キャンパス(2)
母が父を病院に連れて行った時に家で夕食を作るよう言われた。
「ジャガイモを煮る時電子レンジ使ったの?コンロをどうして使わないの?」
IHを上手く使う自信がなくて大きな鍋がどこにあるか分からなかったから。
「滅多に帰ってこないからでしょ。煮物は電子レンジよりコンロの方が美味しいのに」
「マカロニサラダもマヨネーズが少なかった」
父も姉も口を揃えて「味が薄い」
家族全員が私を笑う。
父が特に楽しそうだ。
借金で首が回らず私から金を借りた父。
私を笑うことで自分の居場所にしがみついてるのだろうか。
私は底辺の役割から逃げたかった。
自分が助ければみんなの目が変わると思った。
だから60万、100万・・・金を貸すときは貯金を切り崩して貸した。
私を笑いものにしないで。
誰も私の思いに気づかなかった。
「Aは家の大蔵大臣」
「またよろしくね」
私は彼らといる時居心地の良さを感じられなくなった。
母の手作り料理を前にして思う。
材料を買うお金はあったのだろうか。
母はお金がないことでまた父を責めたのだろうか。
ある出来事を思い出す。
姉のBが土日を利用して帰ってくる3日前のことだ。
「Bが帰ってくるのにどうしてお金がないの!」
お金がなければ買えないのだ。
Bの好物の刺身、煮魚、お酒やデザート。
この人達はBという観客の為、舞台を用意しているのだ。
BもAも平等に育ててきた。
そう誇らしく言った母の言葉が薄っぺらになった。
一人には舞台を用意し、もう一人には金の争いを見せる。
時々思う。
父も母も本当はあの家に住んでないのでは。
本当はホームレスになってたり、安いアパートに暮らしていて私達が実家に帰る時だけあの家にいるのではないか。
そう思うと胸がつまった。
私は本当は親離れ出来ていないのかもしれない。
母のように。
何かにつけて母が引き合いに出す祖母。
本当に最低だった。
貧乏で高校に行かせてもらえなかった。
学歴がないから下を向いて生きていた。
あんたらにはそんな思いさせたくなかった。
あんな親になりたくなかった。
苦労して学校に通わせたのにそんなんやねんな。
一人で生きてきたみたいな顔して。
母は私にどうしてもらいたいんだろう。
男に頼らず自分一人で生きていけるようになれ。
そう言い続けていたのに。
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