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DXとマーケティングその36:DXでのビジネスモデルとマーケティング

DX(デジタルトランスフォーメーション)とマーケティングとの関係を考えてくシリーズの36回目です。

今回も、DX関連書籍の一つである『DXナビゲーター』をもとに、マーケティングとの関係を分析していきます。

前回までで『DXナビゲーター』で述べられている戦略策定の箇所をもとに、マーケティング領域との関係を分析しました。

今回は、戦略策定の次のステップである「ビジネスモデルの開発」とマーケティング領域での概念とが関係がありそうなのかを考察します。

これまでの『DXナビゲーター』をとりあげた30回目から前回(戦略の箇所)までと今回までの議論流れは、以下の図に示しています。戦略に関してのまとめは、前回の記事を参照してください。

戦略策定に関する議論
ビジネスモデルに関する議論

これまでの記事

第1回はこちら。経産省のDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第2回はこちら。『DX実行戦略』におけるDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第3回はこちら。「無料/超低価格」のビジネスモデルを分析しました。
第4回はこちら。「購入者集約」のビジネスモデルを分析しました。
第5回はこちら。「価格透明性」のビジネスモデルを分析しました。
第6回はこちら。「リバースオークション」のビジネスモデルを分析しました。
第7回はこちら。ここまでの記事をまとめました。
第8回はこちら。「従量課金制」のビジネスモデルを分析しました。
第9回はこちら。『マーケティング大原則』という書籍におけるマーケティング定義を確認しました。
第10回はこちら。『マーケティング大原則』という書籍で紹介させている「戦略的コンセプト」をDXの視点から関係性を見ました。
第11回はこちら。DXの実行プロセスとマーケティングのマネジメントプロセスの関係性を見ました。
第12回はこちら。DXの実行プロセスとマーケティングのプランニングプロセスの関係性を見ました。

DXと経営篇
第14回はこちら。DXと経営との関係付けの準備を行いました。
第15回はこちら。DXと事業の定義がどのように関係するのかをみました。
第16回はこちら。DXと「われわれの事業は何になるか」と「われわれの事業は何であるべきか」がどのように関係するのかをみました。
第17回はこちら。DXの背景を整理しました。
第18回はこちら。DXの背景と「顧客は誰か」との関係を整理しました。
第19回はこちら。DXの背景と「顧客はどこにいるか」との関係を整理しました。
第20回はこちら。DXの背景と「顧客は何を買うのか」との関係を整理しました。

デザインドフォー・デジタル篇
第13回はこちら。『デザインドフォー・デジタル』というDXの書籍をもとにDXとマーケティングの関係をみました。
第21回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングの関係を指摘しました。
第22回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでの新製品開発との関係を整理しました。
第23回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでのカスタマーインサイトとの関係を整理しました。
第24回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでのカスタマーインサイトチームとの関係を整理しました。
第25回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでのマーケティング情報システムとの関係を整理しました。
第26回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでのマーケティング情報システムでの情報ニーズの評価との関係を整理しました。
第27回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでのマーケティング情報システムでの社内データと社外データとの関係を整理しました。
第28回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングにおけるマーケティング情報システムでのマーケティング・リサーチとの関係を整理しました。
第29回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングにおけるマーケティング情報システムでの情報の分析と利用との関係を整理しました。

DXナビゲーター篇
第30回はこちら。『DXナビゲーター』というDXの書籍をもとにDXとマーケティングの関係をみました。
第31回はこちら。DX戦略とマーケティング戦略との関係をみました。
第32回はこちら。DXでのデジタル化戦略とマーケティング戦略との関係を見ました。
第33回はこちら。DXでのデジタル面の強化戦略とマーケティング戦略との関係を見ました。
第34回はこちら。DXでの新規デジタル事業立ち上げ戦略とマーケティング戦略との関係を見ました。
第35回はこちら。DXでのデジタル戦略とマーケティング戦略との関係を見ました。

おさらい:DXナビゲーターにおけるDX

『DXナビゲーター』でのDXとは、以下の2つを同時に並行して行うことであるとされます。
1.既存の中核事業のデジタル化
2.新たなデジタル事業の創出(立ち上げ)

これまでの記事で見たように次の図で整理しました。

同時に行う理由は、同書によると、それが成功法則であり、互いの事業をうまく連携させることで相乗効果が生まれるためだと述べられています。

また、関連する概念として、『DXナビゲーター』では、これら2つで取り組む事業をそれぞれ、S1曲線とS2曲線として次の図で示されています(p.21より)。

『DXナビゲーター』では、S1曲線の事業を維持しながら、S2曲線の新たな事業を立ち上げること、さらには2つの曲線の相互作用を管理する方法が解説されています。

そして『DXナビゲーター』では、このDXの取り組みを説明する枠組みとして、Why、What、How、Whereという4つの視点での整理を行っています。
・Why:なぜ行動するのか?
 たとえば、あらたしい競合相手の脅威がある。
・What:何をするのか?
 たとえば、既存の中核事業の業務をデジタル化により改善する。
・How:どのように実現するのか?
 たとえば、新しいテクノロジートレンドを研究する全体的なフォーカスグループを作る。リーンスタートアップのアプローチを適用して、アイデアを実際の製品、サービス、新規ビジネスモデルへと成長させる。
・Where:どこで結果を見るか?
 たとえば、ROA、NPSなど。

これまでの記事では、上記の4の視点も含めて次の図のように整理しました。

なぜ行動するのか(Why)を理解しながら、何をするのか(What)、どのように実現するのか(How)、をもとに行動します。行動の結果として、既存の中核事業の様々な側面に変化が行われ、その変化の(途中)結果を確認します(Where)。同様に、デジタル事業も生まれていきます。

図では「行動」は各2つしかありませんが、実際は目的の達成に向けて何度でも繰り返されるという意味です。

今回の記事の記事の範囲は、Whatに関わる部分となります。

今回の話:ビジネスモデルの開発

今回の記事では、DXでのビジネスモデルの位置付けと、ビジネスモデルとその開発プロセスを見ていきます。見ていく視点は、マーケティング領域の概念とどのように関係しそうなのかです。特に、マーケティング戦略と4P、新製品開発プロセスを意識しながら見ていきます。マーケティングとの関わりは次の節で議論します。

今回、詳細に見ていくのは、Whatの章での2つ目のステップです。Whatの章では、大きく3つのステップがありました。

1.戦略的な目標を設定する。
2.戦略を支える適切なビジネスモデルをつくる。
3.各種プロジェクトを可視化して、全体像をつかみ優先づけの指針にする。

ここで書かれているように『DXナビゲーター』でのビジネスモデルとは、DX戦略を支えるものとして位置付けられています。

また「ビジネスモデルを作る」ということが前提とされています。つまり、S1曲線(中核事業)、S2曲線(新規デジタル事業)の両方で、ビジネスモデルを作るとされています。S1曲線の場合は、既存のビジネスモデルの再評価し、新たなビジネスモデルへの変換を目指します。S2曲線の場合は、そのまま新たにビジネスモデルをつくることになります。つくるとは、市場に展開するところまでを意味すると考えられます。

ビジネスモデルをつくるにあたり、『DXナビゲーター』では、「ビジネスモデル・ナビゲーター」という手法をもとにした議論が進められています。現状のビジネスモデルから新たなビジネスモデルを作る、または、新たなビジネスモデルを作り、市場に展開するまでのプロセスです。

『ビジネスモデル・ナビゲーター』, 図2.1より

「ビジネスモデル・ナビゲーター」は、大きく設計フェーズと実行フェーズに分かれます。
<設計フェーズ>
・現状分析:自社を取り巻くエコシステムの分析
・パターン適用:ビジネスモデルパターンの適用
・事業設計:ビジネスモデルの詳細化
<実行フェーズ>
・プロトタイプ
・検証
・市場展開
それぞれのフェーズで行うことの詳細は次回以降で見ていきますが、ひとまず、このようなプロセスがあると認識しておきます。

次に、ビジネスモデルという用語自体の定義から確認していきます。『DXナビゲーター』では、ビジネスモデルの定義は次のように説明されています。

簡単に言えば、ビジネスモデルは企業のビジネスのしくみを表すものだ。ビジネスに含まれるさまざまな要素と、それがどのように組み合わさって自社や関係者に価値をもたらしているかを説明する包括的な考え方である。ビジネスモデルは次の4つの軸で構成される。
・顧客軸:自社が対象とする顧客セグメント。
・提供価値軸:自社が顧客にもたらす価値。
・提供手段軸:提供価値の実現に必要な業務プロセス。
・収益化軸:そのビジネスモデルが利益を生むメカニズム。

『DXナビゲーター』,フランケンバーガーら、p.82

このビジネスモデルの定義は、同じ著者らによる『ビジネスモデル・ナビゲーター』で詳細に議論されています。また、『DXナビゲーター』でのビジネスモデルの議論では、『ビジネスモデル・ナビゲーター』での「ビジネスモデル・ナビゲーター」という上記で紹介した手法をもとに議論が進められています。そのため、ビジネスモデルに関して具体的なイメージを持つこと、および、後に議論するマーケティング領域との関わりを見るためにも、以降ではもう少し詳しく見ます。

ビジネスモデルとビジネスモデルパターン

『ビジネスモデル・ナビゲーター』では、ビジネスモデルの4つの軸に関して、次のように詳しく説明がされています。

我々の考案した「マジック・トライアングル」では、ビジネスモデル全体が4つの軸で構成されている(図1.2)。
1.顧客軸(Who/だれに?)──自社の対象顧客はだれか?
既存顧客の区分、ビジネスモデルの対象となる顧客区分、対象とならない顧客区分を正確に理解することは重要である。いかなる場合も例外なく、すべてのビジネスモデルの根幹は顧客である。
2.提供価値軸(What/なにを?)──自社が顧客にもたらす価値はなにか?
2つ目の軸で、自社の提供する製品やサービスを定義し、それが対処顧客のニーズをどのように満たすかを表現する。
3.提供手段軸(How/どのように?)──自社の製品やサービスをどのように提供するか?
顧客に価値を提供するためには、各種業務プロセスを実行する必要がある。自社のバリューチェーンを沿った一連の業務プロセスおよび必要なリソースや実行能力、段取り方法などすべてがビジネスモデルの3つ目の軸である
4.収益モデル軸(Why/なぜ?)──なぜ自社が儲かるのか?
この4つ目の軸で、コスト構造、収入を上げる仕組みなどを明確にし、ビジネスモデルが収支の面で成立するかどうかを見極める。すべての企業が自問自答すべき根本的な問いに対する答えがこの軸である。すなわち、自社の株主などステークホルダーに対する価値をどのように生み出すのか? 簡単に言えば、このビジネスモデルで商売が成り立つのか? ということだ。

『ビジネスモデル・ナビゲーター』、ガズマンら、pp.19-20

「マジック・トライアングル」は次の図のことです。

『ビジネスモデル・ナビゲーター』, 図1.2より。

WhoとWhatは、外部要因に関わる軸を、HowとWhayは内部要因に関わる軸とされます。

『ビジネスモデル・ナビゲーター』では、さらに、55種類のビジネスモデルのパターンが紹介されています。これらのパターンは過去50年間に開発され成功した主要なビジネスモデルを分析した結果として抽出されたものとされます。たとえば、一部を紹介すると、次のものです。
・サブスクリプション
・直販モデル
・従量課金
一方で、抽象度が少し異なるように思えるビジネスモデルもあります。
・クロスセル
・デジタル化
・顧客データ利用
・スーパーマーケット

これらのビジネスモデルのパターンも4軸で説明がされています。4軸のうち2軸以上に変化があるものが選ばれています。2軸以上の刷新のあるものは、「ビジネスモデルイノベーション」と呼ばれます。そうではなく、たとえば、提供価値の軸のみを刷新した場合には、「製品イノベーション」と呼ばれ、「ビジネスモデルイノベーション」とは区別されています。

続いて、ビジネスモデルパターンが使われているケースを紹介します。

『ビジネスモデル・ナビゲーター』では、例としてコンピューターメーカーであるデル社(Dell)が挙げられています。同社は、「直販モデル」「アドオン」のビジネスモデルパターンを使っています。

まず、「直販モデル」から見ていきます。同社は、競合他社(ヒューレット・パッカードやエイサーなど)とは異なり、製品流通に流通業者を介さないことに特徴があります。これはHow?(提供手段軸)の軸に対応します。この特徴の結果として、低価格なカスタムメイド製品の提供が可能となっています。これはWhat?(提供価値)の軸に対応します。また、顧客から直接受注することで実際の需要に関する貴重な情報を入手できるため、その情報をもとに効率的に在庫調整や調達網の管理を実施できます。これはHow?(提供手段軸)の軸に対応します。

さらにデル社では、「アドオン」のビジネスモデルパターンを活用してさらに売上を生み出しています。具体的には、基本製品に自分の好きな部品を追加して、顧客が自分専用にカスタマイズできるようにしています。これはWhy?(収益モデル)の軸に対応します。このように、業界の常識的なビジネスモデルと比較すると、デル社は、マジック・トライアングルの3つの頂点のすべてを変更することで、全く新しい価値の創造と収益化を実現するビジネスモデルを生み出しています。

以下に整理しました。
・使ったパターン:直販モデル、アドオン
・変更した軸
 ・直販モデル
   ・How

     ・製品流通に流通業者を介さない
     ・顧客から得られた需要情報をもとに、効率的に在庫調整や調達網の管理を実施
   ・What
     ・
低価格なカスタムメイド製品の提供
 ・アドオン
   ・Why
     ・
基本製品に自分の好きな部品を追加して、顧客が自分専用にカスタマイズできる

「ビジネスモデル・ナビゲーター」の手法では、行うステップの一つとして、「ビジネスモデルパターンの適用」があります。55種類のビジネスモデルパターンは、次のフォーマットで記述されています。
・基本パターン:このパターンの概要となります。関連するWho、What、How、Whyの軸で説明がされています。
・ビジネスモデルの原点:このパターンの原点となる事例の説明です。
・ビジネスモデルの活用例:このビジネスモデルを活用した企業の事例です。
・活用の視点:このモデルをどのように活用するのかの解説です。前提条件であったり、メリットとなる点、注意点などです。
・ビジネスモデル革新への問いかけ:既存のビジネスモデルを革新できるかどうかを考える上での問いかけの例です。

以降の節では、「直販モデル」と「アドオン」のパターンがどのように記述されているのかを確認します。「基本パターン」の記述を主に確認します。

直販モデルのビジネスモデル

直販のビジネスモデルは、How、Why、Whatに関わります。

How:製品は、小売やアウトレットのような中間チャネルから提供されるものではなく、製造元やサービス提供者から直接提供される。

Why:直接提供されるため、企業は小売業者のマージンや周辺コストを省くことができ、削減したコストを顧客に還元することも可能になる。

What:また、企業が顧客の購買体験を直接把握できるようになり、顧客のニーズをより深く理解した上で製品やサービスの改善アイデアを考えることができる。

さらに、2つ目のHowとWhatも説明されています。
How:加えて、直販モデルでは営業情報をより正確に把握し、均質で一貫した流通モデルを安定的に運用できる。

What:顧客には、企業から迅速でよりよりサービスを得られるという明確なメリットがあり、広範な説明が重要な製品では特に重要なポイントとなる。

以下の表にビジネスモデルの定義、直販モデルのビジネスモデルパターン、デルの事例を整理しました。

本記事は、ビジネスモデルパターンの考察を行うものではないですが、デルの事例は、直販モデルを使っていますが、Whyの記載がないことが分かります。なぜないのかは分かりません。

参考に、ビジネスモデルを中心とした概念の関係図を整理しました。「抽象化・一般化」と書いていますが、定義の厳密なこだわりはここではしていません。

実際には、モデル化やパターン化する際には、抽象度をいったりきたりすると思われます。たとえば、いくつかの企業のビジネスをもとに、ビジネスモデルの仮の定義を決めます。次に、その定義の汎用性を確認するために、その他のいくつかの企業のビジネスを、その定義で説明できるかを確認します。説明が難しい箇所や、不十分だと判断する場合には、定義を修正します。修正が不要だと判断するまで、修正を繰り返します。

アドオンのビジネスモデル

アドオンのビジネスモデルでは、サービスや製品の本体部分を安価で提供し、さまざまな追加オプションで最終的な価格が高くなるようにします。

アドオンのビジネスモデルは、How、Why、Whatに関わります。

Why:顧客は追加のオプション部分にまとまったお金を払う。

What:オプションの内容としては、アップグレード、付帯サービス、製品の拡張パック、あるいは個別のカスタマイズまで幅広く考えられる。アドオンに追加でお金を支払うか、あるいは本体部分のみを利用するかは、顧客の選択に委ねられる。この点がアドオンモデルの顧客のメリットとなる。自分の好みに合わせて製品をカスタマイズしたいのか、オプションはいらないのか、選択の自由である。

事例としては航空会社のライアンエアー社があげられています。基本運賃は格安ですが、搭乗中のサービスの食事、飲み物、旅行保険、優先搭乗など多くのオプションが別料金で提供されました。

以下の表にビジネスモデルの定義、アドオンのビジネスモデルパターン、デルの事例を整理しました。

まとめ

ここまでで、DXでの戦略とビジネスモデル、ビジネスモデルの位置づけをみました。

ビジネスモデルは、戦略を支えるものとされますが、具体的な関係性は議論されていません。ただし、『DXナビゲーター』では、ビジネスモデルの概念とビジネスモデルパターンの活用が一連のステップでの前提となっています。「中核事業として行うこと」と「新規デジタル事業として行うこと」は、それぞれ、ビジネスモデルの見直しと、新たなビジネスモデルの開発を行うとされます。

ビジネスモデルの見直しと新たなビジネスモデルの開発にあたっては「ビジネスモデル・ナビゲーター」の手法がもとにされています。この手法では大きく設計フェーズと実行フェーズに分かれます。

ビジネスモデルには55種類のパターンがあり、その適用が設計フェーズのステップとの一つとして行われます。

ここまでの理解をもとに、次節では、マーケティングにおけるビジネスモデルの位置づけを確認します。

「ビジネスモデル・ナビゲーター」の手法(設計フェーズと実行フェーズ)に関しての詳細は、次回以降の記事で見ていきます。まずは、以下の大きな考え方があるとして、議論を進めます。
・ビジネスモデルという概念があること
・そのビジネスモデルを作るプロセス(手法)があること

マーケティングにおけるビジネスモデルの位置付け

ここまでで、『DXナビゲーター』および『ビジネスモデル・ナビゲーター』でのビジネスモデルについて詳しく見てきました。本節では、ビジネスモデルとマーケティングとの関わりを考察します。

興味深いことに、マーケティングの代表的な教科書であるコトラーの書籍では、ビジネスモデルという用語は扱われていません(教科書としては、Principles of marketing, 18版, 2020)。理由は分かりませんが、単に関係がないということなのかもしれませんし、あるいは、ビジネスモデルというコンセプト自体が理論化しにくく、マーケティングの体系にまだ組み込まれていないということかもしれません。

一方で、書籍によっては、ビジネスモデルを扱っているものもあります。たとえば『マーケティングの新しい基本』では、ビジネスモデルというコンセプトの厳密な定義はされていませんが、ビジネスモデルという言葉とともに事例が扱われています。同書については、次回以降で取り上げたいと思います。

したがって、ベースにするものがありませんので、いったん、この記事でも最初から考えてみます。

ビジネスモデルと関係のありそうなマーケティングの概念として、以下を特定しました。
・マーケティング戦略
・4P
・新製品開発

以降では、これらの概要を述べます。

まずおさらいとして『DXナビゲーター』でのビジネスモデルの構成要素は以下でした。
・顧客軸:自社が対象とする顧客セグメント。
・提供価値軸:自社が顧客にもたらす価値。
・提供手段軸:提供価値の実現に必要な業務プロセス。
・収益化軸:そのビジネスモデルが利益を生むメカニズム。

これら構成要素とマーケティングの関わりで直感的にありえそうなのは、1つ目として、マーケティング戦略です。2つ目として4Pです。マーケティング戦略とは以下です。

『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』より

マーケティング戦略では、大きく「対象とする顧客を選定すること」と「提案する価値を決定すること」の2つに関する決定を行います。
<対象とする顧客の選定>
・市場細分化:
市場を小さなセグメントに分割する。
・ターゲティング:参入するセグメントを選定する。
<価値提案の決定>
・差別化:優れた顧客価値を創造するために市場提供物を差別化する。
・ポジショニング:ターゲット顧客のマインド内における市場提供物の位置を決める

顧客軸は、「対象とする顧客の選定」に、提供価値軸は「価値提案の決定」に関係しそうです。

続いて、4Pは以下です。

『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』より

・製品(Product):品種、品質、デザイン、特徴、ブランド名、パッケージ、サービス
・価格(Price):表示価格、割引、アロウワンス、支払期限、信用取引条件
・流通(Place):チャネル、流通範囲、立地、在庫、輸送、ロジスティクス
・プロモーション(Promotion):広告、人的販売、販売促進、PR、ダイレクト・デジタルマーケティング

提供手段軸や収益化軸が関係しそうでしょうか。

また、プロセスの視点で大枠を見てみると、マーケティング戦略の策定と4Pの策定は、マーケティングプロセスの中に含まれます。

『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』より

さらに大枠としてはマーケティングマネージメントの中にも含まれると思われます(分析、計画、実行、コントロール)。

『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』をもとに作成

続いて、3つ目の関係しそうな要素として、ビジネスモデルを刷新するプロセスが、マーケティングでの新製品開発のプロセスと関係しそうです。

ビジネスモデル・ナビゲーターの手法は、ビジネスモデルを市場に出すところまでのプロセスを扱うものでした。ビジネスモデルは抽象的な存在ですが(モデルなので)、実際にはそのビジネスモデルに基づいて、実際の製品やサービスを市場に出すことを意味すると思われます。となると新製品開発のプロセスと関係がありそうです。

『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』より

ビジネスモデル・ナビゲーターでのプロセスを以下に再掲します。新製品開発プロセスとどのように関係しそうでしょうか。

まとめ

今回の記事では、『DXナビゲーター』で述べられているWhatの章の2つ目のステップである、ビジネスモデルとビジネスモデルの開発プロセスを確認しました。ビジネスモデルの開発は、戦略策定の次に行われるステップとされており、戦略を支えるのがビジネスモデルであるとされます。

今回の記事では、まず、『DXナビゲーター』でのビジネスモデルの定義を確認し、同書がもとにしている「ビジネスモデル・ナビゲーター」の手法に基づき、この手法の要素となる「ビジネスモデルパターン」の概念を確認しました。

そして、これらビジネスモデル、ビジネスモデル・ナビゲーター、ビジネスモデルパターンと関わりのありそうなマーケティング領域での概念として以下を特定しました。
・マーケティング戦略
・4P
・新製品開発プロセス

また、マーケティング戦略と4Pを含むプロセスとして、以下を取り上げました。
・マーケティングプロセス
・マーケティングマネージメント

今回の記事では、マーケティングで関係のありそうな概念を特定しただけであり、詳細な分析までは行いませんでした。次回は、ビジネスモデル(とビジネスモデルパターン)とマーケティング戦略との関係を分析します。続きはこちら

これまでの記事

第1回はこちら。経産省のDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
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