見出し画像

その道を進むのは覚悟がいる 19節 アトレティコvsジローナ(A) 2024.1.3

あけましておめでとうございます。あらためて2024年もよろしくお願いします。アトレティコの年明け初戦は早速2位ジローナとの試合。

ジローナのスカウティングレポートはこちら

ジローナとの前回対戦はこちら

そういえばアトレティコはアウェー3連敗中。ここを落とすといよいよ今季のタイトルは難しくなる。必勝の一戦。




●スタメン

・アトレティコ
オブラク
ヴィツェル / ヒメネス / エルモソ
リケルメ / ジョレンテ / コケ / デ・パウル / リーノ
グリーズマン / モラタ

最終ラインはソユンジュが出場停止。ヘイニウドがメンバー外。たぶんもう代表行った。
モリーナを外してリケルメがスタメン。リケルメとリーノの併用は3試合連続。

・ジローナ
ガッサニガ
ヤン・コウト / エリック・ガルシア / ブリント / ミゲル・グティエレス
アレイシ・ガルシア / イバン・マルティン / パブロ・トーレ
サヴィオ / バレリー・フェルナンデス / ドフビク

ツィガンコフとヤンヘル・エレーラ、そして18節で怪我をしたダビド・ロペスは誰も間に合わず。サヴィオを右に回して左はバレリー・フェルナンデスが今季初スタメン。

いざパルティダッソ。



●前半

アトレティコとしては、先制点を取って相手を引き込みカウンターを狙う時間を作るのが理想的だっだが、開始2分に早速の失点でそんなプランは脆くも崩れる。


・先に失点

最初のプレーで早速アトレティコ側の守備ブロックの呼吸が合わずサヴィオに裏を取られ、ドフビクに決定機。直後にデ・パウルがプレス回避で捕まり、バレリー・フェルナンデスのゴラッソ。アシストしたのは試合を通じてアトレティコの中盤を苦しめ続けるパブロ・トーレ。この日の彼は360度のコントロールが完璧。プレスを掻い潜る重要な役割を担当した。


・ボール保持フェーズ

いきなり失点したアトレティコはドフビクを狙ったロングボールをヴィツェル&ヒメネスで回収できる事を確認し、ボールを握っていく。

既に失点しているのでエルモソのポジションは最初から高め。2-2ビルドアップで普段よりも後方の枚数を一枚減らし、早くもリスクを負っている。
この試合は、「エルモソが高い位置で保持に関わる時デ・パウルが左IHだと邪魔になる問題」の解答を得た試合でもあった。デ・パウルはグリーズマンと距離を近づけて関与し、真っ直ぐ後方に落ちて引き取る仕事と中央レーンでボールを受けて相手の守備ブロックを動かす仕事の両方を担当。ボール付近にいる事でネガトラの急先鋒にもなれた。それをパブロ・トーレに外され続けた事は想定外だったが。
そして図の通り、失点直後の前半8分頃にはジョレンテとリケルメの位置を入替。理由として、ブロックを作って守りカウンターを狙うならジョレンテが前にいた方が良いが、縦の移動頻度が上がりプレス回避に人数をかけたいならジョレンテをWBにしてリケルメをインサイドに置いた方が機能する。この変更をたった一つのポジション入替で行えるのがアトレティコの凄いところ。


・同点

14分にアトレティコが同点にする。序盤からジローナはデ・パウルのドリブルゲインに誰が対応するのかが定まらず、大外待ちしていたグリーズマンが内側に走る動きにピタリとロングボールを合わせた。抜け出したのはモラタ。アトレティコらしいシンプルかつ効果的な打開ですぐ同点にできた。

同点になった事で、アトレティコはもう一度ブロックを敷く。

ブロックをコンパクトにし、出し手のアレイシ・ガルシアとイバン・マルティンをブロックの外へ追い出す。右大外のサヴィオはスペースがなくても理不尽に突破してくるが、PA内にCBを3枚揃えている状況ならどうにか耐えられる。問題はパブロ・トーレ周辺でボールを奪えない事だったが、彼より前にはドフビクしかいない事も割と多く、なんだかジローナ側も想定していない活躍だったような様子だった。


・ジローナの追加点 勝敗の分かれ目

この時間から、お互いにカウンターをもらうのが一番困る事に気づき、引いて守ってボールを取り返し、プレス回避しながら相手を押し込むというフェーズに入る。
一番やってはいけないのが変なボールロストだったが、27分にコケが珍しくゴール正面で捕まり痛恨のロスト。サヴィオに決められた。その後ジローナも自陣でブリントがロストしたがグリーズマンのシュートはエリック・ガルシアにブロックされた。こういうのが分かれ目。
38分にはブリントとパブロ・トーレにプレスを外されヤン・コウトが裏抜け。こんな簡単に背後を取られるのも珍しいがとにかくパブロ・トーレが止まらなかった。このCKから3点目を決められている。これも分かれ目。


・まだアトレティコの時間

アトレティコはデ・パウルが何度も中央で単独打開。デ・パウルを止めようとしたらイバン・マルティンがマンツーマンで対応するしかなさそうだが、グリーズマン周辺に人がいなくなる守備ブロックは多分考えられず、迷っている間に決定機を作られた印象。デ・パウルが前向きに走り出したところでモラタが完璧なタイミングで裏抜け。腹が立つほど冷静なフィニッシュで決めた。モラタは両CBの間を狙って横移動しながらタイミングを合わせていたがそれにしてもエリック・ガルシアとブリントはいくらなんでもマークの受け渡しが雑すぎる。これで優勝争いっていうのも凄い話である。
直後にまたデ・パウルがリーノとの連携でPA前を解決。またモラタが決めたが今度はオフサイド。惜しかった。ロスタイムにもモラタに決定機が来たが吹かした。



●前半終了

派手に撃ち合った前半は2-3。

ベストメンバーを揃えられなかったジローナは先制して駆け抜ける事がプランで、願ってもいない先制点が2分に。本来はスタメンではないパブロ・トーレが重要な役割をこなし、アトレティコを困らせたのはタイトルに向かうチーム感がある。

ジョレンテとリケルメ、どっちがWBをやるのかはサヴィオが左右どちらにいるのかによって変えられるように用意していた気もする。結果、スコアを追う事になったのでどちらにしてもジョレンテがWBに入り上下動を担当。
リケルメはプレス回避とPA幅での可動。本人が本当にやりたい仕事だったと思われる。プレス回避はエラーもあったがこの起用によってデ・パウルを左に回せるなら充分期待役割を満たしていたと評価する。別のタスクでクオリティを出した後半も合わせてビッグマッチに相応しいパフォーマンスだった。

サヴィオが右に回った事の煽りを受けたのはリーノで、サヴィオが左足で内側へ侵入してくる形を警戒し、後ろを抜けてくるヤン・コウトを気にしていたらシンプルに縦にぶち抜かれ続けるキツい仕事だった。おかげさまで攻撃に転じる機会が少なくなり、正直縦突破であればゴール前はヒメネスとヴィツェルがどうにかするくらいの気持ちでないとサヴィオは止まらなかった。内側に進まれてイバン・マルティンに登場されるくらいならこの対応で仕方なかったと思う。

アトレティコはスコアを追いかけ続けるのはしんどかったが、想定通りジローナは前からボールを奪う強度はなかったので保持はどうにかなった。特に配置から解放されたデ・パウルを誰が止めるのかが終始ふわつき、ここから配球できたのは大きかった。比較的コケとヴィツェルからの侵入を優先して警戒していたようだが、これは単にジローナの配置的にここが止めやすかっただけかもしれない。

ジローナの最終ラインはモラタの裏抜けに対応し切れず、トップから消えるグリーズマンの捕まえ方も定まっていなかった。3点取れてるんだからこれで良いという考え方もあるが、アトレティコは攻撃の選択肢に困る事はなく、一工夫で同点、逆転を狙える実感を持った後半へ向かう。




●後半

アトレティコはリーノに替えてモリーナ。リケルメを左へ動かした。リーノの特徴が出るのは後半に入ってからかとも思ったが、リードされている状態で判断が早かった。


・デ・パウルとリケルメ

アトレティコの突破口はデ・パウルとリケルメに。デ・パウルは前半以上に中央のレーンにポジションするようになり、自在にボールを引き出した。左大外でリケルメがボールを持てるようになりクロスを送り込む。

リケルメは高いボールをファーに落とすのが上手く、左サイドにボールがある時にファーのCBの背中へ消えるモラタと相性が良い。ここに良いボールを入れ続けた。ビルドアップ局面ではエルモソに大外を開けて自分は内側へ。グリーズマンと近い距離で関与し、右からのクロスにも飛び込んだ。CKと再奪回を連発したこの時間帯、回答は54分に。

またもやデ・パウルが相手ブロックにスラロームドリブルで割って入り、これまたモラタがCB間を横断して裏抜け。この日3点目を流し込んだ。デ・パウルのドリブルは真っ直ぐアレイシ・ガルシアに向かって進んでいたが、アレイシ・ガルシア自身は背中のグリーズマンを気にしてコースを開けてしまった。


目紛しく展開が変わる試合だが、各選手よく対応できている。都度変わるトランジション対応を適宜調節。ストレスの掛かる対応をやり続けたヴィツェル&ヒメネスは大変だった。特にヴィツェルはヒメネスに後方を全て任せてドフビクのポストプレーとカウンター局面のサヴィオの対応にまで飛んでいくヘビータスク。よくやっていた。ちなみにヒメネスは指示される前に自分で判断しろ

同点になってジローナはバレリー→ソリスを交代。攻守のトランジションで強度を出せる選手を入れ、62分にはパブロ・トーレの突破からドフビクに決定機。アトレティコは結局パブロ・トーレを永遠に止められないが、この辺で足を攣ったり彼もしんどそうだった。このシュートはオブラクがパラドン。ギリギリ耐えている。ソリス自身もカウンターの先頭を走り、ポケットを取りに来たジョレンテの突進を止めるなど躍動。いい選手です。

ジローナは66分にパブロ・トーレが限界。ドフビクと共にここで下がる。ストゥアニとアルナウ・マルティネスが出てきた。
アトレティコはこのくらいの時間から前後バランスがだいぶ怪しくなり、変な失い方をしてカウンターを喰らい始める。この時間も引き続き打開策になれていたのはデ・パウルの前進と、エルモソからサイドチェンジを受け取ったヴィツェルの持ち出しであった。ジローナ側もいつまで経っても前からの制限が掛からず、ずっと辛そうだった。別にしんどいのはアトレティコだけではない。

・交代策の是非

アトレティコはリケルメ→コレアを交代。

ボールを持っている分には良いが、左半分をデ・パウルが全部守るみたいなとんでもない配置となる。なぜこうなってしまったのか。
ただ、前の人数を増やして左右から放り込んでチャンスは作った。こういうのは気合根性でどうにか守るジローナ。苦手だと助かったんだが、身体を投げ出して皆で守りましょうみたいなのは得意らしい。

この放り込みフェーズで勝ち越せなかったアトレティコはデ・パウルに替えてメンフィス。その後サウルとアスピリクエタを入れて、びよんびよんに間延びした環境の間を繋ぎ、クローズドな環境を作ろうとしていたようにも見えたが、ここまで来るとクローズドもクソもないのでデ・パウルに中央を突っ走ってもらう方が効率が良かった気もする。

正直コレアやメンフィスが必要になるシーンがあまり思い浮かばず、カードをもらっていないならデ・パウルとモラタを最後まで引っ張っても良かった。結果論だが。

決勝点は90+1分。左大外でボールを引き出したポルトゥからPA内にようやく侵入してきたイバン・マルティンへ。3,4人に囲まれていたが、最後はタイミングを外した見事なフィニッシュ。最後までバランス調整を頑張っていたイバン・マルティンがヒーローになった。アトレティコは、デ・パウルがそれになるチャンスもあったのではないか、と思ってしまう。




●試合結果

・総評

3-4。壮大な撃ち合いになったが一歩足りず屈した。ジローナは決定機で自信に溢れ、最後の決定力で差を付けた。アトレティコはゴール前で重大なボールロストをしてしまい、セットプレーからの失点もした。完敗である。
この黒星でアトレティコはアウェーゲーム4連敗。マドリー、ジローナとの勝ち点差が10まで開く喪失感の大きい敗戦となった。

スコアを追いかける時間が続く中でむしろボールを握らせてもらう事ができ、もっと苦労するかと思っていたボールを奪い返す箇所に負荷が掛からなかったのは大きかった。アトレティコの攻撃陣、特にモラタの質は相手DFを上回り、チャンスを得点に繋げ続けた。
誤算だったのはパブロ・トーレのクオリティで、単独で前向きを作って陣地奪回してくるドリブルは常に危険だった。パブロ・トーレが2,3人を振り回す事で味方に時間をプレゼントするプレーはジローナのプレー選択を簡単にしていた。
正直それにしてはアトレティコの両サイドは良く耐えていた。1点目はトランジションでゴール正面のプレー、2点目はロスト、3点目はセットプレー。大外を解決されて決定機になったのは前半開始30秒の奇襲だけで、本当に良く準備して良く守った。それだけに違う結果を得たかった。


・個別に

攻撃ではデ・パウルのドリブルが極めて効果的。ジローナはアーリークロスへの対応も甘く、そこを狙った攻撃は後半から出てきたモリーナも含めて良く出来ていた。負けたがシメオネのオーダー通りのプレーが出来ていた選手は多かった印象がある。

デ・パウルはあまりにも彼向きの展開だったので置いておくにしても、リケルメは前半は右IHでトランジション局面のジョレンテとグリーズマンを繋ぐ役割を担当、後半は左WBで押し込んだ展開からモラタにピンポイントクロスを送り続けた。周囲の選手がリケルメのやりたいプレーに配慮している様子が見られ、これは2年前にフェリックスが躍動していた時期に似ている。リーノはこの試合ではシステムの犠牲になったが、パフォーマンスが悪かった印象は全くない。
ヴィツェルはヒメネスと頻繁にコミュニケーションを取りながら、前に出て潰すプレーとネガティブ・トランジションではとにかくボールに向かって出ていき前進を遅らせる対応を最優先。自分の得意なプレーを選択すると同時に、それはヒメネスに彼の得意な後方サポート役に集中させることにも繋がった。リードを許している事もあり、そしてトランジションでストップが効かない時間が長かった事もあり、ネガトラは何かを諦めて失点しない事に集中する必要があった。その選択を行なったのはヴィツェルであった。勝てていればMOMだったと思う。

グリーズマンは中央で時間を得られる機会も多く、普段通りに幅広いエリアでボールに関わる事が出来ていた。これを得点に繋げられなかったのはアトレティコの痛恨。一方でモラタは相手2CBと駆け引きして横移動しながらの裏抜けを連発。ジローナは全然対応出来ず3得点を決めた。まあ3点取った選手に言いたくはないが5点くらい取れたんじゃないか。まあいいでしょう。


・選手交代の所感

後半の選手交代は、コレア投入以降4得点目を狙っていたのはわかるがデ・パウル周辺で確定していた優位性を手離す形になってしまったのは残念。この時間帯の選手交代の理解として間違えてはいけないのは
 モラタ、グリーズマンout
 サウル、アスピリクエタin
だけ見て"4点目を取りに行くより同点でクローズする事を望んだ"という発想は間違い。そんな考えしてる人いないか。そんな子に育てた覚えはありません。

この時間帯にシメオネが気にしていたのは、両軍間延びが止まらずトランジションは常にオープン。スペースを突っ走るカウンター合戦になっていた事。
オープンバトルを継続するか、クローズドにボールを拾い敵陣でサッカーするかの選択をする事だった。

オープンの良し悪しだけでこの環境を語るのは難しいが、状況として"アトレティコが押していた"。そうなるとアトレティコが攻撃を仕掛けてジローナが守り、ボールを奪うと必死に走ってカウンターを打つ展開が続き、アトレティコは
 ボールは持てている
 カウンターチャンスはないがカウンターリスクは多大にある
という環境に。じゃあどうするか。間延びをやめましょう。そういう事ですね。そのためのサウルです。サウルの役割ってのはそういう、ピッチ幅を調節する事なのでね。
これが成功だったか失敗だったか、という話は難しいと思う。この選択のせいで決勝点を取られたという断言も出来ない。個人的には、正誤は一度置いておくが、シメオネはスクランブルの時に殴り合いが起きていると一方的に殴れる環境に変更しようとする習性があるのは間違いない。それ自体は間違っていない発想だとは思う。そもそもシメオネ・アトレティコの最終ラインて伝統的にカウンターに弱いし。ただし、この日は得点に関与し、まだ余力のある選手を下げてセカンドボールを回収しコンパクトを維持できる選手を選択した。その正誤は、どうだろう。

一つ、シメオネに向かっておれの意見を言わせてもらうとすれば、もっとピッチの11人を信頼して良かった。疑心暗鬼になり、チームを勝たせるために頭を使わなければいけない感覚はわかる。ここ数年苦しいもんな。でも、21-22シーズン、22-23シーズンのチームとは、今は違うでしょう。今ピッチ上で起きている現象をもっと信頼しても良かった。きっと彼らは勝手に解決して、勝手に壁を越えていく。それは、何もしないんじゃない。そういう選択が出来るチームをあなたが作っている証拠でしょう。この道を進むのは覚悟がいる。シメオネにも選手達にも。そして我々にもだ。

良い試合だった。エキサイティングでスペクタクル。なんたってマドリーを追いかける直接対決で、3-4だ。勝ったホームチームは優勝へ向かう。アトレティコはどうだ。次は良い試合を勝ちたいね。続いていく。続けていきましょう。モンティリビの夜で、アトレティコはまた強くなっていく。


1/3
エスタディ・モンティリビ
ジローナ 4-3 アトレティコ
得点者
【ジローナ】’2 バレリー ’27 サヴィオ ’39 ブリント ’90+1 イバン・マルティン
【アトレティコ】’14 ’44 ’54 モラタ



●ピックアップ選手

デ・パウル
特定のマークマンがいない彼向きの試合展開。縦横無尽に動き回り、前に進む事を優先して溝を突くドリブルを連発。結果的に3得点全てに関与した。

モラタ
執念のハットトリックで試合を面白くした。ストライカーの仕事を果たしたが、試合結果は別のところにあった。

リケルメ
前半と後半で大きく役割を変えながら貢献。"もうちょっと"で終わる状況を打開したい。

ヴィツェル
非保持のバランス調整に苦心し、ビルドアップ局面ではチームを押し進めた。ヴィツェルにしか出来ない仕事をした。

この記事が参加している募集

サッカーを語ろう

ラ・リーガ

with U-NEXT

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?