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その気持ちを煮込んだなら CL Round16 1stレグ アトレティコvsインテル(A) 2024.2.20

帰ってきた決勝トーナメント。インテルの分析はこちら

たくさんの苦しみと進化と、3歩進んだのに4歩戻るような日々にもCLという目標があってこそ、このチームを歩ませる。シメオネに発破をかける。
幾多のチャレンジと失敗は、多数の補強と数多の別れは何もかもこのトーナメントを勝ち進むためにあり、ライバルの勇姿に心を熱くし、歯痒い日々にも耐え得る。それでも勝利が、勝利だけが喜びである。そのための苦しみだ。栄光を夢想してこそ足掻ける。突き進む。何度目だかわからない。アトレティコ・マドリーの挑戦が始まる。

会場のジュゼッペ・メアッツァはアトレティコにとって思い出の地でもある。2016年5月28日。シメオネ体制2度目のCL決勝の舞台であった。インテルは強敵であるという当然の理解と、ここはまだRound16であるという当然のプライドと。

2年振りの決勝トーナメントだ。盛大に楽しんでいこう。




●スタメン

・アトレティコ
オブラク
ヴィツェル / ヒメネス / エルモソ
モリーナ / デ・パウル / コケ / サウル / リーノ / ジョレンテ
グリーズマン

グリーズマンが頂点の5-4-1。
3CBはヴィツェル、ヒメネス、エルモソの組み合わせ。
パウリスタが復帰してベンチ入り。危ぶまれたモラタも間に合っている。

・インテル
ゾマー
パヴァール / デフライ / バストーニ
ダルミアン / バレッラ / チャルハノール / ムヒタリアン / ディマルコ
ラウタロ・マルティネス / テュラム

アチェルビが欠場で3CBの中央はデフライ。あとはベストメンバー。



●前半

・非保持ブロック形成

アトレティコが自陣にブロックを置く事を確定させて試合が始まる。結局ジョレンテが右、サウルが左に入る5-4-1となった。

インテルは後方3CB+バレッラ&チャルハノールがビルドアップに関与。配球は主に右パヴァールから始まり、それにバレッラが近づく。アトレティコはグリーズマンがチャルハノールに入るボールをやや警戒し、左サイドからの侵入を受け入れていく。サウルは自身の周辺にインテルの選手が通常2〜3人いる環境で、彼の動きが撤退守備のバランスを主に決めていった。ジョレンテはバストーニの正面に立ち、ムヒタリアンは後ろのデ・パウルに、ディマルコはモリーナに任せる。この右サイドのバランスは個人的に疑問だったが後ほど。
左サイドはチャルハノール番のコケが人数調整に顔を出して対応。ようは良い体勢&FWとタイミングが合った環境でアーリークロスを上げさせない事が最初の設定であり、そこを満たす守備設定は十分に出来るなという実感は15分ほどで掴めた。

インテルはデ・パウル&コケに見張られている事もあり、ボールロストを嫌がった事もあり、中央ルートにパスが刺さらず、まだ高い位置に上がりきれていないWBがボールを触るシーンが目立った。アトレティコは必ずここに両WB(モリーナ&リーノ)が前を向かせない対応。そして後ろに戻るボールに反応してプレス開始。

WBが相手WBを捕まえている環境はアトレティコの選手達のマーク対象が完全に決まっている事を意味し、グリーズマンがデフライ、ジョレンテがバストーニ、サウルがパヴァールを捕まえる位置まで前進。GKが関与するやり直しを捕まえようと画策した。

大概パヴァールまでボールが戻るので、外側サポートにいくダルミアンをリーノが捕まえてガチっとハメる。人数バランスが合っていればエルモソはバレッラのところまで出てくる形を作った。
インテルはラウタロ&テュラムにスペースがある形は悪くない環境で、この形の有効性は微妙なところ。時々外されて突進を許す事にもなったが前半のチャレンジとしては良かったのではないか。

それより序盤戦で苦しんだのはMFからのロングボールで、15分にチャルハノールからバストーニ

18分にはパヴァールからラウタロ

どちらの場面も、アトレティコ的には"ハマってるな"という環境を一気にひっくり返されるのでなかなかしんどい。それなりにハマっている実感があってもキック出来るスペースを与えるとひっくり返される感覚はプレスを諦めて撤退を決心してもおかしくない精度で、これで相手チームの心を折って押し込んでいくんだなというプレーである。
アトレティコは蹴らせないためにチャルハノールにはコケがかなり遠いところまで追いかけて対応していた。こういう責任感の意識はコケの真骨頂である。当然、どこまでも追いかけてそれでも中央には穴を空けなかった。


・アトレティコのボール保持

アトレティコのボール保持に対して。インテルも前プレ志向はかなり低いのでアトレティコにもビルドアップフェーズは訪れた。エルモソの配球には序盤からバレッラが制限をかけに来る形が確認され、サウルのトップポジション配置が確定しているのでバレッラがいなくなるのはアトレティコ目線で言うと"いいんですか?"という感じ。リーノが大外でエルモソに関与し、内側のデ・パウル&コケを使って解決していく形を問題なく使えた。

この日のアトレティコの保持配置は3-4-1-2のような形で、ジョレンテとサウルをFWにしてグリーズマンはデ・パウル&コケに近づいて縦パスで中央侵入を狙った。ちなみにこのパスが想像していた以上に簡単に通り、グリーズマンのライン間ワークを普段通りに使えたのは割と拍子抜けした。

特にWBが関与する前進に対してインテルのMFはボールサイドに固まるのでデ・パウル&コケ、グリーズマンにサウルが関わり、中央を使って逆サイドを使うと簡単にリーノの1vs1を準備できた。これを狙ってグリーズマンは右へ移動する形を多く選んだ。

また、ダルミアンは空間よりも人(リーノ)の対応を優先する事も確認され、外側からエルモソが出てくるとフリーでクロスを上げられる形も発見。ここはバレッラが気合で対応していたが2ndレグでも意識して再現したい形となるのでチェック。


・HVの移動フェーズへ

だいたいお互いの選択肢が確認できた20分過ぎ頃から、徐々にインテルはHVを押し上げる形を使い始める。パヴァールは内へ、バストーニは外へ。

アトレティコはパヴァールへの警戒を強め人を割いて対応していくが、一方のバストーニはある程度放置した。大外なら良いというかしゃーないというか。

たまに良いサイドチェンジが飛んでいったがモリーナが対応し、近づくディマルコをヴィツェルが見る形でスライドした。左サイドに人を割いているから右サイドを押し込まれてもスライドで間に合う。個人的にあまりバストーニを放置する事はないと思っていたので意外だっだが、しっかり設定できた。ヴィツェルは2トップのポストプレーと裏抜けを警戒しながら外側のサポートに行く仕事を完璧に対応。

インテルの一番狙っている形が出たのは36分。

ダルミアンの足下にボールを入れてパヴァールがポケットへスプリント。このマークの受け渡しでエルモソ&サウルの対応が被り、得意のハーフスペースでバレッラをフリーにした。中とタイミングを合わせたアーリークロスがラウタロにドンピシャで合ったが、これはオブラクの守備範囲だった。押し込まれる時間が長くなればこのボールの試行回数が増える事になり、どこかで点が入ってしまうのがインテル。アトレティコは命拾いしつつ、前半のうちに一度この形を見れた。38分にはデ・パウルのとんでもないロストからピンチを迎えている。デ・パウルは絶妙に試合のペースを掴めずにいた。



●前半終了

0-0で折り返し。インテルの選択肢を一つずつ確認しながらまずはスコアレスで45分を終える目標を達成した。
ピンチもあったが当社比で"まあ水際で抑えられますね"という実感はあった。オブラクが3,4本止めるのも計算に入れて守っているのがアトレティコ。ビッグセーブは結果論ではなくオブラクがチームにいる意味である。

極限の試合におけるアトレティコの攻撃のバランスは、グリーズマンの前に何人の選手がいるかでだいたい説明がつく。
この日の前半で言うとジョレンテとサウルの2人。時々リーノ。このメンバーでグリーズマンが誰とコネクトした時に得点の可能性を高められるか、という話になる。また右ではモリーナ&ジョレンテとグリーズマン、左ではサウルとリーノ、エルモソが関与してクロスを上げる体制を作る事は出来たが、その時ゴール前には誰が?というところにもう一つポイントを作りたかったのは事実。モラタの投入に繋がっていく文脈。
その上で、後半のポイントは0-0で良いのか、1点取りたいのか。そしてこのまま自陣で守備をしている事が本当に0-0で終えるための最善策と言えるのか。をシメオネが判断していく事となる。後半に進む。



●後半

両チームともにアクシデントがあり、インテルはテュラム、アトレティコはヒメネスがここで交代する事に。どちらも攻防のキーマンになっていたので残念。

インテルはアルナウトヴィッチが登場し、アトレティコはサヴィッチを入れてヴィツェルが3CB真ん中に動く事になった。ヴィツェルはバストーニ突進に対応するスライドのキーマンだったので右に置いておきたかったが。

49分に早速そのアルナウトヴィッチに決定機が来た。この場面はパヴァールのアウトサイドを使ったプレス回避がきっかけで、インテルのWBからFW(テュラムがいなくなったので基本的にラウタロ)に入るくさびのボールはわかっていても止められない。アトレティコはヒメネス不在でどこまで耐えられるのか。

・バランス変更 モラタ投入

54分にアトレティコは早めの選手交代。サウル→モラタを替えた。

これで明確にグリーズマンより前にいるメンツを変えて得点への可能性を高める事になった。グリーズマンの相棒としてPA内に構えるストライカーを置いた形。
同時にサウルが関与していた左サイドの構築から人が一人いなくなる事となるが、これはデ・パウルが左に回る事で対処。左からは引き続き押し込みましょうという形を継続。一方右サイドはモリーナとジョレンテで突破してくれという環境は変わらない。グリーズマンが関与する事もコケがサポートする事も同じ。3CBの右HVヴィツェルがサヴィッチに変わっているが、縦パス投入だけならむしろサヴィッチの方が上手いのはご存知の通り。

バランス変更で気になるのはむしろ守備対応で、これまではグリーズマンを頂点に置いていたが頂点はモラタに変わり、中盤は右からジョレンテ、コケ、デ・パウルに変更。グリーズマンは右外側に落ちる事に。

この形自体はたまにやっているので特に問題ないが、前半以上に大外を駆け上がるバストーニを放置する事が確定していく。同時にモリーナ&ジョレンテで"バストーニがいないならそこを突っ走りますよ"を突きつけているとも言えるのはこの試合に限らず2ndレグへ向けたシメオネからの威嚇である。守備配置で相手チームの対応を問うのはシメオネの得意技。引きこもって守りながらも相手チームに変更を強いていく強気の選手交代だった。

ちなみに致命傷にはならなかったが左に動いたデ・パウルは外側からサポートするパヴァールのマークは自分ではなくリーノが見るように指示しており、リーノは「そりゃ無理だろ」というリアクションをしていたので2ndレグで注意したい。ここは後ほどピックアップする。
アトレティコはこういう個人に判断で生まれる差異をチームで修正せずに裁量に任せがちだがここは確実に修正したほうが良い。


・唯一のチャンスタイム

投入直後に早速モラタのポストプレーでリーノへ展開。ダルミアンを振り切ってデ・パウルとのワンツーを使って決定機に。この試合最大のチャンスだった。リーノはダルミアンを振り切る形は作れているが結果が欲しかった。残念。57分には縦パスをサヴィッチが捕まえてショートカウンター。ジョレンテの裏抜けを呼び出したが、ゾマーが勇敢に飛び出した。

その後のコケのミドルシュートも含めこの5〜10分はアトレティコも得点の可能性を示す事ができた時間だった。2ndレグへのヒントもきっとこの時間の中にある。


・終盤の攻防へ

68分に2枚替え。イエローをもらっておりアルナウトヴィッチに苦労していたエルモソに替えてヘイニウドで補完。バリオスはモリーナと交代でジョレンテをWBに動かした。バリオスはラス・パルマス戦で前プレの反応が良かったのも後半に起用しやすくなったポイント。
直後にインテルは両WBを交代し、走力を持続させる。その後フラッテージがムヒタリアンと交代で出てきた。

徐々にドゥンフリースが攻守でリーノを上回り始めると右サイドから良いクロスが入り始めて時間の問題感が出てくる。さらにカルロス・アウグストとボールを追いかけた際にグリーズマンが足首を痛めてコレアと交代。アトレティコはいよいよ得点を諦めて気持ちは0-0に完全に傾く。

が、その直後のプレー。スローインを跳ね返したセカンドボールをヘイニウドとデ・パウルがお見合いしラウタロに決定機。一度はオブラクが防いだがこぼれ球に反応したのは2,3度の決定機を外してきたアルナウトヴィッチ。アトレティコは隙を見せた。

不本意な失点だった事もあり最終盤に"可能なら同点にしたい"という色気を出し始めたアトレティコだったが突然グリーズマンがいなくなった事もあり、リーノがドゥンフリースに封じられた事もあり、チャンスはモラタのヘディングが一回あったくらい。割と誤算だったのは先制点以降、コントロールを重視した主審が抗議にカードを出し始めた事でサヴィッチとモラタが早速イエローをもらう事に。突然の基準変更はちょっと追いかけるアトレティコには厳しい結果になった。フラッテージにも出たが。

割と0-1でいいのか絶対に点を取りにいくのかが微妙に揃わないままあやふやな時間を過ごしたが致命傷は受ける事なく、このまま試合終了。



●試合結果

アウェーの1stレグを0-1で終えた。アトレティコは180分の中で点を取りに行くのなら明らかに後半戦(ホーム)の2ndレグに合わせるべきであり、1stレグの目標は無失点で通過する事だった。最後はミスからの失点があり0-0とはいかなかったが、試合全体を見た時にアトレティコのパフォーマンスは失望するようなものではなかったと言える。もうちょっとで目標達成という内容だった。インテルの攻撃の受け止め方も擬似カウンターに晒された場合の対応も、準備された通り。ヒメネスが45分しかプレーできないアクシデントはあったが、崩壊する事はない戦いが披露できた。

インテルのゲームプランは想定通りで、その強度も想定通り。変わった部分は特になく全て予想できた内容の試合だった。ラウタロはどうしようもない事もよくわかった。2ndレグはカードで止める事も含めてリスクの負い方は重要になってくる。ドゥンフリースの対人守備かな、良かったのは。2ndレグのポイントになる予感。


などというのは表の話で、1stレグは致命傷を負わずにホームに帰る事が最大のポイントである事をどれだけ理解しても実際はCL決勝トーナメントで得点の匂いをさせられずに引きこもった戦いにイライラしている。はらわたが煮えくり返りそうだ。あと3週間この"0-1"を背負い続けるもどかしさで頭が破裂しそうだ。逆襲の2ndレグをメトロポリターノで必ず見せて欲しい。アトレティコなら出来る。

2ndレグはスコアを追いかける試合となる。ホームの後押しを受けながら同点、逆転を目指す戦いに進んでいく。1stレグとは全く異なる試合展開が予想できる。さて、勝利へ。この悔しい気持ちも3週間グツグツと煮込みながら、栄光の時を待つ。


2/20
ジュゼッペ・メアッツァ
インテル 0-1 アトレティコ
得点者
【インテル】'79 アルナウトヴィッチ


●ピックアッププレー デ・パウルを操縦する事

2ndレグで見たくない対応を取り上げる。
後半サウル→モラタが交代した事でデ・パウルが左に移動。
前半はダルミアン周辺の対応をなんとか耐えていたアトレティコだったが、後半はリスクを生んだ。

デ・パウルは目の前のボールに対する対応は非常に上手い選手で、広範囲に動き回って守備をする能力もかなり高い。この試合ではチャルハノールの長いレンジのキックを絶妙な距離感で抑え込み、こちらサイドからの侵入を巧みに防ぐ立役者になっていた。ボールホルダーに飛び込むフェイントを掛けたりと色んな事を仕掛ける。
しかし美学というべきか、自分ルールがあまりにも多すぎるという難点がある。この試合で言えばチャルハノールの対応に集中したかったのか、「チャルハノールのキックを警戒する事だけが重要」と思っているかのような対応をし、外側にオーバーラップしてくるパヴァールの対応に出てくるようにリーノに何度も指示を送った。それは無理です。
結果パヴァールがフリーでクロスを送る場面を作られたり、リーノが「じゃあドゥンフリースのマーク、ヘイニウドやってくれる?」と首を振ったタイミングでドゥンフリースに思いっきり裏を取られたりとバタバタした。この辺りは明確にデ・パウルを起用する難点である。リーノは守備ではデ・パウルに言い返すほどの自我がなく、ヘイニウドは元々視野に入った相手を全員殺す事しか関心がない。

※復帰前の事をよく知らない方向けに説明するとヘイニウドはボールに吸われすぎてエリアを守れないという永遠に直らない課題がある

中央にヒメネスがいて主導権を持っていればまた違ったのかもしれないが、この左サイドの守備対応の指示系統がデ・パウルに集まると間違いが起こる可能性があり、ここは2ndレグに向けて、というかもう次の試合に向けて普通に修正してほしい。デ・パウルに守備の主導権を持たせちゃ駄目です。


●ピックアップ選手

リーノ
ダルミアンとの対人で優位を持ち、想像以上に1vs1をやらせてもらえた環境もあってチャンスメイクを繰り返した。普段はあまり言わないがこの日は結果だけが欲しかった。

ヴィツェル
前半から抜群の危機察知で各所のカバーに奔走。相変わらずクロスボールはアフロに吸い込まれ、何度も跳ね返した。

ヒメネス
外に流れるテュラムとラウタロのポストプレーを両方見張る難しいタスクを完遂したが前半で負傷交代。

モラタ
もう復帰した。待望のゴールは2ndレグに。

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