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小説書いてます

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小説(短編・超短編)・詩・散文詩・日記等、文芸(風)の作品を集めました。
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#小説

男たちの月見(1700字小説・コンテスト用)

男たちの月見(1700字小説・コンテスト用)

小説の同人誌のメンバー武井・藤井・森川の3人で月見をやろうということになった。

小説の同人誌なんかをやってるくらいだから3人とも会社の仕事を頑張ったりする人ではなく、いわゆるうだつの上がらない人たちだった。

3人とも50に近かった。

一応ホームセンターで売ってた団子を乗せるあの台を用意して、スーパーで売ってた見切り品の団子をそこに載せた。

場所はちょい田舎にある見晴らしのよい武井の家になっ

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短編小説「バレリーナたちの青春―前編」(使い捨てコンテンツと芸術の狭間で)

短編小説「バレリーナたちの青春―前編」(使い捨てコンテンツと芸術の狭間で)

東京神田にTYGというバレリーナ養成学校がある。

今日もわたしはそこへ通う。

わたしがそれを望んだというより、よくあるはなしだが親にその道を歩まされてるにすぎない。

それほど才能があるというわけでもないということにだんだん気づきはじめたわたしにはこうして学校に通うことにもちろん少し迷いが生じている。

しかし幼少の頃から続けているバレエとその練習がどうやらそんなに嫌いでもないらしい。

練習

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短編小説「バレリーナたちの青春―中編」(使い捨てコンテンツと芸術の狭間で)

短編小説「バレリーナたちの青春―中編」(使い捨てコンテンツと芸術の狭間で)

(前回までのあらすじ)東京神田のバレリーナ養成学校に通う理沙は一番できる練習生裕美を励みにしていたが、辞めたい気持ちも半分くらいある。練習後、理沙は控え室で美亜たちとぶっちゃけばなしで盛り上がる。
(リンクはこちら)

(本文)
3日経ったある日、マネージャーの春日部が駆け込んでくる。

「大変だ、今度の公演が中止になったんだ。前売りの売れ行きが悪すぎるんだ」
突然…(というわけでも実はないのだが

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短編小説「バレリーナたちの青春―後編」(使い捨てコンテンツと芸術の狭間で)

短編小説「バレリーナたちの青春―後編」(使い捨てコンテンツと芸術の狭間で)

(前回までのあらすじ)理沙は神田にあるバレリーナ養成学校に通う練習生で、優秀な裕美を励みにしている。ある日、マネージャーの春日部が次回公演が中止になる報告のため控え室に飛び込んでくる。突然大雨が降り出し、理沙とその仲間はマネージャーと雨宿りをするため控え室で盛り上がる。
(前編リンクはこちら)
(中編リンクはこちら)

(本文)
何日か経ったある日の午後のこと、買い物に行く途中で裕美にばったり出会

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マラソンランナー型と循環型の再会 (短編小説─過去記事マガジンおまけ記事vol.4)

マラソンランナー型と循環型の再会 (短編小説─過去記事マガジンおまけ記事vol.4)

扇谷悟はロックンローラーだった。

いや、今でもやり続けている。

本名ではなく、その世界ではミッシー・森を名乗っている。

若い頃は、そこそこ名の知れたロックバンドのギタリストだった。

そのバンドは、ボーカルKATSUの艶やかな容姿とカリスマ性で持ってるようなものだった。

自分に酔いしれてしまっているKATSUの要求にだんだん違和を感じるようになり、いよいよバンドがこれからだというときにミッ

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そんなに売れるというわけでもない商いにも意味がないわけではない─2000字小説

ニューヨークのスラムというほどではないが、やや錆びれた裏通りといっても差し支えないストリートにあるアパートの入口に老人は腰を下ろしていた。
老人は商いをしているようだった。
痩せさらばえたその老人の斜め下を見下げるような眼差しはやや険しかった。
老人は黙りこくっている。

四つ向こうのストリートにはタクシーや人の往来がはげしく、ニューヨーカーといわれる人たちが速足ですり抜けていた。

その大通りか

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優等生香利奈の不安(1400字小説)

優等生香利奈の不安(1400字小説)

校内テストの成績が貼り出されている。
わたしが2位で、わたしと付き合ってる慶太郎は8位にランクされている。
1位は、がり勉オタクの佐和というやつだ。
なにをどうやってもこいつには敵わない。
でもわたしは、お風呂の中でまで参考書を読んでいるという佐和にどうしても勝ちたいとはあまり思わなかった。
こんだけ勉強した揚げ句、大学を卒業したらフツーに役人になるのだろうか?
わたしは、学校の同級生女子のあいだ

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ある中年男からの手紙(2700字小説)

ある中年男からの手紙(2700字小説)

法廷記者馬場の住むアパートのポストに差出人不明の手紙が入っていた。

ロクな手紙じゃなさそうだ。

それはそうに決まってるが中身を読まずに屑かご行きはためらわれた。

仮にもわたしは記者なのだ。

私宛に送られてきた文字の羅列を、それを読んでみる前から屑かごに放るなど、記者魂とでもいうものがそれを許さなかった。

開けてみよう。

読んでみると、そんなにムカムカするものとかではなかった。

以下そ

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クロネコがよこ切ったあと(1600字小説)

クロネコがよこ切ったあと(1600字小説)

中2になった圭太は、野球のジュニアリーグの練習に急いでいた。

「大変だ、コーチに怒られる!」

道具を持って、急いで石段を下りる。

黒猫が横切る。

「ちぇっ、こんなときに、邪魔なやつだ」

圭太は、小学校のころ、クラスメートの古川のいってたことを思い出した。

「黒猫が前を横切ると、不吉なことがおこるんだってぇ」

圭太は科学的根拠のない迷信みたいなはなしはあんまり好きではなかったが

実際

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職業の背負う悲しみ(短編)

職業の背負う悲しみ(短編)

島本は女性の職業の実際をリサーチ、調査、研究するXという機関に所属していた。

島本は、アラブ方面の宗教的に敬虔な人々の住むIwan(仮称)という国に調査で来ていた。

燃え尽きるような砂漠の街で、ある石鹸売りの女性に出会った。

後ろからロバに乗った盗賊の一群がものすごい砂ぼこりを上げて通りすぎていった。

女性は持っている石鹸を全部落としてしまう。

あっ……

この国を支配する宗教の関係でベ

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