DXとマーケティング

分析屋の下滝です。

この記事では、DX(デジタルトランスフォーメーション)とマーケティングの関係について、整理しながら考えたいと思います。

DXの定義

まずは、DXの定義からはじめます。様々な定義がありますが、日本では、経産省の定義を参照にすることが多いのではないでしょうか。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するととともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
DX推進ガイドライン Ver. 1.0

情報サービス産業協会が出している『DXビジネス 全体像の可視化』という本では、経産省の定義をもとに、次のように解釈しています。

このDXの定義を整理すると、変革の目的(Why)は、「競争上の優位性を確立すること」であり、変革の対象(What)は「製品・サービス、ビジネスモデル、業務、組織、プロセス、企業文化・風土」であり、変革の手段は「データとデジタル技術」となる
─『DXビジネス 全体像の可視化』


画像1

『DXビジネス 全体像の可視化』の図1-1-1-1を参考に作成

この定義でも曖昧な点は残ります。たとえば、「競争上の優位性を確立」とは具体的にどういう意味なのか。「確立できたかどうか」をどのように認識するのか。「変革」とは具体的にどういう意味なのか。単に「変える」ことは違うのか。「変えて新しくする」という意味であるなら、新しくなったかどうかをどのように評価するのか。

疑問は残りますが、とっかかりとして、続いてはマーケティングとこのDXとの定義の関係性を見ていきたいと思います。なお、両文献ともに、「マーケティング」という言葉は使われていません(『DXビジネス 全体像の可視化』での会員アンケート調査内の分析で、回答企業の相対に関わる部署として「マーケティング・営業」が出てきているのみ)。

DXとマーケティング

マーケティングにもDXと同様に様々な定義があります。たとえば、以下のようなものです。

これに対し真のマーケティングは、顧客、人口構造、顧客の現実、ニーズ、価値からスタートする。「われわれは何を売りたいか」ではなく、「顧客は何を買いたいか」を考える。「われわれの製品やサービスにできることはこれである」ではなく、「顧客が見つけようとし、価値あるとし、必要としている満足はこれである」と言う。
実のところ、販売とマーケティングは逆である。同じ意味でないことはもちろん、補い合う部分さえない。
何らかの販売は必要である。だが、マーケティングの理想は販売を不要にすることである。マーケティングが目指すのは、顧客を理解し、顧客に製品とサービスを合わせ、ひとりでに売れるようにすることである。
─『経営の真髄 [上]』, ピーター・ドラッカー

他には、以下のようなものです(コトラーの他の本が手元に無いので手元にあるコトラーものから)。

マーケティングは、製品が誕生するずっと前からスタートするので、販売と同じということはありえない。マーケティングとは、マネージャーたちが顧客のニーズを評価し、その範囲と強さを測定し、利益を生む機会が存在するかどうかを決定する作業である。

「マーケティングとは、利益に結びつく顧客を見出し、維持し、育てる科学であり、技能である」
─『コトラーの戦略的マーケティング』,フィリップ・コトラー, 2章と7章より

両方の定義ともに、製品からでなく、顧客の視点から考えることが分かります。もちろん、最終的には、製品やサービスが存在しなければなりません。

さて、DXの定義に戻ると、マーケティングの定義と関係する要素は何でしょうか。一番、直接的に関係しそうなのは変革の対象となる「製品・サービス」かと思います。「ビジネスモデル」は、定義によりますが、マーケティングの範囲ではあまり語られないように感じます。参考に、ビジネスモデルの定義としてはこのようなものがあります。

組織がいかにして価値を創出し、供給、実現するかを原理的に説明したもの
─『DX実行戦略』,マイケル・ウェイド
※この定義自体は『ビジネルモデル・ジェネレーション』という書籍の定義をもとにしている

このビジネスモデルの定義からは、マーケティングの定義とは少し関係性が遠いような印象を受けます。ビジネスモデルとマーケティングの関係は、次の機会にでも整理できればと思います(『DX実行戦略』の前著『対デジタル・ディスラプター戦略』では15種類のビジネスモデルが紹介されているようです)。

残りの「業務・プロセス」、「組織」、「企業文化・風土」に関してはどうでしょうか。やはり、マーケティングとの関係は、直接的ではないような印象を受けます。もちろん、関係しないわけではありません。

すべての戦略と戦術は、マーケティング・プラン上で統合され、マーケティング組織の手で効果的に実行されなければならない。
─『コトラーの戦略的マーケティング』,フィリップ・コトラー

この文章から分かるように「組織」という言葉は使われています。

DXと4P

前節では、DXの定義の中でマーケティングに最も直接的に関わりそうな要素は「製品とサービス」であることを見ました。では、「製品とサービス」を変革するとはどういうことでしょうか。この節では、マーケティングにおける有名なフレームワークである4P(またはマーケティング・ミックス)を使って、この疑問にアプローチしていきたいと思います。

まずは、4Pに関して、いくつかの定義を紹介します。

マーケティング・ミックスとは、顧客に何を提供するか、どのようにして提供するのかを計画する上でのきわめて重要なツールである。基本的には、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)という四つのPが、マーケティング・ミックスの枠組みを構成する。
─『コトラーのマーケティング4.0』, フィリップ・コトラー

そして、4Pとは、Product(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(販売促進)の頭文字をとったものだ。最適なマーケティング活動を考えるうえで、これら4の要素に分解して整理する方法だ。
─『プロモーショナルマーケティングベーシック』, 日本プロモーショナル・マーケティング協会

これら定義から分かるように、4Pでは、マーケティング活動を4のPの視点から考えます。各Pにおいて、必要となる決定や活動の例としては以下となります(『コトラーの戦略的マーケティング』より)。
Product(製品):種類、品質、デザイン、特徴、ブランド名、パッケージ等
Price(価格):表示価格、値引き、支払期限等
Place(流通):販路、立地、在庫、配送等
Promotion(プロモーション):セールスプロモーション、広告、営業部隊、PR、ダイレクトマーケティング

さて、DXの要素である「製品とサービス」と4Pの役割を見てみると、関係しそうな箇所はどこでしょうか。最も直接的に関係しそうなものは「Product」です。その他のPも顧客の視点からは重要な役割を持つ要素です。価格は重要ですし、どこで買えるのかも重要です。プロモーションも適切に行ってもらえれば、顧客とって嬉しいものもあるでしょう(たとえば、実演してくれたり体験ができるような体験プロモーション)。

それぞれのPに関する変更は、DXに関わるかもしれない活動だとも言えます。マーケティングにおけるコンセプトである4Pの観点から、DXを行ったかどうかの判断基準は、そのPに関わる変更が、「競争上の優位性を確立すること」ができ、かつ、「データやデジタル技術」に関わるものであるかどうか、であると考えられます。さらにはその変更が「変革」的かどうかも定義上は、意識しても良いでしょう。

続きの記事はこちら。今回の記事とは異なるDXの定義を用いて、同じような分析を行いました。

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