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DXとマーケティングその13:『デザインドフォー・デジタル』とマーケティング

分析屋の下滝です。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とマーケティングの関係を考えてくシリーズの第13回目です。

前回は、DXの実行プロセスとマーケティングでのプランニングプロセスを見比べることで、両者の関係性を分析しました。

今回は、少し分析の範囲を拡げたいと思います。これまでは主に『DX実行戦略』で述べられているDXをもとに、マーケティングとの関係性を分析してきました。今回は、『デザインドフォー・デジタル』というDX関連の書籍を取り上げ、同様の分析を行っていきたいと思います。まだ読み切っておらず、理解も十分とは言えませんが、この記事を通じて理解を深めていきたいと思います。

これまでの記事

第1回はこちら。経産省のDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第2回はこちら。『DX実行戦略』におけるDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第3回はこちら。「無料/超低価格」のビジネスモデルを分析しました。
第4回はこちら。「購入者集約」のビジネスモデルを分析しました。
第5回はこちら。「価格透明性」のビジネスモデルを分析しました。
第6回はこちら。「リバースオークション」のビジネスモデルを分析しました。
第7回はこちら。ここまでの記事をまとめました。
第8回はこちら。「従量課金制」のビジネスモデルを分析しました。
第9回はこちら。『マーケティング大原則』という書籍におけるマーケティング定義を確認しました。
第10回はこちら。『マーケティング大原則』という書籍で紹介させている「戦略的コンセプト」をDXの視点から関係性を見ました。
第11回はこちら。DXの実行プロセスとマーケティングのマネジメントプロセスの関係性を見ました。
第12回はこちら。DXの実行プロセスとマーケティングのプランニングプロセスの関係性を見ました。

今回の進め方

まずは、『デザインド・フォー・デジタル』でのDXの定義とこの本の狙いを引用します。次に、マーケティングでの定義として、コトラーを引用します。最後に、マーケティングの従来の役割が、DXに取り組むプロセスにおいて、どのように関わりそうなのかを軽く見ます。

『デザインド・フォー・デジタル』をぱらっと読んだ感じでは、『DX実行戦略』と同様に、マーケティングの役割に関して、具体的な言及は無いように読めました。したがって、『デザインド・フォー・デジタル』におけるDXを実行するとなった場合、従来のマーケティングプロセスがどのように影響を受けるのかに関して、考えていく必要があります。

DXに関して

『デザインド・フォー・デジタル』でのDXの定義はこちら。

デジタル化対応のための企業変革。デジタル技術やデータを活用して、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、組織や企業文化などの変革を通じて、競争力の向上を目指すこと。
──『デザインド・フォー・デジタル』, ロス, p.26

「デジタル化対応」とは?

より高度なカスタマー・バリュープロポジションを実現するために、イノベーティブなデジタルサービスを開発すること。
──『デザインド・フォー・デジタル』, ロス, p.26

バリュープロポジションとは?

価値提案。顧客のニーズに対して自社だけが提案できる価値を言う。自社の存在価値や独自性を顧客に伝え、競争力の向上につなげるための概念。
──『デザインド・フォー・デジタル』, ロス, p.26

デジタルサービスとは?

デジタル技術を活用して、拡充もしくは新たに作り出された、製品、サービス、ソリューションの総称
──『デザインド・フォー・デジタル』, ロス, p.26

ここまでで出てきた概念の関係を整理しました。

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続いて、DXを使っている文章の周辺。

図7・1は、デジタルトランスフォーメーションに向けた5つのビルディングブロックを表現したものだ。
本書のリサーチを統計的に検証した結果、ビルディングブロックは、相互に依存し合いながらも、固有の5つの組織的資産であり、それぞれが個別に、また組み合わせによって企業の成功に貢献するものだとわかった。各ビルディングブロックは、企業の人材、プロセス、技術に変化をもたらす。それ故、デジタル化対応への道のりは長いものの、すべてのビルディングブロックを強化していく一連の取り組みそのものがデジタル化対応への道のりであると言える。
──『デザインド・フォー・デジタル』, ロス, pp.223-224
デジタルトランスフォーメーションの道のりは、シェアード・カスタマーインサイト、オペレーショナルバックボーン、デジタルプラットフォーム、アカウンタビリティーフレームワーク、外部デベロッパープラットフォームの5つのデジタル・ビルディングブロックの強化と構築であると確認している。(省略)
──『デザインド・フォー・デジタル』, ロス, p.257

これら5つのビルディングブロックはこのようなもの。
・シェアード・カスタマーインサイト:顧客の購買欲をそそる製品・サービスや顧客ニーズを満たすためのデジタル技術の活用方法に関する組織的学習
・オペレーショナルバックボーン:企業の中核業務を支援する標準化、統合化されたシステム、プロセス、データ
・デジタルプラットフォーム:デジタルサービスの開発を迅速に行うために活用されるビジネス、データ、インフラストラクチャの各コンポーネントのリポジトリ
・アカウンタビリティーフレームワーク:自律と強調のためのバランスを実現するためになされる、デジタルサービスおよびコンポーネントに対する責任の割り当て
・外部デベロッパープラットフォーム:社外に開放されているデジタルコンポーネントのリポジトリ

ビルディングブロックのその他の表現。ここでは「組織能力」として表現されています。

筆者たちは、企業のデジタル化対応を成功に導くための組織能力として、5つのビルディングブロックを見出した。この5つのビルディングブロックは、企業による革新的なデジタルサービスの迅速な提供を可能にするものである。これらは、相互に作用し合う以下の3つの要素の強化を通じて、デジタル化世代ではない企業を段階的にデジタル企業へと変革に導く。①するべきこととその方法を理解している人材、②企業がデジタルサービスを考案し、市場に投入し、サポートを行うまでのプロセス、③効率的な組織的プロセスと変革的なデジタルサービスの両方を支える技術、の3要素である。
──『デザインド・フォー・デジタル』, ロス, p.54

この本は何ついてのものか

本書では、企業のデジタル変革のためのビルディングブロックについて説明している。ビルディングブロックとは、デジタル技術が可能にする新たなバリュープロポジションの構築に向けたビジョンの創出から、顧客が喜んで購入するデジタルサービスに関する洞察の生成、デジタルサービスを実現する技術および業務プロセスのプラットフォームの構築、従業員がこれらを遂行するためのアカウンタビリティーフレームワークのデザインに至る各段階のことを指す。
──『デザインド・フォー・デジタル』, ロス, pp.9-10
本書では、企業のカスタマー・バリュープロポジションを根本的に変えるために、いかにデジタル技術を活用するかについて述べている。ここでは、デジタル技術が企業の既存の製品やサービスに対しても2つの大きな影響を与え得えることに触れておきたい。
──『デザインド・フォー・デジタル』, ロス, p.32
筆者たちは5年間にわたりリサーチを行い、この疑問に対する答えは、従来型大企業が、率直に言って、デジタル仕様にデザインされていないからだと確信するに至った。
(中略)
こうした背景をもとに、本書は執筆された。大企業に対するリサーチをとおして、スピードがデジタルの本質であるのにもかかわらず、デジタル変革には時間がかかることがわかった。というのも、デジタル変革では企業のあり方をデザインあるいは再デザインする必要があるからだ。デジタル変革の道のりを歩み終えた企業はまだないが、少ないながらも、その道を切り拓いている企業は存在する。それらの事例をここに示し、そうした企業の経験を分析することで、読者が今後取り組むデジタルトランスフォーメーションに対して何らかの方向性を示すことができればと願っている。
──『デザインド・フォー・デジタル』, ロス, pp.5-6
本書の読者層は、デジタルによって破壊されるのではなく、デジタルを活用して他社に破壊的な影響を与えたいと考える企業、そして、そのために何をすべきかを深く理解したいと望んでいる企業、すなわち既存企業(本書では「従来型大企業」と呼び「成功した」とも形容できる)の経営幹部を対象としている。
──『デザインド・フォー・デジタル』, ロス, p.9

マーケティングの定義

続いて、コトラーからマーケティングの定義を抜き出していきます。

だが同時に、成長そのものを目標とすることには注意を要する。企業の目標は「利益を生む成長」でなければならない。マネジャーたちは、業界平均に勝るペースの売上と利益の伸張を迫られている。その結果、彼らは可能な限りの市場と顧客をカバーしようとする。そのため、自社のターゲット市場とイメージが曖昧になり、経営資源の有効性を希薄化してしまうのである。
マーケティングの中心的な役割は、利益成長を達成することである。自社がターゲット市場において優勢でない場合は、マーケティングによって市場機会を見つけ、評価し、選択し、そのうえで頂上を極める戦略を定めなければならない。
──『コトラーの戦略的マーケティング』, コトラー, p.25
マーケティングは、製品が誕生するずっと前からスタートするので、販売と同じということはありえない。マーケティングとは、マネージャーたちが顧客のニーズを評価し、その範囲と強さを測定し、利益を生む機会が存在するかどうかを決定する作業である。
──『コトラーの戦略的マーケティング』, コトラー, p.28
マーケティングとは、機会を発見し、開発し、利益を得るための技能である。機会をまったく見出だせないマーケティング部門ならば、ない方がましだ。
─『コトラーの戦略的マーケティング』,コトラー,  p. 56
いままで見てきたように、マーケティングの主たる責任は、その企業の売上を拡大することにある。マーケティングの主要な目的と技術は、需要の管理である。つまり、企業の目的の追求において、需要の水準やタイミング、その構成内容に影響を及ぼすことである。
─『コトラーの戦略的マーケティング』,コトラー,  p. 71
マーケティングは、多くの評者によって「顧客を発見し、維持する技能である」と定義されてきた。しかしわれわれは、この定義を次のように拡張しなくてはならない。「マーケティングとは、利益に結びつく顧客を見出し、維持し、育てる科学であり、技能である」
─『コトラーの戦略的マーケティング』,コトラー,  p. 195

これら引用で着目したいのは、何からスタートしているかです。「市場機会を見つける」「顧客のニーズを評価する」「機会を発見する」「利益に結びつく顧客を見出し」が該当しそうです。また、何のために、という視点です。「利益成長を達成すること」「その企業の売上を拡大すること」が該当しそうです。

「何のために」の部分に関してDXと比較のために、『デザインド・フォー・デジタル』のDXの定義を再掲します。

デジタル化対応のための企業変革。デジタル技術やデータを活用して、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、組織や企業文化などの変革を通じて、競争力の向上を目指すこと。
──『デザインド・フォー・デジタル』, ロス, p.26

「競争力の向上」とあります。マーケティングでは「利益成長を達成すること」「その企業の売上を拡大すること」でした。

DXとマーケティングの関係性

次に、『デザインド・フォー・デジタル』とマーケティングをつなぐものを見つけたいと思います。言葉として、とっかかりになるのは、「バリュープロポジション」かもしれません。「顧客のニーズ」に関わるためです。バリュープロポジションの定義を再掲します。

価値提案。顧客のニーズに対して自社だけが提案できる価値を言う。自社の存在価値や独自性を顧客に伝え、競争力の向上につなげるための概念。
──『デザインド・フォー・デジタル』, ロス, p.26

マーケティングにおけるバリュープロポジションの定義としては、『コトラーの戦略的マーケティング』でも述べられています。第4章は「バリュー・プロポジションの創造とブランド・エクイティの構築」とあり、関係しそうです。『コトラーの戦略的マーケティング』では、バリュー・プロポジション自体の定義は無さそうに見えましたが、ここの部分のことかなと思われる箇所を引用します。

ブランドの全体的なポジショニングは、ブランドのバリュー・プロポジションと呼ばれる。これが「なぜあなたの会社のブランドを買うべきなのか」という顧客の問いに対する答えである。ボルボのバリュー・プロポジションには、安全性だけでなく、その室内の広さ、耐久性、スタイル、そして総価値から判断された価格などが含まれている。
─『コトラーの戦略的マーケティング』,コトラー,  pp. 49-50

「ブランドの全体的なポジショニングは」とあるように、ポジショニングの概念と関係する概念です。ポジショニングの定義は次のように述べられています。

次に、主要なベネフィットが顧客にわかるように、自社が提供するオファーをポジショニングしなければならない。たとえば、ボルボは、自社製品を世界で最も安全なクルマと位置づけている。クルマのデザインやテスト、広告などによって、そのポジショニングは強固なものとなる。ポジショニングとは、顧客の心のなかに、企業が提供するオファーの主要なベネフィットと差別点を植え付ける努力のことである。
─『コトラーの戦略的マーケティング』,コトラー,  p. 49

コトラーによれば、バリュー・プロポジションの創造のステップは以下になります。

1.製品についての全体的なポジショニングを選択する。
2.製品についての特定のポジショニングを選択する。
3.製品についてのバリュー・ポジショニングを選択する。
4.製品についてのトータル・バリュー・プロポジションを開発する。
─『コトラーの戦略的マーケティング』,コトラー,  p. 83

ステップからはポジショニングから開始し、最後にバリュープロポジションになることが分かります。

『デザインド・フォー・デジタル』では、「デジタル化対応」するとは「より高度なカスタマー・バリュープロポジションを実現するために、イノベーティブなデジタルサービスを開発すること」でした。では、「デジタル化対応」のために行うこととと「バリュー・プロポジションの創造のステップ」とはどのように関係するのでしょうか。

以下の図に、ここまでのDXとマーケティングにおけるバリュープロポジションとの関係性を整理しました。左がDXの領域、右がマーケティングの領域となります。

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まとめ

今回は、『デザインド・フォー・デジタル』というDX関連の書籍を新たにとりあげ、マーケティングとの関係性を少しだけ考察しました。今の所、「バリュープロポジション」の概念が両領域をつなぐとっかかりになりそうです。

次回以降では、ビルディングブロックの5つをそれぞれ見ていきたいと思います。その中で、「バリュープロポジション」がどのようなものなのか、また、他にもマーケティングと関わりがありそうな概念が出てくるのかどうか、を探っていきます。

次回は、企業と経営の観点からDXとマーケティングを取り上げます。続きはこちら

過去の記事

第1回はこちら。経産省のDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
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