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東原そら
2021年6月23日 22:06
空を舞う風船の糸を、つかむようだった。 私の心は、パッとつかまえられた。 きっかけは領収書の指摘のため、彼のデスクに赴いたこと。 相好を崩し、わざわざありがとう、と言ってくれた。 数ヶ月後、私は想いを告げ、彼のものになった。 バッグの中で、スマホが揺れた。 たぶん夫だろう。
2021年5月9日 20:30
ジーンズのポケットで、携帯があばれている。 振動で揺さぶれるように母とのけんかを思いだした。 あのあと、駈け落ちした。 息子を産み、いま思い出すのは母の厳しい言葉。 でもいまならそれもわかる。 母へ花を贈った。 数年ぶりに携帯に表示された番号に、私は胸が踊り口元がゆるんだ。
2021年4月7日 20:27
「元気にしてますか?」 スマホにメッセージが浮いた。 部活の後輩。何年ぶりだろう。 俺は彼女の記憶を手繰った。 あの頃は無謀にも、彼女に惹かれていた。 でも自信がなかった俺は、無言で卒業した。「元気だよ」 気軽な思いで返信した。 これが、彼女の薬指が煌めいた、きっかけだった。
2021年3月25日 17:07
その路面電車は奇妙な光景だった。 乗客全員が頭を垂れている。 皆スマホに夢中だ。 じいさんまでもゲームに興じている。 時代の流れか。下ばかり見るな。 現実に目を向けろ。 俺は違うぞ、上を向いて歩く。 一歩踏み出すと、何かにつまづき倒れた。 視線が痛い。 上ばかり見ても駄目だな。
2021年2月10日 20:34
桃の花びらが雪のように舞う。 メジロが梅の木でかけっこをしてる。 風情ある趣きにスマホをあたふたと探す。 彼らはよそへ遊びに行った。 うなだれる僕に彼女は言う。「黙って見てればいいのに。撮れないから、昔の人は無常を重んじたんだよ」 記録より記憶を。そんな彼女に僕の心が舞う。
2020年12月17日 18:24
「送信」をタップする指が、緊張し激しく痙攣している。 熟考と懊悩を繰り返し、ようやく納得いくものが完成したが、最後の勇気が挫かれる。 プルプル刻む私に、「うざい」と横の妹が無神経な行動。「ああ」と叫ぶが、もう遅い。 ポンッと「おけ」と軽快な音が弾かれる。 でかした妹よ。