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世界のディテールより

降りしきる雨、静かにぬらしていくアスファルトの水たまりに波紋、反影する街灯の色と陰影。交差点の自動販売機、そのディスプレイのなか、仄白いあかりが幽霊のようにゆらめいて、その姿を雨粒に反射させる。

キャッツアイがまたたく十字路をライトが這って、濡れた空き缶やプラスティックを路地の闇に浮かべる。缶のラベルは九〇年代と覚しき謎めいたデザイン。物質化した過去、無意識のスペースにまで集合的ノスタルジア。

終電後の刻限も脈拍と走り廻る車たち、ひかりあふるる都心のジャンクションより網の目に広がるシナプスのグリーン、グリーンからダークグリーンへと、円周に向けてトーンダウンしていく環状マップのグラデーション。

夜空に浮かぶ雨雲の下、これこそが世界、木陰に息づく鳥たちの体温から雨音に安堵する赤ん坊の寝息に至るまでもが世界、と、雨の世界のディテールに実在する自分に気づく。時系列が夜あけまえとも気づきまたたきした。

世界のディテールの一つから見ていた。雨の夜を朝の気配の紫が焼いていた。深い刻限だけに現れる架空のステージにコンクリートの物の怪が奏ではじめれば、夜明けまえの雨と月が満ちてくる。奏でるほどそれはあふれる。


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