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都道沿いのモンタージュ

歩いていた彼女はともるコンビニエンスストアのまえで立ち止まり、スマートフォンを見、深夜二時五分まえを示しているのを確かめて、店内に入った。

都道七号線を走るタクシーがあかるいガソリンスタンドのある角を折れて信号でとまるとコンビニエンスストアが見え、彼はそこでお願いしますといった。

酒のコーナーで立ち止まった彼女は、それから窓際に置かれた雑誌を眺め、けれども手にとろうとはせず、外を覗うと、ちょうど信号が青に変わり、タクシーが駐車場に入ってきたのを見て店を出た。


二人ははす向かいにある公園へ入った。見廻すと、すべてのベンチに酒の缶が置かれていた。二人はブランコに並んで座った。彼女が缶酎ハイを一つ相手に渡した。

これからの生活について、二人はしばらく話しあった。話を終えたというより済ましたといったように彼女は立ち上がり、空き缶を持った手で合図して公園を出た。その背中を見つめていた彼はブランコに座ったままうなだれたが、深呼吸をして顔を上げ、残りを飲み干した。


彼女は都道七号線沿いを、まえから走ってきては後ろへ去るまぶしいランプを直視しないように、それと同時に背後で不審な音がしていないか注意しながら、早足で歩いた。

彼は都道七号線を渡って夜にともるコンビニエンスストアに入り、さっき飲んだものと同じものを探しあてて手にとったが、細かい金がないことに気づき、やはり買うのをやめようかとかんがえた。

自宅マンションのエレベーターのなか、彼女は壁にもたれかかり、移動していく数字をながめながら、もう少し飲もうかとかんがえ、下に降りるボタンを押そうとしたがやめた。

細かい金がない彼は、プリペイドカードがあることに思い至り、しかし酒ではなく珈琲を買い、またさっきの公園へと都道七号線を渡って時計を見た。

スマートフォンが三時三三分をしめしているのを確認して、キッチンでホットミルクを入れていると、彼女は壁掛けの部屋の時計が三分遅れていることに気づき、機嫌をわるくした。

淹れ立ての珈琲の香りを確かめて口にした彼は、その熱さに顔をしかめて持て余し、前方の都道七号線を横切るシルエットたちをながめながら、冷めるのを待った。

ホットミルクに蜂蜜を足し、熱いうちに飲み干した彼女はソファベッドに横になり、ここで寝てしまおうかと独りごちると、エンジン音が部屋のなかに入ってきて、カーテンの上がヘッドライトらしきものでひかった。

今夜はあまり眠れそうにないと思いながら彼は車の横切る都道七号線を見つめている。彼女はカーテンの上で移動するあかりを眺め、視線を壁の時計に移す。もう一度かけてみるかと彼はスマートフォンをとり出す。三分遅れた壁掛け時計からスマートフォンの時計に視線を落とした彼女は、なんだかみんな面倒になった、と目をとじる。彼は電話をかけて待つ。彼女は静かに眠りについた。



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