DXとマーケティングその8:ビジネスモデル「従量課金制」

分析屋の下滝です。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とマーケティングの関係を考えてくシリーズの第8回目です。

第1回はこちら。経産省のDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第2回はこちら。『DX実行戦略』におけるDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第3回はこちら。「無料/超低価格」のビジネスモデルを分析しました。
第4回はこちら。「購入者集約」のビジネスモデルを分析しました。
第5回はこちら。「価格透明性」のビジネスモデルを分析しました。
第6回はこちら。「リバースオークション」のビジネスモデルを分析しました。
第7回はこちら。ここまでの記事をまとめました。

これまでのおさらい

第2回の記事では、『DX実行戦略』の書籍におけるDXの定義において、DXを構成するいくつかの要素の一つとして、「ビジネスモデル」が存在することを紹介しました。また、この定義に基づけば、マーケティングとの直接的な繋がりは見つけられなさそうなことを示しました。

以下は、DXの定義となります。

私たちは、デジタルビジネス・トランスフォーメーションを「デジタル技術とデジタル・ビジネスモデルを用いて組織を変化させ、業績を改善するとと」と定義する。第1に、企業業績を改善することがその目的であり、第2にデジタルを土台にした変革であること。組織は絶えず変化しているが、ひとつ以上のデジタル技術が大きな影響をおよぼしているものでなければ、デジタルビジネス・トランスフォーメーションには分類されない。そして第3に、プロセスや人、戦略など、組織の変化を伴うものであること。デジタルビジネス・トランスフォーメーションには、テクノロジーよりもはるかに多くのものが関与している。
──『DX実行戦略』, マイケル・ウェイド, p.27

この定義と関連する概念を整理したのが以下の図となります。

画像2

DXとマーケティングの関係を分析するにあたり、各ビジネスモデルとマーケティングにおけるフレームワークである4Pとの関係を探っていく、というのが現状のアプローチになります。

DX自体をもう少し大きな視点で見てみましょう。『DX実行戦略』では、「組織のもつれ度」と「変革の程度」の軸で4つの変革を区別しています。DXは、このうちの右上に対応する話になります。DXではない例としてあげられているのは、広告部門が「新聞・テレビ広告」から「オンライン広告」に移行するような場合です。これは、古典的な変革にあたります。詳しい説明は第二回の記事を参照してください。

画像3

『DX実行戦略』では、DXとしての変革で必要となる考えは「変革目標」であるとしています。「変革目標」無しで進める変革プログラムは失敗する、としています。各自が自分なりの変革の定義を行い、各自が好みの結果を求めるためです。「変革目標」は以下の3からなります。
1.カスタマーバリュー創出
2.ビジネスモデル
3.対応戦略
カスタマーバリューには、コストバリュー、エクスペリエンスバリュー、プラットフォームバリューの3つがあります。それぞれのバリューには、5つのビジネスモデルがあります。
3に関しての対応戦略には4つあります。
・収穫戦略:ビジネスモデルの大きな変化はない。従来の変革のアプローチで対応できる(右上に当てはまらない)。ディスラプターの脅威をブロックし、攻撃されている事業から得られる収益を最大化する。
・撤退戦略:ビジネスモデルの大きな変化はない。従来の変革のアプローチで対応できる(右上に当てはまらない)。収益が枯渇したら事業から撤退、もしくはニッチな市場に移動する。
・破壊戦略:ビジネスモデル用いて、カスタマーバリューの創出を行う。DXのためのアプローチが必要(右上)。自らのコアビジネスを破壊、もしくは新しい上を創出する。
・拠点戦略:ビジネスモデル用いて、カスタマーバリューの創出を行う。DXのためのアプローチが必要(右上)。ライバルを出し抜いて新しい市場で競争に勝利する。
このような戦略の話が必要なのは、既存企業が破壊的な企業(ディスラプター)とどのように戦っていくのかの話であるためです。『DX実行戦略』と『対デジタル・ディスラプター戦略』では2つのコンセプトが提案されています。
・バリューバンパイア(価値の吸血鬼):自らの競争優位によって市場全体の規模を縮小させるディスラプティブな企業。
・バリューベイカンシー(価値の空白地帯):デジタル・ディスラプションによって生じた、市場で利益を享受できるチャンス。
バリューバンパイアやバリューベイカンシーに対し、どう対応していくのかが対応戦略になります。

画像4

話のロジックとしてはこんなイメージです。

1.デジタル化できるものはデジタル化される。
2.デジタルを使いこなす新興企業(デジタルディスラプター)は、顧客にとって価値あるものを提供するために、デジタルで可能になったビジネスモデルを使う。ディスラプターは、市場規模を縮小させる傾向がある。ただし、顧客にとっては価値があるので、既存企業にとっては市場シェアを奪われることになる。
3.既存企業は、新たなデジタルビジネルモデルを導入し、デジタルディスラプターと戦う必要がある。ただし、デジタルビジネルモデルは、組織全体に影響するような変更を要求する。既存企業はデジタルディスラプターと比べて、組織的な変革を行うことが難しい。組織の規模や依存性、ダイナミズムが、変革を難しくする。
4.したがって、既存の企業は、組織変革のための新しいアプローチが必要となる。

4以降の話については『DX実行戦略』で詳しく述べられています。

今回の話

本シリーズは、DXとマーケティングの関係を探っていくことを目的としています。DXにおけるカスタマーバリューやデジタルビジネスモデル、対応戦略といった概念と、マーケティングにおける概念がどのように結びつくのか。そのように考えることで、何らかの示唆を得たいと思っています。

前回までの記事では、具体的なビジネスモデルとして「無料/超低価格」と「購入者集約」「価格透明性」「リバースオークション」をとりあげ、4Pの視点でこれらビジネスモデルとの関係性を分析しました。結果として、いくつかのPがこのビジネスモデルと関わりがありそうだということを示しました。これらのビジネスモデルは、カスタマーバリューの分類の中の一つであるコストバリューに含まれます。コストバリューは「製品やサービスの最終顧客向けの価格を下げる」ことに関わります。

今回の記事では、コストバリューに含まれる最後のビジネスモデルである「従量課金制」を対象として分析していきます。

「従量課金制」のビジネスモデル

『対デジタル・ディスラプター戦略』によると、「従量課金制」は次のようなビジネスモデルです。

「従量課金制」のビジネルモデルは、購入した製品やサービスに対する顧客の支払いのあり方を変える。定額料金ではなく、使った分に対してのみ課金することで、顧客により大きな力(とコストバリュー)を与える。
──『対デジタル・ディスラプター戦略』, マイケル・ウェイド, p.56

例として挙げられているのは、次の企業です。
・メトロマイル:実走行距離連動型自動車保険
・セールスフォース・ドットコムやウェブエックス(シスコが提供):利用料に対して対価を支払うクラウドベースのソフトウェア
・リキッドスペース、シェアデスク、ピボットデスク:オフィスの未使用空間を時間単位、日単位、月単位でレンタルできるサービス
・ロールス・ロイス・ホールディングス:ジェットエンジンを購入するのではなく、推進力や使用時間にもとづいて利用した分だけを購入できる。

マーケティングと「従量課金制」ビジネスモデル

この「従量課金制」のビジネスモデルを例にして、マーケティングとの関係性を考えたいと思います。ここでは、これまでの記事でも触れてきたように、古典的な4P(またはマーケティングミックス)のフレームワークをもとに考えたいと思います。4Pの定義例は、以下のようなものがあります。

マーケティング・ミックスとは、顧客に何を提供するか、どのようにして提供するのかを計画する上でのきわめて重要なツールである。基本的には、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)という四つのPが、マーケティング・ミックスの枠組みを構成する。
─『コトラーのマーケティング4.0』, フィリップ・コトラー

4Pの具体的な例としては以下があります(『コトラーの戦略的マーケティング』より)。

Product(製品):種類、品質、デザイン、特徴、ブランド名、パッケージ等
Price(価格):表示価格、値引き、支払期限等
Place(流通):販路、立地、在庫、配送等
Promotion(プロモーション):セールスプロモーション、広告、営業部隊、PR、ダイレクトマーケティング

4Pに沿って、「従量課金制」モデルを見ていきましょう。

Product(製品):関係ありません。
Price(価格):関係します。使った分だけに課金するように決定しなければなりません。
Place(流通):関係ありません。
Promotion(プロモーション):関係ありません。

整理:ビジネスモデルと4P

下記の図は、「無料/超低価格」と「購入者集約」「価格透明性」「リバースオークション」、そして今回の「従量課金制」を整理したものです。

画像1

まとめ

この記事では、『DX実行戦略』のDXの定義をもとに、DXとマーケティングの関係付けを行いました。DXを実現するにあたり必要な構成要素である「デジタルビジネスモデル」の一つとして「従量課金制」モデルを取り上げ、このモデルが4Pの要素と関係しそうだということを指摘しました。

関係性の詳細な分析は、こちらの記事を御覧ください。現時点で得られた示唆としては次のようにまとめています。

ビジネスモデルの選択は、4Pに対する制約である。実務的には、マーケティングにおける決定では、現状のビジネスがどのビジネスモデルに基づいているのかを認識しておく必要がある。ビジネスモデルの制約に違反するような4Pの決定は、ビジネスモデルを破壊する。また、新たなビジネスモデル採用する際には、既存の4Pに対する影響を考慮しなければならない。
ビジネスモデルは、4Pよりも抽象度が高い。実務的には意味としては、特定のビジネスモデルを採用したからといって、具体的な4Pに関する決定を行う必要が無くなるわけではない、と言えるかもしれない。ビジネスモデルとしての制約を守りつつ、適切な4Pを行う必要性は残る。

次回は「カスタマーエンパワメント」ビジネスモデルを扱います。と思いましたが、マーケティングに立ち戻ります。続きはこちら

過去の記事

第1回はこちら。経産省のDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第2回はこちら。『DX実行戦略』におけるDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第3回はこちら。「無料/超低価格」のビジネスモデルを分析しました。
第4回はこちら。「購入者集約」のビジネスモデルを分析しました。
第5回はこちら。「価格透明性」のビジネスモデルを分析しました。
第6回はこちら。「リバースオークション」のビジネスモデルを分析しました。
第7回はこちら。ここまでの記事をまとめました。

株式会社分析屋について

https://analytics-jp.com/

【データ分析で日本を豊かに】
分析屋はシステム分野・ライフサイエンス分野・マーケティング分野の知見を生かし、多種多様な分野の企業様のデータ分析のご支援をさせていただいております。 「あなたの問題解決をする」をモットーに、お客様の抱える課題にあわせた解析・分析手法を用いて、問題解決へのお手伝いをいたします!
【マーケティング】
マーケティング戦略上の目的に向けて、各種のデータ統合及び加工ならびにPDCAサイクル運用全般を支援や高度なデータ分析技術により複雑な課題解決に向けての分析サービスを提供いたします。
【システム】
アプリケーション開発やデータベース構築、WEBサイト構築、運用保守業務などお客様の問題やご要望に沿ってご支援いたします。
【ライフサイエンス】
機械学習や各種アルゴリズムなどの解析アルゴリズム開発サービスを提供いたします。過去には医療系のバイタルデータを扱った解析が主でしたが、今後はそれらで培った経験・技術を工業など他の分野の企業様の問題解決にも役立てていく方針です。
【SES】
SESサービスも行っております。