DXとマーケティングその5:ビジネスモデル「価格透明性」

分析屋の下滝です。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とマーケティングの関係を考えてくシリーズの第5回目です。前回の記事では、コストバリューのビジネスモデルである「購入者集約」とマーケティング、そしてDXとの関係を分析しました。今回の記事では、同様に、残りのビジネスモデルを使って分析していきます。

第1回はこちら。経産省のDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第2回はこちら。『DX実行戦略』におけるDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第3回はこちら。「無料/超低価格」のビジネスモデルを分析しました。
第4回はこちら。「購入者集約」のビジネスモデルを分析しました。

これまでのおさらい

第2回の記事では、『DX実行戦略』の書籍におけるDXの定義において、DXを構成するいくつかの要素の一つとして、「ビジネスモデル」が存在することを紹介しました。また、この定義に基づけば、マーケティングとの直接的な繋がりは見つけられなさそうなことを示しました。

以下は、DXの定義となります。

私たちは、デジタルビジネス・トランスフォーメーションを「デジタル技術とデジタル・ビジネスモデルを用いて組織を変化させ、業績を改善するとと」と定義する。第1に、企業業績を改善することがその目的であり、第2にデジタルを土台にした変革であること。組織は絶えず変化しているが、ひとつ以上のデジタル技術が大きな影響をおよぼしているものでなければ、デジタルビジネス・トランスフォーメーションには分類されない。そして第3に、プロセスや人、戦略など、組織の変化を伴うものであること。デジタルビジネス・トランスフォーメーションには、テクノロジーよりもはるかに多くのものが関与している。
──『DX実行戦略』, マイケル・ウェイド, p.27

この定義と関連する内容を整理したのが以下の図となります。

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DXとマーケティングの関係を分析するにあたり、各ビジネスモデルとマーケティングにおけるフレームワークである4Pとの関係を探っていく、というのがアプローチになります。

DX自体をもう少し大きな視点で見てみましょう。『DX実行戦略』では、組織のもつれ度と変革の程度の軸で4つの変革を区別しています。DXは、このうちの右上に対応する話になります。DXではない例としてあげられているのは、広告部門が「新聞・テレビ広告」から「オンライン広告」に移行するような場合です。これは、古典的な変革にあたります。

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『DX実行戦略』では、DXとしての変革で必要となる考えは「変革目標」であるとしています。「変革目標」は以下の3からなります。
1.カスタマーバリュー創出
2.ビジネスモデル
3.対応戦略
カスタマーバリューには、コストバリュー、エクスペリエンスバリュー、プラットフォームバリューの3つがあります。それぞれのバリューには、5つのビジネスモデルがあります。
3に関しての対応戦略には4つあります。
・収穫戦略:ビジネスモデルの大きな変化はない。従来の変革のアプローチで対応できる(右上に当てはまらない)。ディスラプターの脅威をブロックし、攻撃されている事業から得られる収益を最大化する。
・撤退戦略:ビジネスモデルの大きな変化はない。従来の変革のアプローチで対応できる(右上に当てはまらない)。収益が枯渇したら事業から撤退、もしくはニッチな市場に移動する。
・破壊戦略:ビジネスモデル用いて、カスタマーバリューの創出を行う。DXのためのアプローチが必要(右上)。自らのコアビジネスを破壊、もしくは新しい上を創出する。
・拠点戦略:ビジネスモデル用いて、カスタマーバリューの創出を行う。DXのためのアプローチが必要(右上)。ライバルを出し抜いて新しい市場で競争に勝利する。
このような戦略の話が必要なのは、既存企業が破壊的な企業(ディスラプター)とどのように戦っていくのかの話であるためです。『DX実行戦略』と『対デジタル・ディスラプター戦略』では2つのコンセプトが提案されています。
・バリューバンパイア(価値の吸血鬼):自らの競争優位によって市場全体の規模を縮小させるディスラプティブな企業。
・バリューベイカンシー(価値の空白地帯):デジタル・ディスラプションによって生じた、市場で利益を享受できるチャンス。
バリューバンパイアやバリューベイカンシーに対し、どう対応していくのかが対応戦略になります。

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今回の話

前回までの記事では、具体的なビジネスモデルとして「無料/超低価格」と「購入者集約」をとりあげ、4Pの視点でこのビジネスモデルとの関係性を分析しました。結果として、いくつかのPがこのビジネスモデルと関わりがありそうだということを示しました。

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これまで扱ってきたビジネスモデルと4Pとの関係は上記の図になります。

今回の記事では、この図にあるカスタマーバリューの分類の中の一つ、コストバリューに含まれるビジネスモデルである「価格透明性」を対象として分析していきます。コストバリューは「製品やサービスの最終顧客向けの価格を下げる」ことに関わります。

「価格透明性」のビジネスモデル

『対デジタル・ディスラプター戦略』によると、「価格透明性」は次のようなビジネスモデルです。

価格を比較することで有利な条件で取引できる。
──『対デジタル・ディスラプター戦略』, マイケル・ウェイド, p.52

この「価格透明性」をもとにしている企業としては、プライスライン(現在は、ブッキング・ホールディングス。オンライン旅館予約サイトのブッキングドットコムを提供)、ショップジラ(商品の価格比較サイト)、ネクスタグ(商品の価格比較サイト。現在は、ビジネスを行っていない?)が挙げられています。日本でいえば、価格.comでしょうか。

価格を比較できるツールが提供されることにより、価格の透明性が増し、顧客は、より有利な条件で製品やサービスの提供業者と取引ができるようになりました。

調べていて少し混乱したのですが、2つの観点で整理する必要があるのかなと思いました。
1.全く同じ製品(型番等。メモリやゲーム)をどこで買えば一番安いのか、という比較
2.同じ製品ではなくとも、似た製品の価格の比較
2の場合、たとえば、楽天市場なんかも価格比較サイトと見なせるのか?と思いましたが、価格比較できる機能はあったとしても、楽天市場外の商品は掲載していないため、違うということかもしれません。

マーケティングと「価格透明性」ビジネスモデル

この「価格透明性」のビジネスモデルを例にして、マーケティングとの関係性を考えたいと思います。ここでは、これまでの記事でも触れてきたように、古典的な4P(またはマーケティングミックス)のフレームワークをもとに考えたいと思います。4Pの定義例は、以下のようなものがあります。

マーケティング・ミックスとは、顧客に何を提供するか、どのようにして提供するのかを計画する上でのきわめて重要なツールである。基本的には、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)という四つのPが、マーケティング・ミックスの枠組みを構成する。
─『コトラーのマーケティング4.0』, フィリップ・コトラー

4Pの具体的な例としては以下があります(『コトラーの戦略的マーケティング』より)。

Product(製品):種類、品質、デザイン、特徴、ブランド名、パッケージ等
Price(価格):表示価格、値引き、支払期限等
Place(流通):販路、立地、在庫、配送等
Promotion(プロモーション):セールスプロモーション、広告、営業部隊、PR、ダイレクトマーケティング

4Pに沿って、「価格透明性」モデルを見ていきましょう。価格比較サイトを4Pの視点で見ていく、というのが近いかもしれません。
Product(製品):価格比較サイトが販売しているものは何でしょうか。載せている商品(ホテルの予約や靴や家電といったその他の製品)の購入支援、であるといったん考えます(予約までの機能であったり、商品へのリンクを提供)。実際の収益の方法は、各サイトで異なるかもしれません。手数料であったり、掲載料であったり、広告かもしれません。
Price(価格):サイトのユーザーにとっては、価格比較サイトを使っているいうことなので、何かをお金を払って購入している、という印象はないのかもしれません。違う視点でいえば、価格を比較してよりよい商品を安く購入できる機能を無料で使えているということかもしれません。
Place(流通):ウェブサイト自体が製品であるとしたら、インターネットということになるかもしれません。
Promotion(プロモーション):どのようにプロモーションするのかに関しては、特に関係ないように思えます。

整理すると「価格透明性」に関わりがありそうなのは、Productと言えるのではないでしょうか。価格比較の機能を提供することは必須です。Priceは関係が薄いようにも思えました。販売しているものが無いためです。ただ、一つ観点が必要だと思ったのは、サイトのユーザーという意味でのお客と、サイトに商品を掲載したいという意味でのお客を区別する必要があるのかもしれません。後者からは収益があると思われますが、前者からは現実的には無いという意味です。4PのPriceという意味で、この区別をどう捉えるべきなのかは、今後の課題としたいと思います。残りのPであるPlaceとPromotionは、関係が無いように思えました。

整理:ビジネスモデルと4P

これまでの記事では「無料/超低価格」と「購入者集約」のビジネスモデルを見ました。下記の図は、「無料/超低価格」と「購入者集約」、そして今回の「購入者集約」を整理したものです。

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特定のビジネスモデルを採用するというのは、4Pのいくつかを固定するという決定である、とみなせるのかもしれません。

まとめ

この記事では、『DX実行戦略』のDXの定義をもとに、DXとマーケティングの関係付けを行いました。DXを実現するにあたり必要な構成要素である「デジタルビジネスモデル」の一つとして「価格透明性」モデルを取り上げ、このモデルが4Pの要素と関係しそうだということを指摘しました。

次回は「リバースオークション」のビジネスモデルを扱います。

過去の記事

第1回はこちら。経産省のDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第2回はこちら。『DX実行戦略』におけるDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第3回はこちら。「無料/超低価格」のビジネスモデルを分析しました。
第4回はこちら。「購入者集約」のビジネスモデルを分析しました。

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