見出し画像

DXとマーケティングその19:顧客はどこにいるかとDXの背景

分析屋の下滝です。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とマーケティングの関係を考えてくシリーズの第19回目です。

これまでの5回で、DXと経営とがどのような関係にあるのかを見てきました。DXを企業全体としての取り組みと捉えるならば、経営との関係性があると考えられるためです。

ドラッカーによれば企業の目的は「顧客の創造」です。そして、企業は顧客の創造のために、マーケティングとイノベーションの2つの機能を果たすとされます。では、DXの取り組みは、これらの2つの機能とどのように関係するのでしょうか。

この疑問に答えていくこれまでの5回でした。今回も続きます。

DXの考え方に関してはこれまで通り『DX実行戦略』の書籍での考え方と方法論をもとにしています。

DXの方法論が企業全体としての取り組みと捉えられる例としては、『DX実行戦略』での「変革理念」があげられます。「変革理念」は、企業全体としての目標を設定するものです。「変革理念」の設定例は、「2025年までに、4つの事業分野のすべてで、デジタルチャネルから収益の50%を得る」というようなものです。

以下の図は、『DX実行戦略』の前半で出てくる概念をまとめたものです。

画像7

次に、経営の枠組みとしてはドラッカーの考えを参考にし、以下のことに着目しています。
・企業の目的は何かということ
・事業の定義を行わなければならないということ。具体的には、事業は何か、何になるか、何であるべきかを定義すること。
・事業の定義から8つの目標を定義すること

画像2

この記事の連載としては、以下を意識することなると考えています。
1.目標の領域としてマーケティングがあげられている。では、DXの取り組みがマーケティングに関係するのであれば、このマーケティングの目標設定のプロセスとどのように関係するのか。
2.DXでの「変革理念」も目標である。ではこれはどの領域に関する目標か。

これまでの記事で、これら「経営での考え」と「DXでの考え」とを関係付ける候補となる要素を特定しました。「変革理念」もそのうちの一つです。

画像1

そして、さらに、経営の側では「事業の定義を行うにあたって考慮するべき事柄」があるというのをドラッカーの記述をもとにして特定しました。

DX側では、「DXが必要とされる背景の要素」があるとして特定してきました。

今回も、「事業の定義を行うにあたって考慮するべき事柄」と「DXが必要とされる背景の要素」との関係をみていきます。

この関係性を明確にすることは重要だと思われます。なぜなら、「事業の定義を行うにあたって考慮するべき事柄」には、「DXが必要とされる背景の要素」が含まれているかもしれないためです。このことは、事業の定義にあたり、DXが影響する範囲を規定することを意味します。多くの範囲に影響するなら、DXがいかに重要な取り組みなのかが明らかになります。大まかには、マーケティングとイノベーションの機能として、DXの取り組みは、どこに関わるのかということが明らかになります。

また、もう少し大枠の話をすると関係には、以下の図のような4つのパターンが考えられます。

画像3

画像4

4つのパターンは以下となります。
・パターン1:互いに関係しない。
・パターン2:「事業の定義を行うにあたって考慮するべき事柄」に「DXが必要とされる背景の要素」が含まれる。
・パターン3:「DXが必要とされる背景の要素」に「事業の定義を行うにあたって考慮するべき事柄」が含まれる。
・パターン4:「DXが必要とされる背景の要素」と「事業の定義を行うにあたって考慮するべき事柄」が部分的に重なる。

パターン1以外の場合の場合は、事業の3つの定義のどの考慮する事柄とDXの背景要素が関係するのかというサブパターンが考えられます。

これら4つパターンのどれかになるとして、そのパターンになることの意味の考察が必要となります。

前回の記事でパターン3ではないことを見ました。「顧客は誰か」との考慮すべき事柄は、「DXが必要とされる背景の要素」とは関係がありませんでした。

これまでの記事

第1回はこちら。経産省のDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第2回はこちら。『DX実行戦略』におけるDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第3回はこちら。「無料/超低価格」のビジネスモデルを分析しました。
第4回はこちら。「購入者集約」のビジネスモデルを分析しました。
第5回はこちら。「価格透明性」のビジネスモデルを分析しました。
第6回はこちら。「リバースオークション」のビジネスモデルを分析しました。
第7回はこちら。ここまでの記事をまとめました。
第8回はこちら。「従量課金制」のビジネスモデルを分析しました。
第9回はこちら。『マーケティング大原則』という書籍におけるマーケティング定義を確認しました。
第10回はこちら。『マーケティング大原則』という書籍で紹介させている「戦略的コンセプト」をDXの視点から関係性を見ました。
第11回はこちら。DXの実行プロセスとマーケティングのマネジメントプロセスの関係性を見ました。
第12回はこちら。DXの実行プロセスとマーケティングのプランニングプロセスの関係性を見ました。
第13回はこちら。『デザインドフォー・デジタル』というDXの書籍をもとにDXとマーケティングの関係をみました。

DXと経営篇
第14回はこちら。DXと経営との関係付けの準備を行いました。
第15回はこちら。DXと事業の定義がどのように関係するのかをみました。
第16回はこちら。DXと「われわれの事業は何になるか」と「われわれの事業は何であるべきか」がどのように関係するのかをみました。
第17回はこちら。DXの背景を整理しました。
第18回はこちら。DXの背景と「顧客は誰か」との関係を整理しました。

今回の話

これまでで、DXの取り組みが必要となる背景の要素を特定し、最終的には以下の図のような関係として整理しました。

画像6

経営側として、事業の定義にあたり考慮する事柄としては、次のようにまとめました。

画像5

今回も、左の「われわれの事業は何か」において考慮する事柄と、DXの取り組みが必要となる背景の要素との関係を見ていきます。

具体的には、「顧客はどこにいるか(図では顧客の場所と表記)」と「DXの取り組みが必要となる背景の要素」である以下との関係をみていきます。

・市場
・デジタルディスラプターが市場の変化を生み出す
・企業とデジタルディスラプターが競争する
・デジタルボルテックス
・企業
・バリュープロポジション
・市場の地位
・物理的なビジネスモデル
・デジタル技術
・デジタルビジネスモデル
・デジタル技術がデジタルビジネスモデルを可能にする
・市場シェア
・デジタルディスラプターが市場シェアを獲得する
・デジタルディスラプター
・イノベーション
・デジタルディスラプターがイノベーション起こす
・製品やサービス
・ビジネスモデル
・バリューチェーン
・デジタルディスラプターが製品やサービスをデジタル化する
・デジタルディスラプターがビジネスモデルをデジタル化する
・デジタルディスラプターがバリューチェーンを破壊する
・デジタル化された製品やサービス
・デジタル化されたビジネスモデル
・デジタル化されたバリューチェーン
・顧客
・顧客はカスタマーバリューを受け取る
・カスタマーバリュー
・デジタルディスラプターがカスタマーバリューを生み出す
・デジタル化されたビジネスモデルがカスタマーバリューをもたらす
・コストバリュー
・エクスペリエンスバリュー
・プラットホームバリュー

顧客はどこにいるか

まずは、ドラッカーがどのように述べているのかを再確認します。

「顧客がどこにいるのか」を問うことも重要である。1920年代にシアーズが成功した秘密の一つは、顧客がそれまでとは異なる場所にいることを発見したことだった。農民が自動車を持ち、町で買い物をするようになっていた。
─『経営の真髄 上』, ドラッカー, p.177

シアーズのことを全く知らないので、wikipediaで見てみると次のようなところが関係しそうです。

1886年、ミネソタ州で駅員をしていたユダヤ系のリチャード・ウォーレン・シアーズは、売れ残りの腕時計を買い取り、通信販売で安く販売する商売を始めた。間もなく時計商アルヴァ・C・ローバックが事業に加わり、1893年イリノイ州シカゴに「シアーズ・ローバック」(Sears, Roebuck and Company )を設立した。
19世紀末から20世紀初頭のアメリカは農業が中心で、広大な国土に多くの農民が生活していたが、交通手段は主に鉄道や馬・馬車であり、消費者は手間をかけて都市まで行くか、個人商店、行商人から高い値段で商品を買うしかなかった。ここに着目したシアーズは、カタログを郵送して、一括仕入れで安価に商品を提供するダイレクトマーケティングを推し進めた。
1925年以降、シアーズ・ローバックは人口の都市への流入とモータリゼーションの到来を予見して、都市の郊外に広い駐車場を備えたデパートを開店させた。第二次世界大戦以降はショッピングセンターの中心店舗として全米の都市に出店した。

wikipediaでは、予見とありますが、ドラッカーは、発見したと書いています。矛盾するのかどうかも分かりませんが、すでに起こっていたことを発見したのだと仮定したいと思います。

また、発見して、デパートを建てたのかどうかもわかりません。そしてそれが新しい事業なのかどうかも分かりません。

ドラッカーの書いていることを理解できているかは自信はありませんが、次のように考えたいと思います。

シアーズは、流通業として商品を仕入れ、売っている。売り方としてカタログ通販で売っていた。顧客である農民は、移動手段を持たず家にいた。その後、自動車が出現し、農民は自動車を購入し、移動手段を持った。それにより、町で買い物をするようになった。シアーズはデパートを作り、そこで商品を売るようになった。

今でいえば、自動車にあたるようなものとしては、インターネットの出現や普及、さらにスマホの出現やその普及、コロナでの自宅でいることが多くなったことなどでしょうか。顧客はスマホの中にいる、側にいる、顧客は、家にいる、といったことでしょうか。

では、「DXの取り組みが必要となる背景の要素」との関係を見ていきます。

・市場

「顧客はどこにいるか」と「市場」はどう関係するでしょうか。市場の定義を確認しておくと『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』では以下の定義でした。

交換、リレーションシップという概念の先には市場という概念がある。市場とは、製品やサービスの実際の購買者と潜在的な購買者の集まりである。
─『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』, コトラーら, p.9

この本では、顧客と購買者は厳密に区別されていないように読めました。とすると「市場とは、製品やサービスの実際の顧客と潜在的な顧客の集まりである」ということで良いのかもしれません。

DXにおいては、市場は変化するもの、あるいは、変化させられるものであるという前提がありそうです。もし、変化しないのであればDXは必要がないといえるのかもしれません。

市場の変化をどのように定義するのかは分かりません。顧客の集まりが変わるとはどういう意味なのか。
・実際の顧客や潜在的な顧客の数が増減するという意味での変化
・顧客の属性や価値観が変わるという意味の変化
・実際の顧客と潜在的な顧客の割合が変わることの変化
・その市場での製品やサービスが変わることで、上記が変わるという変化
・その市場での企業の数が変わることで、上記が変わるという変化

DXにおいては、市場における「製品やサービス」「ビジネスモデル」「バリューチェーン」がデジタル化されるという意味での変化がありそうです。

一方で、「顧客はどこにいるか」との問いは、変化しない市場、あるいは、今ある市場における顧客に関する問いに思えます。

このような意味では、「顧客はどこにいるか」との問いに答える上では、DXでの「市場」の話は関係がなさそうです。


・デジタルディスラプターが市場の変化を生み出す
・企業とデジタルディスラプターが競争する
・デジタルボルテックス

これら3つは、「市場」での議論と同じく、「顧客はどこにいるか」に答える上では、関係なさそうです。市場の変化と、その変化に伴う競争の発生、それら変化と競争はデジタル化が避けられないこと(デジタルボルテックス)に原因がある、というのがこれら要素の話です。


・企業
・バリュープロポジション
・市場の地位
・物理的なビジネスモデル

これら4つは、「顧客は誰か」に答える上では、関係なさそうです。デジタルボルテックスに巻き込まれる従来企業の話です。


・デジタル技術
・デジタルビジネスモデル
・デジタル技術がデジタルビジネスモデルを可能にする

これら3つは、「顧客はどこにいるか」に答える上では、関係なさそうです。ただ、「デジタル技術」に関しては、定義次第では、もしかすると関係するのかもしれません。たとえば、スマホをデジタル技術だとすると、顧客はスマホの中にいる、ということになるのかもしれません。シアーズの話でいえば、農民は自動車を購入することで移動手段を持ち、町で買い物をするようになった、ということと似ています。

しかし、DXにおける「デジタル技術」の役割は、デジタルビジネスモデルを実現するためのものです。「デジタル技術」の存在が、「顧客はどこにいるか」に答える上で思い浮かぶものだとしても、その役割はDXでの役割とは異なるとも言えそうです。

したがって、「デジタル技術」も「顧客はどこにいるか」に答える上では、関係ないとしたいと思います。
1.DXの視点からいえば、デジタル技術は、デジタルビジネスモデルを実現する役割を持ちます。
2.事業の視点からいえば、デジタル技術は、「顧客はどこにいるか」に影響を与えているかもしれない要素となります。


・市場シェア
・デジタルディスラプターが市場シェアを獲得する
・デジタルディスラプター
・イノベーション
・デジタルディスラプターがイノベーション起こす

これら5つは、「顧客はどこにいるか」に答える上では関係なさそうです。「市場シェア」の話は、最初の市場と同じく関係なさそうです。

ディスラプターやイノベーションも、「顧客はどこにいるか」には関係なさそうに思えます。


・製品やサービス
・ビジネスモデル
・バリューチェーン
・デジタルディスラプターが製品やサービスをデジタル化する
・デジタルディスラプターがビジネスモデルをデジタル化する
・デジタルディスラプターがバリューチェーンを破壊する
・デジタル化された製品やサービス
・デジタル化されたビジネスモデル
・デジタル化されたバリューチェーン

これら9つは、「顧客はどこにいるか」に答える上では、関係なさそうに思えます。DXにおいては、これらはデジタル化される対象とデジタル化されるプロセスを表しており、変化が焦点となっているためです。


・顧客
・顧客はカスタマーバリューを受け取る
・カスタマーバリュー
・デジタルディスラプターがカスタマーバリューを生み出す
・デジタル化されたビジネスモデルがカスタマーバリューをもたらす
・コストバリュー
・エクスペリエンスバリュー
・プラットホームバリュー

これら8つは、「顧客はどこにいるか」に答える上では関係なさそうです。顧客という意味では関係しますが、DXでの顧客は、カスタマーバリューを受け取る対象という役割です。また、カスタマーバリュー自体は「顧客はどこにるか」には関係しないように思えます。

まとめ:顧客はどこにいるか

「顧客はどこにいるのか」との問いと「DXの取り組みが必要となる背景の要素」とは、関係が無いように思えました。

特に、個々の要素だけを見た場合、関係がないことはないけれども、その要素の役割を見た場合には、関係がなさそうだと言えそうでした。たとえば「デジタル技術」です。

1.DXの視点からいえば、デジタル技術は、デジタルビジネスモデルを実現する役割を持ちます。
2.事業の視点からいえば、デジタル技術は、「顧客はどこにいるか」に影響を与えているかもしれない要素となります。

以下の図に、視点の重なりを整理しました。

画像8

「顧客はどこにいるか」との問いは、デジタル技術だけには限定されず、技術に影響を受けると考えられます。なお、技術とは何か、技術で可能となった概念や人工物とは何か、といった厳密な定義は、筆者の力不足のためできません。

また「顧客はどこにいるか」との問いは、技術だけに限定されないとも思われます。具体的な例は思い浮かびませんが、何かあるのかもしれません。

まとめ

今回は、「顧客はどこにいるのか」との問いと「DXの取り組みが必要となる背景の要素」との関係を分析しました。結果としては、関係はなさそうだということになりそうです。

次回は、「顧客は何を買うのか」に関して同様の分析を行います。続きはこちら

次に重要な問いが、「顧客は何を買うのか」である。
キャデラックをつくる人たちは、自分たちはGMのキャデラック事業部であって、キャデラックという車をつくっていると答える。だがはたして、キャデラックの新車に大枚のドルを支払う者は、輸送手段としての車を買っているのか、それとも富の象徴としての車を買っているのか。
1930年代の大恐慌の頃、修理工からスタートして、キャデラック事業部の責任者を任されるにいたったドイツ生まれのニコラス・ドレイシュタットは、「われわれの競争相手はダイヤモンドとミンクである。顧客が購入しているのは、輸送手段ではなくステータスだ」と言った。
この答えが、精算寸前のキャデラック事業部を救った。わずか二年のうちに、あの大恐慌下にもかかわらず、キャデラックは成功事業へと変身した。
─『経営の真髄 上』, ドラッカー, pp.177-178

株式会社分析屋について

https://analytics-jp.com/

【データ分析で日本を豊かに】
分析屋はシステム分野・ライフサイエンス分野・マーケティング分野の知見を生かし、多種多様な分野の企業様のデータ分析のご支援をさせていただいております。 「あなたの問題解決をする」をモットーに、お客様の抱える課題にあわせた解析・分析手法を用いて、問題解決へのお手伝いをいたします!
【マーケティング】
マーケティング戦略上の目的に向けて、各種のデータ統合及び加工ならびにPDCAサイクル運用全般を支援や高度なデータ分析技術により複雑な課題解決に向けての分析サービスを提供いたします。
【システム】
アプリケーション開発やデータベース構築、WEBサイト構築、運用保守業務などお客様の問題やご要望に沿ってご支援いたします。
【ライフサイエンス】
機械学習や各種アルゴリズムなどの解析アルゴリズム開発サービスを提供いたします。過去には医療系のバイタルデータを扱った解析が主でしたが、今後はそれらで培った経験・技術を工業など他の分野の企業様の問題解決にも役立てていく方針です。
【SES】
SESサービスも行っております。