so beautiful アトレティコ・マドリー2023-2024シーズン総括
まとめます。これでおしまい。
タイトルはおれの人生のお友達、FILTERのBeautifulより
いきます。
●成績
シメオネ体制のフルシーズン12年目で初めて3位以内を逃したシーズン。43失点は過去最多タイ。個人的には"ジローナ凄かったね"という感想だが、まずいぞという論調があったりするんでしょうか。よく知りません。
12節ラス・パルマス(1-2)に負けるまでは割とマドリーとジローナについていけたがバルサとアトレティックにアウェーで負けた辺りから厳しくなった。「直接対決でジローナに勝てれば」という年明けの19節(3-4)を壮大に落として完全に優勝は消えた。
とにかくアウェーで勝てないシーズンだった。8勝3分8敗。いくらなんでも負けすぎた。実はCLもアウェー5試合で1勝2分2敗。
CLはグループステージ敗退に終わった先季とは違って首位通過。組み合わせには恵まれた。首位通過したのに前年ファイナリストのインテルを引き当てるくじ運を呪ったが劇的逆転勝利。しかしドルトムントに敗れる事となった。マドリーを下した国王杯は準決勝でアトレティックにボロ負け。
●スカッド
全体感。
通年で5バックだったシーズン。GKはオブラクが全コンペティションフル出場。
3CBはヴィツェルが中心。怪我がなければヒメネスが真ん中。左はエルモソ。サヴィッチとソユンジュ、冬以降はパウリスタが起用された。アスピリクエタは3CBとWB兼用で、4バックに移行する際の左SBも担当。
アンカーはコケで固定。シーズン序盤はバリオスが使われた。IHは右がジョレンテorデ・パウル、左がルマルorサウルでスタートしたがルマルが5節バレンシア戦でアキレス腱を断裂。そのまま全休となりデ・パウルが左に回る機会も増えた。WBは右がモリーナorジョレンテ、そしてアスピリクエタで左はレンタルから戻ってきたリケルメとリーノで争った。4バック移行のスイッチになれそうだったハビ・ガランが構想から外れる事で結局4バック化もなくなった。
2トップはグリーズマン+相棒。モラタ、メンフィス、コレアの争いだった。前半戦絶好調だったモラタは徐々に失速。時々モラタの後ろにジョレンテとグリーズマンが並ぶ形なども使われた。5-3-2なのか5-4-1なのか的な差分はシーズン通してテーマであった。
●推移
今季の推移を時系列で振り返っていく。
■開幕〜年末 ビルドアップ構築模索期
CLとの並行もあり年末まではずっと過密な日程。振り返ってみれば上手くプレータイムを分け合いながらスカッドを回していたなと思う。この期間は開幕戦で怪我をしたコケ、長期離脱になったルマルを除くとバリオスとメンフィスがちょこちょこ抜けたぐらい。ただ、最終ラインだけはヒメネス、ソユンジュ、サヴィッチが定期的に抜けた。そのためヴィツェル&エルモソはずっとスタメン。
この時期のアトレティコは自陣からのビルドアップに多くの時間を割いた。
アンカーのコケを基準とした3-1ビルドが基本形。相手の守備形にも拠るが、真ん中のヴィツェル&コケから配給するか、HVが敵陣へ進んでいくかの2択を相手に突きつける形を作った。
アンカーのコケにマークが貼り付くと基本的にはHVが空く。ここで右のアスピリクエタがドリブルで前進していって優位性を押し付ける形。1節グラナダ戦や8節カディス戦で有効だった。
あるいは左のエルモソが自由に配球できる形。アトレティコは左WBにドリブル突破に特徴のあるリーノorリケルメがいる事で相手のSBorWBをピン留めする効果があり、エルモソからWBにクリーンにボールが入るルートを封じたい。ただし、このルートを封じればIHのサウルや、落ちてくるグリーズマンがライン間でボールを受けやすくなり相手を自陣に押し込む効果があった。上手く対策されたのは10節セルタ戦。
4-4-2の守備でHVがボールを持たされるが、SHの適切なポジショニングと気合でなかなか侵入のポイントを作れずに苦戦した。
ちなみにこの試合は前半25分にGKイバン・ビジャールのPK献上&退場で試合が壊れてグリーズマンが3点取った。余談だがこれをきっかけに正GKがビセンテ・グアイタに変わりました。
HVに密着マークがつくパターンではコケが前を向いてグリーズマンとのコンビネーションを中心に侵入していった。あるいはエルモソがコケの隣に移動し、2-2を作る形。
11節アラベス戦ではこれでエルモソが簡単に1stラインを超えて大外とライン間を突きつける優位性を生み、アラベスの勢いを削いでいった。
攻撃で課題感があったのは相手を押し込んだ時の選択肢。アーリークロス放り込みとなかなか取れないポケット侵入に拘っていたがそこで手詰まりになって得点が生まれず、選手交代を連発して最後はジョレンテが頑張る、的な試合が多かった。やはりラストサードを有機的に解決できるストライカーの存在が必要であり、あまりにも理不尽に点が取れるメンフィスはその意味で今季のアンサーになり得る選手だったが、怪我がそれを許さなかったのは残念。
それ以上に課題だったのは守備面。
基本形となった5-3-2。
今季は4バックとの併用はほぼ無しで5バック。左WBは初めてトップチームでプレーするリケルメ&リーノ(と、ハビ・ガラン)で心配もあったが徐々に慣れていった。
ブロック強度は問題なかったように思う。2トップが中央ルートを封鎖。左右のSBからの侵入に3CHが気合のスライドで縦パスを入れさせず、WBは対人をシャットアウト。
特に良かったのは6節マドリー戦、9節ソシエダ戦のようにIHが目の前にマーク対象を置けた試合で、パスコースを限定しながら全体のスライドでボールを奪い、低い位置からプレス回避を敢行。引いて守ってボールを奪い、じっくり進んでいくサッカーは見応えがあった。ビルドアップを突きつけていた時期。
むしろ苦手だったのはCLセルティック戦や10節セルタ戦のような2-1でビルドアップされ、IHのマーク対象が遠い試合。
こういう形でも無理にIHが前を捕まえにいく意識を強めた結果、セルティック戦の失点などに繋がっていた。
その流れで、特に多かったのは前を捕まえにいった結果としてスペースを与えてエリア内に侵入される形。5節バレンシアに3点取られ、8節カディスには前半のうちにロングボールで切り崩されて2点を取られた。勝ったけど。CLでもフェイエノールトやセルティックに2失点。低い位置にブロックを置いて前向きに飛び出していく守備をすればそれなりに守れるのだが、どうも高い位置でボールを奪おうという意識が強く、ではラインを高く保てるのかというとそこは最終ラインにヒメネスの存在が必須だったりする。難しい時期だった。"それでも負けない"のがこの時期の良さとも言えたが、結局改善せずにシーズンを終えているのが切ない。ゴール前の強度を誇れずにシメオネのチームは作れないなと。ここは残念ながら個々の選手のクオリティを痛感した部分。
功罪あり、悩ましかったのは11月末のCL5節フェイエノールト戦と、続く15節バルサ戦の連戦。
アウェーでフェイエノールトとのグループステージ突破がかかる大一番に、リケルメが最高のパフォーマンスを出し、守備でも左IHに入ったデ・パウルがヘールトロイダの配球を阻害しながら右WGミンテの突破も止める大車輪の働き。攻撃はプレス回避を決めながらビルドアップで相手を押し込み、自分達の望む展開を自ら作り上げていった戦いは爽快。今季のベストゲームの一つ。
一転して、同じ11人で挑んだバルサ戦は最低の出来。おれのレビューがキレすぎてて読み直すと面白い。確かにプレス回避は上手くいかなかったが、それなら引き込んで守ってどうにかすれば良いだけなのにボールを手離す事を怖がり、そしてピッチ上の11人の意思共有が上手くいかずチームはバラバラ。フェリックスをぶん殴ったヒメネスは前半で替えられる始末。コントロールが効かなかったのは疲労か、諦めか。
このバルサ戦の負けをきっかけに、"そういえば今季、アウェーの成績悪くないですか"という空気が充満していった。その中でアトレティック、ジローナとアウェーゲームが続いたのは仕組まれている感さえある。気にしすぎだ。
17節のアトレティックはセルタ以上の鉄壁の442を築き、アトレティコの攻撃は沈黙。アイソレーションが生きる道と思われたリーノも案外サポートがないと手も足も出ず、なかなか厳しかった。相手がレクエでは仕方ない部分もあるが。
チームは疲労が溜まった状態のまま、年末までの残り2試合を元気なリケルメ&リーノの併用で乗り切ろうとしたが18節ヘタフェ戦は退場者を出して3-3の劇的ドロー。グリーズマンがルイス・アラゴネスに並ぶクラブ173ゴール目のメモリアルとなるはずのゲームでクローズに失敗し3-1から追い付かれるという激萎えの試合をした。
年内最後は4節の振替となったセビージャ戦。キケ・サンチェス・フローレス就任直後で5-3-2で戦った相手に、後半から3-2ビルドで練度の違いを見せつけた得点は見事だったが、この日も退場者を出してバタバタとクローズした(1-0)。慌ただしい年末であった。
■年始〜インテル戦 勝てる守備の構築期
年始初戦は早速のジローナ戦。この時点でマドリー&ジローナとは8ポイント差。ここを勝っていれば優勝争いにも踏みとどまれたが3-4で落とした。インテル戦を除けば”ここを勝てれば”という試合を落とし続けたシーズンだったのは否めない。
この時期に良かったのはデ・パウル。チームの中心となったのはビルドアップフェーズで敵陣侵入の作業を一人で担当できた点。
グリーズマンとの距離の近づけ方と、近づけないのなら自分で進んでいくの判断が明確にチームを動かしていた時期で、このジローナ戦では3ゴール全てに関与。
また、強敵相手で特に良かったのはヴィツェルとヒメネスの関係。特にヴィツェルは、自分が得意なプレーを選べる環境がヒメネスに得意なプレーをさせる事に繋がるという事をよく理解し、最終ラインのバランスを取る事とリスクを許容する事のバランスを正しく判断していた。その意味でも、今季のDFリーダーは明確にヴィツェルだったと言っていいし、ヒメネスがいてこそヴィツェルのベストパフォーマンスを引き出せていたという点ではヒメネスの稼働率次第でチームの守備力/構成力は全然違っていたのかなと思う。特に他の時期は良いとしても2月と3月だけはフルでプレーさせてあげたかった。
クラブはここから、ずっとマドリーダービーorセビージャ戦という時期に入る。2週続けての対戦となったマドリー戦は、スーペルコパは3-5敗戦、国王杯は4-2勝利。いずれも120分の戦いだった。
失点数を見ればわかる事だが、ジローナ戦とも共通して可視化された今季の弱点はPA内の強度だった。アトレティコに限ってそんな事は、という欠点を持ったままシーズンを過ごしていく事となる。カウンター対応でもブラヒム・ディアスにしてやられる形で弱点が浮き彫りとなった。ここからCL決勝トーナメントに向け、"それでも勝つためにはどんな守備を組織すれば良いか"にチャレンジしていく事となる。
試合を見ている自分自身が何よりも苦悩していたのは、攻撃面においては理想的な形が構築できていた時期でもある点。
・エルモソが1stラインを超える
・デ・パウルとグリーズマンが近い距離で関わる
・WBが高い位置で相手SBを引っ張る
の3点さえ満たす事ができればどんな相手からでも得点が奪える実感を得ていったのも事実である。
エルモソからの配球でサウルはトップタスク。エルモソに対面する相手がリーノへのパスコースを警戒すればグリーズマンが空く形を突きつけ、グリーズマンにはデ・パウルとコケが近い距離。いつでも逆サイドへの展開を準備する左偏重を基本形としてボールを握っていった。また、勝利した国王杯の前プレ形は後述するインテル戦に続く文脈の始点ともなったのは見逃せないポイント。
この頃からアトレティコの守備は5-3-2と5-4-1、そしてハイプレスの3種を装備する形となっていく。基本形は5-3-2。
これは開幕から変わらないが、2CBからの配球を2トップ(グリーズマン&モラタ)で阻害しながら相手SBにボールを持たせる。相手SBの位置がアトレティコのIHから遠すぎると制限が掛からないまま押し込まれる形になり、低い位置からのプレス回避を敢行。プレス回避が決まらない試合はどうしよう、の観点でグリーズマンが中盤に落ちる5-4-1へ移行していく。
そもそもプレス回避が効かないのならばグリーズマンが高い位置にいる意味は全くなく、ボールを奪う時に近い位置にいられる方がメリットは大きい。この併用でアトレティコは配球者をブロックの外へ押し出す守備を作ろうと模索した。
亜種は4-4-2。メリットはボールへの圧力が強まる事、デメリットはエルモソが大外に晒される事。
国王杯のマドリー戦に続き前プレがハマったのは25節ラス・パルマス戦。
シーズン平均59.2%のボール保持を誇った相手に呼吸をさせない強烈なプレスで5-0の圧勝。ジョレンテをトップで起用し、コレアとのコンビは敵陣の圧力が最強。アンカーを捕まえるコケとSBの自由を奪ったリーノのバランスが良く、前を捕まえる事と後方をサポートする事を完璧に両立させたサウルは今季一番の得意タスクだった。
さらにこの試合でポイントとなったのはラス・パルマスの唯一の逃げ道となる左SBセルジ・カルドナ周辺の押し引きをリードしたバリオス。攻撃面だけでなく守備面でも貢献度を高めた良い試合だった。これでチームは打倒インテルに向け、出来る準備を完遂させてミラノへ向かう事となった。
■大一番
インテルとのCL Round16は、結果的に今季最大の大一番となった。理想は通過点となってくれると良かったが、これ以上のハイライトを作れなかったという話になる。
グリーズマンを頂点に置いた5-4-1。アウェーで点を取りに行くよりも失点しない事を念頭に試合に入った。
5-4-1で左右のMFにジョレンテとサウルを置く形は最高に守備的。この形でグリーズマンを起用するなら頂点しかない、という発想。インテルが得意のアーリークロスを蹴り込む機会を制限し、HVに戻るバックパスをキーにカウンタープレスも発動させていった。
バストーニの駆け上がりやラウタロのポストプレーを止めきれずにピンチも招いたが”オブラクが止める”を設計に組み込みながら耐えていく。
後半はモラタの投入で得点を取りに行く意思を見せつつ、デ・パウル周辺で撤退守備の粗も出しながら最後はちょっとしたミスで失点したが、アウェーの0-1は上々の結果。ホームでの反撃の準備を整えた90分であった。
中間は当時断トツ最下位だったアルメリアと引き分け、国王杯準決勝はアトレティックに成す術なく惨敗。インテル戦1stレグでグリーズマンが怪我をしたから仕方ないという言い訳と共に。
収穫は27節ベティス戦。2-1と1点リードで押し込まれる展開になり、ここでペースを取り戻しにいくのではなく完全撤退。
アトレティコらしく勝つ事への予行演習は、実際に本番でやる事はなかったが心構えとしては必要なものだった。
迎えたホームの2ndレグ。アトレティコは決死のプレスを敢行。
度々姿を見せていた前プレ設定はこの日のため。この日メトロポリターノでインテルに呼吸させないための予行演習を繰り返してきた。ダルミアン不在で回避が決まらないインテルを捕まえ、ラウタロ&テュラムの強力2トップをサヴィッチ&ヴィツェルで捕まえ続けた。
バレッラの謎ランニングで1点失ったが、直後に復帰したグリーズマンのゴールですぐさま1点差に。試合を終わらせなかった。
後半に入ってもアトレティコの勢いは衰えず、ジョレンテの背後取りからコレアの投入。リケルメとメンフィスのスピードの追加とバリオスの配球まで、今季の積み重ねを活かして85分、コケのラストパスに合わせたメンフィスの感動的なゴールでついに、試合を振り出しに戻した。
最後はPK戦。オブラクが2つ止めてヒーローに。アトレティコは2年ぶりのベスト8へ辿り着いた。
■敗退と終焉へ
疲労を溜めながらCL準々決勝はドルトムント戦。
エルモソが怪我で不在。メンフィスもいなかった。開始4分に背中を向けたマートセンを狙ったプレスでいきなり先制。その後は守備ブロックを構えながらこれまた相手のミスを突いて2点目。
後半はカウンター狙いに切り替え、点差を守りながら3点目も狙う展開に持ち込み複数のチャンスを作った。GKコベルのパラドンもあり試合を決め損ねると、81分によもやの失点。2ndレグに至る大きな失敗となった。
中間にジローナとの3位4位直接対決で4-4-2の大失敗がありながら3-1で勝ってアウェーの2ndレグへ
累積で欠場のリーノのところにCLで大活躍のアスピリクエタを起用。
ドルトムントは1stレグで全くハマらなかった3-2ビルドではなく開始から4-1でビルド構築。
それならアトレティコはグリーズマンが落ちて5-4-1に変更するのが今季のセオリーだが、ザビツァー&ブラントに翻弄される。ボールを受けに落ちてくる動きと最終ラインの背後を狙うランニングを両立させた運動量とオールラウンドな能力は素晴らしかった。アトレティコ側は2トップがドルトムント最終ラインからの配球を制限する事が出来ずにブロックを下げ、下げたにも関わらずフンメルスから背後に正確なボールを配球されたのは痛恨。
サンチョにクオリティを出されてトータルスコアで逆転されて前半を終えた。
後半にコレアとバリオスの投入でグリーズマンを解放していったのは見事。
一度はコレアのゴールで再逆転に成功したアトレティコだったがフュルクルク、そしてザビツァーの必殺技に屈した。ラストの15分は"もう一点"というギアを上げる事すら出来なかったのが今季の限界点。
●今季の特徴
今季のアトレティコのサッカーの特徴、印象的だった点を見ていく。●推移の項で書いた通りに、能動的なビルドアップで得点を重ねて試合に勝てた時期を通り越し、失点が増えすぎてそれどころじゃない時期に突入。そのままあれよあれよとCLが待っていたので前プレを急造で整備したら本番で大ハマり。
構築途上だっったのはラストサードの攻略。キーとなったのはIHの左右差。チームはバリオスの成長に魅せられ、終盤のスクランブルは、効果的だったか怪しいところであった。一つ一つ見ていく。
■ラストサードの攻略
道半ばである。チームは3CB+コケで前向きを作り効果的に前進。デ・パウル&グリーズマンが中央を打開するか、左大外のリーノのクオリティを押し付け、コケ&エルモソがやり直しをサポート。逆サイドでWBがサイドチェンジを待ちポケット侵入を狙った。
概ね優勝した20-21シーズンの形と似ているが、最大の違いはもちろんルイス・スアレスがいない事で、押し込んで相手ゴールの近くでプレーしていればいつか点が入るストライカーというのは本当に凄いです。そういう選手の重要性というのはアトレティコにとってはより高まっているなと感じます。
選択肢として強かったのは当然ジョレンテ、コレア、モリーナで取る右ポケット。あとはメンフィスの理不尽なシュートと、リケルメのファーに落とすクロス。これはモラタと相性が良い点も良かった。この装備を増やす事は来季に向けて必要。一番簡単なのはハーランドを獲得する事である。
■ビルドアップ左右差
アトレティコは3-5-2で配置する都合上、IHで配置の左右差をつけていた。
ようは、片方はコケの隣、もう片方はグリーズマンの隣だ。もちろん選手によって、相手チームによって調整はあるが概ねはそういう事。両方を行ったり来たり出来るサウルって便利だね、という話とデ・パウルが右なら左の選手はラストサードで仕事できる選手がいて欲しいね、とか。ジョレンテはグリーズマンの隣というよりは大外の仕事が得意、ちなみに特定環境を除くとコケの隣も上手いよね、という話とか。上記のラストサード攻略の事を考えると、これだけ能動的に敵陣に進めるシーズンだったのでルマルが見たかったね。とか。それこそ20-21シーズンみたいに。そして一般的なIHの文脈から逸脱したところにいるのが、バリオスである。
■パブロ・バリオスとは
トップチーム定着2季目。まだ20歳のプレーメーカーは大きな進化のシーズンとなった。開幕当初は負傷したコケの代役としてアンカーポジションで。徐々にIHへとポジションを動かした。
そもそもが圧倒的な技術をベースとする選手で、ただし周辺環境に無頓着なためアンカーの方が立ち位置を周りが決めてくれるので能力を発揮しやすそうだった。でも得点に直結する仕事もさせたいのでIHで、という揺れの中。
良さが出たのは1月。この時期はコケ、デ・パウルと一緒に起用され、基本的に「ギャップに顔を出したらどんな環境でもバリオス目掛けてパスを出す」を実践。本当にどう転んでもボールを失わない技術があった。恐ろしい。むしろDFの距離が近い方が一気に複数人を剥がせてチャンスを作れる。
圧倒的な技術を持ちながら創造性が一切ないという天才性を併せ持ち、ラストサードでは足下でボールをもらう以外にやれる事が何もないのでポケットランを義務付けられた。
働かざる者なんとやら。走る仕事を任された。アンカーで起用された20節ラージョ戦ではハイライトでも何度も擦られた超絶コントロールに加え
これ
後半はヴィツェルの並行サポートを得ると自在に配球を始め、危険な気配を出していた。シーズン終盤には右IHでの起用が増えるとジョレンテのコンビネーションが上昇。的確なタイミングでジョレンテにパスを送ると同時に自らポケットを取りに行くランニングでジョレンテの気分を良くさせていった。意外な好相性。
結局この選手の完成形がよりわからなくなったシーズンであった。まあ、コケがこういう選手になるとも思っていなかったし彼もまた色んな選手になりながらアトレティコのパブロ・バリオスになっていくのでしょう。楽しみですね。
■スクランブル
試合終盤に選手交代を使って猛烈なアタックを仕掛けるスクランブルはシメオネの真骨頂である。国内戦の勝たなければならない下位クラブとの試合でよく見る光景のため、正直良い思い出がない人の方が多いでしょう。僕もそうです。
今季も色々やった。4-2-4にして放り込んでみたり。
多分皆嫌いなとりあえず右から放り込もうスタイル。結果が出た記憶もあまりない。
シメオネはオープンな展開を引き出しつつ、自分達がずっと殴り続ける事ができないと縦幅を調整しようともするというバランス感覚を持っており、これには概ね賛成。シメオネは慎重なので良い意味であまり自チームの選手を信じすぎないようにしているところがある。年始のジローナ戦での感想を引用する。
"もっと信頼しても良かった"と自分で書いておきながらだが、「信頼ってなんだろうね」とも思う。シメオネはあくまでも「負けるなら自分の選択のせい」にしようとするところ、あるよなあ。難しいところです。
■前プレ
インテル撃破に繋がったのは、前プレの装備であった。開幕から上手くボールを握れる試合が多く、バルサやアトレティックに負けた試合は"ボールを手離す事を怖がったから"という、アトレティコらしくない面も出た今季。中途半端にミドルブロックで戦うくらいなら全体で前プレに行った方が効果的だったのは収穫。
最初に良い形が作れたのは国王杯のマドリー戦。
2CBとGKまでプレスに行き、中央でコケ&デ・パウルを中心に前向きの矢印を強く出す。同数で人をぶつけ、最後方はヴィツェル&ヒメネスのコンビでロドリゴ&ヴィニシウスを自由にさせなかった。これを効果的に繰り出せるならば相手チームからボールを取り上げる事ができる実感を得た。何しろ相手はマドリーである。
次は推移の項でも書いた25節ラス・パルマス戦。完璧にハメた。さらに27節ベティス戦ではエルモソが前に出ていき左サイドでハメる形を作った。これらの予行演習を経験し、自信を持ってインテル戦2ndレグで実践。
実際にインテル戦のレビューでも書いた通り、
これは完全に本音。こんなに上手くいくとは。インテルが拘りを持ってやってきてくれた事が逆にアトレティコからすると確信を持ってチャレンジできた事にも繋がったのかもね。コレアがいないと無理かもとも思っていたが本番はモラタがやった。凄いね。
●来季へ
毎年の事だが、良い事も悪い事もあったシーズンだ。3年連続の無冠でもある。インテル戦はスペクタクルだったし、贔屓目無しに見ても好ゲームだった。とはいえRound16である。番狂わせを起こしたが、番狂わせだけで終わってしまったのは残念。
チームは先季のサッカーに上乗せをして、カラスコの移籍を乗り越えた。"今年のアトレティコのサッカー"をちゃんとやっていたと思う。今年のアトレティコのサッカーで、ドルトムントに負けたとも思う。足りなかったね。それはもちろん、張り裂けそうなくらいに悔しい。正直、個人的には今もまだドルトムント戦を引き摺っている。インテルに勝ったんだから!という気持ちもあったし、決勝を勇敢に戦うドルトムントを見て素直に嫉妬もした。あの舞台でまたマドリーと戦うチャンスは、確実にあったのだ。それが悔しかった。まだ引き摺っている。まだ無念。悔しいなあ。それはバルサも同じなんだと思う。マドリーを追いかける日々というのは楽しくも悔しい思いの連続です。
一年間ずっと若手には「正当な評価を」という気持ちでいたがバリオスもリケルメもリーノも、本当に良くやっていた。別に贔屓にする事もなく、無駄に厳しい目を向ける事もなく正当に見てきた一年。壁を乗り越えたり、出来なかった事が出来るようになったりゴールを決めたりMOMを取ったり、その度に泣きそうになるくらい愛おしかった。良い選手。アトレティコ・マドリーの誇り。未来であり、現在。
そしてベテランの補強が多かったシーズン。2季目となったヴィツェルはもうチームの中心であり、欠かす事のできない存在に。新加入のアスピリクエタは持ち前のキャプテンシーでチームを助けて、熱くて力強いプレーは味方を勇気付けた。怪我や決定的なエラーもあったシーズン。それに負けない来季を期待している。ガブリエル・パウリスタは冬にバレンシアから加入。本当に、元々好きな選手。もう一度CLに挑戦するチャンスを掴みにアトレティコを選んだ事が凄く嬉しかった。すぐにチーム戦術に馴染んで特徴を出した。
チームは揺れ動いた。また、新しい意味で「アトレティコとは何か」を問われた一年。それは、果たして勝てば納得できるものなのかどうかさえ怪しい。どこに答えはあるんだろうね。来季に向けて、チームは大きく変わるでしょう。18-19シーズン終了後くらいの入れ替えりになるかもね。今はただただ寂しい。今季中心だった選手も数人いなくなるかも。
でもコケとグリーズマンがいれば、その答えを探す旅にまた出る事ができる気がする。アトレティコはそれでいいんじゃないかなとも思うのです。
アトレティコは、また何も得られなかった。それでもサッカーは面白いし、アトレティコを応援する日々は、堪らなく刺激的。これが人生だなと思うのでした。今季も一年、たくさんのレビューを好き放題書きました。全部が全部自信作、とまではいかないけれど今年も見てほしい、知ってほしい事をたくさん書けました。やり切った。満足。本当にありがとうございました。あー、やっぱり悔しいなあ。
●後書き
えー、疲れました。
来季の事は、完全に白紙です。毎年の事ですが。先季(22-23シーズン)だけは来季(23-24シーズン)も絶対書くぞって思ってたんだけど、それは今季が現体制の集大成になると思っていたから。この2年を一つのタームで見ていたからなんだけど、来季の事はわからない。"来季はどんな事が起こるんだろう"が割と毎回モチベーションになっているんだが、もうだいぶ、シメオネのサッカーわかったよね、という感じもあり今季は答え合わせをしながら試合を見るような機会がとても増えた。じゃあ続けている意義は?と思い始めてもいる。同じ事を続けるっていうのは本当に難しい事なんだなと実感している次第です。
アトレティコの全部の試合のレビューを書くというのは、難しい事ではないです。こんな事を言うと挫折した人に喧嘩売るみたいだけど、個人的には本当にそう思っている。というか大変だ、負担だと思うならやらなきゃいいだけで。おれは自己満足でやっているのに苦しむ理由がない。意味もない。大変だと思うならやらなきゃいい。
そもそもおれがレビューを始めたきっかけは、"おれの好きなものをごちゃごちゃ言う奴を許せない"という壮大な動機がある。サッカーを見ている人が何を言おうが勝手だけど、せめてアトレティコの事だけは、シメオネの事だけは勝手な事言わせねえぞ。おれが書いている事が全て正しい。おれが書いている事をアトレティコの試合を見ている全員の常識にしてやる。それがモチベーションで始めたのです、おれは。それが野望。ちなみに蓋を開けてみるとどこまで行ってもわざわざブログを読むような人は"サッカーを理解している聡明な方"であり、わけわからん事を入っている人の考えを変えさせるなんて事はおれには出来なかったのであった。悲しいね。
本当は今季、もっと挑戦したい事があって。毎月チームの取り組みをまとめるだとか、タームを区切ってラリーガのトレンドをまとめていくだとか、やりたい事はたくさんあった。その中でCLがあって、その度にセリエAやブンデスリーガの試合をたくさん見る中で、結局おれ自身の力不足でもっと伝えたかった事があまり伝えられなかった。他リーグを見るたび"なんだこりゃ"って思って、それは優劣でも何でもなくトレンドであり、文化だった。そういうものもたくさん吸収した一年だったんだよね。他リーグをたくさん見て初めて気付くラリーガの特徴とか、凄いところとか。たくさん知れた。
その結果として、おれの中に蓄積されているラリーガに関するインプットを、せっかくtwitterフォローしてくれてる人に全部アウトプットしたいなー形にしてみんなと一緒にラリーガの理解を深めたいなーとか、そういうところまで至れなかったのは無念です。そしてその理由を、時々アトレティコのレビューを書く時間のせいにしてしまいそうな自分への苛立ちで立ち止まりそうになる事もあった。"おれは自己満足でやっている"の原則に基づき、"じゃあやめれば?"に直結する脳みそと喧嘩するのは案外しんどい。
特に今季は、きっと淡白に見えるレビューが多かったように思います。特に負けた試合。だってもう、おれは対戦相手の戦い方も大体頭に入っているし、お互いのスタメンを見れば噛み合わせもある程度想像できて、そのチームが頼る選手、最近調子の良い選手も概ねわかっているから。ピッチで起きる現象には一喜一憂できてもその原因はなんとなく想像がつく。そりゃ勝てないよね、そりゃ負ける日もあるよね。という。だから"負けた!悔しい!"という思いがあまりなかった。これは、けっこう困りものなんですね。自分でもコントロールできないし。じゃあそれを文章にするのは簡単なのかと言われると、全然そんな事ないし。とても疲れました。
それでなくともシーズンが終わるともう何もやりたくなくなるのに、今季は本当にいつまでも情けなくドルトムント戦の負けを引き摺っている事もあり、それ以降の試合の記憶もあまりない。何だか、ポッカリと穴が空いてしまったような気持ちなのです。
今季が集大成だと思っていた。ウェンブリーでマドリーと決勝を戦えると思っていた。今年の負けは心に来ました。なので来季マッチレビューを書くかどうかも、時間を置いてちょっと考えます。去年のまとめ記事を読み返したら、「来季で辞めるんじゃないかな。おれが読み解きたいサッカーは、来季で終わるんじゃないかな。」と書いていました。本当に、そう思うよ。
なので一度ここで軽くお別れのご挨拶です。5シーズンに渡り僕のブログをたくさん読んでいただき本当にありがとうございました。とりあえず一度、のんびり過ごしましょう。23-24シーズン、これにて閉幕。
もしもサポートいただけるのならば。最後にこの5年間の原動力を。ありがとうございました。いつも、
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