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イラストを使っていただいたnote まとめ

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#ショートショート

なめる。

なめる。

 私の好きなもの。それはアイスクリームです。
 アイスクリームをなめるときは、目を閉じます。舌から脳へ、舌から手や足の先まで、冷たさや甘さの伝達経路を全身で感じながら味わうのです。
 私、舌先が敏感なのです。ふふふ。だから、なめるって行為そのものも好きです。
 本当はね、冷たい食べ物は苦手。子供の頃から、ジュースや西瓜などを口にしたあと、決まってお腹が痛くなりましたから。腹部の奥を刺すような痛みで

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元気を出してコンドル

元気を出してコンドル

 その女性は、斜め向かいのアパートに住んでいる。名前も年齢も知らない。
 一年ほど前の日曜日、ベランダで洗濯物を干していた僕は、右斜め下(僕の部屋は三階だから、彼女は二階)の女性に初めて気づいた。
 彼女は空を見ていた。ベランダに面した掃き出し窓を開け、床にぺたんと座り、空を見ていた。

 毎週日曜日、彼女はそこにいた。
 僕はベランダに出るたびにこっそり(のぞきをしている変態と疑われないように)

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『忍者ラブレター』 # 毎週ショートショートnote

『忍者ラブレター』 # 毎週ショートショートnote

いわゆる置き手紙とでも言うのだろうか。
このところ残業続きで疲れ切っている。
もう化粧も落とさずに、何もかも放り出して眠りたい。
そう思って開けた1人暮らしのアパートのドア。
その足元にこの手紙は、置かれていた。

明らかにラブレターだ。
差出人はわからないが、私はその人の人生で一番大切な存在らしい。
待て待て。
宛先はどこにもない。
私の名前どころか、固有名詞など一切書かれていない。
そもそもど

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誘惑

誘惑

「無性にアイスが食べたくなってね」

塾帰りの僕と、ほぼ部屋着の君は
サンダルに生足にほんのりと濡れた髪

コンビニよりも明るく照らす月灯りの下
家までの道を、途中まで並んで歩く

口元についたクリームに
「どこ見てるの?」とにやつかれ

初めて見るメガネ越しの瞳に
速くなる鼓動を感じながら

いや逆にどこを見ればいいのやら

蒸し暑さでじんわりと滲む汗
止まっているくらいの歩幅と
断片的で続かな

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【短編小説】真夜中の演奏会

【短編小説】真夜中の演奏会

夜中に突然始まる曲作り

…ポロン♪…ポロン♪
ピアノのぎこちない音と
鍵盤を押すカチッカチッという音が響く

夢中になってピアノを弾いていたかと思えば
「本当は俺、ギターリストだから」
と言い出しギターに持ち替えて歌い出す

そんな彼を横目に、私は夜のコーヒー&読書タイムだ
今読んでいる推理小説がクライマックスに差し掛かり
読み進めるのに夢中になっていた

突然「これ、なんの曲でしょうか?」と

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ショートショート王様

ショートショート王様

裸ではないんだ。

ショート丈のミニスカート履いてる王様って。どうよ。

家来たちは最初、頭を悩ませた。

国を守るため、そして、一族の基盤の安定のため威厳を示したい。いままでだって、服装で表してきたではないか。頼りなかった先代だって、仕立てのいい服を着て、意識が変わっていく姿を間近で見てきた。

先代が亡くなった時「結婚する気はないが王になる」と言われた。あげく、ショートショートすぎるスカート。

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C嘆譚|掌編小説

C嘆譚|掌編小説

140字からはじめて―

セーフ。
勢いそのままに自分のテリトリーに滑り込む。床に並べていた作りかけの作品を蹴散らすのも構わず止まるところまでスピードに任せる。ドテッと身体がひっくり返ったところでやっと停止したあたしはチラリと後ろを振り返る。細く光が差し込んでいるだけで奴らの気配はしない。

あたしは速くなった呼吸を宥めながら、素早く身体を起こすと、テーブルの上に今日の収穫物を広げた。どれも良い感

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春はにのうで

春はにのうで

春はにのうで。冬の間長らく厚着に隠れて油断して少し肉付きがよくなった白い二の腕が、柔らかな春の日差しによく映える。夜になって肌寒くなって、薄着で出てきた二の腕に鳥肌が立っているのもまた良い。

夏はにのうで。汗に濡れてしっとりと光る健康的な二の腕の眩しさ。昼間の太陽に晒されてあつあつになっている二の腕をそっと指の背で触れるのも良い。日焼け予防のひじ上まである手袋をつけて自転車に乗るお母さんの、手袋

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「欲望のリインカーネーション」

「欲望のリインカーネーション」

夕暮れを迎える頃、花奈は空を突くように高い塀にもたれて立っていた。
手にはヒメジョオンの花が一輪。

花奈はこの花をこよなく愛していた。
指先でその茎をつまむようにして持ち、ゆっくりと、くるくる回すのが好きだった。

「花奈さん」

花奈が声のする方へ顔をむけると、そこには同じ練習生のまあやがほっぺたを赤くしてこっちを見ていた。
手には運動会の玉入れ競技で使うようなカゴを抱えている。中にはタオルが

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遊べる本屋

遊べる本屋

 映画前の三十分で立ち寄ったヴィレッジヴァンガード。僕らはそこで、離婚届の柄のクリアファイルや、食用カブトムシや、お風呂に浮かべる大量のアヒルなんかを一緒に眺めた。彼女のぶかぶかのパーカーの袖に覆われた白い指が、がやがやと煩い店内で奇妙な商品に触れるたびに、胸がとくんと動いた。

 映画を観たいと言ったのは彼女だった。一緒に行こうと言ったのは僕のはずだ。ツイッターで見かけてなんとなくの会話をしてい

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