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2022年7月の記事一覧

殺しのピアノ弾き

ショーウインドーに
姿が映らない
殺しのピアノ弾き
まばらな人波の街に
置かれた古いピアノを
静かに弾き始める
迷う人がその足を
根城へと向かわせる頃
彼は演奏を終え
次の街へ向かう
命を使い切る為に

彷徨う黄昏

事件に巻き込まれたマーロウ
何時だって悲劇は
前触れを知らせない
刑務所から出て来た
未来を探す大男は
過去を殺しに街を徘徊する
幾つもの人を殺め
愛しき人まで辿り着いた
大男を待って居たのは
今を生きる女が放った
銃弾だけだった
永遠を掴んだ大男の體と
踏み込んだ警官達を跡目に
狂った風に背中を押され
彷徨う黄昏の中
マーロウはただ立ち竦んだ

モラル

他人の不幸を探しに
僕は生まれた故郷を彷徨う
寂れた街には埋もれた
感傷さえ残りやしない
誰が死んだとか
彼は病気だとか
噂すら聞こえない中
僕は自分が病んでいる事に
気付かない振りをする
それがモラルだろう
そう思う事にした
何時からかは忘れたけど
僕はそう思う事にしたんだ

灼熱のカポーテ

うだるような夏に
貴方はカポーテを纏い踊る
僕は美しい事を知って
世界は音を立て崩れた
灼熱に包まれて
貴方と口付けをしよう
離れ離れに為る前に
骨すら残らなくても

都合の良い夢

優しくて透明な
夢を見て居たい
引き籠り
生まれる事が罪だと
教えてくれる者に
出会えなかった事が
彼の不幸だった
生き続ける罰に怯え
揺籃に閉じ籠る
無垢な筈の
胎児の真似をして

キャンディ・マティーニ・ヘブン

世界の終わりへ
逝きたいとは思わない
僕はまだ
何も知らないから
秘密のバーで
キャンディ・マティーニ・ヘブンを
飲んだなら
気違いな大人に
皆が変貌するのさ
僕はそう噂で聞いた
本当の事なんて
分かりはしないぜ
嘘ばかりでも
生きてはいけるから

99番目の奇術師

それはとても
簡単な事の筈だった
小さな国の王を
失脚させるだけの仕事
何度やっても
上手くいかずに
99番目の奇術師を
黒魔術で召喚した
彼は直ぐに仕事をこなし
後は罪を着せるだけだった
彼だけが本当の
魔術師だと気付けずに
大国は塩の柱と化し
皆消えてしまった
本物の魔術師だけを残して

チェリークーぺ

夜中にギグを行う
ミルクホールまで
チェリークーペを飛ばそう
番犬の監視を巧く
すり抜けたなら
あの娘を迎えに行こう
ロックンロールが
鳴り響く店のドアを
開けて君と踊ろう
磨いた靴底がすり減るまで

終末の日

貴方と何をしよう
終末の日に
貴方と何処へ逝こう
終末の日に
静かな時間が流れ
全ての空間が止まる
貴方と何を願おう
終末の日に
僅かな声を上げて

メシアの転落

私は
神に選ばれた筈だった
祝福を受け
生まれ変われると信じてた
何故か
全て裏目に出て
祈りすら
届きはしない日々に
私は
疲れ果ててしまった
闇市で
手に入れた時限爆弾を手挟み
私は
人でざわめく街へと向かう
全てを清算する為に

鉛のジルバ

君の声が
途切れ途切れ
消えて逝く真に
何をしようか
全てを掴んでも
雪の様に消えて
幻だけが
積み重なる世界で
君の心が
離ればなれ
無くなる刹那に
何を見せようか
鉛のジルバに
僕が溺れたとしても

サンプラー

機械の音が作った
幻に酔いしれる人達を
纏めるビッグ・シスター
管理社会では
従順な者しか要らない
病める者は皆
有無を言わさず処分される
生産性を求め続けた
未来に希望は無く
自殺すら叶えられず
捨てられるだけ
一握の灰すら残せない儘

令和ピストル・ショー

場末のキャバレーで
歌うシンガーの声は
酒と煙草で掠れ切ってた
店の壁に絡む蔦が
何時しか時代を歪めても
誰もそれを止めようとしない
皆が病んでいるのだから
貴方は変わらないで
私が変わり切って
令和ピストル・ショーを
巷で演じたとしても

スイート・トゥデイ

7月の哀しみが
夜の帳を下ろし
貴方は綺麗になって
私を忘れるでしょう
何も知らない人と共に
幸せな振りをするのですね
私は打ちひしがれた儘
この命を終えるでしょう
何かに為ろうとして
傷つけ合う日々に追われて