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DXとマーケティングその17:事業の定義とDXの背景

分析屋の下滝です。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とマーケティングの関係を考えてくシリーズの第17回目です。

これまでの3回で、DXと経営とがどのような関係にあるのかを見てきました。DXを企業全体としての取り組みと捉えるならば、経営との関係性があると考えられるためです。

ドラッカーによれば企業の目的は「顧客の創造」です。そして、企業は顧客の創造のために、マーケティングとイノベーションの2つの機能を果たすとされます。では、DXの取り組みは、これらの2つの機能とどのように関係するのでしょうか。

この疑問に答えていくこれまでの3回でした。

DXの考え方に関してはこれまで通り『DX実行戦略』をもとにしています。

経営の枠組みとしてはドラッカーの考えを参考にし、以下のことに着目しています。
・企業の目的は何かということ
・事業の定義を行わなければならないということ。具体的には、事業は何か、何になるか、何であるべきかを定義すること。
・事業の定義から8つの目標を定義すること

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そして、これまでの記事で、これら「経営での考え」と「DXでの考え」とを関係付ける候補となる要素を特定しました。

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今回は前回からの続きとなります。前回は、DXと経営の関係に関して、以下の問いに回答しました。
・「われわれの事業は何になるか」と「DXの定義」がどのように関係するか
・「われわれの事業は何であるべきか」と「DXの定義」がどのように関係するか

結果として「DXの定義」だけでは、具体的な示唆を得るのは難しいことが分かりました。

また、DXの取り組みが必要とされる背景としてどんな要素があり、それら要素が事業の定義を行う際に考慮しなければならない事柄と関係があるかもしれないことを見ました。「事業の定義を行うにあたって考慮するべき事柄」としては例えば、「顧客は誰か」や「顧客はどこにいるか」や「顧客がはを買うか」があります。

今回は、「事業の定義を行うにあたって考慮するべき事柄」と「DXが必要とされる背景の要素」との関係を前回よりももう少し具体的に見ていきます。「DXが必要とされる背景の要素」として、例えば、「デジタル技術」や「デジタルディスラプター」といったものを特定していきます。

関係性の例として、以下の図は、「DXが必要とされる背景の要素」が事業の3種類の定義の全てに影響する場合の例を示しています。たとえば「デジタル技術」の存在は、「事業の定義において考慮するべき事柄」とどのように関係するのでしょうか。「デジタル技術」は、「顧客は誰か」や「顧客はどこにいるか」や「顧客は何を買うか」と関係があるのでしょうか。

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この関係性を明確にすることは重要です。なぜなら、「事業の定義を行うにあたって考慮するべき事柄」には、「DXが必要とされる背景の要素」が含まれているかもしれないためです。このことは、事業の定義にあたり、DXが影響する範囲を規定することを意味します。多くの範囲に影響するなら、DXがいかに重要な取り組みなのかが明らかになります。大まかには、マーケティングとイノベーションの機能として、DXの取り組みは、どこに関わるのかということが明らかになります。

また、もう少し大枠の話をすると以下の図のような4つのパターンが考えられます。

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4つのパターンは以下となります。
・パターン1:互いに関係しない。
・パターン2:「事業の定義を行うにあたって考慮するべき事柄」に「DXが必要とされる背景の要素」が含まれる。
・パターン3:「DXが必要とされる背景の要素」に「事業の定義を行うにあたって考慮するべき事柄」が含まれる。
・パターン4:「DXが必要とされる背景の要素」と「事業の定義を行うにあたって考慮するべき事柄」が部分的に重なる。

パターン1以外の場合の場合は、事業の3つの定義のどの考慮する事柄とDXの背景要素が関係するのかというサブパターンが考えられます。

これら4つパターンのどれかになるとして、そのパターンになることの意味の考察が必要となります。

これまでの記事

第1回はこちら。経産省のDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第2回はこちら。『DX実行戦略』におけるDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第3回はこちら。「無料/超低価格」のビジネスモデルを分析しました。
第4回はこちら。「購入者集約」のビジネスモデルを分析しました。
第5回はこちら。「価格透明性」のビジネスモデルを分析しました。
第6回はこちら。「リバースオークション」のビジネスモデルを分析しました。
第7回はこちら。ここまでの記事をまとめました。
第8回はこちら。「従量課金制」のビジネスモデルを分析しました。
第9回はこちら。『マーケティング大原則』という書籍におけるマーケティング定義を確認しました。
第10回はこちら。『マーケティング大原則』という書籍で紹介させている「戦略的コンセプト」をDXの視点から関係性を見ました。
第11回はこちら。DXの実行プロセスとマーケティングのマネジメントプロセスの関係性を見ました。
第12回はこちら。DXの実行プロセスとマーケティングのプランニングプロセスの関係性を見ました。
第13回はこちら。『デザインドフォー・デジタル』というDXの書籍をもとにDXとマーケティングの関係をみました。

DXと経営篇
第14回はこちら。DXと経営との関係付けの準備を行いました。
第15回はこちら。DXと事業の定義がどのように関係するのかをみました。
第16回はこちら。DXと「われわれの事業は何になるか」と「われわれの事業は何であるべきか」がどのように関係するのかをみました。

これまでのおさらい

DXの定義や事業の定義の詳細は、前回の記事を参考にしてください。

今回の話

今回の話に関係する図を以下に示してみます。前回の最後に使った図です。

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前回は、「DXが必要とされる背景の要素」として「デジタル・ボルテックス」と「デジタル・ディスラプター」を挙げていました。今回は、もう少し詳細に要素を特定していきます。

参考として、事業定義での考慮事項は以下となります。

・顧客(顧客は誰か)
・顧客がいる場所
・顧客が買うもの
・経営環境の変化
・人口構造の変化
・市場構造の変化
 ・経済構造
 ・流行と認識
 ・競争相手の動き
・今日の財やサービスで満たされていないもの
・社会の変化
・経済の変化
・市場の変化
・自らによるイノベーション
・他者によるイノベーション

では、「DXが必要とされる背景の要素」を特定していきます。まずは、キーワードとなるようなものを拾っていきたいと思います。『DX実行戦略』と前著の『対デジタル・ディスラプター戦略』を参考にしていきます。キーワードを拾いながら、関係する要素を特定し、モデルを考えていきます。次回の記事では、作成したモデルをもとに事業定義での考慮する事柄との関係を見ていきます。

まずは、デジタル・ディスラプションです。

デジタル・ディスラプション デジタル技術とデジタル・ビジネスモデルが、企業の(現時点での)価値提案(バリュープロポジション)と市場における今後の地位におよぼす影響。デジタル・ディスラプションは必ずしもネガティブなものではないが、そうしたイメージで語られることが多い。本書の随所で説明するが、デジタル・ディスラプションは脅威であると同時にチャンスを照らす光でもある。
──『対デジタル・ディスラプター戦略』,マイケル・ウェイド, pp.16-17

以下のように整理してみました。

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デジタル・ディスラプションという概念を影響の一種としてどのように表現するのが良いのか分かりませんが、関係として表しました。「バリュープロポジション」に関しては、「市場の位置」の獲得の理由となるとしました。

次は、デジタルディスラプターです。

デジタル・ディスラプションと従来の競争力学とのちがいは、突きつめれば、ふたつの大きな要素に集約される。そのふたつとは「変化の速度」と「利害の大きさ」だ。デジタル・ディスラプターは急速にイノベーションを起こして市場シェアを獲得し、物理的なものが大部分を占めているビジネスモデルに固執する競争相手よりもはるかに迅速に規模を拡大していく。とりわけ彼らが危険なのは、ひと晩のうちに巨大な顧客基盤を築き上げ、いくつものビジネスモデルを機敏に使いこなして複数の市場の既存企業を脅かすからだ。
──『対デジタル・ディスラプター戦略』,マイケル・ウェイド, p.25

以下のように整理してみました。

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企業が必ずしも、物理的なビジネスモデルのみを使っているとは限りませんが、いったんこのように表現しました。

続いてデジタル・ボルテックスという概念に関して。

2015年に発足したDBTセンターでデジタル・ディスラプションについての調査を開始し、さまざまな企業とかかわりを持つようになってすぐ私たちは、デジタル・ディスラプションが企業の競争勢力図を一変させ、あらゆる業界の未来に大きく作用する可能性を秘めていることに気づいた。収集したデータを見直しているうちに「渦巻き(ボルテックス)」のイメージが浮かんできて、眼前に広がっている市場変化を説明するのに役立った。
竜巻と同じく渦巻きは、回転によって周囲の物体に力をおよぼし、渦の中心に引き寄せる。「デジタル・ボルテックス」は市場に起きる破壊現象であり、「デジタル化できるものはすべてデジタル化される」という1点に向かって、企業を否応なしに引き寄せる性質を持っている。製品やサービス、ビジネスモデル、バリューチェーンはデジタル化され、競争を阻害している物理的な構成要素(従来の投下資本や物理的なインフラ、人力によるプロセス)は取り除かれる。渦巻きのなかでは、物体はしばしば回転の力によって分解する。これが、まさに既存企業のバリューチェーン内で起きていることだ。破壊的な企業(ディスラプター)はデジタル技術とデジタル・ビジネスモデルによって、バリューチェーンのつながりを破壊(アンバンドル化)し、その過程で新しいカスタマーバリュー(顧客価値)と市場の変化を生み出す。
──『DX実行戦略』,マイケル・ウェイド, pp.15-16

以下のように整理してみました。

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うまく図で表現しきれていない点もありますが、「事業定義での考慮する事柄」に関わりそうなものがあるかどうかを後で確認できれば問題ないとしています。たとえば「流行と認識」に関して直接的に関係のありそうなものは出ていないように思えます。

続いて、デジタルディスラプターについてもう一度。

ディスラプティブな企業は、製品やサービス、ビジネスモデルをデジタル化することで、従来の競争相手と同じバリューをもたらすばかりか、そのバリューを増強しているのだ。それも従来型のバリューチェーンを構築することなしに。
それどころか、設備投資や規制上の要件など、「がんじがらめの既存企業」の足を引っぱっているものを迂回しつつ最終顧客に上質なバリューを届けることが、デジタル・ディスラプターの至上目標でもある。ディスラプターにとって重要なのは、新たな上質のバリューを最終顧客のために創出することであり、製品やサービスを生み出すバリューチェーンを構築することではない。次章では、さまざまなかたちのカスタマーバリューを紐解き、解説する。
──『対デジタル・ディスラプター戦略』,マイケル・ウェイド, p.45

以下のように整理してみました。

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「製品やサービス、ビジネスモデルをデジタル化する」というのを追加しました。「ディスラプティブな企業」は「デジタルディスラプター」であると解釈しました。

続いてカスタマーバリューに関してです。

それぞれの業界はディスラプションが最も激しいデジタル・ボルテックスの渦の目に向かって動いているが、ここで重要なのは、この動きがテクノロジーのせいだけで生じているわけではないということだ。「これまで」と「今回」のちがいは、顧客に次々とイノベーティブな方法で新たな価値をもたらす「新ビジネスモデル」を、デジタル技術が可能にしていることだ。
(中略)
デジタル技術で可能となった破壊的ビジネスモデルは、それがもたらす価値の種類によって分類することができる。DBTセンターの調査により、デジタル・ディスラプターが顧客にもたらしている価値、すなわち、カスタマーバリューには「コストバリュー」「エクスペリエンスバリュー」「プラットフォームバリュー」の3種類があることがわかった。
──『対デジタル・ディスラプター戦略』, マイケル・ウェイド, pp.49-50

以下のように整理してみました。

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変更したのは、「デジタル技術で可能となった破壊的ビジネスモデル」という点と、カスタマーバリューに種類があるという点、デジタルビジネスモデルがこれらのカスタマーバリューをもたらすという点です。

カスタマーバリューに関しては、以下にもう少し詳しい説明があります。

前著の執筆準備中、私たちは、大きな成功を収めているディスラプター100社以上を研究して、彼らの「やり口」に共通する特徴を3つ発見した(図表2-1)。彼らが顧客価値を創出する方法は、①コストを下げる、もしくはなんらかの経済的見返りを生み出す(コストバリュー)、②より迅速で、より便利な、よりパーソナライズされた顧客経験をもたらす(エクスペリエンスバリュー)、③たとえば書い手と売り手、講師と受講者のあいだに、これまでなかったつながりを創出する(プラットホームバリュー)の3つだ。
──『DX実行戦略』,マイケル・ウェイド, p.71

以上で、DXが必要とされる背景の要素の特定を行いました。まだ見落としている要素もあるかもしれませんが、分析の準備はできました。

少し見てみると「事業定義での考慮する事柄」には、たとえば、「人口構造の変化」がありますが、「DXが必要とされる背景の要素」にはなさそうです。他にも「流行と認識」に関してもなさそうです。逆に「市場の変化」に関しては、要素(正確には要素間の関係)としてはありそうです。ただし「市場の変化」という言葉の定義によっては関係ないのかもしれません。

まとめ

今回は、『DX実行戦略』と『対デジタル・ディスラプター戦略』から「DXが必要とされる背景の要素」を特定しました。

次回は、今回特定した「DXが必要とされる背景の要素」と「事業定義での考慮する事柄」との関係を見ていきます。

続きはこちら

これまでの記事

第1回はこちら。経産省のDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第2回はこちら。『DX実行戦略』におけるDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第3回はこちら。「無料/超低価格」のビジネスモデルを分析しました。
第4回はこちら。「購入者集約」のビジネスモデルを分析しました。
第5回はこちら。「価格透明性」のビジネスモデルを分析しました。
第6回はこちら。「リバースオークション」のビジネスモデルを分析しました。
第7回はこちら。ここまでの記事をまとめました。
第8回はこちら。「従量課金制」のビジネスモデルを分析しました。
第9回はこちら。『マーケティング大原則』という書籍におけるマーケティング定義を確認しました。
第10回はこちら。『マーケティング大原則』という書籍で紹介させている「戦略的コンセプト」をDXの視点から関係性を見ました。
第11回はこちら。DXの実行プロセスとマーケティングのマネジメントプロセスの関係性を見ました。
第12回はこちら。DXの実行プロセスとマーケティングのプランニングプロセスの関係性を見ました。
第13回はこちら。『デザインドフォー・デジタル』というDXの書籍をもとにDXとマーケティングの関係をみました。

DXと経営篇
第14回はこちら。DXと経営との関係付けの準備を行いました。
第15回はこちら。DXと事業の定義がどのように関係するのかをみました。
第16回はこちら。DXと「われわれの事業は何になるか」と「われわれの事業は何であるべきか」がどのように関係するのかをみました。

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