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ほんとうの虹

沖縄の虹をみたことがあるかと女性写真家がいった。
ないよ。
沖縄の虹は本州の色と全く違うよ。
どんなふうに。
見るのが一番、ほんとうなんだから。

ぼくはそれから数年かかって機会を見つけて、ようやく沖縄へ、青のなかを飛んだ。那覇の空港から出て、女性写真家と合流して、その足で天気雨を探して廻った。それはすぐに見つかり、その虹の色彩に驚いた。

その虹は遠くだけでなく、目のまえでも現れ、手帳の上にも現れた。透明性のあるそれは薄いシャボン玉のような色彩で、見ていると数秒で消える。

消えなかったらいいのに。そこで写真という手があった。本業の彼女にそれをつたえると、彼女も沖縄の虹をファインダー越しに見ながら、シャッターも押すが、現像やプリントアウトはしないという。したら、色が嘘をつくらしい。一般的な七色の虹になって映ってしまう。ちまたにあふれる虹の写真がその証拠だ。

けれどね、仕事で、ファインダーのなかに収めていた沖縄の虹を取り出さなくてはいけなくなったのよ。みんな現実で見えるほんとうの虹ではなく、画像化されたイミテーションレインボーで構わないようね。画像を見ることで、一体に、何を見ているつもりなのかしらね。
そのようにいって彼女は口元に嘲笑のような影を見せた。
だって、あの虹を見たら記念撮影したくなって当然じゃないか。
画像化されたら、壊れないかわりに、ありふれた色になってしまう。ありふれた色なら記念にとる必要もないでしょう。
どうすればいいのか、教えを乞いたいね。
壊れない虹は本物ではない。実際にみる虹以外は本物ではない。記念は、だからカメラじゃなくて目の虹彩を使えばいい。機械の記録ではなく脳裏の記憶を使えばいい。
スコールの気配があたりに満ちた。


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