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頂点まで届く牙 CL Round16 2ndレグ アトレティコvsインテル(H) 2024.3.13

決戦だ。


●スタメン

・アトレティコ
オブラク
サヴィッチ / ヴィツェル / エルモソ
モリーナ / ジョレンテ / コケ / デ・パウル / リーノ
グリーズマン / モラタ

3CBは1stレグの後半と同じ3人に。
グリーズマンはその1stレグ以来の復帰で早速スタメンに。間に合った。

・インテル
ゾマー
パヴァール / デフライ / バストーニ
ドゥンフリース / バレッラ / チャルハノール / ムヒタリアン / ディマルコ
ラウタロ・マルティネス / テュラム

怪我人は戻ってきているがCB中央はデフライを選択。右WBはドゥンフリースがスタメンに。
アルナウトヴィッチとカルロス・アウグストが怪我でメンバーを外れた。




●前半

・アトレティコのプレス設定

前半は
・1点を追うアトレティコがボールを求めて敵陣プレス
・ボールを渡したくないインテルのビルドアップと高速カウンター

の構図となった。

この数ヶ月のアトレティコは、時には"効果的なボール奪取が狙える"程度のプレスは使える雰囲気があったがそれにしてもインテルに息継ぎをさせない程強烈なプレスを継続して繰り出せるとは予想していなかった。追い詰められればこれが出来ると言うのならむしろ0-1で良かったのかもしれない。0-2にされたけど。

さてこのアトレティコの前プレにおいて重要だったのは誰が出て行っても良いという環境を準備する事。そのためにこの日のMFの人選はジョレンテ、コケ、デ・パウルの3人である必要があったという事だろう。一番求められる事はジョレンテが出て行こうがコケが出て行こうが後方に穴を開けない事がだった。その意味で、このプレスは穴埋めの天才であるグリーズマンがいなかったら成り立たなかったとも言えるのかもしれない。グリーズマンは左大外でパヴァール付近を見張る事でインテルはチャルハノールだけでなくバレッラまで最終ラインに落ちる形になっていく。

・インテルのビルドアップ

インテル側の思考は普段の試合と変わらず、”プレスに来てくれた方が戦いやすい”という感覚があったのだろう。時にムヒタリアンまで落ちてきてビルドアップの出口を探す。アトレティコはモラタが中央から動かずに限定をかけるがインテルはチャルハノールに真ん中の優先権があった。これは正直これまでの試合では感じた事がなかった。インテルの後方配置にはパターンがないのが強みと思っていたのだが、妙にパターン化されていた様子があったのが不思議。結果チャルハノール付近はモラタが見張り、デフライが左右に移動する事になり、アトレティコはこのデフライを放置した。
そしてこれも、これまでの試合では一切感じなかった部分だがこの日のデフライは中距離のキックのフィーリングが悪くWBを狙ったボールを相当数ミスした。そもそもアトレティコはディマルコにモリーナをマンツーマンで貼り付ける事でここを回避ルートにさせない設定が出来ており、右は回避サポートが得意なダルミアンがいない事もあり。WBへの抜け道を使われないならばアトレティコは2トップとの勝負に集中できる環境になる、という流れであった。

ラウタロ&テュラムの2トップは前後左右の区分けなくタスクを分け合うのが抜群に上手く、片方が背後を狙えばもう片方は手前、片方が足下にボールをもらえるならばもう片方はスペースを突くというコンビネーションが極めて上手い。カディス戦でこういったタスク分けが引くほど下手だったモラタ&メンフィスとは雲泥の差である。まあいいでしょう、人には得手不得手がある。
アトレティコの設定は降りていく片割れにはどこまでもついていくというもの。アトレティコのDFでどこまでもついていくタスクと言えばヘイニウドだが、この日は主にサヴィッチとヴィツェルがこの仕事をほぼ完遂。球際の正当なコンタクトにはあまり笛を吹かなかった主審との相性も良く、アトレティコDFはインテルの攻撃を前向きに迎撃する形を構築できた。

当然だがインテルの強みはロングカウンターにある。前半だけで3つのチャンスを作られ、特に13分のドゥンフリースの単独裏抜けはオブラクの好セーブで切り抜けている。このプレーだけで何だか今日のオブラクは全部止めそうな雰囲気があった。

個人的には1stレグから継続して、"前から捕まえに行った結果裏を取られるのは数回なら仕方ない"という設定が本当にシメオネは最終ラインと、何よりオブラクを全力で信頼しているんだなと感心させられる。プレビューで「明日のアトレティコはオブラクが止める前提でカウンターを受け入れる」とか書けたら格好良いよなあ。全然、頭にもなかったです。本当に凄い。

・インテルの誤算

さてインテル側の気持ちを見る。前半の戦いでは誤算があったはず。それは試合のペースを一切コントロール出来なかった事で、WBで時間を作れなかったため、アトレティコを押し込む展開は前半では15:30頃の一回のみだった。縦にボールをつけるとあまりにも速くなる攻撃は功罪あった。くさびを入れてポストプレーで陣地回復、は出来ない事はないと思うのでアトレティコはやられたら嫌だったなと思う。ラウタロが大外に流れて時間を作るとかね。結局前半の間はアーリークロスも一度も見ていないので、"グリーズマンが左大外に落ちて5-4-1で受けるんだろうな"という雰囲気はあったがその機会は一度も訪れなかった。

インテルは最終ラインに落ちているMFが2トップのレイオフの受け手になる必要もあり、流石のバレッラ&ムヒタリアンもあまりにも長い距離を走りすぎている印象があった。押し込む時間を一切作れずにプレス回避とロングカウンターだけをずっとやっているような環境で、しかもそれはアトレティコに走らされているわけではなく勝手に走り回っていただけだったのも、最終的には試合の行方に影響したように感じる。それが何らかの理由があるスタイルなのはどうかはおれは知らん。

それでもデフライからラウタロへのくさび一本からバレッラとディマルコが抜け出して一点取ってしまうのがこのチームの凄いところ。バレッラ、なんであんなところ抜けてくるんだよ。

正直テュラムのマークをエルモソに渡す作業がほんの少し早ければ、という場面だがバストーニの配置をジョレンテが無視出来ず、門が空いた時点でインテルの形だった。なんでバレッラがすでにディマルコが狙ってるエリアに一目散に入ってくるのかよくわからないので仕方ないでしょう。止める方法はないです。対策もない。

・すぐに返した一点

この試合で一番重要だったのがこの失点の直後にグリーズマンの得点が生まれた事。この日ずっと攻撃で特徴が出せずに苦しんでいたモリーナのクロスは一度跳ね返されたがセカンドボールをコケがフリーで拾い、いつも通りグリーズマンの事しか見ていないパスを出す。目の前にいたモラタが気になった(足を上げてファールになる恐れがあった?)のかパヴァールがこのボールをクリアし切れず、グリーズマンが反転ボレーを沈める。これを決めるために戻ってきた。試合を終わらせない得点を決めた。一応追記しておくとそのパヴァールは42分のグリーズマンの決定機を止めている。

・アトレティコ攻撃の選択肢

この日のアトレティコが1stレグと違ったのは当然、最前線にモラタがいる事である。ようはクロスを上げる意味があるという点。確率は低かろうとアーリークロスの選択肢があるというだけでインテルを押し込む効果は大いにあった
序盤から左サイドでエルモソの配球からリーノが1stレグ以上にクオリティを出してチャンスメイクを狙い、グリーズマンが積極的にこのサイドに関与してくる事でインテルを自陣へ押し込む環境を作っていった。しかしここ4試合をグリーズマン抜きで戦ったが、当たり前だが出来てないと思っていた事が全て出来ている。エルモソの鬼パスが足に吸い付いていた。これが世界最高でなくて何だと言うんだ。

いつもの形

インテルを押し込んだアトレティコの攻撃は主にエルモソの配球に依った。リーノの1vs1を使うか自分がアーリークロスを蹴るか。28分にはモラタにピンポイントで合うボールを蹴っている。この形の良かった点は"普段通りだった点"だろう。アトレティコはあまりにも普段通りだった。それで点取れるの?と不安になるほどに普段通りの攻撃を繰り出し続けた。アイディア不足と言ってしまえばそうかもしれないが、普段の攻撃をやらせてくれたのはやはりインテルがプランA押し付け型である事に理由があるだろう。それがインテルの強みで、それがアトレティコの狙いである。

24分頃からはエルモソに近い距離でコケがキャンセルし、デ・パウルへサイドチェンジを蹴る形を連発。

受け手がデ・パウルであるところがミソで、モリーナが大外に立つ事でディマルコを押し込みハーフスペースで前を向きながらジョレンテがポケットを狙う形を作った。当然ディマルコがカウンターの先頭を走る事も警戒できる。それにしてもコケの中距離キックの精度は絶品。
前半のアトレティコの攻撃はここでデ・パウルが何をするのかが主題となり、結果的に大したアイディアは出てこなかったわけだが、亜種として大外からモリーナの上げたクロスがグリーズマンのゴールを生んでいる。今季は受難の右サイドだが、重要な結果を出している事は付記しておく。モリーナはたくさん悩んでたくさん考えましょう。

・余裕のあったプレス回避

インテルは深追いして来ないので、アトレティコのプレス回避には余裕があった。特に助かったのはオブラクがプレスに晒される機会が全くなかった点で、GKを使ったリセットが出来ないというアトレティコ特有の難点は全く表面化しなかった。と同時にラリーガのクラブはやっぱりオブラクを狙ってるんだなと実感。
さらに前向きのエルモソに対してバレッラが単発でプレスに来てくれる事で中央でコケ、デ・パウル+グリーズマンが簡単にボールを受け取れたのは助かった。バレッラ、いくら何でも元気すぎる。



●前半終了

1-1、2戦合計1-2で最後の45分を迎える。0-2では詰みと思っていたがすぐに取り返した事で首の皮一枚の望みを繋いだ。

アウェーのインテルはコントロールに苦慮している様子が見られ、これがホームゲームだと言ってしまうのは簡単だがアトレティコのプレスが当社比で見ても本当に息継ぎ出来ないレベルの強度だったかは少し疑問がある。後半も続けたのでトータルで見たら凄いが。
それよりも慌てて蹴り出してWBでボールが収まらなかった事がアトレティコを楽にしていった感がある。そんな展開でも一時は2-0にするゴールを生めるバレッラの能力は異次元で、数回しか機会がなかったコンビネーションでシュートチャンスを作っていたラウタロ&テュラムもまた異次元だった。その異次元さがインテル側の問題点をぼやけさせていたと考えるのはアトレティコ側の都合の良さだろうか。「この展開でも2点目取れましたから」というのが、インテルに大幅な変更をさせない要因だったというなら皮肉なものだ。試合は再度、同点ゴールを求めるアトレティコのチャレンジへと移る。


●後半

・変わらない試合展開と記憶

双方選手交代なしで後半に。アトレティコは高い全体配置を維持し、プレーするエリアを前半と同様に設定した。前向きの矢印と球際の有利を譲る事なく敵陣でプレーする展開を継続させている。望み通りにボールを回収すると2トップの圧力を軽く外しながら横幅を最大限に活用。3MFを振り回して敵陣侵入を繰り返し、52分にはジョレンテがPA横でディマルコを出し抜く理想的な形を作ってグリーズマンに決定機。押し込めているこの時間帯に同点に出来れば、という最大の場面。試行回数を増やす事が出来ておりホームの後押しを受けながら最後の45分にアトレティコの時間を準備するシメオネのプランをピッチに表現した。60分にはバストーニを捕まえてジョレンテのクロスで決定機。あとちょっと。もうちょっと。

本当に、マンチェスター・シティ戦の2ndレグを見ているような気持ちで。あの試合も後半のラッシュは作れた。あとちょっと。もうちょっとだったな。そんな記憶とも戦う試合だった。

・選手交代フェーズ

60分過ぎからデ・パウルの出足が目に見えて重くなり、どう考えてもコレアを入れる様子があるアトレティコ。それにしても守備時のスプリント回数は圧倒的にデ・パウルの方が多かったとはいえ、同じ作業を倍の120分間やり切ったコケは理解不能である。17.5km走ったそうです。

結局最初の交代は71分。
デ・パウル、リーノout
コレア、リケルメin
となった。デ・パウルは最高の仕事。リーノのチャレンジはインテルの右サイドに間違いなく負荷を与えた。あとはカンテラーノに託す。

直後にインテルは
バストーニ、ドゥンフリースout
アチェルビ、ダルミアンin
の2枚替え。どちらも同ポジションの交代で、”このまま逃げ切りたい”という狙いが見えるものであった。

最初の交代

この強度の試合の中でドゥンフリースの70分以上の稼働は個人的に今季あまりサンプルがないのでわからないが、フレッシュなリケルメに交代するところで替えようくらいの意図だったと想像する。
また、アトレティコからするとデ・パウルがいなくなってプレス形を確認しながら"大外のディマルコ周辺をどう守るか"設定し直す必要のあるタイミングでバストーニがいなくなったのは非常に助かった。
すでにアトレティコはインテルが守りに入ってくれた方が都合が良いフェーズに入っているし、結局ここまで一度もボールを握られる時間を作らずに来た。もちろんアトレティコが上手くやれている箇所は多いがそれにしてもインテルの設定が正しいとはとても言えないだろう。

アトレティコが隙を見せたのは76分。モリーナの縦方向のアーリークロスが手前で引っかかりラウタロ&テュラムのカウンター発動。最後はテュラムに千載一遇の決定機が来たが枠に飛ばず、アトレティコは命拾い。この日はテュラムの日ではなかった。

アトレティコはコレアの登場で中央に居座るモラタの仕事がなくなり守備でも今更走り回らされる事になったのでメンフィスに交代。同時にモリーナを下げてバリオスを投入。当たり前のように出てくるようになった20歳。

これでアトレティコはバリオスの後方サポートを受けながらジョレンテ&コレアが右サイドを擦り始め、81分にはメンフィスに決定機を準備した。あとちょっとで、もうちょっとだ。
完全に足が止まったインテルはカウンターで足が攣ったバレッラに替えてフラッテージ。そしてディマルコに替えてビセックを投入。ディマルコは流石にジョレンテ&コレアを相手にする足は残っておらず、ダルミアンを左に回してお茶を濁そうとした。そう、この試合のインザーギの交代策は、結果勝っていれば「アトレティコの変化に抜け目なく対処した」と言われていただろう。ただ、形を変えず展開を変えない事を選択した選手交代はどこかお茶濁しに感じた。
そして諦め悪く同点ゴールを目指したアトレティコに、その時は訪れる。85分にメンフィスのシュートがポストに直撃し、そのどよめきの中、リケルメが左サイドから侵入。いつの間にかアトレティコのアタッカーはインテルの5バックに対して5枚。

前を向いたコケに対し、チャルハノールとムヒタリアンは門を閉じる事が出来なかった。コレアの登場でアチェルビのカバーは届かない。メンフィスの牙が、イタリア最強クラブの急所に届いた。ついに、ついに同点。

勢いそのままにロスタイムにグリーズマンとコレアでカウンター解決。最後はどフリーでリケルメが合わせたが枠に飛ばず。試合は延長戦へ。



●後半終了

愚直に信じたゲームプランを遂行したアトレティコは最後の最後で同点に。追い求めていた得点にギリギリ間に合った試行回数とクオリティはクローズに入っていたインテルを失望させるには充分。メンタル的にPKを避けたいのはインテルの方だが、3点目を狙う武器を残しているのはアトレティコの方、という延長戦に進む。


●延長戦

延長戦へ

選手交代を経てインテルの左サイドは明らかにこの舞台で点を取りに行く構成ではなくなっている。2戦合計180分を過ぎたタイミングで今更のフラグ回収になるが、ブキャナンが十分にテストされて来なかったのは助かった。後半の最終盤に投入されそうになっていたがインザーギがこの展開では入れられないと判断したのだろう。
まだ足を残すアトレティコはリケルメの仕掛けから再びメンフィスに決定機が来たがここはゾマー。向こうにも化け物がいる。

98分にこの日3人分くらい走り続けたジョレンテがついに限界&おそらくPK戦で計算出来ないので交代。ここにアスピリクエタが間に合ったのはアトレティコにとって最大の幸運であった。この延長戦&PK戦のために加入したと言っても頷ける。ビッグイヤーを知る男が必要だった。ラインズマンと揉め続けていたのは謎だった。

結果的にインテルのキーマンだったのはサヴィッチに終始封じられていたテュラム。最後はサヴィッチの股間を握りしめて交代していった。選択肢がアレクシスしかないのが悩ましいインテル。
延長後半、アトレティコはグリーズマンを下げた。本当によく間に合った。結局グリーズマンがいなかったら何も出来なかったし同点どころか試合になっていたかも自信がない。残り時間をチームメイトに任せる事になった。

試合は105分もやってきてここでついにインテルにボールを開け渡す謎の時間があり、アトレティコは3点目を狙いに行く機会が少なくなった。最初からこういう展開を作られていたら詰んでたね。


試合はPK戦へ進み、この日当たっていたオブラクが2本ストップ。最後はラウタロのシュートが大きく枠を外れ決着。Round16にはもったいない程の名勝負の末、アトレティコが生き残った。


●試合結果

これしかない道を通った。得意のホームゲームでプレスを仕掛けボールを握り、87分かけて追いついた戦いはあまりにもアトレティコ。

気合を入れて普段着の試合をする選択をしたアトレティコの攻撃のポイントとなったのはコケからサイドチェンジを受け取ったデ・パウルで、ここでどんなアイディアが出せるかが前半の軸だった。結局は確率の高くないアーリークロスと、大外を崩しきれないモリーナというパターンが増えて普段通りのジリジリする展開が続いたが、モリーナのクロスは結果的にグリーズマンのゴールを生んだ。試行回数は正義。

前プレがあまりにもハマった事は、インテルのビルドアップにある程度慣れていた事が大きいように思う。これはホーム&アウェーで戦う際の重要ポイントであり、2ndレグをホームで戦えた事のメリットでもあろう。前に出ていく選手と後方に残る選手のバランスに迷いがなく、特に前プレの背後を狙うムヒタリアンへの警戒はしっかり共有されていた。

後半の選手交代も"コレアを入れて前線の枚数を増やす"や"リーノからリケルメにスイッチ"など普段通り。鍵を握っていたデ・パウルを早々に下げたのも普通の判断で、チャルハノールとムヒタリアンを引っ張り続けたインテルとは対照的だった。ジョレンテの大外の仕事を擦るためのバリオス投入でインテルに自陣に篭る選択をさせたのは見事だった。


当然アトレティコよりもインテルの方が断然前評判は高かったはずなので、世間ではアトレティコの勝因よりもインテルの敗因に興味が集まるだろうしそういう目的でこの記事に辿り着く人がいるかもしれないので珍しく相手チームの事を書いてみようか。

インテルの今季は、そのプランAで欧州の頂点を取るのが目標だったはずである。それはインザーギを始め選手達の望みだったのかもしれないし、そういうモチベートが得意な監督なのかもしれない。また、今シーズンのインテルは国内であまりにも強すぎたため、国内でプランBを考える隙がなかったとも言えるかもしれない。

そんな中届かなかったのは、結論から言えば全方向性を手にしてCL決勝トーナメントで必ず刺さるプランAではなかったという事だろう。例えばクロップリバプールのプランAはCLを制した。ペップバルサのプランAは世界最高のサッカーだった。マンチェスター・シティのサッカーはゲームモデルの幅の中では大きな変化を持っている。マドリーのサッカーも掴み所の無さがプランに含まれているようなサッカーだ。インテルのプランAは、どうだっただろうか。

この試合に関して言えばアルナウトヴィッチとカルロス・アウグストがいれば後半の過ごし方は違っていたかもしれないし、アトレティコのスタジアムバフを使い切る設定は計算外だったのかもしれない。

例えばダルミアンをベンチに置いたのはカルロス・アウグストがおらずディマルコがガス欠になった時の穴埋めをする手段がダルミアンしかいないからかもしれない。では左右兼用のブキャナンの獲得は何だったのかという話であり、ここまで僅か27分しか起用して来なかった事が災いした。また、ムヒタリアンとチャルハノールは明らかにベストフォームには程遠く、延長戦に突入する事で例え足が止まってもPK戦を考えた時にチャルハノールを替えにくくなっていった。それならムヒタリアンもPK戦まで引っ張れば良かったのではないかとも思うし、前半はアスラニで時間を過ごして途中からチャルハノールが出てくる方がアトレティコは嫌だった。アルナウトヴィッチの欠場はアクシデントだが、怪我明けのテュラムを100分以上使う事になり交代の選択肢はアレクシスしかなかった。効果的だったと言える選手交代はダルミアンを左に置いた事ぐらいで、アトレティコの勢いを止めるには至っていない。

とはいえだ。一方の勝利したアトレティコは全方向も何もどっちに矢印が向いているかも定まらず、気づけばその針はグリーズマンに向いているチームだ。だが、パワーバランスや今のチーム状況を抜きにしても"このスタジアムであと一点取ればいいんだ"と、メンフィスのゴールに至る87分のうち85分間アトレティコに思わせてしまったのはインテルのミスである。
なのでインテルはどうしてボールを持たないんだという感覚は常にあった。ビルドアップのためにMFが全員自陣へ帰り、ロングボールのサポート体制が取れないまま蹴ってくれるのはアトレティコが望んでいた展開。それでもいくつかの決定機を作ったインテルが凄いという話なんだが、ピンチになろうとどうせオブラクが全部止めると思ってる(信じてる)アトレティコの選手達にとってはシュートを打たれる事もそこらへんでパスカットする事も「マイボールになる」という意味では同じと思っている節がある。ネルソン・ビバス辺りはディマルコの得点も"止めろよ"と思ってそう。
試合をコントロールするべき立場だったインテルは不用意に体力を消耗しながらボールを手離し、流石のバレッラも84分でエネルギーを使い切った。

それでもインテルのやや不器用なプランAが頂点まで届きそうだった要素はビルドアップ。HV(パヴァール&バストーニ)の移動にあった。どこに抜け道を準備するのかわからない変幻自在な前進はある種の全方向型で、相手チームのプレスを空転させる事で得意の擬似カウンターをいつでも発動させられる事がインテル最大の魅力だったはずだ。それがこの試合は3MFが最終ラインの保持に関わり過ぎた事、WBへの逃げ道を活用出来なかった事で両HVがただのワイドに開くDFであり続けた。追い詰められる程にビルドアップに意固地になっていったチェルハノールとバレッラは自らの首を絞めてしまった感がある。それはシンプルに残念だった。


間違いなく今年のRound16屈指の名勝負はアトレティコに軍配が。10回やったら8回は負けそうな相手だったが、一点取らなければ終わりのラスト45分、どこか楽しそうだった選手達は本当に頼もしかった。こういう試合をするためにアトレティコに来たって、みんな思ってるんだろうなと感じる試合。それに足る選手層を持って入ったシーズンだったと思い出させてくれる贅沢な試合だった。こういう試合が見たくてアトレティコが好きなんだと思わされる試合。

2年ぶりの欧州ベスト8。頂点まで、お付き合いいたしましょう。


3/13
シビタス・メトロポリターノ
アトレティコ 2-1 インテル
(PK戦)
3-2
得点者
【アトレティコ】’36 グリーズマン '87 メンフィス
【インテル】’33 ディマルコ


●ピックアップ選手

グリーズマン
4試合を欠場したがここに間に合った。
プレス回避の抜け道、崩しのフェーズの主役、ゴール前の仕事。どれを取っても最高のグリーズマンだった。頂点へ。

オブラク
大事な試合でベストのパフォーマンス。決められる気がしなかった。勝利を呼び込んだ2つのPKストップでヒーローに。

エルモソ
配球の中心となって試合をリード。リーノを、リケルメを操りながら逆サイドの人数関係までコントロールした攻撃の構築は流石のクオリティ。

サヴィッチ
強力2トップを封じるタスクを完遂。出場機会を減らすシーズンでも「止めてこい」という試合では必ず起用される。期待に応える仕事だった。

メンフィス
値千金の一発以外にも自信に満ちたプレーで味方を勇気付けた。痺れる舞台を求めて移籍してきた選手でしょう。ここが終着点ではない。

ジョレンテ
システム変更で何度もポジションを変えながら、常に右サイドの押し引きを優位に進めた。危険であり続けながらプレスもブロックも完璧な守備対応。

リケルメ
スピードと積極的な仕掛けで終盤のチームにガソリンを入れた。後半ロスタイムにはヒーローに成りかけた。まだレギュラー諦めてないでしょ?

コレア
リケルメと一緒に投入されて中央で360度の選択をする曲芸師が疲弊したインテルを追い詰めた。「ポケットってこんな簡単に取れるんだな」とびっくりさせられる。

コケ
120分間誰よりも走り続け、結局2得点に関与。
足が遅くてシュートが下手で空中戦最弱。世界最高のカピタン。頂上まであと3つだ。

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