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DXとマーケティングその28:デジタルサービスの開発とマーケティングリサーチ

分析屋の下滝です。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とマーケティングの関係を考えてくシリーズの28回目です。

今回は、DX書籍の一つである『デザインドフォー・デジタル』の続きを行いたいと思います。

具体的には、DX領域における「デジタルサービス開発」の位置づけと、マーケティング領域における「マーケティング情報システム」との位置づけとの関係を見ていきます。特に、「マーケティングリサーチ」との関係を見ていきます。

これまでの記事と今回の記事の流れは以下の図となります。

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これまでの記事

第1回はこちら。経産省のDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第2回はこちら。『DX実行戦略』におけるDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第3回はこちら。「無料/超低価格」のビジネスモデルを分析しました。
第4回はこちら。「購入者集約」のビジネスモデルを分析しました。
第5回はこちら。「価格透明性」のビジネスモデルを分析しました。
第6回はこちら。「リバースオークション」のビジネスモデルを分析しました。
第7回はこちら。ここまでの記事をまとめました。
第8回はこちら。「従量課金制」のビジネスモデルを分析しました。
第9回はこちら。『マーケティング大原則』という書籍におけるマーケティング定義を確認しました。
第10回はこちら。『マーケティング大原則』という書籍で紹介させている「戦略的コンセプト」をDXの視点から関係性を見ました。
第11回はこちら。DXの実行プロセスとマーケティングのマネジメントプロセスの関係性を見ました。
第12回はこちら。DXの実行プロセスとマーケティングのプランニングプロセスの関係性を見ました。

DXと経営篇
第14回はこちら。DXと経営との関係付けの準備を行いました。
第15回はこちら。DXと事業の定義がどのように関係するのかをみました。
第16回はこちら。DXと「われわれの事業は何になるか」と「われわれの事業は何であるべきか」がどのように関係するのかをみました。
第17回はこちら。DXの背景を整理しました。
第18回はこちら。DXの背景と「顧客は誰か」との関係を整理しました。
第19回はこちら。DXの背景と「顧客はどこにいるか」との関係を整理しました。
第20回はこちら。DXの背景と「顧客は何を買うのか」との関係を整理しました。

デザインドフォー・デジタル篇
第13回はこちら。『デザインドフォー・デジタル』というDXの書籍をもとにDXとマーケティングの関係をみました。
第21回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングの関係を指摘しました。
第22回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでの新製品開発との関係を整理しました。
第23回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでのカスタマーインサイトとの関係を整理しました。
第24回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでのカスタマーインサイトチームとの関係を整理しました。
第25回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでのマーケティング情報システムとの関係を整理しました。
第26回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでのマーケティング情報システムでの情報ニーズの評価との関係を整理しました。
第27回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでのマーケティング情報システムでの社内データと社外データとの関係を整理しました。

おさらい:デザインドフォー・デジタルでのDX

以下の図は、『デザインドフォー・デジタル』でのDXの概念を整理したものです。青色がDXでの概念、赤色がマーケティングでの概念です。

画像2

デジタル対応化:デジタル対応化ができる企業になれば、イノベーティブなデジタルサービスを開発できる組織能力を備えるようになり、そのデジタルサービスは、より高度なバリュープロポジション(顧客への価値提案)を実現できるものだとされます。

バリュープロポジション:バリュープロポジションは、顧客のニーズに対しその企業のみが提案できるような価値を指します。

DXと組織能力:DXは、デジタル対応化に向けての取り組みとされます。この取り組みは、ビルディングブロックと呼ばれる組織能力を構築することから構成されます。ビルディングブロックには5つあり(図の左上)、各ビルディングブロックは、「人材」、「プロセス」、「技術」の変化をもたらすものとされます。
・人材:役割、説明責任、構造、スキル
・プロセス:ワークフロー、手順、手続き
・技術:インフラストラクチャ、アプリケーション

今回の記事では、ビルディングブロックの一つである、「シェアード・カスタマーインサイト」を扱います。

「シェアード・カスタマーインサイト」は、デジタルサービス開発におけるプロセスのあり方を扱うようなものです。付随してデジタル技術や顧客に関する理解、理解の蓄積と共有といった行いやそれらを行うための体制の構築も関わります。

おさらい:シェアードカスタマーインサイトの構成要素

以下の図に、シェアード・カスタマーインサイトの構成要素を示します。

dfd_シェアード

『デザインドフォー・デジタル』でのニュアンスを拾いきれているわけではありませんが、整理してみたものになります。

本文でどのように書かれているのかは、過去の記事を参照してください。

基本的には、顧客のニーズに応えられるデジタルサービスをいかに開発していくか、ということになりそうです。

以下で、特徴を整理します。

開発プロセス:デジタルサービスの開発は、実験的に何度も行いながら、「デジタル技術が可能にするソリューション」と「顧客ニーズ」が重なり合う部分を見つけるというアプローチを取ります。

dfd_デジタルサービス

デジタル技術としては、ソーシャルネットワーク、モバイル、アナリティクス、クラウド、IoTや、他にも、生体認証、ロボット工学、人工知能、ブロックチェーン、3D印刷、エッジコンピューティングが例として述べられています。

デジタル技術には、3つの能力があるとされます。ユビキタスデータ、無限の接続性、膨大な処理能力です。

顧客の理解、顧客の参加、サービスのアイデア創出:実験では、カスタマージャーニーマップといった顧客を理解するための手法や、外部パートナーや顧客自体の参加、アイデアを募るための仕組みといったのが使われます。

ビジョン:実験においては、ビジョンを定義しておくことは、どのような実験を新たに実施するのか、実験結果の評価基準をどうするのか、という疑問に答える上で役に立ちます。ビジョンは例えば「スマート・エネルギーマネジメント・ソリューションを提供する」や「低コストでヘルスケアの成功を高める」といったものです。

業務プロセス:実験の際に、顧客の理解やデジタル技術の学びが得られます。この学びを蓄積し、社内で共有する必要があります。共有が必要なのは、同じような実験が行われないようにするためです。

組織体制:組織体制としても新しい試みが必要となります。
・IT部門やマーケティング部門等が、製品開発の初期から参加するといった機能横断型のチーム
・実験からの学びを社内に共有・拡散することを目的とした部門

おさらい

この連載は、DXとマーケティングの関係を考えていくものです。関係の捉え方として、ここ数回の記事では、マーケティング領域での概念と、シェアード・カスタマーインサイトでの概念がどのように重なるのかを調べてきました。

領域重なり

マーケティング領域での概念とは、例えば、「カスタマーインサイト」や「マーケティングリサーチ」といったもののことです。

上記の図で示すように、大きく、2つの可能性があります。
1.マーケティング領域での概念に、シェアード・カスタマーインサイトの概念がすべて含まれる可能性
2.マーケティング領域での概念に、シェアード・カスタマーインサイトの概念が部分的に含まれる可能性

また、以下の可能性も考えられますが、恐らくありません。
3.互いに関係が全くない可能性。これは、これまでの記事の結論からするとありません。
4.シェアード・カスタマーインサイトにマーケティング領域の概念が含まれる可能性。シェアード・カスタマーインサイト自体が、マーケティング領域より広い概念を扱うとは見なせないと思われます。

これまでの記事では、可能性1と2を分析するために、具体的には、次のような流れをもとに議論してきました。
1.まず、マーケティングにおける「新製品開発プロセス」と「マーケティング・リサーチ」との関係性があるのではないかと指摘しました。
2.次に、「新製品開発プロセス」との関係性を議論しました。
3.次に、マーケティング領域での「カスタマーインサイト」との関係性を議論しました。
4.次に、マーケティング領域での「カスタマーインサイトチーム」との関係性を議論しました。
5.次に、マーケティング領域での「マーケティング情報システム」との関係性を議論しました。

マーケティング領域

以下では、2~5で具体的に議論した流れを振り返ります。これら2~5は、参考にしている『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』の書籍の5章と8章に対応します。
・5章:マーケティング情報とカスタマー・インサイト
・8章:新製品開発と製品ライフサイクル戦略

コトラー

では、このようにマーケティング領域とDX領域の関係を分析することで何が得られるのでしょうか。
・体系的な取り組み:マーケティング領域自体は、歴史があり、上記の書籍のように一定の体系化がされています。もちろん、環境の変化に応じて、これまでの知見は適切でなくなったり、新たな知見が組み込まれることはあります。
 では、この体系化された領域に対し、比較的新しい領域であるDXは、どのような影響を与えるのでしょうか。両領域に何らかの関係があるなら、その関係は、整合性や一貫性が保たれていることが望ましいと思われます。そうでなければ、それぞれの部署や従業員は、相反する前提や原則をもとに活動することになり、活動の衝突や矛盾を発生させ、十分に成果が出せなくなるかもしれません。

これまでの分析のふりかえり

では、以下の順でこれまでの分析をふりかえります。

・新製品開発プロセス
・カスタマーインサイト
・カスタマーインサイトチーム
・マーケティング情報システム

これまでの分析のふりかえり:新製品開発プロセス

新製品開発プロセスでの整理は以下の図となります。DX領域での「デジタルサービス開発」は、マーケティング領域での「新製品開発」の一種として分類しました。「デジタルサービス開発」ではない残りのものは「非デジタルサービス開発」としました。

dfd_新製品特徴

マーケティング領域においては、新製品開発で言及されている特徴として、以下の2つがあります。新製品開発の成功にはこれらの特徴が必要とのことです。
・顧客中心の姿勢:開発プロセスにおいて顧客を巻き込むこと
・チーム型の製品開発:開発プロセスの最初から最後まで様々な部門の関係者が関与すること

これら2つは、シェアード・カスタマーインサイトでも言及されている特徴と同様のものであると考えられます。

シェアード・カスタマーインサイトでは、他にも、デジタルサービス開発のプロセスにおける以下の4つの特徴が言及されています。
特徴1:ビジョンを設定すること
特徴2:サービス開発のプロセスは、顧客のニーズを満たせるようなサービスを見つけるために実験的に開発を繰り返すプロセスであること
特徴3:サービス開発プロセスにおいて、デジタル技術と顧客に関して学習したことの蓄積・共有を行うこと
特徴4:学習内容の蓄積と共有に責任を持つ組織体制を作ること

これらの特徴の関係を以下の図に示します。

シェアード_特徴図

これらの特徴は、マーケティング領域では言及されていませんでしたが、新製品開発プロセスの枠組み内に位置づけたとしても、問題はないと思われます。

また、これらの特徴は、デジタルサービス開発に特有の特徴である可能性があります。理由として、ソフトウェアの修正は、比較的容易であるためです。つまり、新製品開発プロセスというより一般的なプロセスの中には含まれないだろう特徴です。

これまでの分析のふりかえり:カスタマーインサイト

新製品開発プロセスの枠組みでは、そこで指摘した4つの特徴は、言及されていませんでしたが、マーケティング領域おける他の概念の説明時に言及されているかもしれません。

そこで、次に、マーケティング領域における「カスタマーインサイト」について調べました。カスタマーインサイトは「顧客に関しての深い洞察」と意味されます。

カスタマーインサイトの例:カスタマーインサイトの例としては、iPodの例があげられています。Appleは調査によって、消費者がデジタル・ミュージックプレイヤーに求めているものは「人々が音楽を丸ごと持ち歩きたいと考える一方で、プレイヤー自体はあまり目立たないものを望んでいたのである」ということを明らかにしました。これがインサイトであるとして紹介されています。

DX領域における「シェアード・カスタマーインサイト」は、その名の通り、カスタマーインサイトに関するものです。シェアード・カスタマーインサイトにおけるカスタマーインサイトの定義は見つけられませんでしたが、「顧客に関しての深い洞察」と大きくは変わらないと思われます。

カスタマーインサイトの概念の範囲:マーケティング領域でのカスタマーインサイトの概念を調べた結果としては、マーケティング領域におけるカスタマーインサイトの概念は、シェアード・カスタマーインサイトでの議論の枠よりも広いものと言えそうです。以下の2つの観点から、違いがありそうです。
1.カスタマーインサイトの位置づけ:カスタマーインサイトは、他の概念とどのように関係するのか、という観点。
2.カスタマーインサイトの使われ方:得られたカスタマーインサイトはどのプロセスで使われるのか、という観点。

1つ目を以下の図で示しています。マーケティング領域においては、「マーケティング情報」という概念があり、カスタマーインサイトは、その情報から抽出されるものと位置づけられています。シェアード・カスタマーインサイトでは、マーケティング情報という概念は出てきません。この点が、両領域での違いとなります。

カスタマーインサイト2

また、上記の図では、「マーケティング情報」を得る手段の一つとして、「マーケティングリサーチ」を位置づけています。

2つ目は、カスタマーインサイトの使われ方に関するものです。以下の図で示すように、マーケティング領域おいてはカスタマーインサイトの使われ方は、新製品開発に限りません。広告キャンペーンといった他のプロセスにも使われます。シェアード・カスタマーインサイトが想定してる範囲は、デジタルサービス開発のみであり、広告キャンペーンといったその他のプロセスでの使用は言及されていません。

カスタマーインサイトプロセス2

まとめると以下となります。
1.カスタマーインサイトの位置づけ:マーケティング領域におけるカスタマーインサイトは、マーケティング情報との関係が明確化されている。
2.カスタマーインサイトの使われ方:マーケティング領域のおけるカスタマーインサイトは、新製品開発だけでなく他のプロセスでも使われる。

マーケティング領域におけるカスタマーインサイトの概念の分析は、ここまでとなります。

また、シェアード・カスタマーインサイトでの4つの特徴に対応するような概念は、存在しませんでした。

これまでの分析のふりかえり:カスタマーインサイトチーム

続いて、マーケティング領域では、カスタマーインサイトチームと呼ばれるような組織体制が紹介されています。カスタマーインサイトチームは、以下の図に示すように、様々な方法でマーケティング情報を収集し、カスタマーインサイトを抽出する役割を持ちます。

カスタマーインサイトチーム_デジタルサービス開発

カスタマーインサイトチームは、シェアードカスタマーインサイトにおける以下の特徴に近い役割を持つと言えます。
・特徴:開発プロセスにおいて、デジタル技術と顧客に関して学習したことの蓄積・共有
・特徴:これらの学習内容の蓄積と共有に責任を持つ組織体制

しかし、特徴を細かく見ていくと、違いがありそうです。
1.カスタマーインサイトの蓄積と共有の有無:カスタマーインサイトチームの役割として、カスタマーインサイトを蓄積し、社内で共有する、とまでは書かれていないこと。
2.新製品開発プロセスでのカスタマーインサイトの抽出の有無:カスタマーインサイトチームの役割として、新製品開発プロセスでのカスタマーインサイトの抽出とは書かれていないこと(上記の図では、新製品開発プロセスを対象としても問題はないとして付け足して拡張したものです)。
3.技術要素の理解の有無:カスタマーインサイトチームの役割として、新製品開発プロセスでの「技術要素の理解の蓄積」に関しては、書かれていないこと。デジタルサービス開発では、デジタル技術の理解が必要となります。

ここまでの議論踏まえて、以下の図に、シェアード・カスタマーインサイトの特徴とマーケティング領域での概念の関係性を整理しました。

dfd_シェアード_特徴整理

左側にマーケティング領域における概念を、上部にシェアード・カスタマーインサイトでの特徴を載せています。

この図では、シェアード・カスタマーインサイトの特徴を、これまで議論してきたものより、細分化しています。特に、「デジタル技術に関するもの」と「顧客に関するもの」を分けて整理するようにしました。理由としては、マーケティング領域における概念が、どの特徴を対象とするのかをより細かく分析するためです。

これまでの分析のふりかえり:マーケティング情報システム

マーケティング領域においては、カスタマーインサイトは、マーケティング情報から抽出されるものであるとされています。ただし、マーケティング情報自体をどのように収集し、収集したマーケティング情報からカスタマーインサイト(とマーケットインサイト)をどのように抽出するのかのプロセスは、適切な仕組みが存在するのが望ましいとされます。「マーケティング情報システム」は、そのような仕組みであるとされます。以下の図は、マーケティング情報システムを示しています。

画像14

では、マーケティング情報システムは、シェアード・カスタマーインサイトでの以下の特徴を備えているのでしょうか。
・デジタル技術に関する
 ・学習内容の蓄積
 ・学習内容の共有
 ・学習内容を共有する責任を持つ体制
・顧客に関する
 ・学習内容の蓄積
 ・学習内容の共有
 ・学習内容を共有する責任を持つ体制

現状の結論としては、以下のようになりそうでした。
1.マーケティング情報システムは、マーケティング情報を対象としており、カスタマーインサイトの蓄積や共有、共有に責任を持つ体制に関しては、扱ってないように思われる。
2.マーケティング情報システムは、デジタル技術に関する学習内容の扱いを対象外としている。

dfd_シェアード_特徴整理2

ただし、この結論は、マーケティング情報システムの概要をもとにしたものですので、詳細をさらに見ていくことで、結論が変わるかもしれません。

前々回は、マーケティング情報システムにおける「情報ニーズの評価」の要素をさらに詳しく分析しました。結論としては、特徴は見られませんでした。

前回は、マーケティング情報システムにおける「社内データ」と「社外データ」の要素をさらに詳しく分析しました。結論としては、特徴は見られませんでした。

今回の話

前回からの続きとなります。マーケティング情報システムの構成図を以下に示します。

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マーケティング情報システムは、大きく7つの要素からなるようです。
1.マーケティング・マネージャーなどの情報のユーザー(これまでの記事で分析済み)
2.情報ニーズの評価(これまでの記事で分析済み)
・マーケティング情報の抽出
 3.社内データベース(これまでの記事で分析済み)
 4.マーケティング・インテリジェンス活動(これまでの記事で分析済み)
 5.マーケティング・リサーチ(今回分析)
6.情報の分析と利用
7.マーケティング環境(これまでの記事で分析済み)

前々回は、1と2を分析しました。前回は、3と4を分析しました。

今回は、5の「マーケティングリサーチ」となります。

具体的には、シェアード・カスタマーインサイトの以下の特徴に関係する記述があるのかを見ていきます。目的は、シェアード・カスタマーインサイトと共通する点、異なる点を把握することです。
・デジタル技術に関する
 ・学習内容の蓄積
 ・学習内容の共有
 ・学習内容を共有する責任を持つ体制
・顧客に関する
 ・学習内容の蓄積
 ・学習内容の共有
 ・学習内容を共有する責任を持つ体制

マーケティングリサーチ

では、これまでと同じように『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』の書籍をもとに議論していきます。

この本では、マーケティングリサーチを次のように位置づけています。

社内外のデータに加えて、特定の意思決定に必要な顧客インサイトを得るために、本格的な調査を行わなくてはならないことも多い。例えば、サントリーはテレビで流すCMについて、何をアピールするのが最も効果的か知りたいと考えている。グーグルはサイトのデザインについて、ユーザーの感想を知りたいと考えている。サムスンは次世代モデルの超薄型テレビについて、どのような人々が買うのかを知りたいと考えている。このような場合、既存のデータでは必要な詳細情報を提供することができない。そこで必要となるのがマーケティング・リサーチである。
──『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』, コトラーら, pp.118

次のように整理しました。

・「特定の意思決定」がある。
・「特定の意思決定」に必要となる「顧客インサイト(カスタマーインサイト)」がある。
・「顧客インサイト」得るには「本格的な調査」を行うことがある。
 ・例:サントリーはテレビで流すCMについて、何をアピールするのが最も効果的か知りたい
 ・例:グーグルはサイトのデザインについて、ユーザーの感想を知りたい
 ・例:サムスンは次世代モデルの超薄型テレビについて、どのような人々が買うのかを知りたい
・「本格的な調査」を行うことの一つが「マーケティングリサーチ」である。この部分は解釈が異なる可能性があります。「マーケティングリサーチ」以外にもあるのかもしれません。

ここでの注目したい点の1つ目は、デジタル技術に関することが扱われているかどうかです。結論しとしては、扱われていないようです。ここでの意思決定はマーケティングにおけるものであって、デジタル技術に関するものはありません。デジタル技術に関する意思決定とは、たとえば「どのクラウドサービスを使うのか」といったものと考えています。

二つ目はカスタマーインサイトの扱いです。「カスタマーインサイト」は得られますが、この得たカスタマーインサイトを蓄積することは扱ってないように読めます。

続いて、マーケティング・リサーチの定義です。

マーケティング・リサーチとは、組織が直面する特定のマーケティング状況に関するデータを、体系的に設計、収集、分析、報告することである。マーケティング・リサーチは幅広い状況で用いられる。顧客の購買動機、購買行動、満足度についてのインサイトを得たり、市場潜在力や市場シェアを見積もったり、価格、製品、流通、プロモーションの各活動の効果を測定したりすることができる。
──『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』, コトラーら, p.118

次のように整理ました。
・「組織が直面する特定のマーケティング状況」がある。
 ・例:顧客の購買動機、購買行動、満足度についてのインサイトを得る
 ・例:市場潜在力や市場シェアを見積もる
 ・例:価格、製品、流通、プロモーションの各活動の効果を測定する
・「組織が直面する特定のマーケティング状況」に関する「データ」がある。
・「マーケティングリサーチ」とは、組織が直面する特定のマーケティング状況」に関する「データ」を体系的に設計、収集、分析、報告することである。

ここまでの内容を整理して以下の図にまとめました。

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なお、関係がよくわからないものに「組織が直面する特定のマーケティング状況」と「特定の意思決定」との関係があります。

次に体制の話です。

大企業の中には社内に調査部門を持ち、マーケティング・マネジャーと共同で調査プロジェクトに取り組んでいるところがある。P&GやGEといった巨大企業は、この方式でマーケティング・リサーチを行っている。さらに、他の小規模会社と同様、外部の専門家に依頼し、特定の問題についてコンサルティングやリサーチをしてもらうことも少なくない。ときには単に外部の調査会社からデータを購入し、意思決定に役立てることもある。
──『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』, コトラーら, p.118

次のようにまとめました。
・大企業の中には社内に調査部門を持つことがある。
・外部の専門家に依頼して、特定の問題についてコンサルティングやリサーチをしてもらうことがある。
・外部の調査会社からデータを購入することもある。

次に、もう少しマーケティングリサーチを詳しく見ていきます。マーケティングリサーチのステップは以下とされています。

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各ステップの概要を順番に見ていきます。

マーケティング・マネジャーとリサーチャーは緊密に連携をとり、問題点を明らかにするとともに調査目的を共有しなければならない。情報を必要としている意思決定について最もよくわかっているのは、マーケティング・マネジャーである。一方、リサーチャーはマーケティング・リサーチと情報入手方法についての専門家である。問題点と調査目的の明確化というステップは、リサーチ・プロセスの中でも困難を極める。問題が存在することはわかっていても、その原因までは特定しにくいからである。
──『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』, コトラーら, p.119

以下のように整理ました。
・登場人物としては「マーケティング・マネジャー」と「リサーチャー」である。
・「情報を必要としている意思決定」がある。
・「情報を必要としている意思決定」について最もよくわかっているのは、「マーケティング・マネジャー」である。
・「リサーチャー」は「マーケティング・リサーチ」と「情報入手方法」についての専門家である。
・「問題点と調査目的の明確化」を行う。

ここで「情報」という言葉が出てきました。「データ」との違いは何でしょうか。後に、情報とデータの関係性を示す表現の一つとして次のように表現されています。

二次データとはすでに別の目的で収集され、どこかに存在する情報であり、一次データとは新たに収集される情報である。
──『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』, コトラーら, pp.120-121

情報の一種がデータという感じでしょうか。

以下の図に整理しました。

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いったん、「特定の意思決定」と「情報を必要としている意思決定」については、同じかもしれませんが区別しました。「情報」と「カスタマーインサイト」は異なると考えられるためです。ここでの「情報」は「マーケティング情報」と解釈しても良いのかもしれません。

少し考察します。

1.マーケティング活動に関わる登場人物のみが出てくることが分かります。このことは、デジタル技術に関わる役割を持つものが出てきていないことを意味しそうです。

2.「問題点と調査目的の明確化」であるため、この明確化を行う際に、何らかの学びがあるとしても、その学びを蓄積するようなプロセスは無さそうです。

次のステップです。

調査すべき問題点が明確になると、次は必要な情報を正確に見極め、その情報を効率的に集めるための計画の策定である。調査計画では既存のデータの情報源を確認するとともに、新たな情報を収集するための調査手段、接触方法、サンプル抽出法などを詳しく説明する。
──『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』, コトラーら, p.119

ここでは、情報を集める、ということに焦点がありそうです。

残りの2つのステップです。

続いてリサーチャーは、マーケティング・リサーチ計画の実行に入る。情報を収集し、処理し、分析する段階である。情報収集は企業のマーケティング・リサーチ担当、もしくは外部の業者が行う。計画が正しく実行されるよう、リサーチャーは注意深く見守らなければならない。また、回答者とのやりとりや参加者の回答の質に気を配ることに加え、インタビュアーが間違ったり、問いを省いたりちうった問題を未然に防ぐことも必要だ。
 さらに、リサーチャーは、収集したデータを処理、分析して、重要な情報やインサイトを引き出さなければならない。データの精度や完成度をチェックして分析用にコード化し、結果を表にまとめたり、コンピュータで統計処理したりする。
──『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』, コトラーら, p.131

ここでは情報の扱いを次のように分けています。
・情報を収集する
・情報を処理する
・情報を分析する

そして、分析した後に以下を引き出します。
・重要な情報
・(カスタマー)インサイト

調査結果を解釈したリサーチャーは、結論を導き出して経営陣に報告する。ただし、数字を並べたて、高度な統計手法でマネジャーをうんざりさせないよう注意が必要である。経営上の意思決定の一助となるような、重要な所見とインサイトを示さなければならない。
──『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』, コトラーら, p.131

上記は報告のステップです。「経営上の意思決定」という言葉出てきました。マーケティングに関わる意思決定だと思われます。

考察

では、考察したいと思います。マーケティングリサーチのプロセスにおいて、以下の特徴が見られたのかどうかを確認します。

・デジタル技術に関する
 ・学習内容の蓄積:デジタル技術に関しては、何も扱っていないようでした。したがって、蓄積のプロセスはなさそうです。
 ・学習内容の共有:蓄積が無いため、共有もありません。
 ・学習内容を共有する責任を持つ体制:共有は無いため、ありません。
・顧客に関する
 ・学習内容の蓄積:
マーケティングリサーチのプロセスにおいて、インサイトを引き出すことはありますが、引き出したインサイトを蓄積することは、マーケティングリサーチにおけるプロセスの一つとしては明示的には述べられていません。
 ・学習内容の共有:蓄積が無いため、共有もありません。
 ・学習内容を共有する責任を持つ体制:共有は無いため、ありません。

まとめ

今回は、マーケティング領域での「マーケティング情報システム」とDX領域の「シェアード・カスタマーインサイト」との関係を分析しました。

マーケティング情報システムとは、マーケティングに関する意思決定を適切に行うための仕組みとされます。この仕組は、マーケティングに関わる情報からカスタマーインサイトを得るための仕組みであり、そこでは、どのような人たちが、どのように関わり合いながら、どこからどのようにマーケティング情報を得て、どのようにカスタマーインサイトを得るのかを示したものです。

今回は、マーケティング情報システムの構成要素の一つである「マーケティングリサーチ」を詳しく見ていきました。

マーケティングリサーチは、マーケティングにおける意思決定と情報に関わる活動です。マーケティングにおける特定の意思決定を行うために必要となる情報を集め、分析を行います。分析を通じてカスタマーインサイトを抽出します。

マーケティングリサーチを詳しく見た結果としては、シェアード・カスタマーインサイトでの特徴はマーケティングリサーチのプロセスからは見つけられませんでした。デジタル技術は扱っておらず、カスタマーインサイトを蓄積するようなことも対象としていないようでした。

次回は、マーケティング情報システムにおける最後の要素である「情報の分析と利用」を詳しく見ていきたいと思います。続きはこちら

これまでの記事

第1回はこちら。経産省のDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
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DXと経営篇
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デザインドフォー・デジタル篇
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