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苦悩の先の美酒を コパデルレイRound16 アトレティコvsマドリー(H) 2024.1.18

一週間ぶりの再戦。今度はコパデルレイ4回戦を戦う。勝ったらベスト8。アトレティコはコパデルレイをホームで戦うのはけっこう久しぶりらしい。調べたけど忘れてしまった。2年前のラージョ・マハダオンダ戦はメトロポリターノでやったけれどアウェーゲーム扱いでした。
アトレティコはサウジアラビアから帰ってきて休養充分。マドリーは決勝を戦ってきてお疲れの状態。


●スタメン

・アトレティコ
オブラク
ヴィツェル / ヒメネス / エルモソ
ジョレンテ / デ・パウル / コケ / サウル / リーノ
グリーズマン / モラタ

スーペルコパからはサヴィッチ→ヴィツェルのみ変更。ヴィニシウス対策がポイントとなる。

・マドリー
ルニン
カルバハル / リュディガー / ナチョ / メンディ
バルベルデ / モドリッチ / カマヴィンガ / ベリンガム
ロドリゴ / ヴィニシウス

GKはルニン。チュアメニ→カマヴィンガも前回から変更。




●前半

アトレティコは前半からコンディション差を全面的に押し出して盤面を支配していく。
前回対戦と同様だがマドリーはアトレティコの最終ライン3枚に対して制限が上手くかからず、アトレティコは簡単にハーフウェーラインを越える。

この日のアトレティコは左偏重を意識。コケとデ・パウルがこちらサイドに顔を出してグリーズマンも左ハーフスペースへ。サウルをトップポジションに置きながらグリグリに押し込んでいく。
そもそもアトレティコの攻撃はこっちのサイドから進むものだが、さらにマドリー相手だとヴィニシウスのいるサイドでトランジションを起こさせたくないという面もあったので合理的。サウル周辺を狙う攻撃はネガトラの観点でも安心感が強く、積極性とリスクヘッジを両立させながら試合を支配していった。一方マドリーはベリンガムが戻って来なくても守備が成立するという面はあった。
マドリーはエルモソからの配球にプレッシャーを掛けられず、どの選手も2つ以上の選択肢を警戒する環境になり、結果的に顔を出すグリーズマンが自由を得る事になる。こうなるとアトレティコは簡単に敵陣でプレーできてしまう。


一方のマドリーのボール保持は、クロースとチュアメニがいないとこんなものなのかもしれないが中盤を経由する前進に怖さがなく、押し込む攻撃よりも速い攻撃を選択していく。

マドリーのゴールキック

マドリーのゴールキックでもアトレティコは保持を認めず、同数でのプレスを選択。もちろんヴィニシウスの相手をするヴィツェルも大変だが大外に立つロドリゴの対応を当然のようにこなすヒメネスのスピードはやはり異能。

マドリーのトランジションはロドリゴ&ヴィニシウスにベリンガムがいれば基本的にゴールまで行けるし、この3人を狙って正確なボールがいくらでも出てくるのでチャンスはそれなりに作れていた。ただし、配置を意識してピッチ全体に必然性を作っていったのはあくまでもアトレティコの方。マドリーはどちらかというと支配しきれない箇所を縦のスピード感で誤魔化していた印象がある。それでもいくつもチャンスを作り出したマドリーの全方向性は流石だが。
しかしクローズドな環境を作れずにアトレティコにプレースペースを与えていたのが体力的に不安のあるマドリーの方だった事はこの試合の行く先を暗示していたとも言える。

また、マドリーにとって誤算だったのは右CBに入ったヴィツェルが異常にヴィニシウスへの対応を得意としていた事。おれもよくわからんがほぼ完璧に止めた。縦突破を選択させない距離感の取り方と晒したボールに足を出して奪い切るプレーが全て上手くいき、その度ひっくり返されるヴィニシウスは当然フラストレーションを溜めていき、前半終了間際には意味不明なシーンで審判に噛みついてイエローをもらった。このカードが試合を決定づけるとも知らずに、であった。

アトレティコの守備は普段通りの5-3-2で配置しつつ、これまでのマドリー戦同様、後ろを向いたロドリゴとヴィニシウスに対しては3,4人で囲い込んでしつこく対応した。そこでボールがこぼれてベリンガムに前を向かれると毎度ピンチを招き、11分にはクロスバー直撃のシュートを打たれている。それでもブラジルコンビに打開されるよりはマシという判断がなされた。この2人に侵入されたのは20分の場面で、ヴィニシウスのループパスで背後を取ったロドリゴにフリーでシュートを打たれるがオブラクがパラドン。時折ピンチを迎えながらもマドリーとの試合はこんなもん、あくまでも自分達のペースである事を強く信じたアトレティコの先制点は、39分。

オブラクからの配球でエルモソからスタート。コンパクトな配置を作れていないマドリーは中盤をガラガラにしてアトレティコの前進を許す。こういう時にヴィニシウスとベリンガムが守備に参加しないのは仕方ない事なのかもしれないがアトレティコ的文脈でいくと正直何故許されているのか理解できない。
マドリーの中盤はカマヴィンガがグリーズマンに釘付け、バルベルデはトップポジションにいるサウルが気になってボールに圧力が掛からずズルズル下がっていく。モラタのポストプレーを使って最後は前を向いたデ・パウルのアーリークロスに大外でリーノが飛び込んだ。内側の高い位置で前を向いたデ・パウルとトップポジションに立ってリュディガーの背中を取ったサウルはどちらも配置の狙い通りでアトレティコは自信を深める得点となった。ロスタイムにセットプレーから珍しくオブラクが変な処理ミスをして同点にされたのは想定外だったが、勝利への方向性を確認した45分間だった。



●前半終了

1-1で折り返し。ホームの強い後押しとコンディション差でアトレティコがピッチ全体に強い影響力を発揮した。
マドリーが引き起こすトランジションは脅威ではあったもののコンディション的にもペースが速くなって得をするのはアトレティコの方であり、慌てずに受け入れる事が出来たのも高く評価したい点。マドリー戦の方が冷静だよね、選手達が。カウンターをもらっても試行回数が増えて有利になるのは自分達ですよと。普段ならもっと"コントロールしなきゃ"と慌てていた気がする。
マドリーは繰り返す上下動のバランスを取るためにバルベルデがなかなか高い位置に出ていけなかったのが印象的。代わりに右サイドを走り回ったカルバハルの質はさすがだったが。ボール保持のペースを取り戻そうとするなら鍵になるのはもちろんクロース投入となるが、どこで登場するか。

アトレティコは引き続きペースを握り続ける事ができるか、取り組みの正しさを証明するための後半戦へ進んでいく。



●後半

アトレティコは56分にサウルに替えてモリーナ。トランジション上等の環境を整えつつ、さらにゴールに迫る環境を作っていく。

57分に早速アトレティコの勝ち越し点が決まる。グリーズマンがドリブルで侵入し、中途半端なところに転がったボールをリュディガーとルニンが中途半端な対応をした。モラタが見逃さず決めている。この日のモラタはシュート以外ほぼ完璧な仕事をしていたが、なんだか点も取れて良かった。

前回対戦に続きマドリーの失点はクルトワがいたらどうだっただろう、というものが多い。同時にこれでラリーガ最少失点?という気もする。ただ、ルニンはこの後グリーズマンとモラタの決定機を一つずつ止めているのは意地を感じた。
マドリーは66分についにクロースと、ブラヒム・ディアスを投入。保持を強める事とラストサードの仕事をするエッセンスを追加。

カマヴィンガが左SBに移動

残り20分にしてようやく見慣れた試合展開に。アトレティコは撤退を受け入れつつ、敵陣までプレスに行く意志を持ち続けて強気に盤面を支配していく。

ブラヒム・ディアスが右の大外を取り、カルバハルと協力して侵入を目指す。左サイドはクロースがボールを持つ事でヴィニシウスが大外。SBのカマヴィンガが登場するようになる。ロドリゴがPA内で仕事をする位置に移動し、ここにホセルが入ってくるタイミングでもう一段階フェーズが動くのは前回対戦通り。
アトレティコの守備はヴィニシウスに対してはヴィツェルが足を出し、モリーナとジョレンテがサポートする万全の体制で抑え込み。CKになればエルモソとデ・パウルが挑発を繰り返して揉め事を派手に呼び起こしていく。アトレティコのコントロールはメンタルも含めてどこまでもホームゲームらしく、常に冷静。シメオネはスタンドを煽り、クローズへの後押しを要求していった。

75分、マドリーはブラヒム・ディアスが2人引きつけてマイナスのロドリゴへラストパス。ヒメネスが身体を投げ出してシュートはクロスバーに当たった。これはヒメネスの必要な仕事。

マドリーは80分についにホセルを投入し試合は最終段階へ。スーペルコパ同様これが試合を動かす。モラタの決定機をルニンが止め、アトレティコは再奪回に失敗。カウンターでヴィニシウスとベリンガムに侵入され、ファーサイドでホセルが待っていた。
短時間の出場で必ずPA内のクオリティを発揮するホセルは流石で、ベリンガムのボールは完璧だった。アトレティコからすると再奪回に失敗して終盤に同点ゴールを献上するのは2試合連続で、ちょっといい加減に避けたかった失点。試合を通じてこのプレーだけはあまり納得感がなかった。それを逃さず一発で仕留めるのがマドリーであり、ベリンガムのクオリティであった。



●延長

アトレティコはまたしても逃げ切りに失敗し、延長。

延長前半開始時点

スーペルコパ同様ブラヒムの侵入をなかなか止められず後手に回り始めたアトレティコだが、人数をかけたプレス回避とフレッシュな両WBモリーナ&リケルメの縦方向の矢印でマドリーを引き続き走らせる。98分にはバリオスとメンフィスの投入であくまでもペースを渡さないファイティングポーズを維持していった。特に11月28日のCLフェイエノールト戦以来の復帰となったバリオスはクロースを見張る役割を担当する重要なタスクを与えられた。

アトレティコ待望の勝ち越し点は100分に。ヴィニシウスのコントロールが大きくなったボールがグリーズマンの下へ。ヴィニシウスは奪い返そうとしたがグリーズマンの侵入ルートを塞ぐ事ができずファールもできずにフリーでのシュートを許した。エンブレムにキスしたグリーズマンの175個目の勲章はライバルを沈める貴重なゴールに。

延長後半に入り、アトレティコはクローズに向けてようやくゴール前に人を集めるこのチームらしい守備陣形を整える。111分にセバージョスにゴールを割られたが直前のベリンガムのオフサイドに救われる。
どこで痛めたのかわからなかったがアスピリクエタが膝を怪我して交代するアクシデントがあったがサヴィッチを投入して強度を保ち、119分にそのサヴィッチの縦への配球からカウンター発動。モリーナ、メンフィスで解決し、最後はフリーのリケルメがフィニッシュ。ついに、ついに試合を決めた。



●試合結果

2週続けた120分の試合は、それ以上に感じられるほど長い戦いとなった。ホームのアトレティコは最後までコレクティブにピッチを支配し、怪我人と連戦の疲労で別の選択肢を取れなかったマドリーとは対照的に余力を持って延長を戦った。強気にボールを奪いにいくファイティングポーズを崩さず、マドリーの時間を120分に渡って作らせなかった試合はおれが見てきた中でも初めての経験である。ボールを保持してGK-CB間にボールを放り込んだ時間も撤退してカウンターを狙った時間も計画的であり意識的であった点に、この勝利の価値が詰まっている。この一段は、大きな一段となった。
凝縮されていたのは最後の4点目で、オブラクは蹴っ飛ばさずにサヴィッチへのショートパスを選択し、サヴィッチの縦パスに反応したグリーズマン、バリオスの質はアトレティコの生命線である。両翼の走力をこの時間まで保てる事も同様。最後まで牙を引っ込めなかった姿勢は簡単に得たものではない。山ほどあった失敗の先に成り立っている。

ラリーガでは大きく差をつけられたアトレティコだがこれで国王杯はベスト8に進む。年始から苦しんだがようやく得た勝利を手に、厳しいカレンダーに挑んでゆく。


1/18
シビタス・メトロポリターノ
アトレティコ 4-2 マドリー
得点者
【アトレティコ】'39 リーノ '57 モラタ '100 グリーズマン '119 リケルメ
【マドリー】'45+1 OG(オブラク) '82 ホセル


●ピックアップ選手

グリーズマン
ダービーマッチ3戦連発となる175個目のゴールは決勝点に。中央でビルドアップの逃げ道を作り続けて相手を押し込む試合を作り出した。

ヴィツェル
ヴィニシウスをほぼパーフェクトに抑えて120分間貢献。右サイドでビルドアップのやり直しも担保した。

デ・パウル
この日もドリブルゲインとハードな守備で貢献。先制点のアシストは得意な形からのアーリークロス。

オブラク
惜しい失点もあったがそれ以上に止め続けチームを鼓舞した。

バリオス
復帰戦。変わらない質を見せた。必要な仕事は山ほどある。

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