DXとマーケティングその3:ビジネスモデル

分析屋の下滝です。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とマーケティングの関係を考えてくシリーズの第3回目です。今回の記事では、ビジネスモデルという概念がDXとマーケティングを結びつけるかどうかを分析していきます。

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前回のおさらい

前回の記事では、『DX実行戦略』の書籍におけるDXの定義において、DXを構成するいくつかの要素の一つとして、「ビジネスモデル」が存在することを紹介しました。また、この定義に基づけば、マーケティングとの直接的な繋がりは見つけられなさそうなことを示しました。

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上記の図は、前回の記事で、『DX実行戦略』におけるDXの定義を整理した図になります。また、以下は、DXの定義となります。

私たちは、デジタルビジネス・トランスフォーメーションを「デジタル技術とデジタル・ビジネスモデルを用いて組織を変化させ、業績を改善するとと」と定義する。第1に、企業業績を改善することがその目的であり、第2にデジタルを土台にした変革であること。組織は絶えず変化しているが、ひとつ以上のデジタル技術が大きな影響をおよぼしているものでなければ、デジタルビジネス・トランスフォーメーションには分類されない。そして第3に、プロセスや人、戦略など、組織の変化を伴うものであること。デジタルビジネス・トランスフォーメーションには、テクノロジーよりもはるかに多くのものが関与している。
──『DX実行戦略』, マイケル・ウェイド, p.27

今回の記事での焦点は「デジタル技術とデジタル・ビジネスモデルを用いて」の「デジタル・ビジネスモデル」になります。以下は、ビジネスモデルの定義です。

組織がいかにして価値を創出し、供給、実現するかを原理的に説明したもの
──『DX実行戦略』,マイケル・ウェイド, p.76
※この定義自体は『ビジネスモデル・ジェネレーション』という書籍の定義をもとにしている

今回詳細に見ていくのは、「ビジネスモデル」ではなく「デジタルビジネスモデル」です。定義は以下です。

デジタル技術で可能となった破壊的ビジネスモデルは、それがもたらす価値の種類によって分類することができる。DBTセンターの調査により、デジタル・ディスラプターが顧客にもたらしている価値、すなわち、カスタマーバリューには「コストバリュー」「エクスペリエンスバリュー」「プラットフォームバリュー」の3種類があることがわかった。
──『対デジタル・ディスラプター戦略』, マイケル・ウェイド, pp.49-50

3種類あるカスタマーバリューの各バリューには、主要な5つのビジネスモデルがあり、それがデジタルビジネスモデルとなります。合計15個のデジタルビジネスモデルが紹介されています。今回の記事では、この中から一つのビジネスモデルをとりあげて、マーケティングとの関係性を見ていきます。

コストバリュー

コストバリューにあたるビジネスモデルとしては、以下の5つがあります(『対デジタル・ディスラプター戦略』表1より抜粋)。
・無料/超低価格:対価を求めず、製品やサービスを無料提供。キャッシュバックやリワード。利益もわずか。もしくはゼロ。フリーミアム。
・購入者集約:人や時間に対してコストを分散する。
・価格透明性:価格を比較することで有利な条件で取引できる。
・リバースオークション:逆オークション形式の販売。競争入札。投げ銭方式。
・従量課金制:使用あるいは消費した分だけ対価を支払う。サブスクリプションサービス。XaaS。

まずは、1つ目のビジネスモデルとして「無料/超低価格」をとりあげます。

「無料/超低価格」ビジネスモデル

このビジネスモデルでは、従来であれば正規の価格で購入しなければならなかった製品やサービスを、無料または無料に近い価格、もしくはきわめて低い利益率で提供することです。他にも、キャッシュバックやリワードといったインセンティブを伴うものも含まれます。フリーミアムも含まれます。フリーミアムとは、基本的な機能は無料で提供し、高度な機能を使うには課金が必要となる料金体系のサービスや製品です。

このように無料や低価格で製品やサービスを提供することで、顧客にとってのコストバリューを獲得します。

マーケティングと「無料/超低価格」ビジネスモデル

次のビジネスモデルに行く前に、この「無料/超低価格」のビジネスモデルを例にして、マーケティングとの関係性を考えたいと思います。ここでは、これまでの記事でも触れてきたように、古典的な4P(またはマーケティングミックス)のフレームワークをもとに考えたいと思います。4Pの定義例は、以下のようなものがあります。

マーケティング・ミックスとは、顧客に何を提供するか、どのようにして提供するのかを計画する上でのきわめて重要なツールである。基本的には、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)という四つのPが、マーケティング・ミックスの枠組みを構成する。
─『コトラーのマーケティング4.0』, フィリップ・コトラー

4Pの具体的な例としては以下があります(『コトラーの戦略的マーケティング』)。

Product(製品):種類、品質、デザイン、特徴、ブランド名、パッケージ等
Price(価格):表示価格、値引き、支払期限等
Place(流通):販路、立地、在庫、配送等
Promotion(プロモーション):セールスプロモーション、広告、営業部隊、PR、ダイレクトマーケティング

4Pに沿って、「無料/超低価格」モデルを見ていきましょう。「無料/超低価格」という名称が示している通り、一番関連性があるのはPriceだと言えます。
・価格を無料にするのは、Priceだと思われます。
・キャッシュバックやリワードに関しては、Promotionと言えます。たとえば、『プロモーショナルマーケティングベーシック』という本では、キャッシュバックは、プロモーション手法のひとつであるプライスプロモーションの中に含まれています。
・フリーミアムは、もしかしたら、課金無しでは機能が使えないという意味で、Productの要素も含むかもしれません。

DXとビジネスモデルとマーケティング

前節での考察からは、ビジネスモデルによっては、マーケティングにおける概念(4P)と関係はありそうだ、ということが分かりました。したがって、間接的に、DXとマーケティングとの間にも関係性がありそうだ、と言えそうです。具体的にどのような関係性なのか、という分析は今後の課題としたいと思います。

次に、DXと呼べるのかどうか、の視点で考えてみます。例えば、既存企業がこれまで有料で販売していたものを無料で販売するようにビジネスモデルを変更した(「無料/超低価格」の採用)としたら、DXを行ったことになるのでしょうか? 再び、DXの定義に戻ってみましょう。

私たちは、デジタルビジネス・トランスフォーメーションを「デジタル技術とデジタル・ビジネスモデルを用いて組織を変化させ、業績を改善するとと」と定義する。第1に、企業業績を改善することがその目的であり、第2にデジタルを土台にした変革であること。組織は絶えず変化しているが、ひとつ以上のデジタル技術が大きな影響をおよぼしているものでなければ、デジタルビジネス・トランスフォーメーションには分類されない。そして第3に、プロセスや人、戦略など、組織の変化を伴うものであること。デジタルビジネス・トランスフォーメーションには、テクノロジーよりもはるかに多くのものが関与している。
──『DX実行戦略』, マイケル・ウェイド, p.27

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DXと言えるには、いくつかの条件を満たす必要がありそうです。
・「無料/超低価格」の採用は、業績を改善するために行われるのでしょうか?
・「無料/超低価格」の採用は、組織の変化を伴うのでしょうか?
・「無料/超低価格」の採用の採用だけでなく、デジタル技術が大きな影響を与えるのでしょうか?
つまり、単に変更するだけでは、DXとは呼べないと思われます。

そもそもどうしてビジネスモデルを変えなければいけないのでしょうか。変えなければ、競合が、特に組織的なもつれのないスタートアップ企業がディスラプターとして、コストバリューやその他のカスタマーバリュー(エクスペリエンスとプラットフォームバリュー)を組み合わせて、市場に変化を与えてくるためです。

まとめ

この記事では、『DX実行戦略』のDXの定義をもとに、DXとマーケティングの関係付けを行いました。DXを実現するにあたり必要な構成要素である「デジタルビジネスモデル」の一つとして「無料/超低価格」モデルを取り上げ、このモデルが4Pの要素と関係しそうだということを指摘しました。

次回の記事では、残りのビジネスモデルに関しても同様の分析を行ってみたいと思います。

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