DXとマーケティングその4:ビジネスモデル「購入者集約」

分析屋の下滝です。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とマーケティングの関係を考えてくシリーズの第4回目です。前回の記事では、コストバリューのビジネスモデルである「無料/超低価格」とマーケティング、そしてDXとの関係を分析しました。今回の記事では、同様に、残りのビジネスモデルを使って分析していきます。

第1回はこちら。経産省のDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第2回はこちら。『DX実行戦略』におけるDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第3回はこちら。「無料/超低価格」のビジネスモデルを分析しました。

前回までのおさらい

前々回の記事では、『DX実行戦略』の書籍におけるDXの定義において、DXを構成するいくつかの要素の一つとして、「ビジネスモデル」が存在することを紹介しました。また、この定義に基づけば、マーケティングとの直接的な繋がりは見つけられなさそうなことを示しました。

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以下は、DXの定義となります。

私たちは、デジタルビジネス・トランスフォーメーションを「デジタル技術とデジタル・ビジネスモデルを用いて組織を変化させ、業績を改善するとと」と定義する。第1に、企業業績を改善することがその目的であり、第2にデジタルを土台にした変革であること。組織は絶えず変化しているが、ひとつ以上のデジタル技術が大きな影響をおよぼしているものでなければ、デジタルビジネス・トランスフォーメーションには分類されない。そして第3に、プロセスや人、戦略など、組織の変化を伴うものであること。デジタルビジネス・トランスフォーメーションには、テクノロジーよりもはるかに多くのものが関与している。
──『DX実行戦略』, マイケル・ウェイド, p.27

前回の記事では、具体的なビジネスモデルとして「無料/超低価格」をとりああげ、マーケティングにおけるフレームワークである4Pの視点で、このビジネスモデルとの関係性を分析しました。結果として、いくつかのPがこのビジネスモデルと関わりがありそうだということを示しました。

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今回の記事では、この図にあるカスタマーバリューの分類の中の一つ、コストバリューに含まれるビジネスモデルである「購入者集約」を対象として分析していきます。コストバリューは「製品やサービスの最終顧客向けの価格を下げる」ことに関わります。

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購入者集約のビジネスモデル

『対デジタル・ディスラプター戦略』によると、「購入者集約」は次のようなビジネスモデルです。

「購入者集約」のビジネスモデルは、人や時間に対してコストを分散させたり、共同購入やまとめ買いによる割引をおこなったりする。
──『対デジタル・ディスラプター戦略』, マイケル・ウェイド, p.54

提供するカスタマーバリューは「時間とかけたコスト売却、共同購入による割引、規模の経済」とのことです。

このビジネスモデルの具体的な例として、2つ挙げられています。一つは、フォンで、Wi-Fiホットスポットを提供している会社です。

たとえば、「世界最大のWi-Fiネットワーク」を謳い文句にしているフォン(Fon)のメンバーになれば、利用者は、約2000万ヶ所のホットスポットを利用してインターネットに接続することができる。この戦略は、既存の通信事業者のWi-Fiサービスにとって脅威となる。顧客の数をデジタル・ビジネスモデルの梃子とすることでコストを分散しているからだ。
──『対デジタル・ディスラプター戦略』, マイケル・ウェイド, pp.54-55

もう一つは、グルーポンです。

それなりに苦戦はしているが、共同購買サイトのグルーポンも、利用者が共同でコストを下げるビジネスモデルの一例だ。オファーに乗る人が多ければ多いほど、価格が低下する。
──『対デジタル・ディスラプター戦略』, マイケル・ウェイド, p.55

マーケティングと「購入者集約」ビジネスモデル

次のビジネスモデルに行く前に、この「購入者集約」のビジネスモデルを例にして、マーケティングとの関係性を考えたいと思います。ここでは、これまでの記事でも触れてきたように、古典的な4P(またはマーケティングミックス)のフレームワークをもとに考えたいと思います。4Pの定義例は、以下のようなものがあります。

マーケティング・ミックスとは、顧客に何を提供するか、どのようにして提供するのかを計画する上でのきわめて重要なツールである。基本的には、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)という四つのPが、マーケティング・ミックスの枠組みを構成する。
─『コトラーのマーケティング4.0』, フィリップ・コトラー


4Pの具体的な例としては以下があります(『コトラーの戦略的マーケティング』)。

Product(製品):種類、品質、デザイン、特徴、ブランド名、パッケージ等
Price(価格):表示価格、値引き、支払期限等
Place(流通):販路、立地、在庫、配送等
Promotion(プロモーション):セールスプロモーション、広告、営業部隊、PR、ダイレクトマーケティング

4Pに沿って、「購入者集約」モデルを見ていきましょう。ただし、このモデルレベルでは、分析が難しそうでしたので、フォンやグルーポンといった少し個別のレベルで一旦考えてみます。グルーポンに関しては、グルーポンの手法がフラッシュマーケティングとして呼ばれており、Wikipediaの説明がわかりやすいように思えましたのでこれに基づきたいと思います。

共同購入型クーポン
一定時間内に一定数が揃えば、購入者は大幅な割引率のクーポンを取得することができるという手法。たとえば「24時間以内に30人の購入希望者が集まれば、フルコースディナー7400円相当が54%割引の3500円になるクーポンを提供」のような形態をとる。指定された時間内に最低販売数に到達しなければ不成立となり、クーポンは提供されない。このため購入者がTwitterやソーシャルネットワーキングサービスを使って口コミを起こし、他の共同購入者を短時間のうちに集めるという行為が行われる。
フラッシュマーケティング

「指定された時間内に最低販売数に到達しなければ不成立となり、クーポンは提供されない」という点が特徴かもしれません。購入予定者が共同購入者を集めるために、何からのプロモーション活動を行うという点も特徴かもしれません。

また、そもそもグルーポン自体は、どのように稼いでいるのでしょうか? この記事によると、販売手数料が一つあるようです。

しかし圧倒的な集客を得られるのと引き換えに、お店側は下記の3つを承諾する必要があります。
・定価の50%以上という大幅な割引でクーポンを販売する必要がある。
・期間限定でクーポンを販売する必要がある。
・クーポン価格の50%前後を掲載手数料として支払う必要がある。
つまりグルーポンに貴方のお店を掲載すると言う事は、商品やサービスをクーポンチケットにして短期間に破格の値段で、グルーポンがあなたに代わってクーポンを販売してくれるという事です。
https://www.felicite-kobe.net/column/archives/320

『対デジタル・ディスラプター戦略』では、「オファーに乗る人が多ければ多いほど、価格が低下する。」との説明がありましたが、この記事が対象としているようなサロンのようなサービスでは、この効果は出ないのかもしれません。

次に、フォンについてもう少し詳しく見ていきます。フォンは、具体的にどのようにしてお金を稼いでいるのでしょうか。アスキーの記事を見てみましょう。2008年の記事ですので古いかもしれません。

世界中で約75万名(3月現在、以下同)、国内でもすでに約6万4000名の会員を集めるFONの特徴は、WiFiコミュニティとして誕生した同社ならではの独自のビジネスモデルにある。一般に商用通信サービスは通信事業者がインフラを整え、その利用料を徴収する。これに対してFONでは、FTTHやADSLをすでに自宅に引いている会員がFON専用ルータ(店頭で2000円程度)を購入して設置する。一般のユーザーはFONを安価な無線ルータとして利用することもできる一方、帯域の一部を他者に提供することになる(その代わりに他のAPも無料で利用できる)。これにより、FONはインフラ整備にまつわる多額のコスト負担から開放され、会員に対してAPを無料開放できるわけだ。そしてAP数では実は日本が世界でトップである。
(中略)
同社の収益の柱となるのが、会員以外からのサービス利用料、APへの接続時に掲示する広告出稿、専用ルータの販売、の3点。
https://ascii.jp/elem/000/000/127/127665/

特徴は「会員がルータを購入し、帯域の一部を他社に提供する代わりに、他のアクセスポイントを無料で利用できる」という点がありそうです。

これら2つのビジネスモデルに関し、共通点もあれば細かな点でいえば、違いもあると思いますが、ひとまず、「人や時間に対してコストを分散させたり、共同購入やまとめ買いによる割引をおこなったりする」として考えます。4Pの視点で、それぞれを見ながら、最後に、「購入者集約」の視点で整理ます。

Product(製品)に関して。
・グルーポン:グルーポンが販売しているのは、他社の製品やサービスに関するクーポンです。販売代理店ということかもしれません。販売したクーポンの手数料がグルーポンに支払われます。一定数のクーポンが一定期間内で販売される、というところに制約があります。
・フォン:一つは、専用ルータの販売。もう一つは、アクセススポットのサービスです。アクセススポットを利用するには、自分の回線の帯域の一部を他者に提供する、という制約が付きます。
・共通点:購入に条件があったり、利用に制約がつく、という点が共通かもしれません。
Price(価格)に関して。
・グルーポン:販売するクーポンの価格です。異なる見方をすれば、割引された価格です。
・フォン:専用ルータの販売価格や会員以外に提供するサービスの価格です。会員になれば、アクセススポットは無料で使用できます。
・共通点:通常の価格では販売せず割引された価格で販売する、または、低価格であったり無料での提供行うという点で共通点がありそうです。
Place(流通)に関して。

・グルーポン:クーポンをどこで購入するか。サイト上での購入が主など思われます。
・フォン:ルータ自体をどのように販売するのかは、特に制約は無いように思えます。サービス自体は、Wifiのホットスポットですので、これに関しても特定の場所といった制約は無いように思えます。
・共通点:クーポンの共同購入の場合、販売と購入はサイト上が現実的といえそうですが、フォンの場合は、特に制約はなさそうです。したがって、Placeに関する制約は無さそうです。
Promotion(プロモーション)に関して。
・グルーポン:クーポン自体をどのようにプロモーションしていくかに関しては、特に制約は無さそうに思えます。ただ、購入予定者自身が、自発的に他の共同購入者を探すために、プロモーション行為を行う、という点はあります。
・フォン:ルータやサービスを自体をどのようにプロモーションしていくかに関しては、特に制約は無さそうに思えます。
共通点:グルーポンの場合は、購入予定者自身がプロモーション行為を行うことがありますが、フォンの場合、そのような動きが積極的には生まれないように思えます。したがって、Promotionに関する制約は無さそうです。

では、「購入者集約」のビジネスモデルのレベルで整理します。恐らく、「購入者集約」のビジネスモデルに関係しそうなPは、まずはPriceのように思えます。条件付きで割り引かれた価格、低価格、条件付きで無料とする、という決定が行われているためです。次のPはProductです。従来の業者のように、単に販売することはできません。それでは、価格やコスト関して、従来の事業者と比べて、優位性を作れないためです。

PlaceとPromotionに関しては「購入者集約」とは関係が無さそうです。

整理:無料/超低価格と購入者集約

前回の記事では「無料/超低価格」のビジネスモデルを見ました。関係するPは、Price、Promotion、Productであることを見ました。「無料/超低価格」とは、従来であれば正規の価格で購入しなければならなかった製品やサービスを、無料または無料に近い価格、もしくはきわめて低い利益率で提供することです。

今回の「購入者集約」では、PriceとProductが関係しそうだということを見ました。

下記の図は、「無料/超低価格」と今回の「購入者集約」を整理したものです。

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DXとビジネスモデルとマーケティング

「購入者集約」モデルは、PriceとProductに関わるモデルであると考えました。この節では、一度、全体像に戻ってビジネスモデルの位置付けを確認したいと思います。

DXの定義に戻るとDXとは「デジタル技術とデジタル・ビジネスモデルを用いて組織を変化させ、業績を改善すること」です。「購入者集約」といったビジネスモデルを使い、カスタマーバリューを創出することがDXであることの一つの条件となります。

DX自体ももう少し大きな視点で見てみましょう。『DX実行戦略』では、組織のもつれ度と変革の程度の軸で4つの変革を区別しています。DXは、このうちの右上に対応する話になります。

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『DX実行戦略』では、DXとしての変革で必要となる考えは「変革目標」であるとしています。「変革目標」は以下の3からなります。
1.カスタマーバリュー創出
2.ビジネスモデル
3.対応戦略
です。1と2に関しては、これまでの記事で対象としてきたものです。カスタマーバリューには、コストバリュー、エクスペリエンスバリュー、プラットフォームバリューの3つがあります。それぞれのバリューには、5つのビジネスモデルがあります。今回見てきた「購入者集約」モデルは、これらビジネスモデルのうちの一つです。
3に関しての対応戦略には4つあります。
・収穫戦略:ビジネスモデルの大きな変化はない。従来の変革のアプローチで対応できる(右上に当てはまらない)。
・撤退戦略:ビジネスモデルの大きな変化はない。従来の変革のアプローチで対応できる(右上に当てはまらない)。
・破壊戦略:ビジネスモデル用いて、カスタマーバリューの創出を行う。DXのためのアプローチが必要(右上)。
・拠点戦略:ビジネスモデル用いて、カスタマーバリューの創出を行う。DXのためのアプローチが必要(右上)
このような戦略の話が必要なのは、既存企業が破壊的な企業(ディスラプター)とどのように戦っていくのかの話であるためです。

「購入者集約」といったビジネスモデルは、破壊戦略や拠点戦略を行うときに検討する一つの材料ということになります。もしかすると、その検討時に、これまで扱ってきた4Pという視点よりも大きなマーケティングの視点で、マーケティング的な思考が必要になるのかもしれません。『DX実行戦略』に記載があるかどうかは、今後調べていきたいと思います。

まとめ

この記事では、『DX実行戦略』のDXの定義をもとに、DXとマーケティングの関係付けを行いました。DXを実現するにあたり必要な構成要素である「デジタルビジネスモデル」の一つとして「購入者集約」モデルを取り上げ、このモデルが4Pの要素と関係しそうだということを指摘しました。

次回は「価格透明性」のビジネスモデルを扱います。次の記事はこちら

過去の記事

第1回はこちら。経産省のDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第2回はこちら。『DX実行戦略』におけるDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第3回はこちら。「無料/超低価格」のビジネスモデルを分析しました。

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