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現時点の着こなしの差で 6節 アトレティコvsマドリー(H) 2023.9.24

さあダービーだ。求めるものは勝利のみ。

バレンシアに0-3で敗れ、CL初戦もロスタイムの劇的失点で1-1ドローに終わっているアトレティコ。ここで負けると1試合未消化だが11ポイント差をつけられる試合であり早くも負けられない試合が訪れた。

マドリーはここまで公式戦全勝。ベリンガムの劇的ゴールが連続で飛び出しエモーショナルな試合が多いが、逆に言えば後半ロスタイムまで試合を決められないケースが多発している。クルトワ、ミリトン、ヴィニシウス、カルバハルと主力の欠場が相次ぎ、ベストメンバーを揃えられない状況下の一戦となった。




●スタメン

・アトレティコ
オブラク
サヴィッチ / ヒメネス / エルモソ
モリーナ / ジョレンテ / コケ / サウル / リーノ
グリーズマン / モラタ

ヒメネスがようやく今季初のスタメン出場。そしてコケが復帰する。
左WBは引き続きリーノ。

マドリー
ケパ
バスケス / リュディガー / アラバ / フラン・ガルシア
カマヴィンガ / バルベルデ / クロース / モドリッチ / ベリンガム
ロドリゴ

カルバハルが欠場で右SBはバスケス。
ロドリゴとベリンガム、その下にモドリッチを並べる4-3-1-2の配置で試合に入る。



●前半

・マドリーのビルドアップとアトレティコの対応

アトレティコはマドリーの配置を確認しながら試合に入った。

マドリーは後方2-3でビルドアップ。両SBが大外高い位置へ移動し、前線の3人で中央3レーンに立つ。主に右からロドリゴ、ベリンガム、モドリッチの並びが多かった。狙いはいまいちわからなかった。

アトレティコの守備の優先順位はまず第一に中盤、バルベルデとクロースを自由にしないことにあり、大外のSBはモリーナとリーノが完封できる前提の設定になっていた。
グリーズマンは相手CBへのプレッシャーよりも中盤ラインの左大外に動く意識が強く、バルベルデにグリーズマン、クロースにはジョレンテが対応するのが基本。そして最近はアンカーをアンカーで消す守備対応が多かったアトレティコだが、この日のアンカーコケは前のカマヴィンガよりも背中のベリンガムを警戒する意識が強く、マドリーの2CB+カマヴィンガは簡単にボールを持つことができた。この配置ならクロースがアンカーから配球してくる方がアトレティコは守りにくかったなという結果論になる。
カマヴィンガ周辺には、サポート意識の強すぎるモドリッチ&ベリンガムが頻繁に降りてきて、相手守備陣を押し込むとワイドでボールをもらいたがるロドリゴは勝手に中央からいなくなるので最前線にいるのはバルベルデとフラン・ガルシアになるタイミングもあるなど、マドリーはピッチ上で最適解を探す手探りの序盤戦となった。


・あてが外れたマドリーの守備

アトレティコは4分に先制点。この日頻繁に個の特徴を出した左WBリーノのピンポイントクロスがモラタにドンピシャで合った。たぶんプロヴェデルのゴールを見返しまくった結果イメージが合ったんだと思う。
マドリーは4-3-3のような配置からモドリッチが中盤ラインに吸収される4-4-2を計画しているように見えたが、この先制のシーンではコケに圧力をかけたベリンガムがモドリッチに"何故CBに行かない?"というリアクションをしていたのが印象的。

連動しないプレス

実は特に何も設計していなかったのではないかと思われる。その結果、普段はWBにいかにクリーンなボールを入れるかに腐心しているアトレティコだったが先制点、2点目ともに何の苦労もなくCBからリーノへ広大なスペースで1vs1が出来るボールが入っている

2点目のシーン。右サイドのスローインからヒメネスまでボールが戻るとリーノへのパスルートがガラ空きでまたしてもバスケスとの1vs1を選択。今回はサウルがポケットを取って折り返し。モラタがアラバをニアに釣り出してグリーズマンがフリーでゲット。
この2つは明らかにマドリーの守備がお粗末だったと言う他ない。18分間で願ってもいない2点のリードとなった。


そして、マドリーのこのモドリッチが中盤に帰ってくる4-4-2の形はどうしてもクロースが左大外の守備を担当することとなり、モリーナ&ジョレンテのサイドをクロースとフラン・ガルシアで守りましょうというのはいくら何でも無理な設定だった。この辺を見てもこの日のマドリーのスタメンはアトレティコの姿が見えていない独りよがりな選択のように見える。アトレティコと対戦するチームはどこも左WBにクリーンなボールを入れさせない事と、モリーナ&ジョレンテに背後へ走らせない事に主題を置いて守る。その結果グリーズマンを捕まえきれなくなるのが通常の試合だが、この日は左WBのリーノには自由を与えられ、右サイドは28分にモリーナ

28分、グリーズマンのポストを使ってコケ→モリーナの裏抜け

31分にはジョレンテが背後を取り、決定機を作っている。

31分、スローインを受けたモラタからモリーナ→ジョレンテが一発裏抜け

このタイミングで試合を決める3点目が入る可能性は大いにあった。同じ街のライバルのサッカーがどんなものかもわからないくらい舐めているというのなら5点でも10点でも取ってやれという展開となった。


・アトレティコ守備の改善ポイント マドリーの反撃

マドリーの反撃は35分。ラツィオ戦でもやや不安があったアトレティコの左サイドの守備対応からだった。詳しく書いておく。

右大外でバスケスがボールを持ってリーノと対面。バルベルデが持ち前のダイナミックなランニングで外側から追い越していってフリーでクロスを上げた。結末はクロースの強烈なミドルシュートでノーチャンスではあったが、ここでリーノはバスケスと縦の1vs1を望んで内側を切って対峙している。彼の想像の数段速いスピードでバルベルデが追い越していったか、そもそも認知できていなかったかのどちらかだが、彼のアクション的にバルベルデは視野には入っていた。知らないスピードで追い越していったというのが答えと思われる。
グリーズマンにこの大外対応をさせるのはさすがに過労働で、エルモソも届かない(というか出てくるべきではない)箇所で、リーノは自身の対人守備能力に自信を持って挑むのは良いがここはチーム全体の守備バランスを考えてマークの受け渡しを念頭に置くケースだった。これはお勉強。
ちなみに、リーノはこの直後39:00のシーンでバスケスの外側を回るモドリッチの対応をして内側に入っていくバスケスのマークを上手くサウルに受け渡していた。

どんだけ押し込まれるんだと、もはや思わないアトレティ

すぐ修正できて偉いねと言うこともできるが、試合前から外を回る選手いたら受け渡せと指示されていたのを守らずに失点に繋がった可能性が高い。まあお勉強です。致命傷にならずに済んでよかった。

クロースの得点から前半終了までの10分弱はマドリーのターンで、このわけのわからないシステムで0-2から同点に追いつきそうな時間を作ってしまうのだからシンプルにマドリーが凄かった。この時間帯はアトレティコ側のPA内の守備対応も緩く、ロスタイムにはロドリゴに抜け出されそうになりヒメネスがイエローを貰うなどしながら1点のリードを守ってロッカールームへ帰ることが出来た。


●前半終了

2-1でホームのアトレティコがリードし、前半終了。願ってもいない2得点のスタートからペースを逸しての失点。見返すとリードした割にはバタついた45分間であった。
まずは普段通りにWBにボールを入れようとしたら簡単にフリーでクロスを上げることができて先制、引き続きリーノに余裕がありサウルを使って2点目。その後はマドリーがきっちり4-4-2ブロックを作ったことで逆に右サイドの質を活かして裏抜けが簡単に使えるようになっていった。
35分の失点はクロースのゴラッソだがリーノの判断ミスが絡んだ。そこからマドリーの時間を作られたがギリギリで耐えて前半を折り返している。アトレティコは撤退守備の修正を、マドリーは配置の合理化と同点ゴールを狙う後半に向かう。


●後半

アトレティコはコケ→ヴィツェルを交代。まだフル出場は難しかったようだがブロック守備にしても配球にしてもワンランク上のプレーを見せた。間違いなくダービーの勝利に必要な45分間。カピタンの仕事はやった。あとはヴィツェルがやる。
マドリーはモドリッチ→ホセル。結局ストライカーを前線に入れて配置を動かした。

・決定的な3点目

開始早々にアトレティコは貴重な3点目を奪う。マドリーはクロースとカマヴィンガの位置を入れ替えて後半に臨んだが、アトレティコは左サイドの構築にヴィツェル、エルモソも参加してグリーズマン経由でまたしても大外のサウル。中央へ上げたクロスに再びモラタが合わせた。リュディガーが簡単にグリーズマンに釣り出されたり大外に移動したサウルを捕まえられなかったりと、マドリーは全く対応できなかった。
アトレティコは1点差の逃げ切りをミッドウィークのラツィオ戦で失敗しており、前半終盤のマドリーのラッシュを見てもこのまま2-1で引きこもるのはリスクがありそうだった。もう1点を求める戦いを1分で終わらせて、あとは守り切るだけの状況を作れたのは非常に大きかった。


・交代策

57分にマドリーはチュアメニ、メンディ、ナチョを投入。チュアメニは中央からの配球と強烈なミドルシュートで、メンディは左へ移動したロドリゴをサポートするランニングで攻撃を活性化させていった。ロドリゴは何度もPA内までチャレンジしてきたがゴールネットを揺らすには至らず。ホセルもゴール前でほぼ止めることのできないポストプレーを何度も決めていて常に危険だった。

アトレティコは65分にモリーナに替えてアスピリクエタを入れる。
先季のモリーナはほぼフル出場だったのでこの交代はあまりわからなかった。出場時間をセーブするにしても、そういう選択は別の試合ですれば良いし、モリーナがまだ怪我明けで状態が100%ではないと考えるのが自然。そしてロドリゴとメンディに攻略されかけている右サイドに、バレンシア戦でセルジ・カノス相手に後手に回ったアスピリクエタを入れたのはシメオネからの変わらない信頼の表明となった。

マドリーは前半同様、1点差にすることができればロスタイムに同点に、という場面を作れたかもしれないが、アトレティコは後半45分を通じて2点差をキープ。結果論だが残り時間が少なくなってからモドリッチが出てくるような展開の方がアトレティコにプレッシャーを与えられた気はする。
アトレティコは周囲の尻拭いに奔走していたヒメネスが足を攣って86分に交代。ヴィツェルをCB中央に動かして何とか逃げ切った。


●試合結果

ダービーの勝利はいつだって格別である。ここ最近試合に勝てていない状態で、負けるとマドリー・バルサに大きく置いていかれる状況でもあり、必要な3ポイントだった。

アトレティコはバレンシア戦で大外に優位を作れず惨敗。ラツィオ戦ではなかなかカウンターを打てず、膠着した展開を崩すことが出来なかった。この日は相手の守備組織の都合もあり、ラストパスを送る環境までは難なく到達できたのはラッキーだった。もちろん3点取れた決定力は褒められて然るべきだが、だからといってここ数戦の得点機の少なさを解消できたとは言えないということは付記しておく。

それにしても矛盾のない守備組織を準備できた。特にIHを消すジョレンテ&グリーズマンの配置は、他のチームにはなかなか出来る芸当ではない。グリーズマンがそれをやるんだぞ、という感じ。ヒメネスを中心に強気な姿勢を崩さなかった最終ラインも実にアトレティコらしい構築だった。3点取って勝った試合だが、あくまでも「守り勝った」という印象を残した一戦。
リーノの守備についても指摘したが、5バックの大外対応なんてカラスコは結局ちゃんと出来たんだか出来ないんだかわからないまま3年も4年もやっていたんだから、まだまだこれからである。ビッグマッチでミスをして失点に繋がって、これからは身体が勝手に動くだろう。試合に勝てた事を考えればリーノにとって重要な経験値となった。

マドリーはヴィニシウスがいるだけで状況は全然違っていたと思うが、今いるメンバーのベストを引き出す試合に出来なかったのは事実。どことなくこの試合の事よりその他諸々の都合を感じる人選で、ダービーマッチに気持ちが向ききっていない印象を受けた。
そもそも、怪我人が出ようと人が入れ替わろうとこの試合に向けた戦術が確定していたアトレティコに対し、ベンゼマの退団から始まった正解探しの解答をまだ見ていないマドリーの対比が色濃く出た試合であり、この日の結果は現時点での戦術の着こなしの差と言える。2月の再戦がどのような対戦となるか、楽しみになる一戦であった。

まずはこの勝利を喜ぼう。次はミッドウィーク、オサスナ戦。


9/24
シビタス・メトロポリターノ
アトレティコ 3-1 マドリー
得点者
【アトレティコ】’4 ’46 モラタ ’18 グリーズマン
【マドリー】’35 クロース


●ピックアップ選手

ジョレンテ
最近の低調なパフォーマンスを覆し、撤退守備でも攻撃に転じるカウンターでも、唯一無二の存在であることを思い出させる出来。勝利に大きく貢献した。

モラタ
大一番でヘディング2発。どちらも完璧なゴール。ダービーマッチのヒーローとなった。

リーノ
CLラツィオ戦に続くスタメン起用でモラタの先制点をアシスト。2点目では内側侵入をチラつかせてサウルのクロスを呼び込んだ。ロングボールの質も良く、レギュラー奪取に名乗りを上げた。

ヒメネス
ようやく今季初スタメンでゴール前に鍵をかけるハイパフォーマンス。前半ロスタイムにはロドリゴの独走を止めるスライディング。周囲への声掛け含め、彼らしさを出した。

コケ
ダービーに合わせて復帰。45分間のみのプレーとなったが圧巻の配球で前半の流れを決めた。

サウル
好調を維持するフル出場。2つのアシストで勝利に寄与した。

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