弌矢

不調法者ですが、主にシュルレアリスム的マジックリアリズム的な文を載せています(違うのも…

弌矢

不調法者ですが、主にシュルレアリスム的マジックリアリズム的な文を載せています(違うのも載せます)。 たまに貼られるURLは共有サイトのimgur(イミジャー)です。タップやクリックで映像が閲覧できます🌷 weirdcore dreamcore traumacore 東京

最近の記事

ともあれジャズとライム

宵のマントが窓辺にたれている、やさしい指先までもが響きわたる"おろかな私"の演奏、繊細きわまるその音の流れにみずみずしいライムが乗る。彼女は聴きながら傷ついている気持ちをもてあそんで味わいたがる。もっと味わうためにサンライズをでも飲もうかしら お酒はハタチでやめたんだった 男たちより大胆だった ギターは金曜日に捨てたのだった 燃やす人をフィルムで見たから可燃ゴミ、ではなかった ジャズとヒップホップはあうんだねと語らいあう恋人たちに微笑む顔、音以外のライムを知らずとも聴くの

    • 宵のエル・ドラード

      気が触れるほどに翻訳書籍読めば そこはジョイスのきめた場所のちから 日が沈んだあとでようやくドアを出れば 外はキアロ・スクーロの効いた路上 ポケットにはまだまだ書籍が入る ソネットにはつれづれ書き込みがある 虚構のかなたにほんものを置いてくる 今日このごろ軀がほんとうに老いてく 人気のない公園のほとりの静けさの闇 よく見ると見えてくる二人、カップルの病 読めないほど暗いとよろよろ歩いて 汚れている黒い水によりそいながめる 肌身で触感をL、紙、噛みしめる 味方を直感

      • A.Sに

        風のたよりもこと切れたいま見る君の面影 記憶をさぐるも懐かしさまみれの思いで 気持ちを物に託すのが得意だった 意地悪さえ呑気で助かっていた ボーダフォンという物を覚えているか そうだったととむらう君、おぼろげにありや 言葉たちが輪舞する室内 言霊への信仰は別にない 時間によりそってつづくと説く師匠ベルクソン 自分のよりどころでくつろぐしかないのだもの さむらいの色も現在はユニフォームの青 その言葉耳にするたび共感性羞恥で真っ赤 意味をそろえては月日を過ごすのが常套

        • 境界で

          交通網をくぐりぬけて降りていった 扉のまえで立ち止まる。思考する、 アンダーグラウンドとアングラの差異、 向こう側はおおよそ想像できている

        ともあれジャズとライム

          二重になりそう

          暗がりにゆれる心地 物騒にゆれる ざわめきをきく目 人生がふたつにぶれてしまいそう いまにも

          二重になりそう

          ナイトホークス

           街角のダイナーに入って、モーニングを注文する。楕円形のカウンターは、右側にスーツを着た男が一人、左側は男女のカップルで、めかし込む女と話す男の方はやはりスーツ姿だった。  店内は硝子張りで、信号機の灯りに照らされる夜道が覗える。人どおりはまだかなりあった。人々の上に傘がひらきはじめた。雨脚は強くなっていくようだった。  カウンターごしに給仕がモーニングを渡してきた。トーストと玉子と分厚いベーコン、昼夜逆転した味覚で食しつつ、手帖をひらく。手帖に目を落とし、けれども読みは

          ナイトホークス

          世界のディテールより

          降りしきる雨、静かにぬらしていくアスファルトの水たまりに波紋、反影する街灯の色と陰影。交差点の自動販売機、そのディスプレイのなか、仄白いあかりが幽霊のようにゆらめいて、その姿を雨粒に反射させる。 キャッツアイがまたたく十字路をライトが這って、濡れた空き缶やプラスティックを路地の闇に浮かべる。缶のラベルは九〇年代と覚しき謎めいたデザイン。物質化した過去、無意識のスペースにまで集合的ノスタルジア。 終電後の刻限も脈拍と走り廻る車たち、ひかりあふるる都心のジャンクションより網の

          世界のディテールより

          離合の昼夜

           彼女は、夜の暗がりのなか、眠る女を見下ろしている。横たわる女の安らかな呼吸により、掛け布団が上下しているのが覗える。彼女は眠る女のゼリーのような潤みあるくちびるに触れてみた。その感触は、やはりゼリーだった。  水底に寝そべる彼女は、くちびるを小魚に触られて我にかえった。翻る小魚たちが銀色にちらついて、上には輝く太陽の白銀がゆらめいている。シュノーケリング姿の女がこちらを覗き込んでいた。何時なのだろうか。たぶん正午近くだ。彼女はそうかんがえる。   眠る女を見下ろす彼女は

          離合の昼夜

          移動の情景

          国道一四号にさしかかり、工業ベルト地帯が続くようになると、いつもラジオの電波が混信して、知らない言語が幻のように聴こえてくる。 時折見える海辺をながめながらそれを聴いていると、情景が浮かんでくる。それはゲームの情景で、草原や神殿などを歩き廻るRPGのようだ。 情景は、生まれるまえからあったレトロゲームに違いなく、プレイした覚えはまったくないが、けれども懐かしくて、そのなかの場所にたたずめば憩うことさえできる。 情景の場所に憩いつつ、飼い慣らした幻獣たちにおやつを与えたり

          移動の情景

          都道沿いのモンタージュ

          歩いていた彼女はともるコンビニエンスストアのまえで立ち止まり、スマートフォンを見、深夜二時五分まえを示しているのを確かめて、店内に入った。 都道七号線を走るタクシーがあかるいガソリンスタンドのある角を折れて信号でとまるとコンビニエンスストアが見え、彼はそこでお願いしますといった。 酒のコーナーで立ち止まった彼女は、それから窓際に置かれた雑誌を眺め、けれども手にとろうとはせず、外を覗うと、ちょうど信号が青に変わり、タクシーが駐車場に入ってきたのを見て店を出た。 二人ははす

          都道沿いのモンタージュ

          夏街

          ビニールバッグを抱えた少年少女、中央線の座席の上、ぶらつかせている細い足の長さもちょうど、ちょこんと上目遣い、並べた肩も細かった 向かいに立つ男が親と見える、彼は釣り道具を持っている、向かっているのは海と伺える、目的地は近場の千葉、いや、新幹線もありえる だんだん海が恋しくなってくる、自慢じゃないが泳ぎは達者、それだから夏はうれしいはずなのだ、しかしいまバッグのなかには謎の荷物 ばっくれたらにっちもさっちもいかなくなるだろう、なにが入っているのかどうにも察知できないでい

          都市部というアンビエント

          電信柱の上、鉛色の雲が流れる、街灯に浮かぶ公園でコンクリートに生きる物の怪と団地の少年少女が戯れる 塗装の匂い立ちこめる高架下より、うち捨てられたビニール傘、昔ジュース、橋の上より、川に反射する信号の明滅の赤と青 深夜の学校のプールにいくつもの波紋、降っている、黙り込んだ校舎のなか、にじむ警報ランプの赤、向かいのテナントビルも無人 しかし一階には灯るコンビニエンスアのしるし、通過する銀色にあかるい快速、駅まえの踏切のルフラン アスファルトに描かれた図形、飛び跳ねるレイ

          都市部というアンビエント

          春のノンブル

          お日様にあかるい桜の樹の下、キックボードで川沿いを走る。「零! 爛漫だな」 私は零に呼びかけた。彼は口笛を吹く横顔を見せた。軀に浴びる花びらは流れて落ちていく。川から何かが跳ねるような音がして、その滞空時間に、 「ア 𓄿」── それから私はヒエログリフの夢を見ていたのだ。それはいつから持続していたのか記憶にないが、やがて𓄿は零に変容していった。見上げると、見下ろされている 花の舞う宙のなか、救急車を呼ぶかと零がいった。首をふって、ただでは死なない、起きない、と私はアス

          春のノンブル

          谷間の百合の白め

          緑に乗って黄に乗り換えて、さらにオレンジに運ばれ、街に出れば颯爽と歩くトレンチコートの男女たち、ずいぶんと立派に見える、なんてビジネスライクなんだ その歩きかたに見とれているうち、ビジネスする彼彼女たちから遅れをとって、自分のビジネスも無駄な時間を喰い、急いで百合の白を探すべくポート迄 百合の白、彼女のその純白は、いとけない世間知ラズの少女のようでいて、その実不義理の大人である、おれの制裁に値するあばずれである コンクリート製ジャングル、捜索するおれは速度二〇kmのトラ

          谷間の百合の白め

          taxi driver

          乗客たちに殴られたあと、一人ぼっちのおれは口の血をぬぐい、孤独なアパルトマンに帰りついた ベッド横のテーブルに死んだママンにもらった聖書。去年ママンも死んだ。一昨年かも知れない。わかんない。去年だったんだろ 弾を確認する。この弾丸で聖書を撃ち抜けるだろうか。カーネーションが枯れている。オイルかけて燃やし捨てる。選挙区へ向かう 選挙にいったことがない、それは政治的でないからで、政治的になりたければ箱に紙っぺら一枚でこと足りると耳にし、唖然としたが 口が痛え、腫れていや

          taxi driver

          地中海の舞踏/Mediterranean Sundance

           夜の地中海沿岸にセットされたステージで、舞踏はとっくにはじまっている。  踊り子たちのその腰つきに没入していると、バックパッカーの青年は飲みたくなってきた、酒ではない、コカコーラを。それも瓶のコカコーラに限る。ステージ横に小屋みたいなキオスクがあって、そこを覗いた。  コカコーラはあったが、缶だった。しかもプルタブをあけるとぬるい泡があふれて大量にこぼれた。あふれて減ったぶん、缶にくぼみをつくってみた彼は、舞踏の続きにふたたび没入した。  踊り子について地元のみなが知

          地中海の舞踏/Mediterranean Sundance