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小説

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こちら時空管理局。何らかの影響によりこのアカウント内に小説が発生してしまった。パルス誘導システムを使用して、マガジンに閉じ込めておいた。もし興味があったら見ておいてくれ。以上
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#短編小説

コンビニで明かす夜

コンビニで明かす夜

  不二雄はコンビニのレジカウンターの中に立って、まんじりともせず、時計を睨みつけていた。時刻は午前二時に迫っている。クーラーの効いた店内は涼しいはずなのに、額には玉のような汗が張り付いていた。
 入り口にある自動ドアの両側に線香がそれぞれ一〇本ずつ焚かれている。そのせいで、付近には濃い煙が漂っていた。念の為、外側にも同じように置いてある。それだけでは心配なので、線香と隣合わせになるように盛り塩も

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不安定小説|ミシシッピアカミミガメ

不安定小説|ミシシッピアカミミガメ

地中から激しく飛び出した俺は、そのまま大気圏を突き抜けて宇宙空間へと出た。多少苦しいものの、なんとか窒息せずにすんでいる。

地球はこんなにも青いのか、と使い古された言葉が、酸素を奪って口から漏れた。大気圏を飛び出した際に、体中に帯びた熱が徐々に冷めていく。途端に、体がブルブルっと震えて俺は大気圏へと再突入を開始した。なんとなく後ろを向くと、東京ドーム3個分の、もしくは、ピンポン玉のような未確認飛

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短編小説|運べボール

短編小説|運べボール

 ナガモトがボールを左前方に蹴り出しすと、それに反応するように相手が右足を前に出した。ナガモトがボールの下をポンと蹴り上げると、相手は一瞬にしてボールを見失ってしまった。そして軽々と相手をかわし、何事も。するとすかさず二人の選手が立ちふさがり、示し合わせたようにスライディングでボールを奪いに来た。さすがのナガモトもこれはかわせず、急いで右サイドにいたダウアンにパスを出した。

 ダウアンは、体全体

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掌編小説|シャンプー

掌編小説|シャンプー

 ガラスケースの中には液体が並々と注がれている。その中心に、数十本のコードとセンサーらしき針が刺さっている脳が浮かんでいた。束ねたコードを辿っていくと大きなモニターがあり、そこには、脳が今考えているイメージと言葉がずらずらと映し出されている。こちらから話しかけることはできない。いったいどんなシャンプーなのか私は気になった。

大超短編小説|ファッションセンス

大超短編小説|ファッションセンス

 ふと、窓が気になった。
 手のひらでカーテンをどけると、暗闇に顔が浮かんでいる。随分と使い込まれたそれは、まぎれもない私の顔だった。その後ろにはガラスに反射した部屋が見える。時計は午前二時過ぎを指して、秒針が逆に動き続けていた。
 丑三つ時か、なんてことを考えていると死んだはずの母親が壁から現れた。さもそこに入り口があるかのように当たり前に入ってきた母親は、生前お気に入りだったヒョウ柄のセーター

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小説|て

小説|て

 田舎は北関東の田園地帯が広がっている辺りになります。

 夏といえば、花火虫取り祭りプール海山川遊び。挙げればキリが無いほどあるものです。私もご多忙にもれず、そんな夏を毎年楽しむ子供でした。朝起きてラジオ体操に参加し、一度帰宅して朝食を食べる。いい頃合いになると宿題もそこそこに、友達と遊びに出かける。こんなことを毎年毎日繰り返しておりました。

 小学5年の夏になると、そこにオカルトが入ってきま

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小説|汗汗汗汗汗汗

小説|汗汗汗汗汗汗

うるさいほど聞こえるセミの鳴き声と、吹き出してくる汗に耐えながら冬樹はホットコーヒーを飲んでいた。イヤホンの音量をいじりながら思う、とにかく暑いし熱い。クーラーをつければいいじゃないか。クーラーは昨年の夏から故障中だった。扇風機はどうだ。扇風機は家族がどこかに持っていってしまったらしい。部屋には高温の空気がこれでもかと充満している。

そんな状況でホットコーヒーを飲む。中々体験できることではない。

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小説|独房|みかん

小説|独房|みかん

「こんにちわ」
パソコンのディスプレイに緊張した顔が浮かぶ。男はまだ新しそうなスーツを着て、シルバーグレイのネクタイをしていた。
「はいどうも、こんちにわ」
私は何百回も繰り返した返答をした。
男は、もう一度こんにちわと言いながら、画面に向かって頭を下げた。

「じゃあ、面接ということでちょっと緊張しているかもしれませんが、まあ、リラックスしていきましょう」
「はい! ヨロシクオネガイシマス!」

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短編小説|「「母さん」」

短編小説|「「母さん」」

スマホが鳴った。

画面を見ると、母さん、という文字が浮かんでいる。まったく仕事中は電話をしてくるなといつも言っているのに。
おれは、やれやれといった表情を3割増しで表すと、もったいぶって電話に出た。

「もしもし?」
「ああ、わたしだよ。母さんだよ」
「知ってるよ。で、何?」
「それが大変なんだよ」

第一声から、明らかに慌てている様子が伝わってくる。しかし、今は仕事中だ。おれは声を強めてこう言

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短編小説|スマホが鳴った2

短編小説|スマホが鳴った2

スマホが鳴った。

まったく非常識極まりない。今なんの時間だと思ってるんじゃ。けしからん。こんなときでもスマホスマホか。まったく近頃の若者たちは、最低限の常識も持っとらん。こそこそと電源を切るくらいなら、持って来なければいいだけの話じゃ。

そもそも、そんな物を肌身離さず持っている神経も分からん。人間それなりの経験を積んでいれさえすれば、何も持たずとも立派に生きていられる。なんでもかんでも機械に頼

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短編小説|しっそうした女

短編小説|しっそうした女

探偵というなんでも屋の仕事をしている俺の元に依頼が入った。女を捕まえてくれ、というものだった。おかしな頼み方だなと思ったが、金になるなら俺はやる。詳しく事情を聞いてみることにした。

しかし、男は妙に落ち着かない様子で今にも事務所を飛び出しそうな勢いである。いったい何があったんですか、と聞いても
「早く彼女を捕まえてくれ。早くしないと行ってしまう」
というばかりである。

ははあ、なるほどな。どう

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短編小説|スマホが鳴った

短編小説|スマホが鳴った

スマホが鳴った。

「今何してる?」
俺は、またか、と独り言を言った。
「今からメシ」
と簡単に返信してスマホを置こうとした、その瞬間すぐに返信が来た。
「何食べるの?」
俺はふたたびスマホを持ち上げて
「おにぎり」
とだけ打ちこんで送った。

今度こそスマホを置き、おにぎりのパッケージを開封する。ガサガサという音だけがする。この場所は実に静かである。集中するにはもってこいの場所だ。

スマホが鳴

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