DXとマーケティングその29:デジタルサービスの開発と情報の分析と利用
分析屋の下滝です。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とマーケティングの関係を考えてくシリーズの29回目です。
今回は、DX書籍の一つである『デザインドフォー・デジタル』の続きを行いたいと思います。
具体的には、DX領域における「デジタルサービス開発」の位置づけと、マーケティング領域における「マーケティング情報システム」との位置づけとの関係を見ていきます。特に、「情報の分析と利用」との関係を見ていきます。
これまでの記事と今回の記事の流れは以下の図となります。
これまでの記事
第1回はこちら。経産省のDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第2回はこちら。『DX実行戦略』におけるDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第3回はこちら。「無料/超低価格」のビジネスモデルを分析しました。
第4回はこちら。「購入者集約」のビジネスモデルを分析しました。
第5回はこちら。「価格透明性」のビジネスモデルを分析しました。
第6回はこちら。「リバースオークション」のビジネスモデルを分析しました。
第7回はこちら。ここまでの記事をまとめました。
第8回はこちら。「従量課金制」のビジネスモデルを分析しました。
第9回はこちら。『マーケティング大原則』という書籍におけるマーケティング定義を確認しました。
第10回はこちら。『マーケティング大原則』という書籍で紹介させている「戦略的コンセプト」をDXの視点から関係性を見ました。
第11回はこちら。DXの実行プロセスとマーケティングのマネジメントプロセスの関係性を見ました。
第12回はこちら。DXの実行プロセスとマーケティングのプランニングプロセスの関係性を見ました。
DXと経営篇
第14回はこちら。DXと経営との関係付けの準備を行いました。
第15回はこちら。DXと事業の定義がどのように関係するのかをみました。
第16回はこちら。DXと「われわれの事業は何になるか」と「われわれの事業は何であるべきか」がどのように関係するのかをみました。
第17回はこちら。DXの背景を整理しました。
第18回はこちら。DXの背景と「顧客は誰か」との関係を整理しました。
第19回はこちら。DXの背景と「顧客はどこにいるか」との関係を整理しました。
第20回はこちら。DXの背景と「顧客は何を買うのか」との関係を整理しました。
デザインドフォー・デジタル篇
第13回はこちら。『デザインドフォー・デジタル』というDXの書籍をもとにDXとマーケティングの関係をみました。
第21回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングの関係を指摘しました。
第22回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでの新製品開発との関係を整理しました。
第23回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでのカスタマーインサイトとの関係を整理しました。
第24回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでのカスタマーインサイトチームとの関係を整理しました。
第25回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでのマーケティング情報システムとの関係を整理しました。
第26回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでのマーケティング情報システムでの情報ニーズの評価との関係を整理しました。
第27回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでのマーケティング情報システムでの社内データと社外データとの関係を整理しました。
第28回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングにおけるマーケティング情報システムでのマーケティング・リサーチとの関係を整理しました。
おさらい:デザインドフォー・デジタルでのDX
以下の図は、『デザインドフォー・デジタル』でのDXの概念を整理したものです。青色がDXでの概念、赤色がマーケティングでの概念です。
背景:『デザインド・フォー・デジタル』の筆者らの取り組みは、次のような疑問と答えに基づいているようです。デジタル技術により、消費者の生活は以前より便利になっています。一方で「従来型大企業」ではビジネスにおいてデジタル技術を導入することは当たり前にはできてないと言えそうです。業務改善のためや顧客に対して新しい価値提案(バリュープロポジション)のためにデジタル技術を取り入れることは困難であることが実証されているとされます。
そこで、筆者らは次の疑問をなげかけています。従来型大企業が「デジタル技術によって、ビジネスの成功を容易に実現できないのはなぜなのか」。
筆者らは、5年間にわたるリサーチの結果として、この疑問に対する答えは、「従来型大企業が、率直に言って、デジタル仕様にデザインされていないからだ」となりました。このことは、「デジタル企業デザイン」という概念に繋がります。
デジタル企業デザイン:デジタル企業デザインとは、バリュープロポジションを形作り、デジタル技術によって実現するサービスを提供するために、人材(役割、説明責任、構造、スキル)、プロセス(ワークフロー、手順、手続き)、技術(インフラストラクチャ、アプリケーション)を全体的に、組織的に構成すること、と定義されます。
なお「デジタル企業デザイン」の概念は、微妙な解釈の違いがあるかもしれませんが、次で説明する「デジタル対応化」と同じような概念だと思われます。以下からは上記の図で概念を示しています。
デジタル対応化:デジタル対応化ができる企業になれば、イノベーティブなデジタルサービスを開発できる組織能力を備えるようになり、そのデジタルサービスは、より高度なバリュープロポジション(顧客への価値提案)を実現できるものだとされます。
バリュープロポジション:バリュープロポジションは、顧客のニーズに対しその企業のみが提案できるような価値を指します。自社の存在価値や独自性を顧客に伝え、競争力の向上につなげるための概念だとされます。
DXと組織能力:DXは、デジタル対応化に向けての取り組みとされます。この取り組みは、ビルディングブロックと呼ばれる組織能力を構築することから構成されます。ビルディングブロックには5つあり(図の左上)、各ビルディングブロックは、「人材」、「プロセス」、「技術」の変化をもたらすものとされます。
・人材:役割、説明責任、構造、スキル
・プロセス:ワークフロー、手順、手続き
・技術:インフラストラクチャ、アプリケーション
これら3つは、すでに述べた「デザイン企業デザイン」を行うことと同じような意味合いとなります。
今回の記事では、ビルディングブロックの一つである、「シェアード・カスタマーインサイト」を扱います。
「シェアード・カスタマーインサイト」は、デジタルサービス開発におけるプロセスのあり方を扱うようなものです。付随して、デジタル技術や顧客に関する理解、理解の蓄積と共有といった行いやそれらを行うための体制の構築も関わります。
おさらい:シェアードカスタマーインサイトの構成要素
以下の図に、シェアード・カスタマーインサイトの構成要素を示します。
『デザインドフォー・デジタル』でのニュアンスを拾いきれているわけではありませんが、整理してみたものになります。
本文でどのように書かれているのかは、過去の記事を参照してください。
基本的には、顧客のニーズに応えられるデジタルサービスをいかに開発していくか、ということになりそうです。
以下で、特徴を整理します。
開発プロセス:デジタルサービスの開発は、実験的に何度も行いながら、「デジタル技術が可能にするソリューション」と「顧客ニーズ」が重なり合う部分を見つけるというアプローチを取ります。
デジタル技術としては、ソーシャルネットワーク、モバイル、アナリティクス、クラウド、IoTや、他にも、生体認証、ロボット工学、人工知能、ブロックチェーン、3D印刷、エッジコンピューティングが例として述べられています。
デジタル技術には、3つの能力があるとされます。ユビキタスデータ、無限の接続性、膨大な処理能力です。
顧客の理解、顧客の参加、サービスのアイデア創出:実験では、カスタマージャーニーマップといった顧客を理解するための手法や、外部パートナーや顧客自体の参加、アイデアを募るための仕組みといったのが使われます。
ビジョン:実験においては、ビジョンを定義しておくことは、どのような実験を新たに実施するのか、実験結果の評価基準をどうするのか、という疑問に答える上で役に立ちます。ビジョンは例えば「スマート・エネルギーマネジメント・ソリューションを提供する」や「低コストでヘルスケアの成功を高める」といったものです。
業務プロセス:実験の際に、顧客の理解やデジタル技術の学びが得られます。この学びを蓄積し、社内で共有する必要があります。共有が必要なのは、同じような実験が行われないようにするためです。
組織体制:組織体制としても新しい試みが必要となります。
・IT部門やマーケティング部門等が、製品開発の初期から参加するといった機能横断型のチーム
・実験からの学びを社内に共有・拡散することを目的とした部門
おさらい
この連載は、DXとマーケティングの関係を考えていくものです。関係の捉え方として、ここ数回の記事では、マーケティング領域での概念と、シェアード・カスタマーインサイトでの概念がどのように重なるのかを調べてきました。
マーケティング領域での概念とは、たとえば、「カスタマーインサイト」や「マーケティングリサーチ」といったもののことです。
シェアード・カスタマーインサイトでの概念とは、たとえば、「ビジョンの設定」や「実験的な開発プロセス」のようなもののことです。
上記の図で示すように、大きく、2つの可能性があります。
1.マーケティング領域での概念に、シェアード・カスタマーインサイトの概念がすべて含まれる可能性
2.マーケティング領域での概念に、シェアード・カスタマーインサイトの概念が部分的に含まれる可能性
また、以下の可能性も考えられますが、恐らくありません。
3.互いに関係が全くない可能性。これは、これまでの記事の結論からするとありません。
4.シェアード・カスタマーインサイトにマーケティング領域の概念が含まれる可能性。シェアード・カスタマーインサイト自体が、マーケティング領域より広い概念を扱うとは見なせないと思われます。
これまでの記事では、可能性1と2を分析するために、具体的には、次のような流れをもとに議論してきました。
1.まず、マーケティングにおける「新製品開発プロセス」と「マーケティング・リサーチ」との関係性があるのではないかと指摘しました。
2.次に、「新製品開発プロセス」との関係性を議論しました。
3.次に、マーケティング領域での「カスタマーインサイト」との関係性を議論しました。
4.次に、マーケティング領域での「カスタマーインサイトチーム」との関係性を議論しました。
5.次に、マーケティング領域での「マーケティング情報システム」との関係性を議論しました。
扱った概念を以下の図に示します。
以降の節では、2~5で具体的に議論した流れを振り返ります。これら2~5は、参考にしている『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』の書籍の5章と8章に対応します。
・5章:マーケティング情報とカスタマー・インサイト
・8章:新製品開発と製品ライフサイクル戦略
では、このようにマーケティング領域とDX領域の関係を分析することで何が得られるのでしょうか。
・体系的な取り組み:マーケティング領域自体は、歴史があり、上記の書籍のように一定の体系化がされています。もちろん、環境の変化に応じて、これまでの知見は適切でなくなったり、新たな知見が組み込まれることはあります。
では、この体系化された領域に対し、比較的新しい領域であるDXは、どのような影響を与えるのでしょうか。両領域に何らかの関係があるなら、その関係は、整合性や一貫性が保たれていることが望ましいと思われます。そうでなければ、それぞれの部署や従業員は、相反する前提や原則をもとに活動することになり、活動の衝突や矛盾を発生させ、十分に成果が出せなくなるかもしれません。
これまでの分析のふりかえり
では、以下の順でこれまでの分析をふりかえります。
・新製品開発プロセス
・カスタマーインサイト
・カスタマーインサイトチーム
・マーケティング情報システム
これまでの分析のふりかえり:新製品開発プロセス
新製品開発プロセスでの整理は以下の図となります。DX領域での「デジタルサービス開発」は、マーケティング領域での「新製品開発」の一種として分類しました。「デジタルサービス開発」ではない残りのものは「非デジタルサービス開発」としました。
マーケティング領域においては、新製品開発で言及されている特徴として、以下の2つがあります。新製品開発の成功にはこれらの特徴が必要とのことです。
・顧客中心の姿勢:開発プロセスにおいて顧客を巻き込むこと
・チーム型の製品開発:開発プロセスの最初から最後まで様々な部門の関係者が関与すること
これら2つは、シェアード・カスタマーインサイトでも言及されている特徴と同様のものであると考えられます。
シェアード・カスタマーインサイトでは、他にも、デジタルサービス開発のプロセスにおける以下の4つの特徴(概念)が言及されています。
特徴1:ビジョンを設定すること
特徴2:サービス開発のプロセスは、顧客のニーズを満たせるようなサービスを見つけるために実験的に開発を繰り返すプロセスであること
特徴3:サービス開発プロセスにおいて、デジタル技術と顧客に関して学習したことの蓄積・共有を行うこと
特徴4:学習内容の蓄積と共有に責任を持つ組織体制を作ること
これらの特徴の関係を以下の図に示します。
これらの特徴は、マーケティング領域では言及されていませんでしたが、新製品開発プロセスの枠組み内に位置づけたとしても、問題はないと思われます。
また、これらの特徴は、デジタルサービス開発に特有の特徴である可能性があります。理由として、ソフトウェアの修正は、比較的容易であるためです。つまり、新製品開発プロセスの中には含まれないだろう特徴です。ソフトウェアではない製品開発においては、同様の特徴をもったプロセスが適してないと考えられるためです。
これまでの分析のふりかえり:カスタマーインサイト
新製品開発プロセスの枠組みでは、そこで指摘した4つの特徴は、言及されていませんでしたが、マーケティング領域おける他の概念の説明時に言及されているかもしれません。
そこで、次に、マーケティング領域における「カスタマーインサイト」について調べました。カスタマーインサイトは「顧客に関しての深い洞察」と意味されます。
カスタマーインサイトの例:カスタマーインサイトの例としては、iPodの例があげられています。Appleは調査によって、消費者がデジタル・ミュージックプレイヤーに求めているものは「人々が音楽を丸ごと持ち歩きたいと考える一方で、プレイヤー自体はあまり目立たないものを望んでいたのである」ということを明らかにしました。これがインサイトであるとして紹介されています。
DX領域における「シェアード・カスタマーインサイト」は、その名の通り、カスタマーインサイトに関するものです。シェアード・カスタマーインサイトにおけるカスタマーインサイトの定義は見つけられませんでしたが、「顧客に関しての深い洞察」と大きくは変わらないと思われます。
カスタマーインサイトの概念の範囲:マーケティング領域でのカスタマーインサイトの概念を調べた結果としては、マーケティング領域におけるカスタマーインサイトの概念は、シェアード・カスタマーインサイトでの議論の枠よりも広いものと言えそうです。以下の2つの観点から、違いがありそうです。
1.カスタマーインサイトの位置づけ:カスタマーインサイトは、他の概念とどのように関係するのか、という観点。
2.カスタマーインサイトの使われ方:得られたカスタマーインサイトはどのプロセスで使われるのか、という観点。
1つ目を以下の図で示しています。マーケティング領域においては、「マーケティング情報」という概念があり、カスタマーインサイトは、その情報から抽出されるものと位置づけられています。シェアード・カスタマーインサイトでは、マーケティング情報という概念は出てきません。この点が、両領域での違いとなります。
また、上記の図では、「マーケティング情報」を得る手段の一つとして、「マーケティングリサーチ」を位置づけています。
2つ目は、カスタマーインサイトの使われ方に関するものです。以下の図で示すように、マーケティング領域おいてはカスタマーインサイトの使われ方は、新製品開発に限りません。広告キャンペーンといった他のプロセスにも使われます。シェアード・カスタマーインサイトが想定してる範囲は、デジタルサービス開発のみであり、広告キャンペーンといったその他のプロセスでの使用は言及されていません。
まとめると以下となります。
1.カスタマーインサイトの位置づけ:マーケティング領域におけるカスタマーインサイトは、マーケティング情報との関係が明確化されている。
2.カスタマーインサイトの使われ方:マーケティング領域のおけるカスタマーインサイトは、新製品開発だけでなく他のプロセスでも使われる。
マーケティング領域におけるカスタマーインサイトの概念の分析は、ここまでとなります。
また、シェアード・カスタマーインサイトでの4つの特徴に対応するような概念は、存在しませんでした。
これまでの分析のふりかえり:カスタマーインサイトチーム
続いて、マーケティング領域では、カスタマーインサイトチームと呼ばれるような組織体制が紹介されています。カスタマーインサイトチームは、以下の図に示すように、様々な方法でマーケティング情報を収集し、カスタマーインサイトを抽出する役割を持ちます。
カスタマーインサイトチームは、シェアードカスタマーインサイトにおける以下の特徴に近い役割を持つと言えます。
・特徴:開発プロセスにおいて、デジタル技術と顧客に関して学習したことの蓄積・共有
・特徴:これらの学習内容の蓄積と共有に責任を持つ組織体制
しかし、特徴を細かく見ていくと、違いがありそうです。
1.カスタマーインサイトの蓄積と共有の有無:カスタマーインサイトチームの役割として、カスタマーインサイトを蓄積し、社内で共有する、とまでは書かれていないこと。
2.新製品開発プロセスでのカスタマーインサイトの抽出の有無:カスタマーインサイトチームの役割として、新製品開発プロセスでのカスタマーインサイトの抽出とは書かれていないこと(上記の図では、新製品開発プロセスを対象としても問題はないとして付け足して拡張したものです)。
3.技術要素の理解の有無:カスタマーインサイトチームの役割として、新製品開発プロセスでの「技術要素の理解の蓄積」に関しては、書かれていないこと。デジタルサービス開発では、デジタル技術の理解が必要となります。
ここまでの議論踏まえて、以下の図に、シェアード・カスタマーインサイトの特徴とマーケティング領域での概念の関係性を整理しました。
左側にマーケティング領域における概念を、上部にシェアード・カスタマーインサイトでの特徴を載せています。
この図では、シェアード・カスタマーインサイトの特徴を、これまで議論してきたものより、細分化しています。特に、「デジタル技術に関するもの」と「顧客に関するもの」を分けて整理するようにしました。理由としては、マーケティング領域における概念が、どの特徴を対象とするのかをより細かく分析するためです。
これまでの分析のふりかえり:マーケティング情報システム
マーケティング領域においては、カスタマーインサイトは、マーケティング情報から抽出されるものであるとされています。ただし、マーケティング情報自体をどのように収集し、収集したマーケティング情報からカスタマーインサイト(とマーケットインサイト)をどのように抽出するのかのプロセスは、適切な仕組みが存在するのが望ましいとされます。「マーケティング情報システム」は、そのような仕組みであるとされます。以下の図は、マーケティング情報システムを示しています。
では、マーケティング情報システムは、シェアード・カスタマーインサイトでの以下の特徴を備えているのでしょうか。
・デジタル技術に関する
・学習内容の蓄積
・学習内容の共有
・学習内容を共有する責任を持つ体制
・顧客に関する
・学習内容の蓄積
・学習内容の共有
・学習内容を共有する責任を持つ体制
現状の結論としては、以下のようになりそうでした。
1.マーケティング情報システムは、マーケティング情報を対象としており、カスタマーインサイトの蓄積や共有、共有に責任を持つ体制に関しては、扱ってないように思われる。
2.マーケティング情報システムは、デジタル技術に関する学習内容の扱いを対象外としている。
ただし、この結論は、マーケティング情報システムの概要をもとにしたものですので、詳細をさらに見ていくことで、結論が変わるかもしれません。
「情報ニーズの評価」の要素:さらに詳しく分析しました。結論としては、特徴は見られませんでした。
「社内データ」と「社外データ」の要素:さらに詳しく分析しました。結論としては、特徴は見られませんでした。
「マーケティングリサーチ」の要素:さらに詳しく分析しました。結論としては、特徴は見られませんでした。
今回の話
前回からの続きとなります。マーケティング情報システムの構成図を以下に示します(『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』より)。
マーケティング情報システムは、大きく7つの要素からなるようです。
1.マーケティング・マネージャーなどの情報のユーザー(これまでの記事で分析済み)
2.情報ニーズの評価(これまでの記事で分析済み)
・マーケティング情報の抽出
3.社内データベース(これまでの記事で分析済み)
4.マーケティング・インテリジェンス活動(これまでの記事で分析済み)
5.マーケティング・リサーチ(これまでの記事で分析済み)
6.情報の分析と利用(今回分析)
7.マーケティング環境(これまでの記事で分析済み)
これまでの記事で1~5までと7を分析しました。
今回は、最後の6の「情報の分析と利用」となります。
具体的には、シェアード・カスタマーインサイトの以下の特徴に関係する記述があるのかを見ていきます。目的は、シェアード・カスタマーインサイトと共通する点、異なる点を把握することです。
・デジタル技術に関する
・学習内容の蓄積
・学習内容の共有
・学習内容を共有する責任を持つ体制
・顧客に関する
・学習内容の蓄積
・学習内容の共有
・学習内容を共有する責任を持つ体制
情報の分析と利用
では、これまでと同じように『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』の書籍をもとに「情報の分析と利用」を議論していきます。
次のように整理しました。
・社内データや社外データから収集した情報は、さらに分析される(注意したいことは、マーケティングリサーチで収集した情報とは書かれていないこと)。
・マネジャーは、(分析された?)この情報から、マーケティング意思決定につながる顧客インサイト(カスタマーインサイト)を得ようとする
・その場合、統計分析や解析モデルが必要となる
・処理、分析が完了した情報は、意思決定の必要なときに必要な形で利用できるようにしておく
続けます。
次のように整理しました。
・顧客の個人情報がある。
・タッチポイントでの顧客情報がある。
・購買時
・セールス・フォースによる接触時
・サービスやサポートセンターへの連絡時
・ウェブサイトの閲覧時
・満足度調査アンケートの回答時
・クレジットなどの支払い時
・顧客情報は組織中に散らばっている
・社内の各部署に、別々のデータベースや記録として埋没している
・この問題解決のために、CRMを立ち上げている
・個々の顧客に関する詳細情報を管理している
・顧客ロイヤルティを最大化すべく、タッチポイントを管理している
ここでは、さらに次のように解釈しました。
・情報の種類として、タッチポイントでの顧客情報のみを議論している。
・社内データの場合、顧客の情報とした場合は、タッチポイントのものしか存在しないのかもしれません。
・この顧客情報は、処理、分析が完了していない情報である。
次に進みます。
次のように整理しました。
・CRMは高度なソフトウェアと分析ツールで構成されている。
・さまざまな情報源からの顧客情報を統合して詳細に分析できる。
・分析結果を用いて顧客との間により強固な関係を構築することを目的としている。
・販売、サービス、マーケティングなど各担当の持つ顧客情報をすべてCRMで統合すれば、顧客との関係を360度の視点で扱うことができる。
ここでもやはり、対象としている情報は、顧客情報である、と言えそうです。
次に進みます。
次のように整理しました。
・マーケティング情報は、以下のために用いられる。
・カスタマーインサイトの獲得
・マーケティング意思決定
・マーケティング情報システムに求められるのは、マネジャーたちがいつでも必要なときに情報を利用できることである。
・定期的な業績レポート
・調査報告書
・その他
・定番以外の情報が必要になることもある
・特別な状況下
・即決を要するとき
・その他
ここでは「定期的な業績レポート」や「調査報告書」が次のどの分類なのか判断できませんでした。
・分析されていないマーケティング情報
・分析されたマーケティング情報
・カスタマーインサイト
おそらく「必要なときに情報を利用できる」とあるので、カスタマーインサイト自体ではないと思われます。
次に進みます。
ここでは特筆することは無いように思えました。様々な情報が集まっているということだけだからです。また、注文の事例は、カスタマーインサイトとは関係が無いように思えました。
考察
では、考察したいと思います。
シェアード・カスタマーインサイトの以下の特徴に関係する記述があったのかを分析します。
・デジタル技術に関する
・学習内容の蓄積:デジタル技術に関することは触れられていませんでした。
・学習内容の共有:蓄積がないため共有もありません。
・学習内容を共有する責任を持つ体制:共有がないため体制もありません。
・顧客に関する
・学習内容の蓄積:マーケティング情報の蓄積はありましたが、カスタマーインサイト自体の蓄積はありませんでしでた。
・学習内容の共有:蓄積はないため、共有もありません。
・学習内容を共有する責任を持つ体制:共有がないため、体制もありません。
まとめ
今回は、マーケティング領域での「マーケティング情報システム」とDX領域の「シェアード・カスタマーインサイト」との関係を分析しました。
マーケティング情報システムとは、マーケティングに関する意思決定を適切に行うための仕組みとされます。この仕組みは、マーケティングに関わる情報からカスタマーインサイトを得るための仕組みであり、そこでは、どのような人たちが、どのように関わり合いながら、どこからどのようにマーケティング情報を得て、どのようにカスタマーインサイトを得るのかを示したものです。
今回は、マーケティング情報システムの構成要素の一つである「情報の分析と利用」を詳しく見ていきました。
詳しく見た結果としては、シェアード・カスタマーインサイトでの特徴は「情報の分析と利用」の要素におけるプロセスからは見つけられませんでした。デジタル技術は扱っておらず、カスタマーインサイトを蓄積するようなことも対象としていないようでした。
今回で、マーケティング情報システムのすべての要素を分析し終わりました。
終えてみた印象としては次のようになりそうです。
1.マーケティング情報システムの枠組みは、マーケティング情報を中心に構成されている。マーケティング情報システムの主なユーザーは、マーケティング部門をはじめとする各部門のマネジャーであるとされる。枠組み内で、マーケティング情報からカスタマーインサイトを抽出するプロセスはあるが、抽出し得られたカスタマーインサイトをマーケティング以外の業務のどこで活用するのかは、枠組みでは具体的に決められていない(なおカスタマーインサイト自体は、新製品開発やプロモーションで使われる)。
2.このことは、デジタルサービス開発といった特定の業務プロセスとマーケティング情報システムがどのように関わり合うのか、関わるとしたら既存の枠組みのままで適切なのか、適切でなければどのような課題があるのかを浮き彫りにはしていないことを意味する。
3.したがって、デジタルサービス開発で要求される特徴は、マーケティング情報システムの枠組み内では見いだせない。このことは、マーケティング情報システムの観点からは、DX領域とマーケティング領域での活動が連動していないことを意味する。
次に、シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングの関係の分析の結論は次ようにまとめられるかもしれません。
・DXにおいては、デジタルサービス開発によりバリュープロポジションを実現していくことが競争力を高めることを意味する。よりよいデジタルサービスを発見するには、顧客を巻き込み、顧客からのフィードバックを速く得ながら、サービスを改善していく実験的なプロセスが考えられる。また、このプロセスは、投資の面で最適化さていることが望ましい。というのも、各部署がバラバラに同じようなサービスの実験を繰り返すことは無駄であり、実験からの学びは全社で蓄積・共有されることが望ましい。マーケティングは、このようなプロセスを体系に取り込めていない。デジタル技術の存在が従来型の企業に要求している課題をマーケティングの観点から体系化することが望ましいのかも含めて、議論していく必要がある※。
※『コトラーのH2Hマーケティング』や『Marketing 5.0』ではこのような課題が議論されているかもしれません。未読なので今後扱う予定はあります。
次回は、DX書籍の一つである『DXナビゲーター』におけるDXの定義を見ていきながら、マーケティングと関係となる要素を見つけてきたいと思います。続きはこちら。
これまでの記事
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DXと経営篇
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デザインドフォー・デジタル篇
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