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エッセイ他

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長めの詩と、物語と、ポエムの延長線上にあるエッセイと。
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#自由詩

【詩】愛されて

【詩】愛されて

それが愛だと言うのなら
愛とは致死の毒でしょう

僕のためを思ってと
届けてくれた言葉なら
どうかもう見放して

わかってるよ
わかってたってできないんだ
愛されて育ったあの子みたいに
上手に笑いかけられないよ

愛に恵まれて育った子
優しく愛情深い親
……という役名
あなたの中では真実なのかな

仮面の裏では飢えているよ
都合が良いときの優しさじゃなくて
媚びるための笑顔じゃなくて
いつも変わら

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sample: 1

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 サンプル;n=1

 再現性のない 一度きりの実験

 サンプル;n=1

 確率0.1% 私には100%

 サンプル;n=1

 実験条件不明 不確実性=∞

 サンプル:私
 期間:生まれて死ぬまで
 目的:まだわからない

人を殴れるようになりたい

人を殴れるようになりたい

 人を殴れるようになりたい
 透明な膜状の国境を破り
 領海を侵して
 相手の確かな肉と骨に
 自分の確かな肉と骨をぶつけて
 生身を知られる恐れを越え
 あなたなら受け止められるという
 その信頼で殴りたい

 人と殴り合えるようになりたい
 征服ではなく、勝負でもなく
 鹿を最も深く知るのは狼であるように
 狼を最も深く知るのは鹿であるように
 肌を羽でなぞるのではわからない
 深奥の血肉の脈

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理解されづらい人のためのライフハック?

理解されづらい人のためのライフハック?

伝えたいことが伝わらなかった時
「この話はあなたには早かったみたい」と思えば
自分を卑下しないで済みます。

誰にもわかってもらえないと感じた時
「この思想は人類には早かったみたい」と思えば
自分の正気を信じられます。

普通の人のふりをする時
「これはスパイの潜入任務、世界平和のため」と思えば
なんだかちょっと楽しくなります。

傷付けてくる相手には
優しくしなくて大丈夫です。
そっと離れればい

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綺麗な言葉の裏側にあなたは気付いていないでしょう

綺麗な言葉の裏側にあなたは気付いていないでしょう

あなたが「あんたの幸せを思って」と言う時
本当に思っていることを当ててみましょう

あんたの思う幸せは間違い
あたしの理解できる範囲にいなさい
あんたの気持ちとかどうでもいいから
誰からも幸せに見える箱に収まって
あたしのトロフィーになりなさい

あなたが「心配」という言葉で
何を言いたいか当ててみましょう

あんたはおかしい
あんたは病気だ
そのままでいてはいけません
みんなと同じになりなさい

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【詩】人間になりたい

【詩】人間になりたい

ああ そうだね
君は僕のこと馬鹿にしていたけれど
僕も君のこと馬鹿にしていたんだね

お日様の色の空気を吸って
湿ったヘドロの息を吐く
生きているだけで僕は公害
だけど破裂して死んだら死んだで
汚い汁を撒き散らす

隅に隠れて
口を塞いで
消滅の時を待ち焦がれていた

君と二人 生きていけると思ったのは
君が同類だと感じたから
ゴミ同士仲良くしようぜって
臭い吐息をかけてもいいやって
蔑んで甘えて

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【詩】ぐるぐる吹きこぼれ脳内

【詩】ぐるぐる吹きこぼれ脳内

そもそも空気が読めないのと
読んだ空気に合わせられないのは
全然違うことなんです
空気読めないことしてるけど
空気読めてないわけじゃないんです
今ちょっとした失敗とか話して
なんとなく盛り上げるところだなって
わかっても思い出検索がバグってて
作り話するにはシナプスが鈍くて
あわあわえへへって誤魔化して
絡みづらい奴って空気も読めてて
だから隅っこでへらへらしてるんです

楽しくないなら離れればい

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【詩】裏方は一人サーカス団

【詩】裏方は一人サーカス団

さぁさ見てくれ僕の芸
あちこち漂うこの風船
なんと触れれば即爆発
腕の一本は吹き飛んじまう
そんな野蛮なこの部屋で
僕は愉快に暮らしてるのさ!

さぁ見ててごらん
実演しよう
壁に擬態したこの風船
右手でちょっと突いてみよう
閃光!
爆音!
飛び散る破片!
心配ご無用
右手は義手さ
僕が笑ってさえいれば
痛みも無かったことになる!

今のはあくまでショータイム
いつもは爆発なんてさせないさ
風船が

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物語詩「弱い鹿と強い猫」

物語詩「弱い鹿と強い猫」

気弱な猫と凛々しい鹿は
寄り添いあって生きていた

鹿は樹の形の角を振って
猫を猛禽から守ってやり
猫は体中毛繕いをして
鹿を虫から守っていた

にこにこ暮らしていただけなのだけれど
過激派の山猫に目を付けられ
二匹一緒に捕まった

偶蹄と交わるなど許されないと
猫はあちこち噛みつかれ
血だらけのまま犯された

藪の向こうの鹿の悲鳴が
傷口よりもずっと痛くて

鹿だけでも逃がせるのならば
何にでも

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物語詩「親の子供」

物語詩「親の子供」

退屈な神様は悪戯で
五歳の魂を大人の体に
三十路の魂を子供の体に
入れ替え 封じて 放り出した

三十路の頭を過る責任
任された仕事はやりかけのまま
家族友人はどうしてる?
自分が体を奪ってしまった
この小さな子の魂は?

揺れる心で見上げた親は
少し老けた自分の顔
だけど仕草は幼くて
この体がちょうど似合うくらい

何とか元に戻らなければと
考えたところで何もできない
ボタンも留められない短い指

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物語詩「子供の親」

物語詩「子供の親」

退屈な神様は悪戯で
五歳の魂を大人の体に
三十路の魂を子供の体に
入れ替え 封じて 放り出した

五歳は大きくなった体で
鼻高々に歩いていた
大人の高さからよく見える
二人三脚の恋人たち
子を真ん中に手をつなぐ家族
普通の大人のあるべき姿
目指す五歳は意気揚々

綺麗な人や 可愛い人や かっこいい人
手当たり次第に声を掛け
付き合ってくださいと声高らか
笑われ拒絶されたなら
あっかんべーして罵った

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物語詩「痛む人」

物語詩「痛む人」

昔 人には痛みが無かった
痛みを知らない人々の中に 痛みを感じる人が生まれた
紙に切られた指先の 何とも言えない不快な疼きを どうやらみんなは知らないらしいと
ぼんやり気付いたその人が
その感覚を痛みと名付けた

得体の知れない苦しみに 名前が付いたのが嬉しくて
痛む人はみんなに話した
「僕は『痛み』を感じるんだ
みんなは感じないみたいだけれど
体を切ったりぶつけたりすると すごく嫌な感じがするん

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物語詩「月に満ちる金木犀」

物語詩「月に満ちる金木犀」

たわわな金木犀の枝を手折り
鏡映しの僕が言う

「夜空の月の洞の中には
金木犀が咲くんだよ
月光の流れのせせらぎと 空からこぼれる花の甘さで
天使を魅入らせ閉じ込めるんだって」

沈む望月にかざす朝焼け色の香り
同じ香を持つ月へとつながり
僕らを天使に会わせてくれると
君が抱く儚い希望
僕の胸と通じ合う
そっくりの兄弟
互いのことは何だって知ってる

神様は僕らに試練を与える
神様の愛を知らしめる

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物語詩「丘の上のビスクドール」

物語詩「丘の上のビスクドール」

おもちゃの街の丘の上
孤独な男と 歪な顔のビスクドールが
仲睦まじく暮らしていた

「あなたに何でもしてあげたいわ
でも赤ちゃんを産むのは嫌なの
お腹が割れて死んでしまうから」

ドールは男の腕の中で
ガムシロップみたいに囁いて
男は微笑み頷いた

満月代わりの電球の下
男が取り寄せた絹のドレスで
ドールは男のために踊った
捻れた爪先でばたばた踊った
男はつまらなそうに笑った

ドールの眠る昼下が

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