DXとマーケティングその2

分析屋の下滝です。

このシリーズでは、あまり語られることのなさそうなDX(デジタルトランスフォーメーション)とマーケティングとの関係について調査していきます。

前回の記事では、経産省のDXの定義を用いて、DXとマーケティングの関係性を議論しました。今回は、前回とは異なる定義を用いて、マーケティングとの関係を見ていきたいと思います。

DXの定義

今回見ていくDXの定義は『DX実行戦略』という本からです。

私たちは、デジタルビジネス・トランスフォーメーションを「デジタル技術とデジタル・ビジネスモデルを用いて組織を変化させ、業績を改善するとと」と定義する。第1に、企業業績を改善することがその目的であり、第2にデジタルを土台にした変革であること。組織は絶えず変化しているが、ひとつ以上のデジタル技術が大きな影響をおよぼしているものでなければ、デジタルビジネス・トランスフォーメーションには分類されない。そして第3に、プロセスや人、戦略など、組織の変化を伴うものであること。デジタルビジネス・トランスフォーメーションには、テクノロジーよりもはるかに多くのものが関与している。
──『DX実行戦略』, マイケル・ウェイド, p.27

用語を少し補足します。「デジタル技術」に関しては、直接的な定義はなさそうなのですが、「デジタル」として以下の使い方をしています。

私たちは、デジタルを「複数の技術革新が、つながりの向上という意味で統合されていくこと」と定義している。ここでいう技術には、クラウド・コンピューティングや解析、IoT、モバイル、ソーシャルメディアなど、たくさんのものが含まれている。
──『DX実行戦略』, マイケル・ウェイド, p.69

良く分からないと思ったのですが、著者の前著ではもう少し具体的な定義がされていました。

デジタル 複数の技術革新が、つながり(コネクティビティ)の向上という意味で統合されていくこと。本来、そうしたイノベーションは時間をかけて進化していくものだが、今日的な問題に直結する技術的イノベーションだけでも、ビッグデータとその解析(アナリティクス)や、クラウドコンピューティングなどのプラットフォーム技術、モバイルソリューションと位置情報サービス、ソーシャルメディアなどの連携アプリ、インターネット接続機器とIoT(訳注、モノのインターネット。さまざまなモノに通信機能を持たせる技術)、人工知能と機械学習、バーチャルリアリティなどがある。私たちの定義では、これらの技術のうちひとつ以上を土台にしているものを「デジタル」と呼ぶ。カギは「つながる」ことだ。
──『対デジタル・ディスラプター戦略』, マイケル・ウェイド, p.16

まだ良く分からないですが(たとえば、「新しい技術が出たときに、デジタルに関わるかどうかをどう判別するのか?」)、一旦これで解釈しようかと思います。

「デジタル・ビジネスモデル」に関しても、直接的な定義はなさそうですが、「ビジネスモデル」に関しては以下として使っています。

組織がいかにして価値を創出し、供給、実現するかを原理的に説明したもの
──『DX実行戦略』,マイケル・ウェイド, p.76
※この定義自体は『ビジネルモデル・ジェネレーション』という書籍の定義をもとにしている

「デジタル技術」と同じく、「デジタル・ビジネスモデル」に関しても著者の前著ではもう少し定義の幅が分かる記述がありました。

デジタル技術で可能となった破壊的ビジネスモデルは、それがもたらす価値の種類によって分類することができる。DBTセンターの調査により、デジタル・ディスラプターが顧客にもたらしている価値、すなわち、カスタマーバリューには「コストバリュー」「エクスペリエンスバリュー」「プラットフォームバリュー」の3種類があることがわかった。
──『対デジタル・ディスラプター戦略』, マイケル・ウェイド, pp.49-50

上記の記述と同時に載っている図では「バリュー形態ごとのデジタル・ビジネスモデル」と説明があります。ですので、「デジタル・ビジネスモデル」とは、この3種類の各バリューごとにある主要な5つのビジネスモデルのことを指すようです(計15種類)。

これらを組み合わせて、冒頭の定義を図に整理してみました。

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参考として、前回の記事で紹介した経産省の定義をもとにしたの図も紹介します。

このDXの定義を整理すると、変革の目的(Why)は、「競争上の優位性を確立すること」であり、変革の対象(What)は「製品・サービス、ビジネスモデル、業務、組織、プロセス、企業文化・風土」であり、変革の手段は「データとデジタル技術」となる
─『DXビジネス 全体像の可視化』

画像3

『DXビジネス 全体像の可視化』の図1-1-1-1を参考に作成

両定義の比較については、次回以降の記事で分析しようかと思います。違いとなりそうなのは、以下です。
・「業績の改善」と「競争上の優位性の確立」
・「製品・サービス」の有無

組織変革の分類

『DX実行戦略』を読んでいてなんとなく感じるのは、組織を変革するときの課題が強調されている点です。では、なぜ組織を変えることを意識しなければならないのか。この本では「デジタル・ボルテックス」という概念が紹介されています。

竜巻と同じく渦巻きは、回転によって周囲の物体に力をおよぼし、渦の中心に引き寄せる。「デジタル・ボルテックス」は市場に起きる破壊現象であり、「デジタル化できるものはすべてデジタル化される」という1点に向かって、企業を否応なしに引き寄せる性質を持っている。製品やサービス、ビジネスモデル、バリューチェーンはデジタル化され、競争を阻害している物理的な構成要素(従来の投下資本や物理的なインフラ、人力によるプロセス)は取り除かれる。渦巻きのなかでは、物体はしばしば回転の力によって分解する。これが、まさに既存企業のバリューチェーン内で起きていることだ。破壊的な企業(ディスラプター)はデジタル技術とデジタル・ビジネスモデルによって、バリューチェーンのつながりを破壊(アンバンドル化)し、その過程で新しいカスタマーバリュー(顧客価値)と市場の変化を生み出す。
──『DX実行戦略』,マイケル・ウェイド, pp.15-16

つまり、既存企業は、このディスラプターの動きに対応する必要があるということです。変化しなければ、自社のビジネスが破壊されていきます。既存企業にとってビジネスモデル等を変えることは、組織全体の変革が求められる、というのが本書の考えと読めました。

ただ、組織の変革自体は、これまでも歴史があるようです。では、これまでの組織変革とは何が違うのか。あるいは、既存企業がDXだとして行っている組織変革はDXと呼んでよいのか。『DX実行戦略』では、「組織のもつれ度」と「変革の程度」の軸で、変革(変化)に向けた取り組みを分類しています。4つ変革のうち、1つがDXに対応します(左上)。

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『DX実行戦略』,図表1-6をもとに作成

少し長いですが、各変革を引用します。

1 古典的変革──機能的に自立した、緩やかな変化。変化のゴールは明快で、必要なリソースは限定されており、その範囲は特定の部門内またはグループ内であると明確に定義できる。たとえば、広告部門が「新聞・テレビ広告」から「オンライン広告」に移行するなら、それは自分たちの権限の範囲内でおこなえる。大きな影響はもたらされず、社内の他部門が巻き込まれることはない。
実行に重きを置く経営努力の大半は、この種の変化に分類される。きわめて平均的な変化で、広範にわたる部門横断的な取り組みは発生せず、全体的な戦略やビジネスモデルの変化を求められることもない。

2 包括的変革──複雑にもつれた、緩やかな変化。全体的な新しい雇用ルールの導入や、グローバルな経費管理システムの導入といった微調整(もしくは修正)がこれに当たる。組織内全部門の多様な利害関係者が影響を受ける。こうした調整はしばしば、複雑な「組織のもつれ」とぶつかり、私たちの多くが経験しているように、実行には困難を伴うこともあるが、変化の程度は小さい。会社がつくり出しているカスタマーバリューの種類や、収益をあげるための方法、競争における全体的なポジションにさしたる変化はない。

3 スマートX──機能的に自立した、大きな変化。変化の程度は大きいが、全社を挙げて取り組む類いのものではない。「スマート・サプライチェーン」や「スマート不動産」といったプロジェクトがこれに当たる。
とはいえ、このスマートXが容易に達成できるものではない。変化の範囲は、あるひとつの部門に限定されるかもしれないが、それが非常に大がかりなものになる可能性もある。たとえば、「スマート・ファクトリー」を実現するためには、製造プロセスでの抜本的な変革が不可欠だろう。そのため、「大きな変化」に分類される。

4 DX(デジタルビジネス・トランスフォーメーション)──複雑にもつれた、大きな変化。私たちDBTセンターは、この種の変化に注目しており、とりわけ本書は、これに主眼を置いている。すでに定義したように、デジタルビジネス・トランスフォーメーションとは「デジタル技術とデジタルビジネスモデルを用いて組織を変化させ、業績を改善すること」である。このため、他の変化とはかなり性質が異なる。
大きな規模、高い相互依存性、大きなダイナミズムが関係しているため、新たな戦略に向けて舵を切るには、組織全体の抜本的な変化が不可欠である。これは、破壊的なライバル企業に対処するために、ビジネスモデルやカスタマーバリューの創出方法を変化させることを意味する。また、サードパーティとの価値創造(プラットフォームを介してなど)が関係してくることもある。
──『DX実行戦略』,マイケル・ウェイド,  pp.55-57

4のDXの説明をもとに、図を改良しました。条件として、「複雑なもつれ」と「大きな変化」を記載しました。

画像4

DXとマーケティング

前回の記事では、DXの定義として「製品とサービス」の要素があったため、マーケティングにおける4Pの考えと「製品とサービス」とを紐付けることで、DXとマーケティングの関係性を分析しました。参考に、マーケティングの定義例を載せておきます。

これに対し真のマーケティングは、顧客、人口構造、顧客の現実、ニーズ、価値からスタートする。「われわれは何を売りたいか」ではなく、「顧客は何を買いたいか」を考える。「われわれの製品やサービスにできることはこれである」ではなく、「顧客が見つけようとし、価値あるとし、必要としている満足はこれである」と言う。
実のところ、販売とマーケティングは逆である。同じ意味でないことはもちろん、補い合う部分さえない。
何らかの販売は必要である。だが、マーケティングの理想は販売を不要にすることである。マーケティングが目指すのは、顧客を理解し、顧客に製品とサービスを合わせ、ひとりでに売れるようにすることである。
─『経営の真髄 [上]』, ピーター・ドラッカー

今回のDXの定義では、マーケティングとの関係を考える上での直接的な手がかりになりそうな要素はなさそうです。もしかすると、15個のビジネスモデルの中に、マーケティングとの関係性が分かるヒントがあるかもしれません。次回以降では、それをテーマに深堀りを行っていきたいと思います。

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