綾部文々

小説を中心に文章を書いていきます。 併せて、物語の中に登場した料理のレシピを書くことも…

綾部文々

小説を中心に文章を書いていきます。 併せて、物語の中に登場した料理のレシピを書くこともあります。

マガジン

  • ラボラトワールの記憶

    食の研究室であり実験室、 そして単純に製作の場所でもある "Laboratoire / ラボラトワール" そこで形になったレシピ。 製作の合間、ラボラトワールの片隅でぼんやりと過ごす時間の中で感じた、 "気付き"や"思い"を綴る為の場所です。

  • アルモンデ食堂の日日

    週末あたりになると営業することが多くなる"アルモンデ食堂" そこで実際に振る舞われた、 幾つかの料理のRecipe/Recette。 そして、その料理のために使われた 数ある"アルモンデ食材"の中から、 その日の"主役"ともなった素材への感謝と、愛おしい想いを綴った文章を、この場所に少しずつ纏めていきたいと思います。

記事一覧

ラボラトワールの片隅から "Le Lait" D'un coin du laboratoire

…………"あの子"に初めて会ったのはいつの頃だったのだろう? "あの子"との出会いを記憶している人間って、世の中にどのくらい存在するのだろうか。 わたしの場合、…

綾部文々
2年前
17

アルモンデ食材 "卵"

開くのに、ほんの少しばかり"力"の要る密閉されたその空間。 入り口の扉を引くと、その子は大抵いつもそこにいてくれる。 深い窪みにちょこんと腰を据えて、 "すっく"…

綾部文々
2年前
12

アルモンデ食材 "キャベツ"

寒い日も、暑い日も、"まあるく"て "張りのある衣"を幾重にも着重ねて、 どこまで"厚着"が出来るものなのか…… 調子に乗って試していたのか? もう既に、ぱんぱんの…

綾部文々
2年前
8

ポワソン・ダブリル

"魚"は不満だった。 なぜって、同じ海の仲間から、 とある"聞き捨てならない噂"を耳にしていたから。 海の仲間とは"情報通"のタコだった。 タコは魚に、……こう…

綾部文々
2年前
11

『生姜とちりめんじゃこのオリーブオイル漬け』       

"ちりめんじゃこ"が美味しい春。 身近な材料で簡単に作れる "食べる万能調味料" オリーブオイルと生姜の香りが合わさると、不思議と爽やかでフローラルな風味の春らし…

綾部文々
2年前
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Laboratoire/ラボラトワール

"Laboratoire/ラボラトワール" フランス語で研究室のこと。 或いは実験室、製作室。 英語なら、Laboratory/ラボラトリー どちらも略して "Lab/ラボ"と呼ぶこともあ…

綾部文々
2年前
8

アルモンデ食堂

『 アルモンデ食堂 』 それは大体"木曜か金曜日"辺り。 週末近くになると営業を始めることが多くなる。 土日あたりで買い溜めた食材たちが、 冷蔵庫のお腹の中をパンパ…

綾部文々
2年前
17

『猫のリヤカー屋台』

……ピープーピー ♪ ピープーピー ♪♪ 「さむい夜には、やってくるよ。 さみしい夜にも、やってくるよ。 たのしい夜にも、やってくるよ」 ピープーピー ♪ ピープーピー…

綾部文々
2年前
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炒り大豆と立春と

『あゝ…冬って毎年こんなに寒かったっけ?』 『もしかすると今朝はこの冬一番の冷え込みなんじゃないだろうか?』 それが目が覚めると真っ先に浮かんでしまう台詞で、こ…

綾部文々
2年前
12

『感染Curry』

「きょうの気分はカレーかな」 ひと口にカレーと言っても、わたしの場合い自分で作る好きなカレーのレシピは今のところ4種類存在する。 ひとつ目は、母親からそのレシピ…

綾部文々
2年前
19

Coffee

「自分を飲み物に例えるとしたら?」 という質問に、彼女は何ら迷うことなく 「コーヒー……ブラックの」 そう答えた。 彼女は 「以前の自分は、砂糖とミルクの力を借りな…

綾部文々
3年前
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ラボラトワールの片隅から "Le Lait" D'un coin du laboratoire

ラボラトワールの片隅から "Le Lait" D'un coin du laboratoire

…………"あの子"に初めて会ったのはいつの頃だったのだろう?

"あの子"との出会いを記憶している人間って、世の中にどのくらい存在するのだろうか。

わたしの場合、勉強以外の記憶力には結構自信がある方なのだけれど、
それでも、その最初の出会いは……
全く、記憶に残ってはいない。

それくらい、わたしと"あの子"は、昔からの古い、古いお付き合いなのだ。

おそらく、
いちばん遠い記憶でわたしは、

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アルモンデ食材 "卵"

アルモンデ食材 "卵"

開くのに、ほんの少しばかり"力"の要る密閉されたその空間。
入り口の扉を引くと、その子は大抵いつもそこにいてくれる。

深い窪みにちょこんと腰を据えて、
"すっく"と背筋を伸ばし、
2列に整列している。

居てくれたら、安心。
居てくれないと少し……いえ…ずいぶんと不安。

1日に1度は勝手に視界の隅をかすめて来て、そこに居てくれるのが"当然"のような存在。……そう、
思い込んでいたのに……。

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アルモンデ食材 "キャベツ"

アルモンデ食材 "キャベツ"

寒い日も、暑い日も、"まあるく"て
"張りのある衣"を幾重にも着重ねて、
どこまで"厚着"が出来るものなのか……
調子に乗って試していたのか?
もう既に、ぱんぱんのコロンコロン状態。
動き出したい衝動に駆られることがあっても、もはや動き回るなんてことは出来やしない。

……というより、彼は初めからそこに深く根付いてきたのだから
"動けない"なんて、それは当然のこと。

丁度良い頃合いで、人間たちに

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ポワソン・ダブリル

ポワソン・ダブリル

"魚"は不満だった。

なぜって、同じ海の仲間から、
とある"聞き捨てならない噂"を耳にしていたから。

海の仲間とは"情報通"のタコだった。

タコは魚に、……こう、
その"噂ばなし"を伝えた。

「なぁ、こんな話を知っているか?」

「どんな?」

「人間たちは、毎年4月1日になるとその日を"エイプリルフール"と呼んで、互いに騙し合ったり、揶揄(からか)い合ったりして愉しむんだそうだ」

「へ

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『生姜とちりめんじゃこのオリーブオイル漬け』       

『生姜とちりめんじゃこのオリーブオイル漬け』       

"ちりめんじゃこ"が美味しい春。
身近な材料で簡単に作れる
"食べる万能調味料"
オリーブオイルと生姜の香りが合わさると、不思議と爽やかでフローラルな風味の春らしいひと瓶が完成します。

ぜひ美味しいオリーブオイルを使って、
最後の一滴まで愉しんで頂きたい、そんなレシピです。
……

"食べるオリーブオイル"
『生姜とちりめんじゃこのオリーブオイル漬け』

-材料-
・ちりめんじゃこ 20㌘
・胡

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Laboratoire/ラボラトワール

Laboratoire/ラボラトワール

"Laboratoire/ラボラトワール"
フランス語で研究室のこと。
或いは実験室、製作室。
英語なら、Laboratory/ラボラトリー

どちらも略して
"Lab/ラボ"と呼ぶこともある。

……
とある国の、とある街。
淡く黄みがかった"練色(ねりいろ)"の
石壁の外観が美しい8層から成る、
集合住宅。

建物の正面に位置する5段ほどのステップを上がった先、背の高い重厚な造りの
"鳶色"或

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アルモンデ食堂

アルモンデ食堂

『 アルモンデ食堂 』
それは大体"木曜か金曜日"辺り。
週末近くになると営業を始めることが多くなる。

土日あたりで買い溜めた食材たちが、
冷蔵庫のお腹の中をパンパンに満たすと、冷蔵庫はどこか満足げ。
パントリーだって負けてはいない。

食材たちは、日々人間の胃袋を満たし
満足させると、1つ、2つ……と、
その姿を消してゆく。
そして金曜日を迎える頃、
数日前にはあんなに満たされ、生き生きとして

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『猫のリヤカー屋台』

『猫のリヤカー屋台』

……ピープーピー ♪ ピープーピー ♪♪
「さむい夜には、やってくるよ。
さみしい夜にも、やってくるよ。
たのしい夜にも、やってくるよ」

ピープーピー ♪ ピープーピー ♪♪
「ねむれない夜には、やってくるよ。
待っていなくても、やってくるよ。
小腹がすいたら、やってくるよ。
小腹をみたしに、やってくるよ」

ピープーピー ♪ ピープーピー ♪♪
ピープーピー ♪ ピープーピーっ…… ♪

毎年

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炒り大豆と立春と

炒り大豆と立春と

『あゝ…冬って毎年こんなに寒かったっけ?』

『もしかすると今朝はこの冬一番の冷え込みなんじゃないだろうか?』

それが目が覚めると真っ先に浮かんでしまう台詞で、ここのところ、朝の恒例の思考になってしまっていた。

ベッド脇で充電してあるスマートフォンはいつもキンキンに冷えている。
それを手探りで掴み、頭まですっぽりと布団の中に潜り込むと、今朝の気温をチェックする。

冬場はこの流れがほぼ毎日のこ

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『感染Curry』

『感染Curry』

「きょうの気分はカレーかな」

ひと口にカレーと言っても、わたしの場合い自分で作る好きなカレーのレシピは今のところ4種類存在する。

ひとつ目は、母親からそのレシピを伝授されたジンジャーチキントマトカレー。

そのネーミングが示すとおり、このカレーを主に構成しているのは、生姜、鶏肉、トマトだ。
そのほかの構成要素としては、長ネギの白い部分と大蒜の微塵切り、当然の如くカレーパウダーも欠かせないアイテ

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Coffee

Coffee

「自分を飲み物に例えるとしたら?」
という質問に、彼女は何ら迷うことなく
「コーヒー……ブラックの」
そう答えた。

彼女は
「以前の自分は、砂糖とミルクの力を借りなければとても飲むことが出来ないような、ただ苦いだけのコーヒーのような存在だと思っていたから」
と説明した。

それは、大人になってからも砂糖とミルクを使わなければ苦いブラックコーヒーを飲むことが出来なかった彼女の嗜好とどこか通じるもの

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