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デリカシーの欠片すら持たない、ぼくが僕になるまで

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ぼくが僕になるまでの物語です。ありったけの魂を込めましたので、ぜひお読み下さい。
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#人生

こんな小説の始まり方があってもいいんじゃないか。

こんな小説の始まり方があってもいいんじゃないか。

 みなさんに今見てもらったのは、ある人から送られてきたビデオテープの解説である。ビデオテープは腰当てにするにはちょうどいい大きさの小包によって僕の住まいへと届けられた。小包にはビデオテープの他に、数十枚の彼特有のユーモアがちりばめられた原稿も入っていた。それ以外の余ったスペースはというと、これら重要な歴史的文化財を保護すべく丸めた新聞紙によって埋め尽くされていた(だから実際のところ、小包の大半の中

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ぼくが僕になるまで(青年期⑤)

ぼくが僕になるまで(青年期⑤)

★人を待つのって、少しどきどきする。

 ロビーのソファに座って待っていると、展覧会を満喫し終わったミユがこちらへ歩いてきた。ミユの膝の上では、羽織っている長いカーディガンが、まるで春風を受けたカーテンのようにひらひらと揺れていた。僕なんかじっくりと見でおきたい作品があると、人混みをもろともせず立ち止まる主義なんだけど、ミユはそうともいかないらしい。はけては何度も何度も性懲りなく列に並び、接近する

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ぼくが僕になるまで(少年期⑤)

ぼくが僕になるまで(少年期⑤)

★好きなことをとことん。これ以上に何が必要?

協定その五:期間は一年間。

「そうだな」口の中にきゅうりを残したまま、甲野さんは話し始めた。「さっきの話の続きだが、当時の俺は大学を出たばかりの若造だった。俺の出た大学は世間に名の知れた大学だったから、最初から面白いように内定が取れたんだ。付け加えて景気が良かったのもあった。自分で言うのもなんだが選り取り見取りだった。その内定先から、俺は一番待遇が

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ぼくが僕になるまで(幼少期⑤)

ぼくが僕になるまで(幼少期⑤)

★人のテリトリーにずがずかと入る奴は、マンボウにでもなるがいい。

 父さんはぼくの部屋にノックもしないで入ってくると、中には入らずにドアのところで立ち止まった。足を肩幅に開き、腕を胸の前で組むと、何かを点検するかみたいに部屋の中を見回しはじめた。用紙にチェックを書き加えていくみたく、一つ一つ正確に視線の合図を送っていく。特に本だなについては時間をかけていた。それから父さんは納得したように頷くと、

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ぼくが僕になるまで(青年期④)

ぼくが僕になるまで(青年期④)

★会う場所はどこでもいい。約束は建前だ。

 僕は冷たい空気と連れだって、長らくお世話になった山手線の車内から降りた。天候は晴れ。気温はすこぶる高い。肌を焦がすにも、溜まりに溜まった日々の老廃物を外に出すのにも絶好の日和。もちろん、一週間分の光を摂取するにももってこいの日だ。
 通勤時間を外したからだろう、改札前のロビーはそこまで混んでいなかった。学生やリュックサックを背負った外国人がちらほらいる

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ぼくが僕になるまで(少年期④)

ぼくが僕になるまで(少年期④)

★自分の世話は自分で見れると思っているうちは、まだガキだ。

 協定その四: マンションの他の住人にはちゃんと目を見てあいさつする。

 爪先で探り、扇風機のスイッチを入れた。弱のボタンの上に赤いランプが点き、扇風機はゆっくりと稼働し始める。首が動き、空気の流れを部屋に作る。三十度ほど首を回転させて、また元の位置へ戻る。古いのか、常にカタカタと何かに擦れる音がする。
 甲野さんは窓際に立ち、オーガ

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ぼくが僕になるまで(幼少期④)

ぼくが僕になるまで(幼少期④)

★ぼくは誰のために生きている?それが分かっている人は幸いだ。

 リビングでは父さんと母さんが向かいあって話してた。まるで作戦をねってるみたいに、こぶし一個分の距離で話してる。にっくき相手のチームには聞かれないよう、内輪だけでの作戦会議だ。ぼくはそれを横目にすり抜けて、キッチンに向かった。
 その時、マコト、とリビングから呼びかけられた。担任の先生みたいにしっかりとした発音だ。声のした方へぼくは顔

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ぼくが僕になるまで(青年期③)

ぼくが僕になるまで(青年期③)

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「君に今、ご指導頂いているのは誰なんだ?」
「ご指導?」
「崇拝その他女性の取り扱い方について」ミユの細い眉がくにゃりと曲がって、真ん中に寄り

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ぼくが僕になるまで(少年期③)

ぼくが僕になるまで(少年期③)

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協定その三:外では赤の他人のふり。

 前に甲野さんから貸してもらった本を教科書の間から取り出す。できるだけ周りに溶け込むよう、端から順に手を

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ぼくが僕になるまで(幼少期③)

ぼくが僕になるまで(幼少期③)

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「それぐらいでいいよ。ストップストップ。これじゃあマヨネーズの海だ」目の細さから鑑定すると、どうやら母さんを怒らせてしまったみたい。目が鉛筆の

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ぼくが僕になるまで(青年期②)

ぼくが僕になるまで(青年期②)

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 ウエイターを呼んで、僕は最近ハマり出した辛めのスパゲッティ、ミユは僕がお薦めしたスパゲッティを――追加のトッピングで僕の理想とする形とはずい

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ぼくが僕になるまで(少年期②)

ぼくが僕になるまで(少年期②)

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協定その二:学校にはちゃんと行くし、授業もちゃんと受ける。

「これ全部読んだ?」
甲野さんはキーボードを叩いていた手を止める。椅子を半回転

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ぼくが僕になるまで(幼少期②)

ぼくが僕になるまで(幼少期②)

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「何を読んでいるの?」振り向くと、目、鼻、口と母さんの主要な部分がドアのすきまからはみ出ていた。うかつにもドアを閉め忘れていたようだ。次からは

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ぼくが僕になるまで(青年期①)

ぼくが僕になるまで(青年期①)

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「これ、借りてっていい?」顔を上げてみると、ミユは本棚の前にいてページをぱらぱらとめくっていた。この年代の女の子にありがちな狭い背中。だけど、いくら狭いとは

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