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移動の情景

国道一四号にさしかかり、工業ベルト地帯が続くようになると、いつもラジオの電波が混信して、知らない言語が幻のように聴こえてくる。

時折見える海辺をながめながらそれを聴いていると、情景が浮かんでくる。それはゲームの情景で、草原や神殿などを歩き廻るRPGのようだ。

情景は、生まれるまえからあったレトロゲームに違いなく、プレイした覚えはまったくないが、けれども懐かしくて、そのなかの場所にたたずめば憩うことさえできる。

情景の場所に憩いつつ、飼い慣らした幻獣たちにおやつを与えたりして戯れたあと、森が点在する海沿いの草原を行脚して、装備屋や宿屋などがある街は、あと一〇〇メートル先。

そしてあと五〇メートル先にもなれば海辺も広く見渡せて、ウインカーがつくと、あとは移動が東京に到着するまで、混信をやめたラジオを聴きながら待つだけになっていた。

──さっきみたいな情景は、死ぬまで有効なのかな。
 右に向いて、聴いた。
──内面があるうちは。
 そうこたえた横顔を、まじまじとながめた。
 前方に東京の情景が広がってきた。


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