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どれだけ積み重ねれば 23節 アトレティコvsマドリー(A) 2024.2.4


はやくも2024年3度目、今季4度目のマドリーダービー。
過去対戦はせっかくなので3つとも貼らせてください。わがままセット。

2023/09/24
ラリーガ6節(○3-1)

2024/01/11
スーペルコパ準決勝(●3-5)

2024/01/18
コパデルレイRound16(○4-2)


たくさん点の入るエンタメ性抜群の試合を連発してきた。さて今回は。
首位マドリーとアトレティコは勝ち点差10ポイント。アトレティコにとっては引き分けでもほぼタイトルが消える試合。
一方マドリーは前節ヘタフェ戦(○2-0)でリュディガーが負傷。そしてチュアメニが累積警告の出場停止でCBがナチョしかいない。


●スタメン

・アトレティコ
オブラク
サヴィッチ / ヴィツェル / エルモソ
ジョレンテ / デ・パウル / コケ / サウル / リケルメ
グリーズマン / モラタ

ヒメネスが間に合わなかったCBはヴィツェルが真ん中。左WBはリケルメを選択。前節ラージョ戦欠場のモラタが間に合ってスタメンに。

・マドリー
ルニン
ルーカス・バスケス / カルバハル / ナチョ / メンディ
カマヴィンガ / クロース / バルベルデ / ベリンガム
ロドリゴ / ブラヒム・ディアス

GKはルニン。
人が足りないCBはナチョとカルバハル。
中盤はチュアメニもいない。さらに当初スタメンと発表されていたヴィニシウスは直前に練習中の怪我で外れてブラヒム・ディアスが急遽出場。ヴィニシウスはベンチには入った。


●前半

マドリーがボールを持った。守備から

マドリーは2CBと、カマヴィンガの顔出し。クロースも参加してボール保持。アトレティコは普段通りの5-3-2でスタートし、マドリーは両SBのスタートポジションを高くしてアトレティコのWBをピン留めする事が最初の設定。いわゆる"2トップの脇から侵入できる"環境を確立させている。
FWのロドリゴ&ブラヒム・ディアスはハーフレーンスタートから大外レーンまで開いてSBと協力。ベリンガムは真ん中でトップ下のような位置に立った。

開始2分で早速決定機になったシーンにマドリーの狙いが凝縮された。SBとFWで大外の2vs2を作り、本命は登場する3人目がHV(サヴィッチ&エルモソ)と対峙する事。

縦画像にすればピッチ全体図と同じサイズになる事に気付いた

2分のシーン
この場面ではルーカス・バスケスとブラヒム・ディアスに対してアトレティコはリケルメとサウルが対面。エルモソが裸で待っている形になる。ここにベリンガムが顔を出して1vs1で突破。

この形を左サイドでやろうとすると3人目として登場するのがクロースですか?となるので左から進んでクロースの右サイドへのキックをスイッチに発動させる形を擦った。ブラヒム・ディアスは自分でドリブルを仕掛ける形でもバスケスを使って突破する形でも常に危険でアトレティコは後手に回る事に。前回対戦同様、この選手は会う度に危険度が増している。正直ヴィニシウスが出場できて右がロドリゴの方がまだ対応しやすかったと思われる。

マドリーの狙いを把握したアトレティコは早速この環境に対処し、11:15頃にシメオネがグリーズマンに声をかけて左大外に落ちるように直接指示している。中継でも抜かれていたので見てみてください。U-NEXTでいうとちょうど桑原さんの喉がバグったくらいのタイミング。

5-4-1に変化

これで右ハーフスペースに突進してくる選手にサウルが対応できるように変わり、何となく誤魔化せそうな雰囲気が出てくる。そんな中、20分にこのサイドで失点してしまったのは切ない因果であった。
クロースから飛んできたハイボールにはリケルメが対応できたが、ヘディングでグリーズマンに届けようとしたボールがブラヒム・ディアスに渡ってしまった。

この失点シーンのリケルメの心理に影響したであろう部分はアトレティコの攻撃にある。見ていこう。

アトレティコは年明け以降一番見慣れた配置で後方3枚。コケのサポートにデ・パウルが入る形。マドリーはアトレティコのビルド隊5人に対しデ・パウルのところにクロースが出てきて4枚。
アトレティコ戦のマドリーはベリンガムにどんな守備タスクを要求するかがポイントかなと思っていたが、この日はトップ下のポジションでコケに張り付いてヴィツェルを放置。エルモソに対応したブラヒム・ディアスの出足が良く、アトレティコはなかなか自由に配球できなかった。あらためてブラヒムがスタメンになったアクシデントはアトレティコにとって不幸だった。

相手のCBが急造でカルバハルの空中戦は当然泣き所になる事を考えればアトレティコの狙いは大外からの放り込みになるが、ルーカス・バスケスとメンディの対人対応は強度ももちろんだがその責任感の強さもさすがマドリーの選手。"抜かれないからサポートはいらん"と背中で語るオーラがあった。
サイドを突破したいアトレティコはCBに大外までロングボールを配球できる選手がいると違ったかもしれないので、ヒメネスの不在はここに影響してくる。ヴィツェルからだとなかなか難しい。前を向いたデ・パウルから一本リケルメに良いボールが出たのと、フリーでドリブル開始したグリーズマンのアーリークロスを警戒された中でモラタの足下を狙ったボールでチャンスを作ったが単発に終わっている。
そのモラタに良いクロスを供給する事を期待されて先発したリケルメだったが、ファーに落とす得意のボールを蹴ったらモラタは内側に走っていて"なんでやねん"のリアクション。もうちょっと打ち合わせしてください。

ようやく話を失点のシーンに戻すが、相手がCBに不安を抱える以上、アトレティコはブロックをセットされる前に速い攻撃で攻め切りたいと考えるのは当然の事で、且つグリーズマンが左SHにポジションを落としている時間帯は前進の選択肢が限られ、リケルメが"自分とグリーズマン(さん)でポジトラ打開しモラタ(さん)とジョレンテ(さん)でカウンター完結"と考えていたのも当然の事。失点シーンは"自分がボールを繋がらなければならない"という責任感から丁寧にやりすぎたのかなと理解する。リケルメ自身にそういう自分の役割への固執というか、自信が出てきているのは喜ばしい事。こういうプレーも勉強であり、「今季いかなる敗戦もリケルメとバリオスが敗因などという結論はあり得ない」と心に決めているので、この後の対応の方に目を向けたい。


早速失点直後の23分、CKから逆サイド大外で待つリケルメにボールを渡し、良いボールを供給してヴィツェルにドンピシャで合ったがルニンがスーパーセーブ。なんか"そのポジション正しいんか"みたいな位置にいたが。さらに続くCKがサヴィッチに合うがこれは枠を外れた。

0-0であればまだ様子見したいところだったがリードされているのでアトレティコはもう一つ動く。30分過ぎにリケルメを右に動かした。これでまた、攻守ともに狙いが変わる。まずは守備。

サウルがルーカス・バスケスの対応を担当し、コケがバルベルデのところまで張り出す事で簡単な侵入を拒否する形に変えた。
本来、マドリーと試合をするならばアトレティコは低いブロックを作り、"PA内で跳ね返せますよ"という対応で問題ないのだがこの日はグリーズマンまで中盤に降りる対応を求められて攻撃の選択肢がなくなった。完全撤退させられる時間が続くがカウンターには出られない環境となり、その中で先制されたので別の対応が必要となった。
この守備対応でリスクを負っているのは当然エルモソが大外でブラヒム・ディアスと1vs1になる事を許容している点で、そもそも5バックはこの対応を避ける方法である事を考えると前半の内に2点目を取られるリスクを自ら作る事はなかなかギャンブルだった。ちなみにリケルメの左→右の移動は今季2回くらいやっているので一応途中変更も折り込み済。ぶっつけ本番の奇策ではない。

続いて攻撃。引き続きこの日のアトレティコが狙うのはクロス爆撃であり、どうすればクリーンなクロスを上げる頻度を増やせるかというのがテーマとなる。方法はシンプルにメンディの背後を狙う選手をもう一人準備する事で、それが右に動いたリケルメになった。

大外のジョレンテの対応にメンディが出てきた。その背中をリケルメが狙い、ナチョを釣り出してクロスを上げればゴール前はカルバハルとバスケスである。この日アトレティコが点を取る一番確実な方法は右からのクロスでカルバハルにサウルが競り合うヘディングだと思っていたので、36分にそのシーンが出た事自体はシステム変更の効果があった。左の大外を取る選手がいなくなった事がネックだったが、デ・パウルのロングボールに反応してエルモソが飛び込む形を作るなどした。本当にいつもエンタメ性のある選手です、エルモソ。

マドリーも対応した。なんとアトレティコの配置変更から約5分でロドリゴとブラヒム・ディアスの左右を入れ替えた。

これで、ジョレンテのマークにブラヒムが付くようになりメンディが引き出される環境を即時に改善。アトレティコの狙いを消す完璧な対応。あまりにも速すぎるだろう。
マドリーの凄い点はもちろん対応の速さもそうなんだが、この前半を通じてバスケス&ブラヒムの2vs2で侵入する形がメインウェポンであったにも関わらず"アトレティコが配置変えたからブラヒムは左に移動します"を一瞬で選べてしまう事。いくらなんでも潔すぎる。逆にストロングポイントとか考えないんだろうな、このレベルだと。

アトレティコが前がかりになり始めた終盤、マドリーは副産物的にロドリゴがエルモソと対峙する噛み合わせになり、プレス回避でバルベルデのスピードを使ってエルモソ&ヴィツェル相手にPA付近の1vs1を選ぶカウンターを打ち始めた。
38分に、エルモソがロドリゴの対応をしていたら内側を駆け抜けたバルベルデを捕まえる必要が出てイエロー献上。4バックに変えた代償を早速払う事になったが、結果的に90分プレーしたエルモソは素晴らしいパフォーマンスだった。



●前半終了

複数回の配置変更もあり、マドリーは1-0のまま前半を終える事に成功した。アトレティコは1点を追いかける事に。

クロス爆撃を狙おうにもどうやってもサイドを切り崩せないアトレティコの叫び声が聞こえてきそうな前半になった。我々はカルバハル目掛けてクロスを上げたいだけなんです!と叫びたかった。
マドリーの対応は速かった。本当に結果論だがリュディガーが無事出場できていてCBに不安が無ければ対応しないでもう少し放置してくれたかも、という考えも浮かぶ。難しい成り行きだった。

アトレティコの守備対応に問題があったという感覚はない。マドリーと試合する事に誰よりも慣れているアトレティコは相手選手の得意なプレー、ボールを受けたい箇所の理解も深く、押し込まれる事にリスクは感じていなかった。押し込まれて怖いのはホセルが出てきてから。
左にいるロドリゴはあくまでもヴィニシウスのような何者かでしかなかったが、ブラヒム・ディアスの突破力が厄介だった。そしてこれも結果論だがブラヒムの外側を駆け上がる狙いをカルバハル以上に持っていたルーカス・バスケスの存在も、アトレティコの泣き所になった。バスケスはリケルメをシャットアウトする守備対応も完璧。クロースの横にいるカマヴィンガの配置選択も日に日に良くなっている印象がある。積み重ねているのはアトレティコだけではないとあらためて再確認。白い巨人に喰らいつく後半に向かう。



●後半

後半頭からアトレティコは試行錯誤を繰り返したリケルメに替えてモリーナを投入。小細工なしで右サイドを突破する意思を見せる。

4バックでもあり5バックでもあるメンバー構成に

引き続きサウルがルーカス・バスケスに張り付き、4バックとも5バックとも決めつけずにハイブリッドで守った。

攻撃は3-2-5という名の2-3-5。
右はモリーナ&ジョレンテでクロス配球を狙いつつ、押し込むと左はエルモソが大外に立ってサウルとグリーズマンを解放。アーリークロスを送り込む役割となってCKを獲得し、48分に早速CKからサヴィッチが決める。が、これはGK前のサウルのオフサイドを取られて取り消し。これが決まっているとプラン通りに進みそうだったので残念。
この時間帯、アトレティコは簡単に1stラインを超えてクロスまでは行けたがトランジションスピードに中盤がついていけずにセカンドボールを拾えず、徐々に展開はオープンに。
PA内でサヴィッチがベリンガムをひっ倒した61分にアトレティコは3枚替え。バリオス、メンフィス、リーノが出てくる。

両SBも攻撃参加してクロスを放り込んでいくので被カウンター対応もクソもなくなり、余裕で逆襲を喰らい始める事に。

66分

絶望のカウンター
ジョレンテのクロスが向こう側まで流れ、バスケスが前に蹴るとロドリゴとエルモソに広大な1vs1のスペースが。これにバルベルデがとんでもないスピードで絡んでカウンター発動。大外のベリンガムが見えていたら詰んでいた。
しかしもう受け身になっても何も起きないアトレティコはコケ→コレアを交代。スクランブルバトルに全身を突っ込む。選手交代の度に立ち位置を変えて普通にプレーしているジョレンテは多分鈍感なんだと思う。骨とか折れてても気付かなそう。バリオスと共に鈍感2CHを結成する。
70分にもカウンターでブラヒム・ディアスにキリキリ舞いさせられるが、あと2回くらいは外してくれそうなシュートを残してピッチを去った。バケモノでした。代わりにホセルが入る。

76分にはコレアがメンディを追いかけてボールを奪いグリーズマンの踵でのシュートに繋げたがこれはルニンが好セーブ。ルニンはこの日大事な場面でチームを救った。
マドリーはホセルが訳のわからないポストプレーを連発し始め、ロドリゴ→モドリッチの交代でより試合をコントロールする方向に進んでいく。マドリーの思惑通りに試合が終わるかと思われたが最後の最後、ロスタイム+3分にサヴィッチの放り込みをメンフィスが触り、中途半端なところに浮いたボールにジョレンテが飛び込んだ。同点。試合終了。



●試合結果

ただでは終わらない今季4度目のデルビ・マドリレーニョは1-1のドロー。終盤にマドリーに追いつかれて延長に突入する試合が続いたが、今度はアトレティコがマドリーの逃げ切りを阻んだ。

全体的に見ればボールを握って先制したのはマドリーの方であり、アトレティコの狙いを消す守備対応を行い、後半には追加点を狙うカウンターを効果的に繰り出したのもマドリーの方であった。
アトレティコはホームゲームだった国王杯のようにボールを保持する事は叶わず、相手の泣き所であるCBの空中戦に持ち込む事もできずにリスクを追い続け、もがき続けた。チャンスを逸し追加点を取れなかったマドリーは75分頃から1-0のクローズへと向かった。

結果論を言おう。"マドリーにとって良い方へ転がった結果論"もいくつか話したので良いだろう。許してくれ。結果的に、マドリーがゲームをコントロールしてくれた事でアトレティコは楽になった。セカンドボールを拾えずバランスを崩し、それでもカウンターを受け入れていたアトレティコからすると、数回とはいえセットした攻撃の機会を与えられたのはラッキーだった。もう一つ結果論を言えば、マドリーが最終盤にベリンガムの位置にセバージョスを入れた事。中盤ラインに入ってバランスを維持する事を明らかに期待されていたわけだが、結果的にはベリンガムが高い位置にフラフラしていたらサヴィッチはフリーで配球できなかった可能性が高い。セバージョスがモリーナ&ジョレンテを警戒するポジションを取っていた事でサヴィッチはフリーだった。縦方向のアーリークロスの精度だけで言えばサヴィッチはアトレティコの最終ラインでは抜群に高い。エルモソよりも。モリーナよりも。それ以上に警戒すべき事があったアンチェロッティの発想は当然なので、あくまでもこれは結果論である。
それよりも後半のオープンな展開になった数十分でトドメを刺せなかったのはシュートが入らなかったからではなくヴィニシウスが欠場したからだと考えるのが自然である。それならラスト15分を1-0のままコントロールしようという発想もまた、自然。しかし結果は残酷なものでアトレティコがリスクを鑑みず愚直に同点を目指した結果、ジョレンテの目の前にボールが浮き、ヘディングはゴールに吸い込まれた。このポイント差では負けも引き分けも同じなのでね。

アトレティコには3ポイントが必須の試合であり、マドリーは主力が数人不在ではあった。喪失感が大きいのは事実だが、事象を見ていくとむしろ過去2戦よりもアトレティコのやりたい事が封じられた試合で、見返してからの感想はこの試合単品に見れば同点に追いつけた事を評価していいと思っている。別に10ポイント離されている理由はこの試合ではなく、これまでの結果である。ここで勝てなかった事がタイトルを逸する理由として語られるものでもないでしょう。切り替えます。また、積み重ねていく。どれだけ積み重ねればマドリーを越えられるだろう。答えがなく、終わりもないから面白いのだ。次は国王杯準決勝1stレグ、アトレティック戦。Partido a Partido.


2/4
サンティアゴ・ベルナベウ
マドリー 1-1 アトレティコ
得点者
【マドリー】'20 ブラヒム・ディアス
【アトレティコ】'90+3 ジョレンテ


●ピックアップ選手

ジョレンテ
何度もポジションを変えて攻守に奔走。混乱する事もなく駆け抜けた鈍感力は最大の武器である。ご褒美の同点ゴールはチームを救った。

エルモソ
難しい守備対応を求められ、後半はSBに移動して攻撃に出ながらロドリゴの対応に追われたが最後まで穴を開けずに耐えた。ここにいる理由を示すパフォーマンス。

リケルメ
モラタにクロスを届ける事を期待され、実際ヴィツェルの決定機を演出した。守備はルーカス・バスケス相手に後手に回ったが責任を果たそうと意地を見せてくれた。お疲れ様。

バリオス
オープンな展開に放り込まれ、約7分間でコケから対応を説明されてあとは自力で頑張った。マドリーダービーならではのスクランブルを体験し、一つ成長できている事を願う。

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