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小説

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紫陽花が咲く季節に

紫陽花が咲く季節に

こんにちは。お元気ですか。
1年ぶりですね。
京都で会った時が最後でした。

あの日私があなたにキスしたことを覚えてますか。

少し私の話をさせて下さい。
ずっと私は夫からDVを受けてました。
それは殴る蹴るといった肉体的暴力ではなく言葉による精神的な暴力です。
不愉快な話になりますが我慢して読み進めて下さい。

彼は公務員で他人の目にはとても感じの良い男性に映ってたと思います。
しかし彼には、あ

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探偵と顔のない対象者

探偵と顔のない対象者

ここから探偵が見える。
短い髪に白いシャツ、ジーンズ。
手元のタブレットを操作した。
メールを確認したらしい。
瞬間、スマートフォンから架電した。
相手は事務所所長だ。
「依頼の件、聞いた」
指で机をコツコツ叩きながら言った。
「よく私にまわしたな」
探偵の口調は雇われの割に横柄だ。
電話越しに所長の笑い声が聞こえた。
「事務所存続の為に。女性の方の力が必要だが」
所長は、女性の『方』、を強調した

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いつまでも、あなたのそばに

いつまでも、あなたのそばに

「あの・・・ですか?」
彼がそこにいた。
私は四六時中彼と一緒にいる。
にもかかわらず初めて顔を見た。
顔を見る、は少し違うかもしれない。
鼻と、口と、耳しか見えない。
彼の目は真っ黒なサングラスで覆われている。

私は私のことを知らない。
ロボットと言われてる。
名前はK。
以前は人間だったらしい。
らしい、というのは私にその頃の記憶がないからだ。
事故で体中傷だらけの私を非合法な治療と遺伝子操

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よそさんが見てる

よそさんが見てる

よそさんが見てる。
そう言われて育てられた。
嫌われないようにいじめられないように、全てを完璧にコントロールした。
勉強も運動も中より少し上の成績。
目立たず、でも存在感はある。
平等に優しく振る舞うも『最下層』には近づき過ぎないよう細心の注意を払った。
みんなから外れるなんて恥ずかしい。
よそさんは常に見てるのだ。

こんなはずじゃなかった。
私は妊娠検査薬を再度見直した。
また妊娠してない。

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されどケーキ。

されどケーキ。

ケーキが飛んだ。
円形のケーキが美しい弧を描いた。
その時、私の頭に募金箱と子供の顔が浮かんだ。
学校に行けず働き家計を支え、なお瞳の輝きを失わない人々。
心の中で彼らに言った。
給料1カ月分寄付します。ごめんなさい。

どの国でも『仕事の経験年数』は必要である。
20代までなら畑違いの職種に転職可能かもしれない。
でも30歳を過ぎると難しくなる。
どんなに意欲があっても年齢の壁に阻まれて採用して

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こんなことで仕事を辞めるのか?

こんなことで仕事を辞めるのか?

まばゆくシャンデリア。汚れ一つない赤い絨毯。
結婚式は夢を与える非日常なもの。だからあなた方も人間であることを一旦忘れて。
私達はマシーンになるの。どんな状況にも対応し笑顔を絶やさないマシーン。
採用時にマネージャーから言われた言葉だ。
今の私はマシーン失格だろう。
顔に現れてるのは嫌悪感だ。
きっかけは招待客のある行動だった。
「きゃあああ!ヘアーは?」
「ダウンヘアは絶対NGなのに!」
結婚式

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キャンパス(3)

キャンパス(3)

結婚。
最後はそこに行き着くんだろうか。
結婚してないから親は安心できない。
子供を持って一人前。
未だにその考えに疑問を持たない人々が恐ろしかった。
友達の孫の可愛さを語る母。
孫を抱く叔父を見る羨ましそうな父の目線。
直接的な言葉より間接的な言葉や目線の方が雄弁だ。
父も母も遠回しな物言いで自分の欲しいものを手に入れるのが上手い。
結局、私は2人が望むように実家に帰り頼まればお金を貸すのだろう

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キャンパス(2)

キャンパス(2)

母が父を病院に連れて行った時に家で夕食を作るよう言われた。
「ジャガイモを煮る時電子レンジ使ったの?コンロをどうして使わないの?」
IHを上手く使う自信がなくて大きな鍋がどこにあるか分からなかったから。
「滅多に帰ってこないからでしょ。煮物は電子レンジよりコンロの方が美味しいのに」
「マカロニサラダもマヨネーズが少なかった」
父も姉も口を揃えて「味が薄い」
家族全員が私を笑う。
父が特に楽しそうだ

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キャンパス(1)

キャンパス(1)

昨日夜遅く降り始めた雨は止まない。
外出する時の雨は嫌いだけど家にいる時の雨は好き。
規則的なようで実は不規則な雨の音は私の心を静めてくれる。
どんな怒りも。苦しみも。

電話を手に取り深呼吸する。
吸って、吐いて、考える。
最初の話題、最近のトピック、そして適度に心配をかける愚痴。
一呼吸し着信履歴を検索し【発信】ボタンを押す。

「もしもし、お母さん?」
母の声は元気そうだった。予定通りに話を

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じゃんけん

じゃんけん

さーいしょーはぐー、じゃーんけーんぽん。
決める時はじゃんけん。
もっとも"民主的"かつ"公平”な決定方法。
そう信じてた。

始めにおかしいと思ったのは小学2年生の頃だった。
クラスの男子達が私を見ると「汚い」「くさい」と言い始めた。
そして男子達同士の罰ゲームが私に体をぶつけること。
獲物になった男子が取った回避方法は「相手にじゃんけんで勝つこと」
どういうわけか勝てば相手は諦めるのだ。
しか

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