マガジンのカバー画像

ショートショートショート

13
ショートストーリーを作りました。シュールな世界を味わってください。
運営しているクリエイター

記事一覧

パパゴリラ

パパゴリラ

六本木にいます。

何十年ぶりの六本木だろう。
羽のついた扇子を振り回していたバブルから随分と時が経ってしまった。
アマンドは綺麗に改装していたけれど、同じ場所にあった。
アマンドの前を通りながら、パパを想った。

「六本木のアマンドにはどうやって行けばいいんだ?」
「えー!パパ、六本木に行くの?」
六本木はお洒落な私の遊び場だよとちょっと自慢したくなったけれど、
その六本木にパパが行くのだと聞い

もっとみる
ジャコウネズミ

ジャコウネズミ

トガリネズミの仲間。大人の体長は12センチから16センチくらい。
生れたばかりの赤ちゃんはとっても小さいのです。

生れたばかりの赤ちゃんはとってもとっても小さいし、まだ目が見えません。まだ目が開かない生まれたての赤ちゃんを迷子にしない為、
お母さんが編み出した移動方法は数珠繋ぎ方式。

お母さんは赤ちゃんジャコウネズミたちに言いました。

「さあ、さあ、みんな!お出かけしますよ。
迷子にならない

もっとみる
彼はトガリネズミ

彼はトガリネズミ

私、たぶん親指ひめって言われている人だと思う。

みなさんが私を「親指ひめ」って呼ぶから、たぶんそうだと思う。

あなたの名前は親指ひめよって言われたことはないけどね。

ああ、私、トガリネズミと付き合っているの。

トガリネズミの食欲に圧倒されて、

すべてを食べることに捧げているその男気に色気を感じちゃって、

私から告白したの。

「食べることを邪魔しないから、

私と付き合ってくれないかし

もっとみる
コアラ

コアラ

コアラに生まれたのには訳があるんです。

ゆっくり話し始めたコアラの目がウルウルしているのを見逃しはしませんでした。

カンガルーに生まれるつもりだったんです。

ところが生まれてみたら、コアラでした。

涙がこぼれないように、目をシバシバしばたいて言いました。

コアラってユーカリしか食べることを許されていないんです。他に美味しいものは沢山あるのに、ユーカリしか食べちゃいけない掟があります。

もっとみる
99.99%しかおとなになれない

99.99%しかおとなになれない

マンボウは3億個卵を産む

わちゃわちゃくっついていたたくさんの卵たち

そのうちの一つが私

私には3億個がどれくらい沢山なのかわからない

1,2,3,4、うーんとあといっぱい!くらいしかわからない

みんなおんなじ顔をしているから、もしかしたら私もあの子も私なのかもしれない、誰が私なのかわからなくなってしまいそう

わちゃわちゃ産まれたのに、楽しいね、嬉しいねと一緒に遊んだことがない

遊ぶ

もっとみる
ヒヨドリ

ヒヨドリ

大きな声でけたたましく鳴くのはね、なにも好き好んで鳴いているわけではないの

中途半端な立ち位置を確立したいため

スズメやメジロより大きい

オオタカやハヤブサより小さい

スズメやメジロは可愛い

オオタカやハヤブサは怖い

中途半端なんだもの、私

毛並みが逆立ってボサボサなのも、可愛い路線ではダメだろうと知っているから

スズメやメジロが可愛がられているのを見ると、どうしても腹立たしくなっ

もっとみる
急にドキドキ

急にドキドキ

さっき、急に自分が大人なんだと感じた

感じちゃったら、ドキドキしている、今もドキドキ

もう、齢をずいぶん重ねて生きているのに

はじめて感じたドキドキ

こんなに歳をとっているのに、大人だと思ったことはなく

けれど子どもだとも勿論思っているわけではない

ただ、実年齢に見合った大人としてはあまりにも分別がなかったということに気付いてしまった

さっき出勤するときに、ネズミが死んでいて、こんな

もっとみる
髪の長い猫

髪の長い猫

爪が長い

目の色が変わる

ぺろりと舌を出す

撫でようとすると逃げる

放っておくと怒る

それでも気になる、どうしても気になる

こちらのことはまったく気にしていないので、こちらも気にしないでいようが出来ない、どうしても出来ない

目が追ってしまう

目が合うとこちらはおどおどとヘラヘラ笑みを浮かべてしまう

目が合うと向こうはフンと鼻を鳴らし、じーっと見つめている

じーっと目をそらさず、

もっとみる
間違われても気にしない

間違われても気にしない

メジロです。

ウグイスではありません。

良く間違われるんです。

「あ、ウグイスだ!春だねぇ。」なんて言われたりする。

あらあら違うのよ。

私はメジロ。

「ホーホケキョ」とは鳴かないの。

仏教を信じているわけじゃないし。

私はメジロ。

見てごらんなさい、ウグイスの目の周りは白くないのよ。

私はちゃんとお化粧してる。

人様の前に出るんだもの。

ウグイスは自分にかまってられないか

もっとみる
ピンククラゲの幸福

ピンククラゲの幸福

ピンクのクラゲが生まれました。 
お父さんもお母さんも透明クラゲでしたので、
とても驚きました。
とても素敵なピンク色だから、きっと町内で評判になるに違いないとお父さんもお母さんも内心喜んでいました。
生まれたんだって?と町内会長がお祝いを持って泳ぎつけました。
いやあ、おめでとう、おめでとう!あんたたちの子なら、可愛いに決まってる、どれどれ。
!!いやいや、これはなんとも、いやはや、参ったなぁと

もっとみる
ツバメのお節介

ツバメのお節介

ツバメの季節がやって来ました。

ツバメは大慌てで1年間の情報収集をするのです。

ツバメがいなかったこの1年にどんなことが起きたのか知らずにいられないのです。

知らないことが嫌なのです。

根掘り葉掘り聞きまわります。

「へー、あの子登校拒否になったんだ。」

「あら、あの子、そんな子には見えなかったけどね、一年前は。」

「えー!あの人とあの人、喧嘩していた時期があったんだ。」

「なんと

もっとみる
ナルシスト

ナルシスト

フレンチブルドッグという犬がいます。
愛嬌ある表情が人気です。
鼻がペチャンコで、目が大きくクルクルよく動きます。
とても人間が好きです。
他の犬より人間の方が好きです。
人間は、「あら、チャーミングね」「愛嬌たっぷりね」などと言ってくれるからです。
フレンチブルドッグは自分はとっても素敵な犬に違いないわ、だって、すれ違う人間みんなが、私を見てニコニコしているもの。
きっと私は美人でスタイルが良い

もっとみる
忘れっぽいワニ

忘れっぽいワニ

イヌがいました。
イヌは散歩が大好きでした。
散歩の途中でワニを見るのが好きでした。

ワニは、食べることが大好きでした。
ワニは、散歩でやって来るイヌが大好きでした。
ワニは、大好きなイヌを大好きな食べることにしました。

ワニは、大好きなイヌを、大好きな食べることと一緒にできてとても幸せでした。

大好きなイヌはもう来ません。
ワニは、イヌのことをすぐに忘れました。