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君は、君で居てほしかった。




君は「後輩くん」。

僕より少しだけ遅れて、この世に生を受けた。



君は僕の前に現れて、弟みたいな、そんな可愛らしさで僕の心をくすぐった。

「せんぱい!」

少しはにかんで、跳ねるような声で僕を呼ぶ。小走りで駆け寄ってくる君は、まるで首輪の付いた、ちいさなワンちゃんみたいだった。



僕と、少し違うカメラを持って。
僕と、似たような背丈で。
僕と、同じ歌を聴いていた。



ある時、君は僕を海に誘った。

砂浜に並んだ、四角い穴の空いた石の箱。中に潜り込んで、君と写真を撮ったね。

「これ、宝箱みたいだね。」

なんて、僕の可笑しな空想にも、君は声を上げて楽しそうに笑ってくれる。

空は灰色なのに、僕たちの周りだけ、真夏の色を塗り付けたみたいに鮮やかで。

そして海は、ただ穏やかに僕たちを見守っていた。



僕は、君から言葉を貰いたかった。

僕のこの感覚を、しっかりとした「実感」に変えてくれるような、言葉を。

君は、僕から言葉を貰いたかった。

君のその不安を、しっかりとした「確信」に変えてくれるような、言葉を。




お互いに。待っていたんだ。




季節は巡った。

恋人たちは手を繋いで、温め合う。そんなキラキラした空気と光が、街に溢れていた。

滲んだ光をカメラで切り撮って、僕は君を待っていた。




もう、時間だ。




僕は小さい頃、絵本で見た「お姫様」になんか、憧れなかった。壊れそうなガラスの靴も履かない。

だって、君に合せて低いパンプスを選んだんだ。

だって、君が王子様みたいにしたって、ちっともときめいたりしなかった。




僕の心の近くにいたのは「可愛い後輩くん」。

「カッコイイ王子様」なんかじゃない。



ねぇ、君は誰なの?

電車でよろけた僕をスマートに助けた君は、いったい誰なの?


僕はそのままの「後輩くん」でいて欲しかった。

「電車が苦手なんです。」

って、申し訳無さそうに、照れくさそうに笑う、君でいてほしかった。



人が疎らな改札の前。僕はカバンに潜めていたちいさな飾りの付いた袋を、君に渡した。中身は、君が見た時、困らないような売り物のクッキーだ。

君は戸惑いながらも、お礼を言った。

「何かお返しを」と言いながら、君はお店を探した。でももう、空にはお月様がいる時間だし、お店は開いていない。

僕はなんだかソワソワしている君を尻目に、軽く挨拶をして、改札をするりとすり抜けた。

君は何か言いたそうだったけど、「また遊びましょう!」なんて誤魔化して、手を振った。



その後しばらくして、君から届いた「お返し」。真っ白な縁の写真立て。きっと僕が写真を撮るのがすきだから、選んでくれたんだろう。

僕はあの、真夏の砂浜に置き忘れてきた宝物みたいな、色鮮やかな一瞬を飾ろうかな、と想った。

でも、できなかった。



もう、遅かったんだ。




僕は「未来」に怯えて、「今」を楽しむことができなかった。

君は「今」を楽しんでいて、「未来」を楽しそうに語った。




写真立ての中の借り物の風景は、まだ「ふたり」が寄り添っていた季節。

目が眩むような白色。
透き通るような水色。
夢を見るような紫色。

僕を欺いた、ニセモノの綺麗な花。
まるで、憐れむように、僕に微笑みかけていた。



「終わり」を告げる、ちいさな鳴き声が聴こえた。

耳を塞いで、聴こえないようにしていたのに。
僕にそのちいさな鳴き声は、届いてしまったんだ。




僕の望んだ「可愛らしい王子様」はいない。

「僕の知らない君」は元の姿に戻ることはない。




僕は我が儘だ。

ただ、守られるだけの「お姫様」になりたくなかった。





『君は、君でいてほしかった。』

  ただ、それだけで。
      よかったのに。



なんて。

そんな綺麗事で、僕の歪な心を仕舞い込んだ。





いつかの暑い季節、宝箱の中のひととき。

笑い合ってキラキラしていた、あの時の「ふたり」みたいに。




☆イトーダーキさんの
 勝手にリレーエッセイ2023"夏"
 "夏"←「なとぅ」と読む
☆「#真夏の蛙化現象」のタグを付けて参加して良いそうです。
☆「おもしろそう!」なので参加!

イトーダーキさんへ
初めまして&よろしくお願いいたします。

リンク貼られるの、恥ずかしいと書いてあったけど、貼っておきます!パグを見つけた時、いつも楽しく読ませて頂いてます(; ・`д・´)ノ[感謝]

Qさんはリレーは苦手でして…。お話を思案している間に募集期間を過ぎてしまいました( ;∀;)
なので、近所をお散歩するような形で気ままにお話してみました。

ではまた~(o^^o)ノシ



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