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越える。 〜インテルのスカウティングレポート〜

インテルを分析していく。見た試合。

16節vsラツィオ(A) ○2-0
コパイタリアRound16vsボローニャ(H) ●1-2(延長)
17節vsレッチェ(H) ○2-0
18節vsジェノア(A) △1-1
19節vsヴェローナ(H) ○2-1
20節vsモンツァ(A) ○5-1
スーペルコパ準決勝vsラツィオ ○3-0
スーペルコパ決勝vsナポリ ○1-0
22節vsフィオレンティーナ(A) ○1-0
23節vsユベントス(H) ○1-0


※おまけ
CL1節vsソシエダ(A)△1-1
CL6節vsソシエダ(H)△0-0



●事前確認事項

■成績

先季はリーグ2位の71得点を決めたが12敗が響き、3位。CLではポルト、ベンフィカ、ミランを倒して決勝まで進んだが、マンチェスター・シティに敗れて準優勝。今こうやって見ると組み合わせに恵まれていた気はする。ちなみにグループステージはバイエルン、バルサと同組だった。今季のタイトルへのモチベーションはかなり高いチームというイメージ。

迎えた今季、CLはソシエダに2つ、ベンフィカに1つ引き分けて2位通過。一方、国内では6節のサッスオーロ戦とコパイタリアでボローニャに負けただけ。セリエAでは22試合を消化して10失点。クリーンシート15回、複数失点は2回だけ。一試合未消化で2位のユベントスに4ポイント差をつけて独走態勢。絶好調のエースのラウタロ・マルティネスはすでに先季の21ゴールに迫る19ゴール。得点王レースの勝負を早くも決めて関心事はゴンサロ・イグアイン(ナポリ)のセリエA最多ゴールの"36"との競争となっている。


■移籍 in/out

今季開幕前の移籍in/outを確認。

out
サミル・ハンダノヴィッチ(→引退)
アンドレ・オナナ(→ユナイテッド)
ミラン・シュクリニアル(→パリSG)
ダニーロ・ダンブロージオ(→モンツァ)
マッティア・ザノッティ(→ザンクト・ガレン)
ロビン・ゴセンス(→ウニオン・ベルリン)
ラウオル・ベッラノーヴァ(→カリアリ)※レンタル満了
マルセロ・ブロゾビッチ(→アル・ナスル)
ロベルト・ガリアルディーニ(→モンツァ)
バレンティン・カルボーニ(→モンツァ)
エディン・ジェコ(→フェネルバフチェ)
ホアキン・コレア(→マルセイユ)
ロメル・ルカク(→チェルシー)※レンタル満了

in
ヤン・ゾマー(←バイエルン)
ラティエレ・ディ・ジェンナーロ(←グッビオ)
エミル・アウデロ(←サンプドリア)
ヤン・ビセック(←オーフスGF)
ベンジャマン・パヴァール(←バイエルン)
カルロス・アウグスト(←モンツァ)
ファン・クアドラード(←ユベントス)
ダヴィ・クラーセン(←アヤックス)
ダヴィデ・フラッテージ(←サッスオーロ)
ステファノ・センシ(←モンツァ)
マルクス・テュラム(←ボルシアMG)
マルコ・アルナウトヴィッチ(←ボローニャ)
アレクシス・サンチェス(←マルセイユ)

山ほど入れ替わったが、まとめると

・GKが総とっかえ。
・DFはシュクリニアルが抜けた。
・WBの控え確保が必要。
・ラウタロ・マルティネスの相棒を選び直し。
・最大のポイントは中盤中央からブロゾビッチが抜ける事。

となる。GKにはゾマーを確保。DFとWB兼用のパヴァールも獲得し、左はディマルコの控えにカルロス・アウグスト。中盤は人気銘柄のフラッテージを連れてきてクラーセン(好き)、センシなど枚数を担保した。ラウタロ・マルティネスの相棒はこちらも争奪戦になったマルクス・テュラムと、アルナウトヴィッチとアレクシス・サンチェスという計算できるベテランを2人獲得した。


■基本布陣

今シーズンの基本布陣。

基本布陣

3CBは真ん中アチェルビと左バストーニは固定。デフライが真ん中の時はアチェルビが左に回ることも。右は新加入のパヴァールとビセック。
WBは右ドゥンフリースと左ディマルコが基本で開幕したが、右は複数ポジションが出来る便利屋ダルミアンがほぼスタメン奪取。左はカルロス・アウグストがバックアップする。このポジションは冬にクラブ・ブルージュからタジョン・ブキャナンをピンズド補強。先季アトレティコとCLでも対戦しており、基本右だが左もやっていた。よりドリブル突破に特徴が出る選手。
中盤はバレッラ、チャルハノール、ムヒタリアンの3人が鉄板。明確に序列が決まっている。途中からフラッテージが出てくる。IH的な仕事ならクラーセン(好き)、アンカー風の仕事ならアスラニで代用。
FWはラウタロ・マルティネスの相棒としてマルクス・テュラムがフィット。アルナウトヴィッチはCL5節ベンフィカ戦以外はなかなか点が取れず苦しんでいたが18節ジェノア戦でようやく初ゴール。アレクシスはどちらかというとラウタロを休ませる役割と、終盤にCBを削ってアタッカーを増やす時の選択肢となる。



では詳細に見ていく。

●守備

守備から。

・基本配置

守備時基本配置

守備配置は5-3-2。2トップに機動力があり、パス方向を限定しながら守っていく。

WBは縦挙動する事と、後方を3CBに任せる事を前提とし、相手チームが4バックであればSBの位置まで限定に行く約束。ここが最初の守備の設定となる。2トップで前進ルートを限定し、相手SBにボールを持たせて真っ直ぐプレッシャー。真横のCHにパスを出すところを出足良くバレッラが狙い引っ掛ける。
チャルハノールは相手アンカーを見張るような位置取りはなく、3CBの前に立ってライン間への速いボールを警戒する役割。この選手は後ろを向いた相手に強く寄せる事ができるので、ここにボールを入れようとする相手チームは広いスペースと速いボール、正確なコントロールが要求され、奪われるとカウンターをもらうのでかなり慎重になる。そしてセリエAは当社比でライン間ワーカーが少ないので、そもそもここを狙った攻撃のスイッチはあまり想定されていない様子だった。ライン間のムーブに対して、3CBの真ん中に入るアチェルビはマークを担当せずにサポート役になる事が要求されるため、逆サイドのCBが絞って対応する形になる。ある意味ライン間を狙うならアチェルビに近づいてボールを受ける方が、インテルに望んでいない守備対応をさせる事ができる。

18節ジェノア戦より

結果的に相手チームの選択肢は外回りになりがちで、ここまででインテルの守備は概ね成功。そもそも5-3-2なのでいわゆる2トップの外側にIHが降りてくるなどすればここから進むのは簡単。それは当然インテルも想定している。

・外回り誘導 囲い込み

タッチライン沿いでボールを持たせるとインテルの守備はWB-IH-FWの3人が線を結び、内側へ入るボールだけを警戒する形を取る。外へ外へ。

この時の3CHの可動域の広さもポイントで、逆サイドの大外をWBに任せてかなりボールサイドに近づき、内側へのボールを警戒する。ここで奪えると近い距離にMFが固まっている&逆のWBは縦に全速力で動き直すのでカウンターが発動されやすい。
内側に入れない相手チームは一つずつボールを戻していく事になるが、FWのテュラムを含めて縦方向に強い矢印を出せる選手が多いのでバックパスの質には要注意。最終ラインを経由したサイドチェンジは速いスライドで見張られておりロングボールで展開しようにも、特に右WBのダルミアンorドゥンフリースは空中戦に強いのでこのボールは有効にならない。やはりWBのヘディング力は正義。左のディマルコは唯一小柄。

人数が足りているので、FWへ縦パスが入っても3CBのうちの誰かが対応し、前を向かせない事だけを徹底。あまりMFと挟み込んで奪うという狙いはなく、前を向かせずに再びブロックの外に押し出していくような守り方をする。ボールを取らなくてもいいので土俵の外まで寄り切りましょう、という感じで。

一人出て行っても残りの4枚で4バックラインをきっちり揃える約束が浸透しているため、誰が引きずり出されても特に穴は空かない。セリエAのCBはこういう"3CBの真ん中も左右も出来ます"というタイプが多いがインテルはその究極形という感じ。アタランタとかローマもそう。

・ポケット対応 ポジティブトランジション

この守り方の特性上、ポケットは割と取られる。WBが相手WGに対応し、頑張ってランニングしてポケットにボールを入れるという形は簡単に成立するが、CBが一人出てきて残りの2枚とWB、チャルハノールらがPA内に戻ってブロックを作り跳ね返す形が良く準備されていて、インテルの試合を見ているとポケットを取られる事が全然ピンチにならない違和感がある。

クロスは低く速いボールで事故が起きるのを警戒し、CBは一枚ニアに対応。3枚全部でかくないと難しい構成で、例えばアトレティコで言うとサヴィッチがポケット対応、ヒメネスがニアストーンになってゴール前にヘイニウドしかいない、みたいな形ではムリキを止められない。
マイナスのボールにもバレッラとムヒタリアンが当たり前のように戻ってきており、特に問題なく守る。セットしたブロックを崩された失点は一切見られなかった。ここが一番自信があるところ。
また、この場合もボールを奪った時点でCB、WB、IHがかなり近い位置にいる事が多く、狭いエリアをプレス回避で解決してカウンターへ、という攻撃に繋げる事ができるのも強み。ブロック守備から速い攻撃に直結できるようにデザインされている。そして2トップは2人とも裏に抜ける、降りてポイントになる、サイドへ流れて逃げ道を作る、の仕事を区別なく分担できるのが強みで、この時点で相手チームは再奪回どころではなく早く戻りましょうとなる。テュラムがアルナウトヴィッチに差をつけているのは案外こういうポジトラの部分な気がする。



●攻撃

攻撃。インテルは基本として、3CBからの配球、WBは高い位置、MFの移動、をベースとする。全体的にMF3人(チャルハノール、バレッラ、ムヒタリアン)の移動がキーになり攻撃を展開する。
ただしこれがなかなか基本形だけでは語れないというか、基本形が本線ではないというか。整理して見ていこう。

・ビルドアップ

ビルドアップ

3CB。右のパヴァールはSB兼用(2018W杯では純粋SBでした)で、テクニカルで且つ球出しも上手い。左のバストーニはよりアクティブで、大外への移動とドライブを軸に攻撃的な役割を担当する。スカルヴィーニロールと言いたいところだがバストーニの方がオリジナルなのかもしれない。セリエAの3バックはCBの役割に収まりきらない選手が伝統的に多い気がする。ラリーガよりもCBの役割の幅が広くて多彩。

右HV(パヴァール)がバレッラ&ダルミアンとトライアングルを回しながら前進するのが基本線。チャルハノールは中央でサポート。相手がアンカー消しでチャルハノールに密着しようとする場合は積極的に最終ラインまで落ちてくる。彼はしばらく見ない間にとんでもない長短配球マンになっており、最終ライン付近とはいえフリーにするとなかなかしんどい存在に。23節ユベントス戦のディマルコに出したロングボールはSNS映えも満点だった。左ではバストーニが高い位置、ディマルコは背後狙いorもはやFWポジションに移動してくるパターンが多い。

大外のダルミアンの足下にボールを渡して右サイド全体が移動を開始。パヴァールはそのまま縦方向に抜けていき、バレッラはボールの平行or後方サポートに切り替わる。バレッラは異常体力モンスターなので、移動したくて仕方ないみたいな動きをする選手。3人分くらい動き回る。この選手も高精度のロングキックを装備し、後方サポートに落ちて逆サイドのディマルコまで一発で危険なボールを蹴れるので、彼も放置するのが難しい。ちなみにこのチームはCBからCHに中央ルートの縦パスを通して1stライン突破みたいな普通の狙いがあまりない。スペインだったら落第です。
インテルの3CHは最終ライン落ちを全員基本装備しているが、それぞれフリーにすると危険な点がポイントで、放置できず追いかけて守備ブロックを動かされる事は避けたいポイントとなる。ここはミドルプレス回避の箇所で触れる。

ボールを放し縦に抜けていくパヴァールの怖さは、外側に移動してクロスを配球する役にもなれるし、ポケットに侵入してゴール方向へ進む役割にもなれる。これもアタランタのトロイっぽい。
・大外クロッサー
・ポケット侵入しゴール強襲
・立ち止まってアーリークロス配球
の3つの選択肢を持って進んでくる。構造上アーリークロスはファーサイドにディマルコが突進してくるので頭を越えるボールを蹴らせると常に危険。良いボール蹴ります。

トップのテュラムはニアポケットとゴール正面へのアタックを担当するが、ラウタロとムヒタリアンは常に横パスが刺さるタイミングを探している。テュラムが相手CBを引っ張り、中間のスペースでこの2人がボールを呼び込む。この横パスが刺さった瞬間、テュラムとのコンビネーションでゴールを狙うか、必ず準備されている左大外へボールを送り、GK-CB間への速いクロスにテュラム+もう一人(主にラウタロ)が飛び込む形を準備する。左大外はディマルコが配球役になるパターンが多いが、相手を押し込んでいる局面ではディマルコが内側に入ってバストーニが大外クロス役になる場合もある。ユベントス戦ではディマルコはわざとラウタロとほぼ重なるようなポジションを取り、ダイレクトフリックやハイボールでの裏抜けを狙うなどしてバグメイクを狙った。グッと最終ラインを下げられると、ミドルシュートの名手が揃っておりこれも非常に危険。特にチャルハノール。

相手陣地でプレーする場合はこのような右サイドゴリ押し&サイドチェンジが本線だが、プレスに来てもらう事を期待する態度を見せるため、低い位置からGKも参加してビルドアップする形を好む。基本的に相手のブロックは高ければ高いだけ戦いやすい。理由としてインテルの攻撃は明確にスピードアップのスイッチがある点があげられる。具体的には"前方にスペースが出来たらドリブルで突き進む"というシンプルなもの。
このチームは大外の1vs1やビルドアップのライン越え以外は基本的にドリブルが想定されておらず、少ないタッチ数での構築に全員が参加する事が要求される。ただし、ボールホルダーの前方にスペースが出来た時だけは別で、相手CBが対応しなければならないエリアまで猛然と突き進んで擬似カウンターを成立させる。どの位置のどの選手でもこのプレーが強く要求され、出来ないCBはたぶん試合に出られない。デフライでもやっている。2トップ+WBのどちらかが必ずボールホルダーの前を走り、3線速攻を完結させる。

前が開いたらスイッチを入れて擬似カウンター

この突進に、2トップが裏を取るのが最初の狙い。当たり前だがそんなものは誰でも警戒しているので狙いの本線は外に出してGK-CB間への速いボール。ラウタロはこのボールへの走り込み方、合わせ方が抜群に上手くこれがメインの得点パターンとなる。外からの配球役はディマルコである事が理想。素晴らしいボールを送り込める。
途中から出てくるMFフラッテージはこの速攻に下手したらボールホルダーの後ろからでも猛ダッシュしてゴール前に入り込める異常走力の持ち主でもある。4人目の登場。つまりフラッテージが出てきたらボールホルダーの前を開けてドリブル侵入された時点で基本的に詰む事になる。例えばスコアを追いかけていて前からボールを追いかけたい時にこの環境を作られると必ず大ピンチになる。インテルはリードした70分過ぎにフラッテージを入れてプレスを呼び込み、ダメ押し点を狙うのが定石となっている。

インテルの攻撃は常にこの"ボールホルダーの前が開いてドリブル突進"する状況を探しているので、上記の通り相手がプレスに出てきてくれる環境の方がプレーしやすく、ドン引きされると実はあまり攻撃の選択肢がない。その時はHVまでエリア内に入ってきてクロス爆撃する腕力勝負をする事になっていく。そうなると被カウンター対応が、という話になる。それは後ほど。


では相手チームのプレスの高さ別にインテルのプレス回避の選択肢をまとめる。

・ハイプレス回避

インテルはGKのゾマーを含め全員ボールの扱いとパスコントロールが上手く、相手チームのオールコートハイプレスを掻い潜るだけの能力と仕組みを有する。

特に3人のMFは長い距離の移動とやり直しを全く嫌がらずやれる選手で、プレス回避のために3人セットでボールサイドへ移動したり1人は逆サイドでサイドチェンジを待ったりと臨機応変且つ大胆にプレーする。ピッチが1.5倍くらいになっても大丈夫そう。
3CB+GKゾマーでピッチ幅を管理し、WBが大外の迂回路。2トップはポジトラの項で書いたのと同様に裏に抜ける、降りてポイントになる、サイドへ流れて逃げ道を作る、の仕事を分担して逃げ道を用意するのが上手い。その中間をMF3人が動き続けて無理矢理繋げている。
相手チームは、最終ラインを高く設定する前プレはテュラムに裏を取られるリスクが大きくなるので圧縮しづらく、結果としてインテルの機動力の高い選手達にスペースを与えて突っ走られ、ピッチを広く使ったパス交換と大幅な人の移動でズレが生まれ、ボールホルダーの前のスペースが開けば一気にドリブル開始。主に2トップとボールから遠い方のWBが反応してゴールへ襲いかかる攻撃を開始する。

・ミドルプレス回避

ミドルプレスを外す時はもう一工夫する。実はこれが狙いかもしれない。ちなみにアトレティコはこのぐらいのプレス位置になるケースが多いので注意。
ハーフウェイライン付近で保持が確定するとHVの2人(パヴァールとバストーニ)が完全にSB化して配球の仕事をMF3人に受け渡す。これで起きる現象は2つ。
・WBのFW化
・中盤の空洞化
となる。見ていこう。

主にチャルハノールが左、バレッラが右に落ちるパターンが多いが特に決まりはない。ムヒタリアンも積極的に左に落ちる。なんでもいい。
この動きで両HVがSB化して大外へ移動。すると当然両WBはもっと高い位置へ、となり、主に右のダルミアンは大外WGに、ディマルコは内側でFW化する。
HVの関与にも左右差があり、パヴァールはダルミアンの内側を狙って侵入。相変わらずポケットを狙って飛び込んでくる。一方バストーニはディマルコが開けた大外の駆け上がりをメインウェポンとし、クロス供給役になる場合が多い。
また、中盤選手がいなくなるのでラウタロが中央で顔を出して縦パスを呼び込むスペースを狙い始めて、ガラッとボールの循環ルートを変えていく。ここでラウタロをフリーで前向きにしてしまっては元も子もない。
対戦相手が難しいのはいきなり配置をグルグルと変更される事で、誰がどこで誰のどのプレーに対処するのか訳がわからなくなる事。オールコートマンツーマンならまだしも、サッカーはそうはいかない。一箇所だけで言っても例えばマンツーマンの場合ディマルコの大外ポジションを警戒していた右SBはいきなりCBの仕事をさせられるし、大きく開くHVにそのままFWがマークについていけば当然ムヒタリアンやチャルハノールがフリーになるので、ではMFがマークに出ていきます、となるとラウタロやムヒタリアンにフリーで前を向かれる事になる。ここでもインテルが狙っているのはパスを回しながら前方にスペースがある選手を作る事で、最終ラインに落ちたバレッラをフリーにすればそのまま進んでくるし、大外に開いたバストーニのマークを怠ればドリブルで右CB(ディマルコ付近)目掛けて侵入してくる。マンツーマンで捕まえにいった結果中盤に空洞が出来れば肝心のラウタロが前を向いてドリブル開始してくる。ラウタロの前には基本的にダルミアン、ディマルコ、テュラムがいるので3線速攻が成立してしまう。

こうなるとやはり、前方が開いたタイミングでドリブル前進の選択肢を与えづらい撤退守備の方が安心感がある。インテルは高速クロスとセカンドボール回収を連発する形で押し込んでくるが、ライン間ワーカーは基本的にラウタロ一人で、中央に縦パスが入って前進するパターンを持たないので永遠に外回りさせる事は物理的には可能。相手に退場者が出たスーペルコパのナポリ戦ではずっとおれのターンになって以降、手詰まり感があった。この試合はバストーニが欠場しており、押し込んで配置変更する手段が少なくなって攻撃が単調に見えた。
煮詰まるとアルナウトヴィッチが出てきて腕力で解決を試みるのと、最終的にはCBを一枚減らしてアレクシス・サンチェスが出てくる。選択肢はそれしかないと言ってもいい。本当は大外のドリブルで勝負できるブキャナンをスカッドに組み込みたいところ。



●交代策

システムをいじる選手交代は上記のCB→アレクシス・サンチェスしかパターンがない。その他の交代は同ポジションの交代で、頻出の箇所は2つ。バレッラ→フラッテージとWBの入替。

まずはフラッテージだが、サッスオーロでセンセーショナルな活躍をして争奪戦の末今季加入した。スタッツだけ見ると"全然スタメンで出れないやんけ!"と世界中が思っている。たしかロマニスタなんだよな。
永遠に走り回れる走力は誰がどう考えてもバレッラとキャラが被るが、試合終盤バレッラの足が止まる(事があるのか知らんが)時間帯に入れ替えるだけでも十分ニーズがある。贅沢だが。それに加えてバレッラ以上にゴール前で存在感を出せる選手で、サッスオーロ時代も右ハーフレーンを主戦場としていた印象だが、インテルでもその印象は変わらない。"よりゴール付近で"を実行する担当。

WBはまずは右のドゥンフリース。今季は怪我で出遅れた事もあるが2ndチョイスになっている。ドゥンフリースの長所はヘディングの強さで、左から高いクロスがバンバン上がる環境だったら優先度が上がるだろうが、右から進む事をメインにしている今季のインテルで考えると周囲とコネクトする能力が抜群に高いダルミアンが優先されている。見た目のせいかわからないがドゥンフリースは圧倒的なスピードとフィジカルで大外を駆け抜ける選手のイメージがあったが案外そんな事もなく、どちらかというと攻撃面の特徴は高精度のインサイドパスにある。ラウタロに向かって斜めに刺すボールは質が高く、ビルドアップに違うアクセントを与えられる選手。

左はカルロス・アウグスト。完全初見の選手だったが、でかいディマルコという感じでほぼ同じタスクを担当できる。クロスも上手い。スピードもある。ディマルコの方がファンタジー性能が高い分、突拍子のないチャンスを作れるのが良いところ。むしろ左右ともに、ドゥンフリースとカルロス・アウグストの方がでかくて空中戦に強いので終盤のクローズはこの2人の方が相性が良い。
WBにはあともう一人、冬にブキャナンを獲得しているがまだ起用はない。このチームのWBでは唯一ドリブルで相手を剥がせる選手なので新しい選択肢として期待値は高そうだが、ここで出てくる事はあるだろうか。

あとはFW。アルナウトヴィッチはテュラムと交代するが、よりPA内で勝負するタイプでチーム唯一の純粋ストライカーと言ってもいい。点を取れれば成功。取れなければ失敗。
アレクシス・サンチェスはラウタロと交代するか、CBを削って前線を増やす時に出てくるが活躍したシーンは一つも見ていない。彼も本来はライン間ワーカーなんだけどね。

MFはチャルハノールをアスラニ、ムヒタリアンをクラーセンがバックアップする。アスラニは割と良い評価。クラーセンはクローザーになる。

CBはデフライとビセックが控える。デフライは基本的に中央が最優先で、起用される時はアチェルビが左に回る。新加入の23歳ビセックは右を担当。トップクラスの空中戦性能を装備し、ゴール前を守るだけならパヴァールより上。



●セットプレー

サイドからの速いクロスと擬似カウンターでCB方向へ進行する事をメインウェポンとする関係でセットプレーの機会は多い。ここでチャルハノールという現役最強クラスのキッカーがいるのは大きなメリット。急所を突くボールを放り込み、そもそも空中戦に強いメンツが揃っているので決定機になりやすい。ちなみにチャルハノールはPKも職人級。まず外さない。
それとダルミアンはロングスローが上手い。ダルミアンが投げるという事は当然パヴァールがゴール前に入る形を無理矢理擦ってくるので守る側はしんどい。たしかドゥンフリースも投げていた気がする。カルロス・アウグストも投げていた気がしてきた。



●その他事象

その他の事象をサラッと。

・ムヒタリアンの立ち位置

ムヒタリアンの基本ポジションはバレッラと比較すると高い位置になる事が多い。基本的には3MFはチェーンで繋がっているがムヒタリアンがぶっちぎって高い位置に移動していく。WBとラウタロに近づく事で自分がフリーになれる位置を探すのが上手く、別にトップポジションにいる事を要求されているわけでもないのでフラフラと移動していく。捕まえるのがなかなか難しく、本来は放置するのはあまりに危険な選手だが、やむ無く放置されて浮いているケースがある。

・テュラムの中央でのポストプレー

インテルがピッチ上で起こす様々な事象に囚われていると、本来サッカーで一番警戒しなければならないFWに入るボールの警戒が疎かになるケースがある。

中央でテュラムが孤立し、相手DFと1vs1のポストプレーに入る事がたまにある。普段は前方にスペースが出来たらアタックがルールだが、もうテュラムにパスが入っちゃってるんだからそこ目掛けて突進したら背後を取れる。"数的不利を生まないように各所警戒していたらど真ん中で1vs1出来ちゃいました"は避けたい。

・バストーニの解放

バストーニは自由にすると何かが起こる感が凄い。なんでも出来る印象が強い一方、本人が選択しようとしているプレーがいまいち掴み所がなくどの位置でフリーにしても危なそう。配球役、後方サポート、クロスのキッカー、PA付近への侵入、ゴール前の電柱のどの役割で使っても危険。一方、被カウンター対応で一発で行って交わされるケースが散見される。早い時間に彼にカードを出させるのは対戦相手は考えておきたいソリューション。

・ライン間アタック

スペインサッカーの文脈だと違和感が拭えないが、縦パスを受けるだのライン間で働く選手が基本的にいない。CBからCHへの縦パスで1stラインを越える選択肢がないと書いたが、例えばチャルハノールから中央ルートを狙う縦パスもラウタロが受けるorレイオフ以外に選択肢がない。やるのはフラッテージだけ。独力で前を向いて打開する選択肢はなく、複数のユニットで場面を解決する攻撃に依存する。この辺が引いたブロックを崩す作業に苦労する原因と思われる。

・ゴールキックの振る舞い

ゴールキックはゾマーの横にアチェルビがゴールエリア内に立ってショートパススタート。相手の陣形が整う前にとにかくすぐに始める
ボールパーソンに戦術を与えるタイプのアトレティコはメトロポリターノでの試合では確実に対策してくる。ゾマーがキレるまでボールを渡さずなかなかリスタートさせない事で、インテルペースのビルドアップを拒否するのは間違いない。インテル目線で言うと2ndレグでスコアを追いかける場合は案外これがネックになる可能性がある。


●vsアトレティコ

さてアトレティコの話。

基本スタメン

基本布陣はどちらも5-3-2がベース。構築は全然違うが、まずはどちらがボールを持てるかがポイントになる。
お互いにあまり前プレをベースにしないので持とうと思えば持てるみたいな環境になりそうだが、自分達もボールを持ちたいのでじゃあ前プレか?という感じ。
結論を言うと1stレグ(インテルホーム)でボールを持つのはインテルになる。ここまで見てきた通りインテルは引いた相手を崩す事に手こずるタイプで、前プレに来てもらった方が得意な攻撃パターンが出るタイプ。という事でアトレティコはアウェーで先制される事は避けたい。低いブロックを置いて試合に入る方が自然。まずはインテルに得意な形を出させない事をベースにする。試合は180分ある。ラッシュをかける時間はメトロポリターノに準備したい。正直0-0でホームに帰る事ができれば優位はアトレティコにある。

ミドルブロック

ブロック形成で避けたいのはミドルプレス回避の項で書いたように移動に配置を動かされて対応がバグる事だが、アトレティコの守備ブロックはあまりそういう風には出来ていないのでそんなに心配していない。

インテルの移動後配置に対して

やはり心配するのは先に失点しスコアを追いかける時間で、ここでボールを追いかけて配置に溝を開け、ドリブル侵入する隙間を与えるのは絶対に避けるべき。デ・パウルの深追いとか、そういうもの。

アトレティコの攻撃フェーズでは、基本的に外回りを選択させられる事になる。インテルはそういう風に守る。WBにボールを入れるところまでは簡単、だがここを止めるのがインテル守備の狙いである。

アトレティコは一度WBの足下にボールを入れてCBまで戻す作業をする。外回りを選択すれば進めるという事なので。一度押し込んで攻撃を始める事を簡単に選べる。リーノにボールを入れてエルモソに戻したところから攻撃開始。
アトレティコは当然、真ん中を進みたい。インテルが真ん中を進まれるところをほぼ見た事がないのでシンプルに見たい。CLグループステージではソシエダの久保が、メリーノが、内側でボールを受けてCB方向にドリブルする形を何度も擦った。ソシエダに出来るならアトレティコにも出来る。ラリーガクラブなら出来ると判断する。

コケがヒメネスの隣まで落ちてきて中央ルート。デ・パウルとグリーズマンの位置を近くし、サウルがトップタスク。パヴァールを釘付けにしてアチェルビを孤立させる。結果、バストーニとディマルコに対して3vs2を作って大外のジョレンテからクロスorポケット取り。あるいはリーノに配球してサポート無しでダルミアンとの1vs1。
なんて事はない、普段やっている攻撃がどこまで通用するかを確認したい。こうやって見ていて、通用しないビジョンはあまり見えない。
ユベントス戦の後半、押し込まれる時間帯に感じたのはインテルの"低いクロスへの耐性は微妙なのでは"という部分。もちろんゾマーがいる事を考えると枠に飛ばせばOKとはいかないが、ハイボールで真っ向勝負するよりは変なボールの方が確率がありそう。相手CBを後ろ向きにさせた状態で速いボールを送り込む。変なボールに強いグリーズマンに期待したい。

低い位置で構えるアトレティコは、カウンターが刺さるならそれに越した事はない。簡単な試合にしたい。インテルの3人のMFはユニットで動きタスクを共有できるのは良い点だが、アンカーポジションであるべきチャルハノールはカウンター対応に無頓着なところがある。これまで一切触れなかったが、この点だけはブロゾビッチがいない影響を感じてしまう部分。ナポリ戦ではムヒタリアンがペナ角でボールロストした事をきっかけにカウンターをもらい、3CBだけで対応する事になった。

クヴァラツヘリアの際どいシュートに繋がったがゾマーのパラドンで止めている。
正直高い位置を取ったIHが敵陣ペナ角でロスト、なんて場面は試合中ごまんとあるわけで、これがピンチになる設計が健康的とは言えないだろう。3CBは撤退を優先するため、手前にぽっかり生まれたスペースをグリーズマンが使ってモラタ、ジョレンテ、リーノが疾走、という形はイメージ出来る。アトレティコはアウェーで一点取れれば100点満点であり、これで仕留める事が出来るならそれがベスト。



●まとめ

一旦まとめる。
インテル良いチームです。堅い守備、大きな移動と機動力を使って大外WBを活用する攻撃。絶対的エースとその相棒の2トップ。アトレティコ好きなら好きになるチームだと思う。バレッラとかみんな絶対好きじゃん。

今季欧州全体で見ても圧倒的に守備が機能しているチームで、守備の自信がスピードに乗った攻撃に繋がっている。前向きのドリブルが見ていて気持ち良い。逃げ道が確実に用意されたビルドアップのおかげでボール保持を怖がらない環境を準備しているシモーネ・インザーギは良い仕事をしている。

チームは先季CL決勝まで進んだメンバーがベースであり、リベンジへのモチベーションは今季一番だろう。そこに新加入のマルクス・テュラム、ベンジャマン・パヴァールがベストフィットしているスカッドは明らかに勢いに乗っている。オナナの退団で誰がどう考えても弱体化すると思われたGKはゾマーが穴を埋める以上の存在感がある。近距離のシュートに強いセンスはビッグセーブを生んでさらに勢いを増強させている。強いです。良いチーム。間違いなく優勝候補。なんで2位やねん。

アトレティコにとっては大きなチャレンジになる。我々の積み重ねは欧州トップレベルに如何様に通用するのか、そしてしないのか。これ以上ない相手となる。挑戦者の気持ちで。シメオネのチームはいつだってそうやってぶつかってきただろう。この壁の向こうにアトレティコの目標がある。立ち止まらず進んだ答えをここで出したい。まだここは行き止まりではないはずだ。

先制点を与えない事。前方のスペースを与えない事。ボールを持つ事。ライン間を狙う事。アトレティコはアトレティコのサッカーで壁を越えていく。今季の答えに近づく舞台。


待ち望んだ決勝トーナメントだ。ここはあの日、負けた場所。いつだって乗り越える事で進んできたクラブだろう。あの日のロナウドのPKで、脱ぎ捨てたユニフォームで止まったままのジュゼッペ・メアッツァの時計をもう一度動かす時が来た。

全てが決戦だ。熱く燃え上がりましょう。


2024/02/20
エスタディオ・ジュゼッペ・メアッツァ
CL23-24 Round16 1stLeg
インテルvsアトレティコ



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