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つづき「絵美子さんとの小旅行・現地到着」我が成長の記録:大学編

  余りにも貧相な宿なので、
「ここは、本当は旅館と呼んでいますが、民宿ではありませんか?」
と尋ねると、
「民宿は、素泊まりですが、わたしどもの所は、夕食と朝食がついておりますし、お布団もこちらで敷きに上がります。それに温泉がございますので、いつでもお使いください。旅のお疲れをお取りください」
と言う。
 言葉は丁寧なのだが、何か慇懃無礼(いんぎんぶれい)に感じた。
 
 宿泊するというより、キャンプのような感覚である。
 
 LGBTの先輩は、性には敏感であるが、こういうところに疎い。
 絵美子さんは、いつもの変わらない涼しい顔をしていた。

 
 彼女に言った。
「わたしが、宿泊施設を選んでいたらよかったのですが、先輩が変わっていて人のことを考えずに、こういう古いたたずまいのほうが、文学的環境だとか、言うので、こうなってしまい、ごめんなさい、すべて先輩のせいですからね!」
と、お調子者のごとくにいった。
「いいのよ、そんなに気にしないでください。先輩を責めてはいけません。彼の趣味なんでしょう。仕方がないわ。長い人生いろいろなことがあるわよ。それが、文学であり、創作意欲が高まるのよね!」
と淡々と、目をきょろきょろさせながら、かわいい顔をしていた。
「さすが、絵美子さん、心が広い!」
というと、彼女は、
「わたし、心何か広くないわよ、ただ、わたしにとって作品は常に開かれているの、もちろん、わたしの言語空間は開かれていてね、いつでも文学的行為を行っているのよ」
と、早口で言う。

女子大生

 わたしは、何が何だか分からなかったが、絵美子さんは優秀なんだなあ、と思った。
 絵美子さんは、かわいい、そして頭が良い、これを才色兼備というのだろうと、おもわず納得した。
 先輩が、車をガレージへ入れ、小さな旅館に、三人分の宿泊費をまとめて支払って、我々のところへ戻って来た。
 
 部屋を案内してもらった。
 廊下は、ほこりがすごく汚れている。誰も泊まりに来た形跡がない。部屋は、六畳と破れた襖(ふすま)を挟んで、四畳半があった。畳は茶色く変色し、傷み、むしろのような状態であった。

むしろ

 先輩は、
「うーむ、良い部屋だ」
と一言、言った。
 わたしは、
「雨風がしのげるだけいいでしょうか、どうせ一泊ですし」
と絵美子さんの内心、心配しているだろうと思って、気遣うように言った。
 絵美子さんは、
「こういう環境で多くの名作が生まれてきたのよ、作家の人って、修業時代は、すごく苦労した人が多いでしょう。わたしもこういう環境にいることができてうれしいわ、一流作家の修業時代と同じ環境に居て、同じ空気を吸うことができるのよ、何ていう幸せかしら」
と目を輝かせて言う。
 わたしは、絵美子さんは、かわいいし、頭の回転もいい。しかし、少しおめでたいところがあるというか、楽観的で何でもいいこととして解釈してしまうところがあるのかなあ、まぁ、こういうのって、天然が入っていると言って、純粋で返ってかわいいな、と少しばかり無理をして思った。
 
 四畳半は、絵美子さんの部屋で、わたしと先輩は、六畳の部屋で休むことになった。それぞれ、荷物を片づけ、六畳の部屋へ三人して集まった。
 
 壁に立てかけてあったテーブルを組み立てて部屋の中央へ置いた。
 先輩は、元々、無口だ。
 絵美子さんは、白のブラウスに紺のミニスカートだった。破れた薄いせんべいのような座布団に脚を崩して座っている。ミニスカートからのぞく脚がきれいだ。

女子大生


 先輩が、気が利くことに、日本酒の五合瓶、白ワイン、焼酎を買ってもってきた。それを紙コップに入れて飲むことになった。
 絵美子さんは、
わたし、
「日本酒が大好きなの」
という。すかさず、先輩が、
「ぼくもだよ、甘くておいしいよね」
という。わたしは、日本酒は体質的に合わないようで二合飲むと頭痛がするが、絵美子さんが日本酒なので、わたしは、
「文学を語るにはやはり、日本酒ですよね」
と心にもないことを言った。
 結局、三人とも日本酒を飲むことになり、五合瓶を三人で飲むのであっという間になくなった。
 文学談義をするまえに、肝心の日本酒がなくなり、空瓶になった。

日本酒


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