醜いわけでもない。内実はどちらをも内包して、富める者と貧しきものが同じ空の下に呼吸を続ける。
「お前は私を殺したいんだろう」
 何を見ているのか、それは分からない。背中はどちらも同じ北を向いている。
 君と君の父はまるで非なるよ

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星が灯るのを待っていた。畦道を軽トラックが通って、その助手席の窓から投げ捨てられた包みは重量を伴うのか、跳ねずに鈍い音でアスファルトに着地した。跳ねない代わりに泣き声で誰かを誘い出そうと試みていた。小さな子供だったが、約五万回の欠伸の後、子供を捨てようと星が灯るのを待つに至った。

【移住者エッセイ】のんびり走ろう高知県。

【移住者エッセイ】のんびり走ろう高知県。

 このnoteで知り合って、フォローさせていただいて。後にその方のTwitterもフォローさせていただいて。ありがたいことにその方からもフォローしていただきました。その人の書かれていることにとても関心があった。その方の住まわれている土地にとても愛着があった。
 以前の、兵庫に住んでいた僕は、海を探しによく鳥取へ訪れた。それから島根。日本海は美しく、そして、どこか懐かしく思えた。
 浦富海岸。鳴り石

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コメディ小説「ゾンビ少年高橋くん。」#5

コメディ小説「ゾンビ少年高橋くん。」#5

「この街で静かに暮らしてゆくと言ってもなぁ……」
 巡査は困惑する。こんな出自不明のゾンビらしい子供が徘徊している状況と言うのは、どのように考えても問題がある。
 さりとて、打開案もとくに思い浮かばない。ゾンビの処遇なんて考えたことがない。警察学校にもそんなのなかった。対テロ特殊急襲部隊の訓練にもなかった。
「暮らすと言ってもさ。学校とかどうするんだい? 小学校にも行ってないなんて大人になったら苦

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