マガジンのカバー画像

【孤読、すなわち孤高の読書】我が孤読編愛録

16
孤島に持っていく本を問われた時、 自分の余命が分かった時、 人はどんな本を選び読むのだろう? 本棚はその人の思考の露呈である。 となると、私の本棚は偏屈な愛情に満ちている。 つ…
運営しているクリエイター

#孤高の読書

【孤読、すなわち孤高の読書】“三島由紀夫自決”における独私論

【孤読、すなわち孤高の読書】“三島由紀夫自決”における独私論

『金閣寺』への違和感

1970年11月25日、三島由紀夫が自決した日である。
その日を私は知らない。
当時幼かった私は、この衝撃的な事件を知るすべもなく、三島の名に触れるのはずっと後年のことであった。

2024年11月、私は京都の金閣寺、そして奈良の圓照寺を巡った。
その旅路は、私の内に巣くう三島由紀夫という名の妄執、あるいは日本文学の鬼才にして狂気の人への探求の旅であった。
そしてまた、あの

もっとみる
【孤読、すなわち孤高の読書】大江健三郎「死者の奢り」

【孤読、すなわち孤高の読書】大江健三郎「死者の奢り」

作者:大江健三郎(1935〜2023)
作品名:「死者の奢り」
刊行年:1958年刊行(日本)

戦後日本の不条理と存在の虚無を鋭く描き出した作品。

[あらすじ]
主人公である「私」は、病院の死体安置所で働く若い男である。
彼の日常は、死者たちを運ぶ単調な労働によって成り立っている。
しかし、その単調さの中に、死の冷たさや生きることへの不可解さが浮かび上がる。
ある日、「私」は職場の女性である「

もっとみる
【孤読、すなわち孤高の読書】ライナー・マリア・リルケ「ドゥイノの悲歌」

【孤読、すなわち孤高の読書】ライナー・マリア・リルケ「ドゥイノの悲歌」

作者:ライナー・マリア・リルケ(1875〜1926)
作品名:「ドゥイノの悲歌」(訳:手塚富雄)
刊行年:1922年刊行(オーストリア)

人間存在の苦悩と美しさ、そして有限性の中に希望を見出す詩的試み。

[読後の印象]
とまれかくまれ、リルケの詩は甘美な旋律が美しい。

その芸術性と叙情性は、おそらくあの大彫刻家オーギュスト・ロダンやフランスを代表する詩人ポール・ヴァレリーとの親交とともに深ま

もっとみる
【孤読、すなわち孤高の読書】プラトン「ソクラテスの弁明」

【孤読、すなわち孤高の読書】プラトン「ソクラテスの弁明」

著者:プラトン(紀元前427〜紀元前347)
作品名:「ソクラテスの弁明」(訳:納富信留)
刊行年:紀元前388年〜387年刊行?(ギリシャ)

ソクラテスが真実を探求し、命をかける覚悟を描いた一冊。

[あらすじ]

「ソクラテスの弁明」は、プラトンがアテナイの賢者ソクラテスの最期の姿を描いた壮絶な記録である。
この書は、ある意味で崇高な運命の前にひとりの人間がいかに毅然として立ち向かうか、真の

もっとみる
【孤読、すなわち孤高の読書】アンドレ・ジッド「田園交響楽」

【孤読、すなわち孤高の読書】アンドレ・ジッド「田園交響楽」

作者:アンドレ・ジッド(1869〜1951)
作品名:「田園交響楽」(訳:中村真一郎)
刊行年:1919年刊行(フランス)

善意と自己欺瞞、愛とエゴが交錯した人間の心を鋭くえぐる悲劇。

[あらすじ]
アンドレ・ジッドの『田園交響楽』は、スイスの牧歌的な自然に抱かれた小さな村を舞台に、盲目の孤児ジェルトリュードを保護した一人の牧師の内なる葛藤を描き出す。
神の使徒としての信仰心に燃える彼は、天の

もっとみる
【孤読、すなわち孤高の読書】萩原朔太郎「萩原朔太郎詩集」

【孤読、すなわち孤高の読書】萩原朔太郎「萩原朔太郎詩集」

作者:萩原朔太郎(1886〜1942)
作品名:「萩原朔太郎詩集」
刊行年:1981年刊行(日本)

孤独を纏い、言葉をつむぐ詩の革命者の静かな叫び。

[読後の印象]
私が萩原朔太郎の詩は、私にとってある意味で罪である。
私の心の奥底で詩への憧憬を宿らせ、現実の世界から剥がしたのは、紛れもなく萩原朔太郎の詩そのものでもあるのだ。

萩原朔太郎の詩集は、日本近代詩に革命的変容をもたらした。
その詩

もっとみる
【孤読、すなわち孤高の読書】マックス・ヴェーバー「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」

【孤読、すなわち孤高の読書】マックス・ヴェーバー「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」

著者:マックス・ヴェーバー(1864〜1920)
著書名:「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」
刊行年:1904年刊行(ドイツ)

キリスト教信仰と資本主義の繁栄との関係を説いた、社会学の巨人の書。

【読後の印象】
当時の私は金が欠乏していた。
しかし、アルバイトなどという俗世の拘束に身を置く気もさらさらなく、ただ時間だけは不気味なほど有していた大学一年の夏、私は灼熱の陽光に狂わんばか

もっとみる
【孤読、すなわち孤高の読書】高村光太郎「高村光太郎詩集」

【孤読、すなわち孤高の読書】高村光太郎「高村光太郎詩集」

作者:高村光太郎(1883〜1956)
作品名:「高村光太郎詩集」
刊行年:1948年刊行(日本)

自然、愛、そして人の魂が響きあう、温かく力強い生の賛歌。

[読後の印象]
私の記憶を辿ると、いわゆる近代詩という形式を意識的に読んだ初めての詩は、おそらく高村光太郎だろう。
高村光太郎の詩集、とりわけ『智恵子抄』や詩「道程」に表されたその詩情は、日本近代詩における不朽の金字塔であり、今日に至るま

もっとみる
【孤読、すなわち孤高の読書】アルベール・カミュ「異邦人」

【孤読、すなわち孤高の読書】アルベール・カミュ「異邦人」

作者:アルベール・カミュ(1913〜1960)
作品名:「異邦人」
刊行年:1942年刊行(フランス)

人生の不条理を問い、意味を超越した孤独と自由を描いた傑作。

[あらすじ]
この一冊が纏う冷厳にして澄みわたる透明な空気には、まるで人間存在の深淵が反射されているかのごとき重みがある。
物語の主人公ムルソーは母の死に直面しても涙一滴も流さず、その無感動さを自然体として携える稀有な人物である。

もっとみる
【孤読、すなわち孤高の読書】ヴィクトール・E・フランクル「夜と霧」

【孤読、すなわち孤高の読書】ヴィクトール・E・フランクル「夜と霧」

著者:ヴィクトール・E・フランクル(1905〜1997)
著書名:「夜と霧」
刊行年:1946年刊行(オーストリア)

極限の絶望下で生の意味を問い続けた、魂を揺さぶる必読書

人間が極限に追い込まれた時、その魂はいかに生き抜こうとするのか?
本書はまさにその究極の問いに対する著者自身の血と肉と涙が滲む回答である。
アウシュヴィッツ強制収容所において、彼は一切の希望を踏みにじられ、すべての自由を剥

もっとみる
孤読、すなわち孤高の読書】斎藤幸平「人新世の『資本論』」

孤読、すなわち孤高の読書】斎藤幸平「人新世の『資本論』」

著者:斎藤幸平(1987〜)
著書名:「人新世の『資本論』」
刊行年:2020年刊行(日本)

脱成長という概念によって環境問題に切り込む、新マルクス主義の急先鋒。

【読後の印象】
斎藤幸平の著した『人新世の「資本論」』は、あたかも新たなる革命のマニフェストかのように我々の前に突きつけられている。
単なるマルクス思想の解説を越え、著者の手によって『資本論』は21世紀の環境破壊という最終審判の舞台

もっとみる
【孤読、すなわち孤高の読書】谷崎潤一郎「秘密」

【孤読、すなわち孤高の読書】谷崎潤一郎「秘密」

作者:谷崎潤一郎(1886〜1965)
作品名:「秘密」
刊行年:1911年刊行(日本)

谷崎美学が凝縮した、闇に潜む欲望と退廃の誘惑。

[あらすじ]
夜の闇を纏った街を舞台に、人間の愛と欲望、そして自己の本質に迫る物語である。
主人公は誰にも知られぬ秘密を抱え、自己の性を超えた扮装に身を委ね、夜毎、化粧と女装を纏い彷徨う。
ある夜、ふいに現れた過去の恋人であり妖艶なT女との再会によって、主人

もっとみる
【孤読、すなわち孤高の読書】太宰治「人間失格」

【孤読、すなわち孤高の読書】太宰治「人間失格」

作者:太宰治(1909〜1948)
作品名:「人間失格」
刊行年:1948年刊行(日本)

ニヒリズムと自己憐憫に終始した感傷的な告白。

[あらすじ]
ひとりの男が己の存在そのものを否定し、破滅へと向かう生の悲劇を冷徹に描いた作品である。
大庭葉蔵という人物は、他者との交わりにおいて自らを欺き、仮面をかぶり続けることでしか生きられぬ卑小な存在である。
彼の心には社会との隔絶と自己嫌悪が絶えず巣食

もっとみる
【孤読、すなわち孤高の読書】アーネスト・ヘミングウェイ「老人と海」

【孤読、すなわち孤高の読書】アーネスト・ヘミングウェイ「老人と海」

作者:アーネスト・ヘミングウェイ(1899〜1961)
作品名:「老人と海」
刊行年:1952年刊行(アメリカ合衆国)

老人の孤独と少年との友情、そして生きる尊厳を問う。

[あらすじ]
ハバナ近郊の小さな町に身を寄せる老漁師、サンチャゴ。彼は歳を重ねた肉体に宿る意志の強さを誇りとして生きているが、その日々は容赦なく彼を試す。魚が全く釣れない日が84日続き、同業者からは嘲笑を浴びる。しかし、彼は

もっとみる