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物語詩「丘の上のビスクドール」

おもちゃの街の丘の上
孤独な男と 歪な顔のビスクドールが
仲睦まじく暮らしていた

「あなたに何でもしてあげたいわ
でも赤ちゃんを産むのは嫌なの
お腹が割れて死んでしまうから」

ドールは男の腕の中で
ガムシロップみたいに囁いて
男は微笑み頷いた

満月代わりの電球の下
男が取り寄せた絹のドレスで
ドールは男のために踊った
捻れた爪先でばたばた踊った
男はつまらなそうに笑った

ドールの眠る昼下がり
薄暗い開かずの地下室の扉を男の悲鳴が破った

出てきた男の両腕は
暖炉の炎で消し飛んでいた

「もうおしまいだ 何もかも
腕がこんなになってしまっては
永久に子供を作れはしない」

ドールは男を手繰り寄せ 大丈夫よと抱きしめた
胸の空洞に破片が落ちる不穏な音を聞きながら

濁った瞳を見開いて 男はドールを押し倒し
尖ったてかてかの革靴で フリルを胸まで巻き上げた

ビスクドールの真白い肌に
胸の真ん中から臍にまで
鉛色の稲妻が走っていた

「やったぞ 見たか 俺の子だ
あの無駄に高かったドレスに
針を仕込んだ甲斐があった」

男はドールにひざまずき
つややかな額に口付けた

「愛しているよ 俺のドール
これからも大切にしてやろう」

ドールは空虚に微笑んで
街を見下ろす窓辺に戻る

腕の無い見知らぬ男から目を逸らし
罅の軋みを聞きながら
帰らぬ主人を待ち続ける

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