弌矢

不調法者ですが、主にシュルレアリスム的マジックリアリズム的な文を載せています(違うのも…

弌矢

不調法者ですが、主にシュルレアリスム的マジックリアリズム的な文を載せています(違うのも載せます)。 たまに貼られるURLは共有サイトのimgur(イミジャー)です。タップやクリックで映像が閲覧できます🌷 weirdcore dreamcore traumacore 東京

記事一覧

いつもとちがう、帰宅の夜道

晩に近づくころ道に出るドアを出てしばらく、右車線の歩道側の灰色を歩いていた。パンを作らせれば右に出るもののない、愛すべき喫茶店は藍色にとじていた、 もう口にでき…

弌矢
3日前
4

ロシアの村の灯

夜、成田を飛び立って数時間、ウラジオストクあたりだろうか、見下ろすと、ミニチュアみたいな山村の灯が五つほど見えた。灯はかすかにゆれていた。 あのようなところにも…

弌矢
10日前
2

夜景を撮って

夜の都会の空のなか、おびただしいビルのあかりに、ビル自体が溺れるように暗く沈んでいる。燦然とした夜空を、彼女はヘリコプターでめぐっていた。 それを見上げていたダ…

弌矢
2週間前
4

陸影を浮かべ

対岸に浮かぶ陸影をながめていた。あの向こうには光彩陸離な繁華街があって、この刻限、彼女は誰かとすごしているに違いない。 この夜を誰かとたゆたう彼女、そうかんがえ…

弌矢
3週間前
4

原体験、公衆電話

スモッグに瞬く星月のもと、住宅地の角の三角公園、その入口にともる電話ボックス、週末のあかり 右手にはテレフォンカード、左手のなかの錠剤デパス、その従姉妹はサイレ…

弌矢
1か月前
5

移動のジャンクション

首都高速都心環状線、こじあける炭酸水の栓、ジャンクションを進めば目的は果たせると、ちゃんとした推進は目的を果たすのだと、安心に乾杯するボトル、湾曲に気泡が昇る、…

弌矢
1か月前
13

信じない

右翼を信じない。 左翼を信じない。 資本主義を信じない。 共産主義を信じない。 本居宣長を信じない。 小林秀雄を信じない。 吉本隆明を信じない。 柄谷行人を信じない。 …

弌矢
1か月前
5

旅行先の一ページ

 アフリカの夕日があった。途中、真横に太陽を見つめていた。視界の両側で、アカシアの樹が夕刻の空を掴んでいる。  日本人の旅行家に、コネで紹介されたビッグマムの家…

弌矢
1か月前
7

アランフェス通り

 自分の棲み家である都営住宅を、老人は眺めやっていた。蛍光灯の色が縦横に規則正しく発光している。あと一階上の最上階だったら夜景が見えるのに、と電話をとり出した。…

弌矢
1か月前
6

まほろばから遠く離れて

この異郷の塔からは、まほろばもながめられた。不確かだった時間に鐘が響き、あたりの空気をひやした。春らしさも夏らしさも感じとれないこの異郷は秋か冬だろうが、季節と…

弌矢
2か月前
6

ともあれジャズとライム

宵のマントが窓辺にたれている、やさしい指先までもが響きわたる"おろかな私"の演奏、繊細きわまるその音の流れにみずみずしいライムが乗る。彼女は聴きながら傷ついている…

弌矢
2か月前
11

宵のエル・ドラード

気が触れるほどに翻訳書籍読めば そこはジョイスのきめた場所のちから 日が沈んだあとでようやくドアを出れば 外はキアロ・スクーロの効いた路上 ポケットにはまだまだ書…

弌矢
3か月前
10

A.Sに

風のたよりもこと切れたいま見る君の面影 記憶をさぐるも懐かしさまみれの思いで 気持ちを物に託すのが得意だった 意地悪さえ呑気で助かっていた ボーダフォンという物を…

弌矢
3か月前
16

境界で

交通網をくぐりぬけて降りていった 扉のまえで立ち止まる。思考する、 アンダーグラウンドとアングラの差異、 向こう側はおおよそ想像できている

弌矢
3か月前
10

二重になりそう

暗がりにゆれる心地 物騒にゆれる ざわめきをきく目 人生がふたつにぶれてしまいそう いまにも

弌矢
3か月前
13

ナイトホークス

 街角のダイナーに入って、モーニングを注文する。楕円形のカウンターは、右側にスーツを着た男が一人、左側は男女のカップルで、めかし込む女と話す男の方はやはりスーツ…

弌矢
4か月前
12

いつもとちがう、帰宅の夜道

晩に近づくころ道に出るドアを出てしばらく、右車線の歩道側の灰色を歩いていた。パンを作らせれば右に出るもののない、愛すべき喫茶店は藍色にとじていた、 もう口にできない、残念でならない、藍色の深い色、色々な深い青、シャッターを染める色、catがそぞろ歩きする。 暗がりの濃淡に無人の交番がある、夜の暗黒で青姦なんかしている、うしろからのベルが疎ましげに鳴り響く、伏し目がちにしていた顔をふと上げる、 過ぎ去る自転車の浮遊、捕まれ無灯火と不満、あれは普通自転車だな、まれに普通に間

ロシアの村の灯

夜、成田を飛び立って数時間、ウラジオストクあたりだろうか、見下ろすと、ミニチュアみたいな山村の灯が五つほど見えた。灯はかすかにゆれていた。 あのようなところにも人間が暮らしている、と見入っているこちらをあちらもいま見上げていたりして、などと他愛もないことをかんがえながら、異国の夜空を落下傘か何かで舞い降りてみたいと夢を思った。 ターコイズブルーの優しげな目をしたCAが機内を往来している。シートベルトの確認の際に華やかな微笑を浮かべる。 暗い雲のなかに入ったとき、笑みを浮

夜景を撮って

夜の都会の空のなか、おびただしいビルのあかりに、ビル自体が溺れるように暗く沈んでいる。燦然とした夜空を、彼女はヘリコプターでめぐっていた。 それを見上げていたダリは、夜空と道路のあいだの低空を車で浮遊していた。ラジオ番組を流しながら、映像塔へ向かうべく、魔法の絨毯めく上に座っている。くつろげてはいるが、眠い目をとじるわけにはいかなかった。 道に連なる虹の輪のなかに入り込んで進んだ。斜め右上をながめやると、ビルの上で巨大なひかりのライオンが回転している。左上の側面は四角くひ

陸影を浮かべ

対岸に浮かぶ陸影をながめていた。あの向こうには光彩陸離な繁華街があって、この刻限、彼女は誰かとすごしているに違いない。 この夜を誰かとたゆたう彼女、そうかんがえるだけで胸が苦しくなる。一日何も食べていない。 失恋と呼べるだろうか。告白もしていない。気持ちがつたわっているかさえ定かでない。よもや、これが本物の恋といえるのかすら定かでない。いまさらそんな。 定かなのは、彼女のアカウントがこの手にひかっていること、そしてそれを過剰に意識していること、消して忘れることは不可能だ

原体験、公衆電話

スモッグに瞬く星月のもと、住宅地の角の三角公園、その入口にともる電話ボックス、週末のあかり 右手にはテレフォンカード、左手のなかの錠剤デパス、その従姉妹はサイレース、憂いの係り 通話の際には飲み干している、急激な害はno problem、だとしても電話掛けて人に依存、その果てには願掛ける神に依存、か 受話器を片手に立ち尽くす、具合の加減に酔い痴れる、打ち捨てられたようなボックスのなかのこと、暮れ果てた空にはなお星月が いまだ作用しているドラッグの酔い、まるで周波数あう

移動のジャンクション

首都高速都心環状線、こじあける炭酸水の栓、ジャンクションを進めば目的は果たせると、ちゃんとした推進は目的を果たすのだと、安心に乾杯するボトル、湾曲に気泡が昇る、星の数、時は昼 携帯のことさえ忘れる不可思議な恋人たち、倦怠期なんてとうそぶく二人の道、渋滞知らずの対話の流れ、停滞しているカーブの外れ、操作をするそなえつけの円盤、交差しては錯綜する電波 抑揚のないラジオの乱れた交通情報、北米のナイアガラを思わせるホワイトノイズ、Vaporwave流す車内は進むのもルーズ、ペアル

信じない

右翼を信じない。 左翼を信じない。 資本主義を信じない。 共産主義を信じない。 本居宣長を信じない。 小林秀雄を信じない。 吉本隆明を信じない。 柄谷行人を信じない。 過去を尊敬せずに未来をリスペクトしようとする人を信じない。 文学を信じない。 ジミ・ヘンドリックスを信じない。 ジョン・レノンを信じない。 THA BLUE HERBを信じない。 ケンドリック・ラマーを信じない。 マイルス・デイビスを信じない。 地震を信じない。 ドラッグを信じない。 神を信じない。 信じない

旅行先の一ページ

 アフリカの夕日があった。途中、真横に太陽を見つめていた。視界の両側で、アカシアの樹が夕刻の空を掴んでいる。  日本人の旅行家に、コネで紹介されたビッグマムの家庭に混ぜてもらうことになった次第だった。エアシックのぼくは、ビッグマムにあてがわれた部屋のベッドに倒れ込んだ。  朝、目覚めると、放り出していたバックパックが、きちんと縦に置かれていた。ベッドを出てダイニングに入ると、ビッグマムがチャイをいれてくれた。アフリカ文化的飲み物。ジンジャー、ガラムマサラの味に心地よくなる

アランフェス通り

 自分の棲み家である都営住宅を、老人は眺めやっていた。蛍光灯の色が縦横に規則正しく発光している。あと一階上の最上階だったら夜景が見えるのに、と電話をとり出した。 「というわけで、では、いまから出る」  ここから三〇分でアランフェス通りに出ることができる。老人は電話をバッグにしまい、乗り込んだ。  電話をズボンのポケットに入れた中年は、走っている国道一四号線からアランフェス通りまで三〇分でつくようにアクセルを加減した。目のまえを光の粒子が拡散して散らばっていく。  老人はア

まほろばから遠く離れて

この異郷の塔からは、まほろばもながめられた。不確かだった時間に鐘が響き、あたりの空気をひやした。春らしさも夏らしさも感じとれないこの異郷は秋か冬だろうが、季節と呼ぶにはあまりにも空気がよそよそしい。 冷たいアウラに包まれながら見下ろし、目線を落として見る懐中時計がしめすのは午前のような午後、根拠はないが区切りの時間の気がして、マグリットは階段を降りた。 広場に出ると、いきなりギリシャ彫刻が規則正しく一〇メートルごとに突っ立って、その列にアポリネールのシルエットが絡んでいた

ともあれジャズとライム

宵のマントが窓辺にたれている、やさしい指先までもが響きわたる"おろかな私"の演奏、繊細きわまるその音の流れにみずみずしいライムが乗る。彼女は聴きながら傷ついている気持ちをもてあそんで味わいたがる。もっと味わうためにサンライズをでも飲もうかしら お酒はハタチでやめたんだった 男たちより大胆だった ギターは金曜日に捨てたのだった 燃やす人をフィルムで見たから可燃ゴミ、ではなかった ジャズとヒップホップはあうんだねと語らいあう恋人たちに微笑む顔、音以外のライムを知らずとも聴くの

宵のエル・ドラード

気が触れるほどに翻訳書籍読めば そこはジョイスのきめた場所のちから 日が沈んだあとでようやくドアを出れば 外はキアロ・スクーロの効いた路上 ポケットにはまだまだ書籍が入る ソネットにはつれづれ書き込みがある 虚構のかなたにほんものを置いてくる 今日このごろ軀がほんとうに老いてく 人気のない公園のほとりの静けさの闇 よく見ると見えてくる二人、カップルの病 読めないほど暗いとよろよろ歩いて 汚れている黒い水によりそいながめる 肌身で触感をL、紙、噛みしめる 味方を直感

A.Sに

風のたよりもこと切れたいま見る君の面影 記憶をさぐるも懐かしさまみれの思いで 気持ちを物に託すのが得意だった 意地悪さえ呑気で助かっていた ボーダフォンという物を覚えているか そうだったととむらう君、おぼろげにありや 言葉たちが輪舞する室内 言霊への信仰は別にない 時間によりそってつづくと説く師匠ベルクソン 自分のよりどころでくつろぐしかないのだもの さむらいの色も現在はユニフォームの青 その言葉耳にするたび共感性羞恥で真っ赤 意味をそろえては月日を過ごすのが常套

境界で

交通網をくぐりぬけて降りていった 扉のまえで立ち止まる。思考する、 アンダーグラウンドとアングラの差異、 向こう側はおおよそ想像できている

二重になりそう

暗がりにゆれる心地 物騒にゆれる ざわめきをきく目 人生がふたつにぶれてしまいそう いまにも

ナイトホークス

 街角のダイナーに入って、モーニングを注文する。楕円形のカウンターは、右側にスーツを着た男が一人、左側は男女のカップルで、めかし込む女と話す男の方はやはりスーツ姿だった。  店内は硝子張りで、信号機の灯りに照らされる夜道が覗える。人どおりはまだかなりあった。人々の上に傘がひらきはじめた。雨脚は強くなっていくようだった。  カウンターごしに給仕がモーニングを渡してきた。トーストと玉子と分厚いベーコン、昼夜逆転した味覚で食しつつ、手帖をひらく。手帖に目を落とし、けれども読みは