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次の挑戦は CL 準々決勝 2ndレグ アトレティコvsドルトムント(A) 2024.4.16

アウェーの2ndレグ。1stレグはこちら

中間の試合でアトレティコは順位争いの直接のライバルであるジローナに3-1で勝利。
ドルトムントはボルシアMGに2-1で勝利した。


●スタメン

・アトレティコ
オブラク
ヴィツェル / ヒメネス / エルモソ
モリーナ / ジョレンテ / コケ / デ・パウル / アスピリクエタ
グリーズマン / モラタ

1stレグは負傷欠場したエルモソが復帰。リーノが出場停止の左にアスピリクエタを回した。

・ドルトムント
コベル
リエルソン / フンメルス / シュロッターベック / マートセン
ジャン / ザビツァー / ブラント
サンチョ / フュルクルク / アデイェミ

ブラントがスタメンに。
1stレグで得点のアレが負傷、そして週末に復帰したマーレンも膝の怪我で2ndレグも欠場となった。



●前半

ドルトムントのビルドアップ設定は1stレグの後半に似ていたが、より攻撃的に。アトレティコの5-3-2を相手に3-2ビルドはあまりにも相性が悪い。それに気づいても試合中に修正できなかった1stレグは何だかなという感じだったが、この日修正できたのでギリギリセーフ。
ドルトムントの鍵を握った、そして握り続けたのはハーフスペース特攻の命を受けたザビツァーとブラントの2人。彼らのパフォーマンスが前半の、さらには試合全体の方向性を決めていく事になる。

ドルトムントは4-1ビルド。アトレティコからすると相手SBにIH(ジョレンテ&デ・パウル)がどこまで圧力を掛けられるかがポイントとなるがドルトムントはSBが出し手になるイメージがあまりなく、あくまでも配球は両CBとジャンが担当する。SBは逃げ道に過ぎない。そのためアトレティコはボールの取り所の設定に苦労すると同時に1stDFが定まっているのかいないのかフワついた状態になっていく。これは前半を通じてずっとフワついていた。結果、ハーフウェーライン付近までの前進を簡単に許していく事となる。また、ドルトムントはジャンが間でボールを受ける作業を行わず、その作業さえもザビツァー&ブラントが対応。アトレティコは普段通りHVが落ちていくハーフスペースアタッカーにはどこまでもついていく設定にしていたが、ビルドアップタスクまで落ちていくのは割と想定外。ヴィツェルはどこまでブラントを追いかけるべきかに悩み、ここの見張り方もまたフワついていた。

IHは相手SBに付き合わされて長い距離を追いかけるだけで結局はCBから配球されていく。
ここからの配球が多彩だったドルトムント。こんなのあったっけという感じ。大外は一発で裏抜けを狙いつつ、フュルクルクがポストプレーを狙ってヒメネスをピン留め。その横をザビツァー&ブラントが前後に揺さぶってボールを引き出した。
ところでロングボールを蹴られる展開になりながらも、アスピリクエタは時々最終ラインを離れてリエルソンにプレッシャーを掛けに行ったが、これは正解。理由はドルトムントがハーフスペースにフリーマンを作ろうと画策していた事にある。

これでコケが持ち場を離れにくくなっていき、アトレティコは自陣に押し込まれていく事になる。アスピリクエタの単発プレスはこの形を避けるためで、同数の環境で蹴らせれば余裕で対応できていたので良い判断だった。流石。ちなみにライン間のフリーマンへ効果的な縦パスが入るわけではなく、フュルクルクに縦パスをぶつけてそのレイオフを受けるのがフリーマンのタスクだった。

この環境で不満があったのは、「ならば自陣に引き込んでボールプレッシャーを強める」という守備が出来なかった点。
ビルドアップを止められません、SBに押されてライン間にフリーマンを作られた環境で自陣に押し込まれます。別にいいです、そんなの。じゃあ5-3ブロックを作ったまま出し手に圧力を掛けましょうよ。自陣に押されているなら配球者に近づくのは簡単なはず。この対応が出来なかった2トップには不満。後半頭からコレアが必要となった最大の要因であり、早速結果論を言うならば45分でモラタを下げるならばやはりベンチにメンフィスがいて欲しかった。
珍しく指摘するが、モラタがシュロッターベックを見張りながらジャンへの縦パスを警戒していた環境でフンメルスをフリーにしていたグリーズマンは一体何をしていたのか。

先制点のシーン。
左から効果的にポケットを狙えていたこの時間、サンチョが望んで左に移動。明らかにヴィツェル周辺に人を集めていた。ザビツァーが手前を狙い、同時に裏を狙っていたブラントへフンメルスから正確なロブパスが届き、混戦で左足を振り抜いた。ゴールは見事であり、はやくも2つ目の結果論を言うなら贔屓目無しに見てもヒメネスはこの日もフュルクルクをワンプレーを除き完璧に抑えていた。それならばHVはハーフスペース特攻を見張れる選手が良かった。左アスピリクエタ、右がサヴィッチだったなら、前半の守備フェーズは少し違うものだったと思う。それは残念だった。

ドルトムントが負っていたリスクは守備面で、再奪回に適したメンバーではなかったしハイプレスのスピードも1stレグより劣った。4分にモラタが一発で抜け出したカウンターの場面は対応の緩さと同時に最後の対応をしたのがザビツァーだった事に割と絶望感があり、6分には簡単に右奥の最深部を取ったモリーナのマイナスのクロスにデ・パウルがフリーで合わせている。さらに7分にはモリーナとコケの2人で簡単にマートセンの背中を取っており、この試合もアトレティコが無得点という事はないでしょうねというバランス。

それでも次の得点はドルトムントに入る。左大外でサンチョがボールを触る形を擦り、ザビツァーがヴィツェルを大外に連れ出す。サンチョはボールを失わない事を念頭に置いたこの日のプレーは本当に脅威で奪える予感がなかった。モリーナとジョレンテが苦労させられたらアトレティコはどうしようもない。マートセンはザビツァーと入れ替わってエリア内に侵入した一歩目が速く、正確なシュートがネットに突き刺さる。ヒメネスのサポートも間に合っている環境で決め切ったマートセンを褒めたい。CL級のゴール。アトレティコは保持局面で左大外に攻撃のポイントを作れないと全体が上手く回らなくなるというよくある展開に陥り、1stレグのリードを手離して前半を終えた。



●前半終了

ホームのドルトムントの2得点で試合をひっくり返して残り45分へ。リーノ不在のアトレティコが守備に念頭を置いて試合に入った事は自然な心構えであり、ホームチームの2得点はどちらも素晴らしかった。ただ、どうせ前進出来ないのならせめてLHVアスピリクエタ、LWBヘイニウドの方が安全だった感はある。またまた結果論だがアスピリクエタとエルモソが2人してカードをもらった事は試合を壊すには十分な要素で、後半頭から3枚を入れ替えたのは勇敢でも賭けでもなく"やむを得ず"の対応である。崩壊の序曲を作った45分であった。
ただ、ここでモラタ→コレアを入れ替えるとFWを使い切る事になり、モリーナ→バリオスの交代でジョレンテを右WB固定。彼をFWに動かす形も失ったのは相当しんどい決断だった。しかも最終ラインはイエローをもらったエルモソと狙い撃ちされたヴィツェルのフル出場もほぼ決定的となった事もリスクを孕んだ。



●後半

モリーナ、アスピリクエタ、モラタを下げてバリオス、リケルメ、コレアを投入。

アトレティコは主にコレアがポケットでシュロッターベックを振り回すプレーとGKまで追いかけるプレスで無理やりペースを握ろうと動く。また、バリオスが左ハーフスペースを埋める事でWBリケルメのタスクを簡素化。グリーズマンがライン間で浮きやすくなり、コレアを使ったチャンスメイクでCKを獲得。このCKからエルモソのヘディングがフンメルスに当たって同点とする。ドルトムントも完璧ではない。ピッチを支配しようと必死なのだ。悩み苦しみ、定まらない両チームのアンバランスが浮き彫りとなる後半開始の5分間。140分を経過し、実質初めてスコアで並んだ両チームはようやく基本に立ち返ると同時に局面のデュエルを強調していく。
アトレティコはコレアの存在が前向きな守備を実現させ、デ・パウルはマートセンという明確なターゲットを持つ事で頭をクリアにしていった。ジョレンテがサンチョを封じた事がドルトムントに変化を強いていく。
ドルトムントは最終ラインからフュルクルクを狙った配球に立ち返り、セカンドボールラッシュで敵陣侵入を目指す。最終ラインから一発で背後を狙うボールで脅威を作り続けた。

57分にアトレティコは今季何度も作り込んできたヴィツェル&コケで前向きを作り、コレアへ正確無比なスルーパスを通したが惜しくも決まらず。色々あった試合だが、これが決まっていたら結果は違ったように思う。今季のアトレティコの文脈で見た時に一番アトレティコらしい決定機。

64分にアトレティコに勝ち越し点。フュルクルクを狙ったロングボールをヒメネスが止めてセカンドボール合戦をデ・パウルとコレアで回避。グリーズマン→コレアのロブパスでエリア内へ侵入し、リケルメ、コレアの1つ目のシュートは止められたもののコレアがもう一度右足を振って決めた。今季CL初得点は起用に応える一撃となった。コレアらしい。

この得点でドルトムントはアデイェミ→バイノー=ギッテンスを交代。マーレンとアレがいないドルトムントもこれで攻撃的なカードはムココを残すのみ。お互いにギリギリだった。そんなドルトムントの必殺が71分に飛び出す。

ブラントがボールを持ち、ザビツァーがポケットラン。アトレティコはラインが揃わず裏を取られたがバリオスの対応は間に合っており、ゴール前はフュルクルクのみ。それでもピンポイントなクロスを上げるザビツァーと正確に流し込むフュルクルクの技術はスーパーだった。ここまでフュルクルクを完璧に試合から消し続けたヒメネスからすれば痛恨の一発。

そして次のプレーでもう一つザビツァーがスーパーなゴールを決める。ここまで大人しかったジャンが中央で前を向いてブラントを狙った配球。フュルクルクのシュートはブロックしたがザビツァーの左足はボール一つ分の隙間を抜けた。グリーズマンが左に落ちる5-4のブロックを作っていたアトレティコは中央の配球を止められないまま、再びリードを手離した。

まだ15分を残していながらもう一度エンジンを噴かしてゴールに向かう推進力を出せなかったのは意外というか拍子抜けしてしまったが、誰がそのエンジンを?の答えは見つけられなかった。メンフィスがいれば、リーノがいれば。そして、一点を守る集中力は一度は死にかけたホームチームが上回った。



●試合結果

7シーズンぶりの準決勝を懸けたアトレティコの準々決勝は数回の逆転劇の末ドルトムントに屈した。

あまりにも大きな損失感だ。ベスト8という舞台においては明らかに今季一番上手くいっていない相手を引き、1stレグで圧倒的に優勢な試合をした。意気揚々と乗り込むはずだった2ndレグは今季の積み重ねを全て失う敗戦となった。

180分の物語で見た時にポイントはいくつかあるが、まずは1stレグのスコアが内容とそぐわなかった点。3-0でもおかしくない試合を2-1とされたのはドルトムントに勢いと自信を与えた事は否定しないが、そこを強調するのも憚られる。それはアトレティコもそうやってインテルとの1stレグを0-1で折り返し、ホームゲームでラッシュを掛けて勝ったからだ。同じ事をされるようなクラブなら最初から先はなく、そして先は、なかった。残念だ。

アウェーの2ndレグ90分間に限って言えば、前半の守備設定が整わなかったのは損失であった。しかし、まるでドルトムントが1stレグ同様の3-2ビルドをやってくると思っていたような人選と設定はあまりにもシメオネらしくなかったし、起用の揺らぎだったアスピリクエタとエルモソが前半からイエローカードを受けてリスクとなった点は大誤算。試合全体のコントロールを大きく欠く要因となった。
メンフィスがいない環境で守備に念頭を置いて前半を過ごすのであればスタメンはコレアで良かった感もある。シメオネは今季の集大成たる人選とこの試合の対処法たる人選の狭間で正しくない起用をしたように映る。

しかしここを乗り越えられないチームに先はないという観点から見れば、ピッチ上のメンバーで全方向に対応させようとした試合の入りには全面的に賛成する。純然たるスタメンと、出場停止のリーノの代わりはビッグイヤー請負人のアスピリクエタ。このメンバーで勝てれば、と思った。それが出来る自信もあった。そういう浪漫は、アトレティコには似合わなかったのかもしれない。

ドルトムントの得点はどれも精度とタイミングに優れ、完璧なものだった。とはいえ4点だ。1点目は出し手と受け手のタイミングを阻害する事。2点目は釣り出されるヴィツェルがどこのエリアを使われたくないのか指定する事、それを埋める選手がいる事。3点目はボールを引き取りに落ちたキーマンとポケットランを抑える事。4点目は無理。どこかで一つ、止められるチームが階段を登るのだろう。


止める事と守る事に特化する事で違いを創出してきたアトレティコ・マドリーは、現代サッカーを生き残る旅路の中で、いつの間にかその「違い」を失った。完成した23-24シーズンのチームは、強いチームだ。断言する。世界の誰よりもおれが断言してみせる。だからこそこのチームが頂点を掴む姿を見たかった。残念。悔いが残る。

それでは、このクラブがその向こう側へ辿り着くために必要な事とは、何なのだろうか。もう一度守る事なのか、突き進む事なのか。
おそらく、ほぼ確実に。当時のアトレティコの雰囲気を残せたチームは今年で終わる。来季のチームはまた別の姿をしているだろう。そのチームは、何に特化するだろうか。

選択の時は来た。マドリーとバルサに噛み付いて、失点を減らせば頂点が見えた時は終わったのだ。次の挑戦は、これまでとは質が異なる。ここで今季の戦いは終わる。次の挑戦は、どんな景色を見せてくれるのか。今はまだ受け入れられない敗戦を見つめながら、未来はすぐそこまで来ている。



4/16
ジグナル・イドゥナ・パルク
ドルトムント 4-2 アトレティコ

トータルスコア
ドルトムント 5-4 アトレティコ

得点者
【ドルトムント】’34 ブラント ’39 マートセン ’71 フュルクルク ’74 ザビツァー
【アトレティコ】’49 OG(フンメルス) ’64 コレア


●ピックアップ選手

コレア
後半からの投入でプレスのスイッチを入れ、PA内で違いを作った。一時の逆転に繋がる活躍で存在価値を示した。

ヒメネス
1stレグに続くハイパフォーマンスでフュルクルクを封じたがたった一度のチャンスを決められた。そこが勝負の分かれ目。合格点は与えられない。

ジョレンテ
サンチョを止める対応で試合展開を変えた。背後を狙うチャレンジがなかなか出せない展開だったがコレアをサポートし攻撃にも関与した。

グリーズマン
コレアの逆転ゴールを導くスルーパスで決定的な仕事。ゴール前でプレー機会を得られなかったのは残縁だった。

コケ
誰よりも走り続けたのはいつもの姿。勝利だけが不足した。

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