DXとマーケティングその6:ビジネスモデル「リバースオークション」

分析屋の下滝です。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とマーケティングの関係を考えてくシリーズの第5回目です。前回の記事では、コストバリューのビジネスモデルである「購入者集約」とマーケティング、そしてDXとの関係を分析しました。今回の記事では、同様に、残りのビジネスモデルを使って分析していきます。

第1回はこちら。経産省のDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第2回はこちら。『DX実行戦略』におけるDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第3回はこちら。「無料/超低価格」のビジネスモデルを分析しました。
第4回はこちら。「購入者集約」のビジネスモデルを分析しました。
第5回はこちら。「価格透明性」のビジネスモデルを分析しました。

これまでのおさらい

第2回の記事では、『DX実行戦略』の書籍におけるDXの定義において、DXを構成するいくつかの要素の一つとして、「ビジネスモデル」が存在することを紹介しました。また、この定義に基づけば、マーケティングとの直接的な繋がりは見つけられなさそうなことを示しました。

以下は、DXの定義となります。

私たちは、デジタルビジネス・トランスフォーメーションを「デジタル技術とデジタル・ビジネスモデルを用いて組織を変化させ、業績を改善するとと」と定義する。第1に、企業業績を改善することがその目的であり、第2にデジタルを土台にした変革であること。組織は絶えず変化しているが、ひとつ以上のデジタル技術が大きな影響をおよぼしているものでなければ、デジタルビジネス・トランスフォーメーションには分類されない。そして第3に、プロセスや人、戦略など、組織の変化を伴うものであること。デジタルビジネス・トランスフォーメーションには、テクノロジーよりもはるかに多くのものが関与している。
──『DX実行戦略』, マイケル・ウェイド, p.27

この定義と関連する概念を整理したのが以下の図となります。

画像1

DXとマーケティングの関係を分析するにあたり、各ビジネスモデルとマーケティングにおけるフレームワークである4Pとの関係を探っていく、というのが現状のアプローチになります。

DX自体をもう少し大きな視点で見てみましょう。『DX実行戦略』では、「組織のもつれ度」と「変革の程度」の軸で4つの変革を区別しています。DXは、このうちの右上に対応する話になります。DXではない例としてあげられているのは、広告部門が「新聞・テレビ広告」から「オンライン広告」に移行するような場合です。これは、古典的な変革にあたります。詳しい説明は第二回の記事を参照してください。

画像2

『DX実行戦略』では、DXとしての変革で必要となる考えは「変革目標」であるとしています。「変革目標」無しで進める変革プログラムは失敗する、としています。各自が自分なりの変革の定義を行い、各自が好みの結果を求めるためです。「変革目標」は以下の3からなります。
1.カスタマーバリュー創出
2.ビジネスモデル
3.対応戦略
カスタマーバリューには、コストバリュー、エクスペリエンスバリュー、プラットフォームバリューの3つがあります。それぞれのバリューには、5つのビジネスモデルがあります。
3に関しての対応戦略には4つあります。
・収穫戦略:ビジネスモデルの大きな変化はない。従来の変革のアプローチで対応できる(右上に当てはまらない)。ディスラプターの脅威をブロックし、攻撃されている事業から得られる収益を最大化する。
・撤退戦略:ビジネスモデルの大きな変化はない。従来の変革のアプローチで対応できる(右上に当てはまらない)。収益が枯渇したら事業から撤退、もしくはニッチな市場に移動する。
・破壊戦略:ビジネスモデル用いて、カスタマーバリューの創出を行う。DXのためのアプローチが必要(右上)。自らのコアビジネスを破壊、もしくは新しい上を創出する。
・拠点戦略:ビジネスモデル用いて、カスタマーバリューの創出を行う。DXのためのアプローチが必要(右上)。ライバルを出し抜いて新しい市場で競争に勝利する。
このような戦略の話が必要なのは、既存企業が破壊的な企業(ディスラプター)とどのように戦っていくのかの話であるためです。『DX実行戦略』と『対デジタル・ディスラプター戦略』では2つのコンセプトが提案されています。
・バリューバンパイア(価値の吸血鬼):自らの競争優位によって市場全体の規模を縮小させるディスラプティブな企業。
・バリューベイカンシー(価値の空白地帯):デジタル・ディスラプションによって生じた、市場で利益を享受できるチャンス。
バリューバンパイアやバリューベイカンシーに対し、どう対応していくのかが対応戦略になります。

画像3

話のロジックとしてはこんなイメージです。

1.デジタル化できるものはデジタル化される。
2.デジタルを使いこなす新興企業(デジタルディスラプター)は、顧客にとって価値あるものを提供するために、デジタルで可能になったビジネスモデルを使う。ディスラプターは、市場規模を縮小させる傾向がある。ただし、顧客にとっては価値があるので、既存企業にとっては市場シェアを奪われることになる。
3.既存企業は、デジタルディスラプターと戦う必要がある。ただし、既存企業はデジタルディスラプターに比べて、組織的な変革を行うことが難しい。組織の規模や依存性、ダイナミズムが、変革を難しくする。

今回の話

本シリーズは、DXとマーケティングの関係を探っていくことを目的としています。DXにおけるカスタマーバリューやデジタルビジネスモデル、対応戦略といった概念と、マーケティングにおける概念がどのように結びつくのか。それを手探りで行っていきます。

前回までの記事では、具体的なビジネスモデルとして「無料/超低価格」と「購入者集約」「価格透明性」をとりあげ、4Pの視点でこのビジネスモデルとの関係性を分析しました。結果として、いくつかのPがこのビジネスモデルと関わりがありそうだということを示しました。これらのビジネスモデルは、カスタマーバリューの分類の中の一つであるコストバリューに含まれます。コストバリューは「製品やサービスの最終顧客向けの価格を下げる」ことに関わります。

画像4

今回の記事では、コストバリューに含まれるビジネスモデルである「リバースオークション」を対象として分析していきます。

「リバースオークション」のビジネスモデル

『対デジタル・ディスラプター戦略』によると、「リバースオークション」は次のようなビジネスモデルです。

「リバースオークション(競り下げ方式)」のビジネスモデルは、商取引のあり方を根底からひっくり返し、買い手の事業に売り手を入札させる。
──『対デジタル・ディスラプター戦略』, マイケル・ウェイド, p.55

代表例としては、レンディングツリー(抵当ならびにローン)、SAPアリバ(B2B調達)が紹介されています。

定義自体は、Wikipediaのほうが分かりやすそうだったので引用します。

リバースオークションあるいは逆オークション(Reverse Auction)とは、売り手が買い手を選定する通常のオークションと異なり、買い手が売り手を選定する逆(Reverse)のオークションである。政府による調達(Procurement)の際に行われる競争入札がこれに対応する。通常のオークションでは売り手が商品を拠出し、買い手が価格を入札して最も高い価格を入札した者に商品が渡る。(つまり、売り手が買い手を選定している。)

──リバースオークション
具体的な内容としては、ある商品を買う者が売り手の間で価格入札を行わせて、最も安い価格を入札した者から購入を決定する。(すなわち、買い手が売り手を選定している。)ある電化製品を購入する時に、いくつかの店を訪問して他店の販売価格を提示しながら値引き競争を行わせることも一種のリバースオークションである。 A社が社内改装をしたい場合、改装業者B・C・D・E社に内装工事費の価格を競売により競わせて一番安い会社に工事権を得させる時などに有効である。
──リバースオークション

マーケティングと「リバースオークション」ビジネスモデル

この「リバースオークション」のビジネスモデルを例にして、マーケティングとの関係性を考えたいと思います。ここでは、これまでの記事でも触れてきたように、古典的な4P(またはマーケティングミックス)のフレームワークをもとに考えたいと思います。4Pの定義例は、以下のようなものがあります。

マーケティング・ミックスとは、顧客に何を提供するか、どのようにして提供するのかを計画する上でのきわめて重要なツールである。基本的には、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)という四つのPが、マーケティング・ミックスの枠組みを構成する。
─『コトラーのマーケティング4.0』, フィリップ・コトラー

4Pの具体的な例としては以下があります(『コトラーの戦略的マーケティング』より)。

Product(製品):種類、品質、デザイン、特徴、ブランド名、パッケージ等
Price(価格):表示価格、値引き、支払期限等
Place(流通):販路、立地、在庫、配送等
Promotion(プロモーション):セールスプロモーション、広告、営業部隊、PR、ダイレクトマーケティング

4Pに沿って、「リバースオークション」モデルを見ていきましょう。既存企業が、以下の3つの視点になったとしたら、ということで見ていきます。また既存企業は、すでに何らかの製品・サービスを提供している、または、新製品として提供を考えているとします。
1.リバースオークションにおける買い手になるとしたら、という視点、2.リバースオークションにおける売り手(入札する側)になるとしたら、という視点
3.リバースオークションのプラットフォーム提供者になるとしたら、という視点。特に、既存企業の提供している製品に特化したプラットフォームであると考えます。

Product(製品)
・買い手の視点:関係ありません。リバースオークションでは安く手に入る可能性があるというだけなので、Productには関係しません。
・売り手の視点:関係ありません。入札して販売できるだけですので、Productには関係しません。
・プラットフォーム提供者の視点:リバースオークション自体が製品であるので関係します。リバースオークションの機能を提供しなければなりませせん。
Price(価格):
・買い手の視点:関係ありません。リバースオークションでは安く手に入る可能性があるというだけなので、Priceには直接関係しません。原材料を安く調達できるのであれば、価格を安くできるかもしれない、という意味では間接的に関係します。
・売り手の視点:関係します。入札価格として、製品の価格が決まります。
・プラットフォーム提供者の視点:恐らくプラットフォーム利用の手数料をとっているという意味で関係します。
Place(流通):
・買い手の視点:関係ありません。既存の製品をどこで販売するのか、という意味なので関係ありません。
・売り手の視点:販売チャネルの一つとして関係します。
・プラットフォーム提供者の視点:ウェブサイト自体が製品であるとしたら、インターネットということになるかもしれません。
Promotion(プロモーション)
・買い手の視点:関係ありません。リバースオークションでは、既存製品の宣伝は行いません。
・売り手の視点:関係ありません。リバースオークションでは、既存製品の宣伝は行いません。
・プラットフォーム提供者の視点:どのようにプロモーションするのかに関しては、特に関係ないように思えます。

整理すると「リバースオークション」に関わりがありそうなのは、売り手としてのPlaceとPrice、買い手としてはPriceと言えるのでなないでしょうか。ただし、既存企業がDXのための自社でビジネスモデルとして「リバースオークション」を利用する、という意味では関係性は見つけられないように思えます。

リバースオークションのプラットフォームを提供するという意味では、Product、Price、Placeが関係します。

整理:ビジネスモデルと4P

下記の図は、「無料/超低価格」と「購入者集約」「価格透明性」、そして今回の「リバースオークション」を整理したものです。

画像5

まとめ

この記事では、『DX実行戦略』のDXの定義をもとに、DXとマーケティングの関係付けを行いました。DXを実現するにあたり必要な構成要素である「デジタルビジネスモデル」の一つとして「リバースオークション」モデルを取り上げ、このモデルが4Pの要素と関係しそうだということを指摘しました。

次回は「従量課金制」のビジネスモデルを扱います。

過去の記事

第1回はこちら。経産省のDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第2回はこちら。『DX実行戦略』におけるDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第3回はこちら。「無料/超低価格」のビジネスモデルを分析しました。
第4回はこちら。「購入者集約」のビジネスモデルを分析しました。
第5回はこちら。「価格透明性」のビジネスモデルを分析しました。

株式会社分析屋について

https://analytics-jp.com/

【データ分析で日本を豊かに】
分析屋はシステム分野・ライフサイエンス分野・マーケティング分野の知見を生かし、多種多様な分野の企業様のデータ分析のご支援をさせていただいております。 「あなたの問題解決をする」をモットーに、お客様の抱える課題にあわせた解析・分析手法を用いて、問題解決へのお手伝いをいたします!
【マーケティング】
マーケティング戦略上の目的に向けて、各種のデータ統合及び加工ならびにPDCAサイクル運用全般を支援や高度なデータ分析技術により複雑な課題解決に向けての分析サービスを提供いたします。
【システム】
アプリケーション開発やデータベース構築、WEBサイト構築、運用保守業務などお客様の問題やご要望に沿ってご支援いたします。
【ライフサイエンス】
機械学習や各種アルゴリズムなどの解析アルゴリズム開発サービスを提供いたします。過去には医療系のバイタルデータを扱った解析が主でしたが、今後はそれらで培った経験・技術を工業など他の分野の企業様の問題解決にも役立てていく方針です。
【SES】
SESサービスも行っております。