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140文字小説

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Twitterで日々投稿している140文字小説をまとめたものです。
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#スマホ

糸の心 (140文字小説)

糸の心 (140文字小説)

 空を舞う風船の糸を、つかむようだった。

 私の心は、パッとつかまえられた。

 きっかけは領収書の指摘のため、彼のデスクに赴いたこと。

 相好を崩し、わざわざありがとう、と言ってくれた。

 数ヶ月後、私は想いを告げ、彼のものになった。

 バッグの中で、スマホが揺れた。

 たぶん夫だろう。

ありがとうの花 (140文字小説)

ありがとうの花 (140文字小説)

 ジーンズのポケットで、携帯があばれている。

 振動で揺さぶれるように母とのけんかを思いだした。

 あのあと、駈け落ちした。

 息子を産み、いま思い出すのは母の厳しい言葉。

 でもいまならそれもわかる。

 母へ花を贈った。

 数年ぶりに携帯に表示された番号に、私は胸が踊り口元がゆるんだ。

あの頃は、臆病だった(後編) (140文字小説)

あの頃は、臆病だった(後編) (140文字小説)

「元気にしてますか?」

 スマホにメッセージが浮いた。

 部活の後輩。何年ぶりだろう。

 俺は彼女の記憶を手繰った。

 あの頃は無謀にも、彼女に惹かれていた。

 でも自信がなかった俺は、無言で卒業した。

「元気だよ」

 気軽な思いで返信した。

 これが、彼女の薬指が煌めいた、きっかけだった。

なにごともほどほどに (140文字小説)

なにごともほどほどに (140文字小説)

 その路面電車は奇妙な光景だった。

 乗客全員が頭を垂れている。

 皆スマホに夢中だ。

 じいさんまでもゲームに興じている。

 時代の流れか。下ばかり見るな。

 現実に目を向けろ。

 俺は違うぞ、上を向いて歩く。

 一歩踏み出すと、何かにつまづき倒れた。

 視線が痛い。

 上ばかり見ても駄目だな。

彼女は理をあらわす (Twitter140文字小説)

彼女は理をあらわす (Twitter140文字小説)

 桃の花びらが雪のように舞う。
 メジロが梅の木でかけっこをしてる。
 風情ある趣きにスマホをあたふたと探す。
 彼らはよそへ遊びに行った。
 うなだれる僕に彼女は言う。
「黙って見てればいいのに。撮れないから、昔の人は無常を重んじたんだよ」
 記録より記憶を。そんな彼女に僕の心が舞う。

いまこそ決断を下すとき (Twitter140文字小説)

いまこそ決断を下すとき (Twitter140文字小説)

「送信」をタップする指が、緊張し激しく痙攣している。

 熟考と懊悩を繰り返し、ようやく納得いくものが完成したが、最後の勇気が挫かれる。

 プルプル刻む私に、「うざい」と横の妹が無神経な行動。

「ああ」と叫ぶが、もう遅い。

 ポンッと「おけ」と軽快な音が弾かれる。

 でかした妹よ。